【学生・ユース世代の参加・投票大歓迎】「SDG4教育キャンペーン2022」政党アンケート設問詳細解説

※本記事で解説している情報は2022年4月15日時点のものです。
今すぐウェブ投票したい!」という方はこちら(各質問1回ずつ・最大7件投票できます)

フリー・ザ・チルドレン・ジャパンでは、すべての人々が教育を受ける権利を受けられるよう、教育分野で活動する国内のNGO・NPO団体が加盟するネットワーク「教育協力NGOネットワーク(略称:JNNE)」に加盟し、SDG4教育キャンペーン」の実行委員を2022年8月までつとめていました。SDG4教育キャンペーン」は、SDG4(教育目標)に関する、主要政党へのアンケートの実施、アンケート結果に対する子ども・ユース世代からのウェブ投票・意見募集や、子ども・ユース世代によるロビイング活動を展開しています。今回はキャンペーン参加方法のうち、「ウェブ投票、授業/ワークショップの実施」についてより詳しく説明します。

いよいよ今年から成人年齢が18歳になり、(昨年10月末の衆院選に続き、)様々な社会問題に関する議論が展開される「第26回参議院議員通常選挙」も7月前半に控えているため、2022年も政治に対する関心・機運が高まる年であり、主権者である私たちの声を日本政府へ届けるチャンスであるとともに、子ども・ユース世代も政治について知り・考える経験・知見を得る絶好のチャンスでもあります。

 

将来の国政選挙の練習・擬似体験、授業(社会/公民・英語・情報・数学・総合など)の一環など、様々な方法で活用できますので、子ども・ユース世代の皆さんもお気軽にウェブ投票へご参加ください!
キャンペーン公式サイトでも参加手順や政党アンケートの各設問に関する解説を記載していますが、さらに詳しく知りたい方は、以下の目次から各項目をご覧ください。

目次

●通常の選挙と「SDG4教育キャンペーン」ウェブ投票との主な違い

●「SDG4教育キャンペーン2022」ウェブ投票の流れ

●「SDG4教育キャンペーン」を授業・ワークショップとして実施する(教員・実践者向け)

●各質問に関する補足・解説
質問1 日本の教育課題:子ども参加・子どもの意見の尊重について
質問2 日本の教育課題:公立夜間中学校について
質問3 日本の教育課題:教育の無償化について
質問4 国際的な教育課題に対する日本の支援:学校保護宣言について
質問5 国際的な教育課題に対する日本の支援:「教育を後回しにできない基金」(ECW)について
質問6 国際的な教育課題に対する日本の支援: 「教育のためのグローバルパートナーシップ」(GPE)について
6問の回答から総合的に判断・投票する

 


●通常の選挙と「SDG4教育キャンペーン」ウェブ投票との主な違い

1:18歳未満も参加可能


通常の選挙には年齢や国籍などの制限がありますが、「SDG4教育キャンペーン」のウェブ投票は国籍・年齢に関わらず全ての人が参加可能、18歳未満の子ども・ユース世代の参加大歓迎です。
また、ウェブ投票フォームには個人情報に関する設問はありません。(年代の回答も任意)

 

2:フォーム形式+匿名で自分の意見を書ける

投票フォーム(イメージ画像)
※スクリーンショットのため、こちらからは投票できません。

通常の国政選挙の投票用紙には、正確な候補者名か政党名(もしくは両方)しか記載しませんが、「SDG4教育キャンペーン」のウェブ投票は、「誰かを選ぶ」ためではなく、「SDG4を達成するために、日本政府にどんなことしてほしいのか、(特に、教育を受けている当事者である子ども・ユース世代の)皆さんから意見やアイデアを発信してもらう・募る」ことを主旨(主な目的)としています

 

そのため、投票フォームには、任意(強制ではない)で自分の意見やコメントを300字以内で入力できる欄を設けています。このウェブ投票は全て匿名で参加できますので、「日本の教育行政に関わる人たちにどんなことをしてほしいのか」「自分たちが今どんなことで困っているのか」など、皆さんの率直な意見やコメント、日本の政府・政党に対するメッセージをご記入ください。
※「政策提言を日本政府に直接伝えたい」という子ども・ユース世代の方は「子ども・ユースロビイングメンバー」の選考へご応募ください。(定員:8名、受付は4月25日まで)

 

3:投票する政党名や得票数は投票期間終了(5月末)まで分からない

政党アンケート回答一覧
キャンペーン公式サイトより引用 (C)JNNE

「SDG4教育キャンペーン」のウェブ投票は「政党を選ぶ」形式ですが、「誰かを選ぶ」ものではないことに加え、先入観や投票時点の政党別得票数などで考えが影響されること(バイアス)を防ぐため、通常の選挙と異なり、投票する政党名や得票数は投票期間終了まで全て伏せています


 

●「SDG4教育キャンペーン2022」ウェブ投票の流れ

キャンペーン公式サイトより引用 (C)JNNE

 

1:以下のリンク先から、8つの主要政党からの「SDG4(教育目標)に関するアンケート(全6問/テーマ)」の質問文と回答を読みます。

2:自分が「最も賛同する」党を選び、投票フォームへ意見・提案・提言などを記入して(任意)投票します。

 

投票は以下のリンク先から各質問1回ずつ・最大7件投票できます。
https://www.jnne.org/sdg2022/know/
「子ども・ユースロビイングメンバー」の応募には、いずれか1問以上への投票が必須です。

  1. 質問1 子ども参加・子どもの意見の尊重について
  2. 質問2 公立夜間中学校について
  3. 質問3 教育の無償化について
  4. 質問4 学校保護宣言について
  5. 質問5 「教育を後回しにできない基金」(ECW)について
  6. 質問6 「教育のためのグローバルパートナーシップ」(GPE)について
  7. 全設問の回答を読んで総合的に判断・投票する

●「SDG4教育キャンペーン」を授業・ワークショップとして実施する
(教員・実践者向け)

このウェブ投票は授業やワークショップとして実施することも可能です。例えば、以下のような流れで授業やワークショップをオンライン・対面形式双方・混合で実施することができます。
(対面実施の場合は新型コロナウイルス感染対策を講じた上での実施をお願いいたします)

 

1:https://www.jnne.org/sdg2022/think/ 内の「教材申込(メールフォーム)」に必要事項を入力し、無料教材をダウンロードします。

「SDG4教育キャンペーン2022」無料教材
「SDG4教育キャンペーン2022」無料教材(表紙) (C)JNNE, DEAR

2:ワークシートや資料などの必要なものを人数分用意します。

3:無料教材のP.5~7やご自身でご用意された資料などを基に、導入ワーク「教育をめぐるあれこれ」(教材P.7・スライド教材参照)の実施や、SDGsや子どもの権利条約(質問1を扱う場合のみ)など用語解説を行います。

4:上記リンク先(または教材P.8~13)から、6つの主要政党からの「SDG4(教育目標)に関するアンケート(全6問/テーマ)」の質問文と回答を読みます。(実施時間枠・授業コマ数などに応じて、扱う質問数を調整してください)

5:各参加者が「最も賛同する」党を選び、P.8~19下の余白またはP.20の投票用紙またはキャンペーン公式サイトの各フォーム(上記)へ意見・提案・提言などを記入(任意)して投票します。

6:振り返りやディスカッションなどを行います。(記念撮影を行う場合はP.23のキャンペーンバナーをぜひご活用ください)

7:https://www.jnne.org/sdg2022/think/ 内の「実施報告を送る(メールフォーム)」(教材P.22参照)に必要事項を記入し、授業・ワークショップを報告します。(報告内容や添付いただいた画像は今後のキャンペーン広報活動で使用させていただくことがございますが、非公開を希望することも可能です)
※本年の実施報告は6/13まで受け付けますが、6月1日以降に報告いただいた内容や投票数、ご意見・提言は、同時期に実施予定の院内集会への反映ができかねますことを予めご了承ください。(省庁訪問時の報告・提言内容や、キャンペーン終了報告には反映されます)

詳細はキャンペーン公式サイトをご覧ください。


●各質問に関する補足・解説

質問1 日本の教育課題:子ども参加・子どもの意見の尊重について

ウェブ投票はこちら

質問1バナー
質問1バナー (C)JNNE

実行委員会による解説動画(4/14に実施した「実践者のためのワークショップ」より)

<問題点のまとめ>(一例)

・現在、日本の教育現場では「非合理・理不尽校則の蔓延」や「コロナ禍での学校運営」など、子ども、若者の声を聴かなかったり、子ども・若者の権利を侵害したりしている状態が続いている。
・これらはSDG4だけではなく、日本政府が現在設置、制定の準備を進めている「こども家庭庁・こども基本法」の核であり、批准から30年近く経とうとしている「子どもの権利条約」も守れていない。
・日本の教育方針を決める「教育振興基本計画」の現行版(第3次、2022年度まで)には、「人権や子どもの権利に関する教育」「子ども・若者の声を聴くこと」に関する記述は殆ど含まれておらず、今年検討・策定される、次の教育振興基本計画(第4次、2023~2027年度)にこれらの要素を含める必要性・重要性が高まっている。

 

<質問の背景と補足>

1:子ども・若者の人権・尊厳を侵害する「非合理・理不尽校則」が社会問題になっている
2017年11月の「黒染め強要訴訟」をきっかけに、

  • 教師が強制的に髪を切ったり染めたりする、「地毛証明書」の提出を命じたりする
  • 部活への強制入部
  • 真冬でも新型コロナウイルス対策のために窓を開けて教室を換気しているにも関わらず、上着などの防寒着の着用を禁止する
  • 男性教師が女子の下着の色を確認する など

一般常識から見て明らかに非合理、理不尽で、個人の人権、尊厳を侵害したり、健康を損なったり、傷害・ハラスメント行為に繋がったりするような校則や生徒心得、部活内でのルール(いわゆる「ブラック校則」)が社会問題になり、多くの世代から改善・撤廃が求められました。

(引用)
「ブラック校則をなくそう!」プロジェクト「ブラック校則とは」
沖縄タイムス「「体に我慢を強いる“ブラック校則”もうやめて」 女子のタイツや膝かけOK 県内でも緩和の動き」(2021年2月18日)

(関連情報)
当団体が後援した、FTCJ子どもメンバー主催イベント「【ガチ対談・学校の自由】現役中学生が、せやろがいおじさんたかまつななと○○な校則について話してみる90分!教えて!!ホワイト校則!?ブラック校則!?」(2021年8月3日)
日本経済新聞「「髪黒染め」校則は適法、府に一部賠償命令 大阪地裁」(2021年2月16日)
時事通信「髪黒染め訴訟、元生徒側が上告 茶髪禁じる校則「違憲」―大阪」(2021年11月11日)
NHK NEWS WEB「「学校つらい…私がおかしいの?」~不登校の原因は校則でした」(2021年9月10日)
NHK for School「#その校則必要ですか」

 

2:「学校の決まりをめぐる問題」で不登校になった学生は全国で少なくとも約3,800人(2020年)

文部科学省では、「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」で、全国の小・中学、高校で発生した校内暴力・いじめ・不登校・高校中退・自殺及びこれらの対策について、人数や件数などを毎年調べています。
詳細:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm

2022年4月時点で最新数値である令和2(2020)年度の調査報告86107ページから、全国の小・中学、高校で「学校の決まり等をめぐる問題」を主たるもの(理由)、主たる主の以外にも当てはまるもの(理由)として不登校になっている子どもの人数を総計すると、(1514+1667)+(351+219)=3751人に達していることが分かります。

 

しかし、このページの「不登校の理由」の中には「クラブ活動,部活動等への不適応」、「教職員との関係をめぐる問題」など、非合理・理不尽な校則・部活ルールも影響していると考えられる項目が他に複数存在するため、実際にはより多くの子どもたちが理不尽・非合理な校内ルールによって不登校になっていると考えられます

 

3:非合理・理不尽校則に対する国会・政府や自治体の対応
こうした非合理・理不尽校則の問題は国会や政府でも議論されており、2021年3月16日には「児童生徒の自尊感情の低下などを招き、児童生徒を精神的に追い詰めるような指導はあってはならないと思います。すなわち、人権、人格を否定するような校則は望ましいものではないと思います。」と当時の萩生田文部科学大臣が答弁しました。後に、文部科学省は「校則の見直し等に関する取組事例について」という事務連絡を2021年6月8日に出し、全国の学校へ理不尽校則を見直すよう通知したり、全国の改善事例を共有したりしました。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1414737_00004.htm

 

全国の自治体でも非合理・理不尽校則の改善・撤廃に向けた対策や制度作りなどに取り組む動きが広がっています。
例えば、東京都は都立高校のブラック校則を2022年度から撤廃すること(地毛証明書の提出を除く)や校則を学校HPで公開することなどを3月10日の定例会で報告したことが先日報道されました。

 

一方、先述した「黒染め強要訴訟」では、大阪地裁・高裁が「髪を染めることを禁じる校則の存在や、学校の指導は違法ではない(裁量の範囲を逸脱しない)」という結論を出したことを疑問視する声が上がっており、訴訟から4年半が経過した現在も最高裁判所で裁判が続けられています。

(引用)
当団体ブログ記事「【報告】「SDG4教育キャンペーン2021」子ども・ユースロビイング活動(共産党)」(2021年7月28日)
Yahoo!JAPANニュース「萩生田文科大臣「人権・人格を否定する校則は望ましくない」。校則のHP公開にも前向きな姿勢」(2021年3月21日)
NHK NEWS WEB「“ブラック校則”都立高の多くが新年度から撤廃」(2022年3月13日)
日本経済新聞「黒髪強要、二審も校則や指導の違法性認めず 大阪高裁」(2021年10月28日)

 

4:コロナ禍に伴う、学校運営に関する決定にも、子ども・若者の声が反映されず(昨年の記事から再掲)

(2020年当時、社会全体が混乱していたため仕方なかった/やむを得なかったとはいえ、)「おとなたちが子ども・若者たちの声も聴かずに勝手に決めた新型コロナウイルス対策」によって、子ども・若者世代は休校や重要な学校行事の延期・中止などの影響を受けました。

 

実際、「SDG4教育キャンペーン2022」実行委員団体の一つである、「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」が、2020年3月17日~31日に小1~18歳程度1422人に行った「新型コロナウイルス感染症 緊急子どもアンケート」回答を見ると、全国の子どもたち(全国約1533万人の子ども(総務省統計局調べ、2019年)のごく一部ではありますが)から「おとなの人たちはもっと自分たちの世代の声や意見を聞いてから新型コロナウイルス対策を考え、実行してほしい」「必要で正しい情報を知りたい、教えてほしい」といった意見が数多く出ていました
(注意:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンと当団体:フリー・ザ・チルドレン・ジャパンは、様々な場面・分野で一緒に活動していますが、それぞれ別の団体・法人です。)

P.30
・一斉休校の対策は感染防止には適した対策だったかもしれませんが、卒業生の気持ちになって考えることもして欲しかったです。(中 3・長野県)
・短くても LIVE でもいいから入学式など一生に 1 度しかないイベントはしっかりやって欲しい。(高 3・鳥取県)
P.33
・いきなり学校が始まったからといって、テストや勉強をつめこんだりせず、1 人 1 人生徒の気持ちも考え行動してほしい。(中 1・東京都)
・いっきに、やらなくてはいけないことを増やさないでほしい(例えば、部活動を長時間行う…など)。休み明けの学校の在り方を大人たちにもっと考えて欲しい。(高 1・岩手県)
・次に同じようなことが起きた時には、突然でなく、そしてどうしても休校しなくてはいけない理由をきちんと話してからにして欲しい。(小 2・神奈川県)
・なぜ休校になったのかきちんと教えてもらっていない。(中略)日本でもしっかり話をしてほしい。(小 5・東京都)
・色々なニュースがあり、正しいことがわかりにくいので今現在の正しい情報が知りたい。(小 5・東京都)
P.34
・政府に対して子どもの意見を聞いて欲しい。(中 3・大阪府)
・大人の都合で子どもの負担が際立って大きい。大人はずるい。子どもだからと言わないで、きちんと話を、きいてほしい都合にあわせて大人扱い、子ども扱いするのはやめてほしい。(高 1・大阪府)

 

5:SDG4には「人権や子どもの権利に関する教育」、子どもの権利条約には「子どもに影響を与えるあらゆる事柄について意見を聴かれる権利」が書かれている

SDG4には「文化多様性への理解、人権や子どもの権利に関する教育を通し、全ての学習者の持続可能な開発を促進すること」が4.7で定められています。

(参考:外務省仮訳


4.7
2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

 

現在、こども家庭庁設置、こども基本法制定に向けた準備が急ピッチで進められていますが、これらの基礎である「子どもの権利条約」には、1.差別の禁止(第2条) 2.子どもの最善の利益の保障(第3条) 3.生命・生存・発達の権利の保障(第4-10、14、18、20、22-32、42条) 4.子どもの意見の尊重(第4、12-17条)という4つの原則があります。非合理・理不尽校則のみならず、子ども・若者自身が教育を受けるうえで関わることに全てに対し、子ども・若者たちの意見を聞き、それらを教育の在り方全般へ反映していくことが社会に求められています。さらに、子ども・若者自身が教育のあり方を考え、声をあげてアクションを起こすことは、シチズンシップ(市民性)を育むうえでも重要であり、SDG4の達成にも不可欠です。


(C)FTCJ
※「子どもの権利」及び「子どもの権利条約」の詳細解説はこちらをご覧ください。

 

6:日本の教育方針「教育振興基本計画」の現行版には「子どもの権利条約を守る・子どもの権利を保障する」ことは書かれていない

用語補足:教育振興基本計画(質問2でも出てきます)

今後5年間で日本の教育をこれからどのようにしていきたいのか、文部科学省が示す方針や取り組み案のことで、平成18(2006)年の教育基本改正時に、第17条でこの計画を決めることが制度化されました。

 

(教育振興基本計画)
第十七条 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。

 

この計画を基に、教育関連の国家予算が組まれるほか、地方自治体も政府の決めた教育振興基本計画を地域毎にアレンジした地方自治体版教育振興基本計画も策定されるなど、教育振興基本計画は「基本計画」の名のとおり、日本の教育方針の根幹となる、非常に重要なものです。

引用
文部科学省HP「教育基本法」

(補足)
教育基本法第17条の2のとおり、地方自治体版教育振興基本計画は努力義務=決めなくても問題ない(「日本政府版のままでOK」と考えている地域もある)ため、策定していない地域もあります。策定済の地方自治体は文部科学省HP(下記)で公開されています。
https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/doc.htm

 

2006年の制度化以降、教育振興基本計画は当時の教育関連のトレンドを盛り込みながら
第1次:2008~2012年度 https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1335036.htm
第2次:2013~2017年度 https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1335039.htm
第3次:2018~2022年度 https://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1406059.htm
と更新・改訂を重ねてきました。

 

現行の第3次教育振興基本計画には「人権教育」などの単語は記載されていますが、それらは「いじめ対策」を念頭に置いた(目的とした)ものであり、「子ども・若者の声を聴くこと」や「子ども・若者が教育機関の運営に参加すること」など、「子どもの権利条約を守る・子どもの権利を保障する」ためだとする明確な記載はありませんでした。
※なお、「ブラック校則」という言葉が出てきたり、社会問題になったりしたのは、先述した2017年11月の「黒染め強要訴訟」がきっかけであり、第3次教育振興基本計画の策定とほぼ同じ頃だったため、第3次教育振興基本計画には非合理・理不尽校則に関する言及や対策は盛り込まれていません。

 

7:2022年は、2023~2027年度の日本の教育方針となる「第4次教育振興基本計画」の検討・策定が行われる年

そのため、2月7日に文部科学大臣が文部科学省の諮問機関(アドバイザーのような専門家グループのこと)である「中央教育審議会(中教審)」へ、次の第4次教育振興基本計画(2023~2027年度)の内容を検討するよう求めました。この際、検討事項として「『デジタル』と『リアル』の最適な組み合わせを踏まえた、今後5年間(2023~2027年度)の教育政策の方向性と施策」「共生社会の実現を目指した学習を充実させるための環境づくり」「多様な教育データをより有効な政策の評価・改善に活用するための方策」などが挙げられました。これを受け、中教審は第4次教育振興基本計画に関する話し合い(中央教育審議会教育振興基本計画部会)を、3月22日から始めました
(2022年12月7日18:25追記:この話し合いは毎月1回の頻度で開催されており、内容・資料・議事録は文部科学省HPで順次公開されています。)
引用:日本教育新聞「デジタルとリアル、最適な融合は 次期「振興計画」議論を開始」(2022年2月14日)

 

これらの検討事項を大まかにまとめると、「新しい生活様式」「多様性・共生社会」「教育に関するビッグデータの活用」が第4次教育振興基本計画の大きなテーマとして取り上げられていると言えますが、現在設置・制定に向けた準備が急速に進められている「こども家庭庁・こども基本法」の根幹である「子どもの権利」の保障(及び「子どもの権利条約」の遵守)は含まれていません。

 

昨年の本キャンペーンで実施したロビイング(本年のロビイングメンバーの詳細・応募はこちらでも、多くの国会議員から「教育を受ける当事者である子ども・若者世代の声を機会や場をつくる・増やす必要性」に関するコメントがありました。

 

8(参考・2022年12月7日更新):2022年は生徒指導ガイドブックに相当する「生徒指導提要」も12年ぶりに改訂

用語補足:生徒指導提要(ていよう)(文科省HPより)

生徒指導の実践に際し、教員間や学校間で教職員の共通理解を図り、組織的・体系的な生徒指導の取組を進めることができるよう、生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書として、小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論・考え方や実際の指導方法等を、時代の変化に即して網羅的にまとめたものであり、「教員が生徒を指導する際のガイドブック」に相当するものです。

 

現行の生徒指導提要が2010年に作成された古いものなので、2022年夏(実際は2022年冬)の改訂に向け、政府や有識者が2021年6月から協議を進めていました。その中で、2022年3月29日に公開された改訂試案には、「校則をHPで一般公開すること」「校則を見直すためのプロセス(流れ)を明示化(分かり易く公開)すること」などの非合理・理不尽校則の改善・撤廃に関する方針や事例共有に加え、「子どもの権利条約」の内容も盛り込まれました。

 

引用
文部科学省HP
生徒指導提要

生徒指導提要の改訂に関する協力者会議
生徒指導提要の改訂に関する協力者会議(第7回)配付資料

【資料3】生徒指導提要の改訂試案 (28-29・56・75-77・82ページほか)※238ページ、2.5MBと大容量のため、PCからの閲覧を推奨
室橋祐貴(日本若者協議会)「「ブラック校則」見直しへ、大幅に改善した文科省「生徒指導提要」(改定試案)。課題は現場への浸透か」(Yahooニュース・2022年3月29日)

 

(2023年8月3日12:00追記)
本節で言及した「生徒指導提要」は2022年12月7日に改訂され、文部科学省HPで公開されています。
また、「第4期教育振興基本計画」もそれからほぼ半年後の2023年6月16日に閣議決定され(確定し)ました。詳しくは下記の記事をご覧ください。

【6/27再更新】次期教育振興基本計画策定に向けたパブリックコメント募集

こうした背景を受け、

今後5年間の日本の教育方針の基礎となる「第4次教育振興基本計画」へ、「子ども・若者の声を聴くこと/子ども・若者が自分の意見を表明する権利」をはじめ、「子どもの権利を保障すること」を反映すべきでしょうか?

という質問を主要政党へききました。

 

果たして、各政党はどのように答えたのでしょうか?
https://www.jnne.org/sdg2022/voice1/ の回答を読んで、自分が最も賛同する政党はどこか、その理由や他に考えた・思ったことや伝えたいことなどを記入してみましょう!


質問2 日本の教育課題:公立夜間中学校について

投票はこちら

質問2バナー画像
質問2バナー画像 (C)JNNE

実行委員会による解説動画(4/14に実施した「実践者のためのワークショップ」より)

 

<問題点のまとめ>(一例)

・日本に住んでいて、小中学生に相当する外国人の子どもの約10人に1人(13,000人以上)が学校に通っていない、義務教育を受けていない「不就学」状態になっている可能性がある。(2021年度)
・公立の夜間中学を各都道府県に最低1校以上設置することが国の方針として(現行の第3次教育振興基本計画に)定められたがなかなか進んでいない。
・こうした問題は、「”みんなに”質の高い教育を提供すること」を定めたSDG4、「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念を守れていない状態になっているとも言える。

 

<質問の背景と補足>

1:日本に住む外国籍の子どもの約10人に1人が義務教育を受けていない「不就学状態」になっている可能性がある(一部昨年の記事から再掲)
文部科学省のHPには「外国人の子どもには、我が国の義務教育への就学義務はないが、公立の義務教育諸学校へ就学を希望する場合には、国際人権規約等も踏まえ、日本人児童生徒と同様に無償で受入れ」と記載されています。このページに記載されている日本国憲法や教育基本法の条文で下線が引かれて強調されている「国民」は「日本人」を指しているため、日本に住んでいる外国籍の子どもは、本人や家族が希望しない限り、小中学校に通う義務がありません。

 

母国と日本の学制(学校や学年の分け方など)やカリキュラムが異なる、来日したばかりで言語の壁が高い、生まれた場所や人種を理由とした差別やいじめを懸念している、経済的に困難など、様々な事情がありますが、日本に住んでいる外国籍の子どもの中には小中学校に通っていない・生きていくうえで重要な教育(初等・中等教育)を受けていない、「不就学状態」の子どもがいることが長らく問題視されてきました。

(補足)
・「児童の権利に関する条約」は「子どもの権利条約」のことです。
・外国人学校など、小中学校とは異なる区分の学校に通っている場合もあります。

 

こうした問題や、2019年4月からの外国人労働者受け入れ拡大を受け、文部科学省は「外国人の子供の就学状況等調査」という実態調査を始めました。2019(令和元)年度の調査報告書の9ページには、「住民基本台帳上では小中学生に相当する年齢の外国人の子どもは123,830人」、13ページの表の脚注には「不就学の可能性があると考えられる外国人の子供の数を単純合計すると、③不就学630人+⑤就学状況確認できず8,658人+⑥「教育委員会が就学状況確認の対象としていないため、就学状況が不明な者」等10,183人=19,471人」と記載されています。つまり、日本に住んでいて、小中学生に相当する外国人の子ども123,830人のうち、19,471人が小中学校に通っていない可能性があり、これを%に換算すると19,471/123,830人≒0.157→約15.7%→「日本に住んでいて、小中学生に相当する外国人の子どもの約6人に1人が小中学校に通っていない可能性がある」ことになります。

 

2022年4月時点で最新の情報である、2021(令和3)年度の調査結果で同じ計算をしてみます。2021(令和3)年度の調査結果の9ページには、「住民基本台帳上では小中学生に相当する年齢の外国人の子どもは133,310人」、13ページの表の脚注には「不就学の可能性があると考えられる外国人の子供の数を単純合計すると、③不就学649人+⑤就学状況確認できず8,597人+⑥「教育委員会が就学状況確認の対象としていないため、就学状況が不明な者」等800人=10,046人」と記載されています。つまり、日本に住んでいて、小中学生に相当する外国人の子ども133,310人のうち、10,046人が小中学校に通っていない可能性があり、これを%に換算すると13,240(P.13参照)/133,310人(P.9参照)≒0.099→約9.9%→「日本に住んでいて、小中学生に相当する外国人の子どもの約10人に1人が小中学校に通っていない可能性がある」ことになります。

2021年度の調査結果が2019年度の調査結果よりも大幅に減っている(約6人に1人→約10人に1人)のは、2021年度の調査結果P.13の表内⑥「(参考)住民基本台帳の人数(設問1-1)との差=教育委員会が就学状況確認の対象としていないため、就学状況が不明な者」等が、2019(令和元)年度が10,183人居たのに対し、2021(令和3)年度では800人と大幅減少しているためと考えられます。
(見方を変えれば、「外国人の子どもの就学状況を調査して3年目になり、国・自治体での実態把握や不就学対策が進んだことで、義務教育を受けているのか否か確認できない外国人の子どもの人数が大幅に減った」と考えることもできます)

 

基礎教育(文字の読み書きや簡単な計算の仕方、そして自分の持つ権利についてなどの教育)を受けられなかった子どもたちは、将来就職できる仕事や得られる収入が限られてしまうことで、家族や地域を支えていくことが難しくなってしまい、こうした状況が次世代に引き継がれていく…という貧困の連鎖に陥ってしまいます。

 

他にも、教育を受けられなければ、性や生殖などの保健の知識、社会や科学、人権に関する知識やスキル(技術・技能)も習得する(教わる)ことができないため、社会から取り残されてしまったり、将来、自分が病気になったり妊娠・出産した時に正しいケアができず、自分や子どもが死に至ってしまったり、児童労働や犯罪などの悪いことから身を守る方法が分からず巻き込まれてしまったりするなど、生きていく上で多くの困難に直面してしまいます。

 

引用
NHK 外国人”依存”ニッポン「外国人は「対象外」ってどういうこと?」(2019年4月9日)
日本経済新聞「外国人受け入れ拡大、19年4月から 改正入管法が未明に成立」(2018年12月8日)
文部科学省「外国人の子どもの公立義務教育諸学校への受入について」
日本経済新聞「外国籍児1万9千人が不就学か 文科省、初の全国調査」(2019年9月27日)
文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)について」(2020年3月27日)
文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査(令和3年度)」の結果について(2022年3月25日)

リセマム「日本にいる外国人の子ども、約2万人が不就学の可能性…文科省」(2020年3月30日)

 

2:全国への夜間中学の設置がなかなか進んでいない
用語補足:夜間中学

市町村や都道府県が設置する中学校において、夜の時間帯等に授業が行われる公立中学校のことで、第2次世界大戦後の昭和20年代初頭(1945年頃)、戦争による混乱や貧困などの理由で児童労働をしていて義務教育を受けられなかった子どもたちのために設置されました。現在は、様々な理由で義務教育を修了できなかった人や、不登校などで殆ど学校に通えなかった人、本国で義務教育を修了していない外国籍の人などが学んでいます。

 

質問1で出てきた「第3次教育振興基本計画」(2018~2022年度)では、「教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律第14条)等に基づき,全ての都道府県に少なくとも一つの夜間中学が設置されるよう促進するとともに,夜間中学の教育活動の充実や受け入れる生徒の拡大を図るなど,教育機会の確保等に関する施策を総合的に推進する。」ことが定められましたが、第3次教育振興基本計画が始まってから3年以上経過した2021年末時点で、公立夜間中学校の設置状況は「12都府県に36校」に留まっています。
(2022年6月13日14:00追記)
下記の文部科学省HP「夜間中学の設置促進・充実について」というページが6月に入ってから更新され、2022年4月時点での公立夜間中学校の設置状況は「15都府県に40校」になりました。また、2023・2024年度にも公立夜間中学校が一部自治体で新規開校予定とのことです。

 

また、公立の夜間中学以外にも、民間ボランティアなどによる「自主夜間中学」も一部地域で運営されていますが、「学校」として国から認可されていないため、自主夜間中学校を卒業しても中卒扱いにはなりません。夜間中学の詳細は、文部科学省HP内の解説パンフレット及び政府広報オンラインの記事をご覧ください。
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/04/04/1378523_7.pdf
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201601/1.html

 

引用
文部科学省HP
「夜間中学の設置促進・充実について」
「夜間中学の設置・充実に向けて【手引】(第2次改訂版)」P.1、データ上ではP.4
「第3次教育振興基本計画(本体)」P.79、データ上ではP.83
「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律の公布について(通知)」別添3 義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(平成28年法律第105号))
政府広報オンライン「さまざまな事情により、中学校で勉強することができなかった人へ 「夜間中学」を知っていますか?」(2020年6月9日)

(参考1)
開発教育協会(キャンペーン事務局)の会員団体:特定非営利活動法人開発教育Funclubが運営している自主夜間中学の様子
(静岡放送「SBSニュース6」2022年5月19日放送分)

 

(参考2)
兵庫県が夜間中学について分かり易く解説した動画をYoutubeにアップしていますので併せてご覧ください。

 

3:SDG4で定められていること

SDG4には、
4.1 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育(日本における中学校および高等学校)を修了できるようにする。
4.6 2030年までに、技術的・職業的スキルなど、雇用、働きがいのある人間らしい仕事及び起業に必要な技能を備えた若者と成人の割合を大幅に増加させる。
(外務省仮訳)
などがターゲットに記載されています。また、SDGsは「誰一人取り残さない」ことを基本理念(一番大事な考え方)としています。そのため、これまで述べてきた、「13,000人以上の外国人の子どもたちが不就学になっている可能性がある」、「夜間中学などの設置がなかなか進んでいない」現状は、SDG4達成のための大きな課題でもあると言えます。

 

こうした背景を受け、

■公立の夜間中学を47都道府県内にそれぞれ最低1校以上設置することを推進すべきでしょうか?
■自主夜間中学や通信制の学校の設置などに向けた支援をもっと手厚くすべきでしょうか?

という内容の質問を主要政党へききました。

 

果たして、各政党はどのように答えたのでしょうか?
https://www.jnne.org/sdg2022/voice2/ の回答を読んで、自分が最も賛同する政党はどこか、その理由や他に考えた・思ったことや伝えたいことなどを記入してみましょう!

 


質問3 日本の教育課題:教育の無償化について

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実行委員会による解説動画(4/14に実施した「実践者のためのワークショップ」より)

 

<問題点のまとめ>(一例)
・日本では、教育費の自己負担額が諸外国と比べて高い。(教育を受けるのに高いお金を払わなければならない)
・OECD諸外国と比べ、日本は国のお金を教育にあまり充てていない。(日本は教育にあまりお金を出していない)
・国連に「中等・高等教育(中学校~大学など)を少しずつ無償教育にするよう取り組んでいきます」と宣言してから今年で10年の節目を迎える。現に、高校無償化に向けた法律・制度の整備・運用も始まっているが、国際人権規約に従いながらSDG4(特に4.1)を達成するためには、この取り組みをもっと加速させる必要がある。

 

<質問の背景と補足>

1:日本政府が「中等・高等教育(中学校~大学など)を徐々に無償化します」と国連に宣言してから今年で10年

用語補足:世界人権宣言
詳細は下記の記事と無料教材をご覧ください。

【今日は何の日?】12月10日:世界(国際)人権デー/International Human Rights Day

(参考)
国連HP「Universal Declaration of Human Rights」(英語)

 

用語補足:国際人権規約
上記の世界人権宣言を条約(国際的な決まり)にしたもので、人権に関する多くの条約の中でも最も広い範囲を扱うとともに、基本的な条約になっています。1966年の国連総会で、「社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)」・「自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)」と、自由権規約に規定される権利を侵害されたと個人が主張するための権利や決まりなどを定めた「市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書(第一選択議定書)」の3つが採択され、1989年に死刑廃止などを定めた「(市民的及び政治的権利に関する国際規約の)第二選択議定書」が新たに採択されたことで、現在は4つの規約・議定書から構成されています。

 

質問3で扱っている「教育の無償化」、「中等・高等教育(中学校~大学など)の無償化」は、社会権規約の第13条に定められています。以下がその日本語版条文です。(外務省HPより引用)

第十三条

1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加すること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。

2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。

 (a) 初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。
(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。
(c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。
(d) 基礎教育は、初等教育を受けなかった者又はその全課程を修了しなかった者のため、できる限り奨励され又は強化されること。
(e) すべての段階にわたる学校制度の発展を積極的に追求し、適当な奨学金制度を設立し及び教育職員の物質的条件を不断に改善すること。

3 この規約の締約国は、父母及び場合により法定保護者が、公の機関によって設置される学校以外の学校であって国によって定められ又は承認される最低限度の教育上の基準に適合するものを児童のために選択する自由並びに自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重することを約束する。

4 この条のいかなる規定も、個人及び団体が教育機関を設置し及び管理する自由を妨げるものと解してはならない。ただし、常に、1に定める原則が遵守されること及び当該教育機関において行なわれる教育が国によって定められる最低限度の基準に適合することを条件とする。

(補足)
条文内の「漸進的(ぜんしんてき)」という言葉は「段階的・徐々に」という意味です。

 

日本は1979年に世界人権規約の社会権規約と自由権規約は批准(国が条約を守ると約束すること)しましたが、二つの選択議定書は批准していません。
また、日本は社会権規約を1979年に批准したとはいえ、先述した第13条2「(b) 種々の形態の中等教育(技術的及び職業的中等教育を含む。)は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、一般的に利用可能であり、かつ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること。」「 (c) 高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。」は、1979年の批准当初から長い間留保(「このルールを守っていくことを約束するのはちょっと待ってほしい」という意味)していました。

 

批准から43年後の2012年、日本政府(当時の民主党政権)はこの留保を撤回する(やめる・無かったことにする)ことを国連に伝えました。つまり、「中等・高等教育(中学校~大学など)を少しずつ無償教育にするよう取り組んでいきます」と国連へ宣言したことになります。2022年はそれから丁度10年の節目を迎えます。

 

引用
外務省HP
「国際人権規約」(2020年4月17日)
「国際人権規約の作成及び採択の経緯」(2015年1月15日)
「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約) 第三部」
「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)第13条2(b)及び(c)の規定に係る留保の撤回(国連への通告)について」(2012年9月)

国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)データベース
(確認方法)
1:「Select a treaty」のプルダウンメニューから「Ratification of 18 International Human Rights Treaties」を選ぶ。(アクセスした時点で選択済になっていることもあります)
2:ページ左側の国名一覧からJapanを選ぶ。
3:表示されたウインドウ内の「Optional Protocol to the International Covenant on Civil and Political Rights(第一選択議定書)」「Second Optional Protocol to the International Covenant on Civil and Political Rights, aiming at the abolition of the death penalty(第二選択議定書)」がオレンジ色(No Action:対応なし=批准していない)で表示されていることが分かる。

 

2:日本では教育(学習)費が家計を大きく圧迫している
文部科学省では、子どもが公立・私立の幼稚園、小学校、中学校、高等学校(全日制)に通っている保護者が、1年間で子どもの学校教育(授業料、通学費、制服代、部活費用、修学旅行費など)や学校外活動(独自に買った参考書や問題集、塾や習いごとの月謝・費用など)のために何円払ったのか調べる「子供の学習費調査」を1994年から2年ごとに実施しています(2020年を除く)。

 

2022年4月時点で最新のデータである、平成30(2018)年の調査結果を見ると、公立高校(全日制)では1年間で45万7,380円(調査した2,925人の平均)、私立高校では96万9,911円(調査した3,033人の平均)の学習費がかかっていたことが分かります。幼稚園~高校までの結果(平均)も引用して下記に示します。

公立幼稚園 22万3,647円
私立幼稚園 52万7,916円
公立小学校 32万1,281円
私立小学校 159万8,691円
公立中学校 48万8,397円
私立中学校 140万6,433円
公立高等学校(全日制) 45万7,380円
私立高等学校(全日制) 96万9,911円

引用
文部科学省HP
「子供の学習費調査」
「平成30年度子供の学習費調査の結果について」(2019年12月18日)(P.1、16)

 

3:OECDの大半の国々と比べて、日本政府は教育にお金をかけていない(参考)
用語補足:OECD(経済協力開発機構:Organisation for Economic Co-operation and Development)
経済成長・開発途上国の援助・自由貿易の拡大を目的として設立された国際機関です。ヨーロッパを中心に、米国、韓国、日本を含む38か国が加盟しています。
詳細は経済産業省HPをご覧ください。
https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/oecd/index.html

 

OECDの「Education at a Glance 2021」によると、2018年の初等教育から高等教育(日本の小学~高校相当)に対する公的資金の支出が公的資金の支出全体に占める割合(公的資金全体のうち、何%を占めているか)は、OECD諸国平均が10.7%でしたが、日本は下から4番目の7.8%でした(2017年も同じ7.8%、OECDの中で下から5番目でした)。つまり、OECDの大半の国々よりも、日本では国のお金が初等~高等教育に充てられていない状態が何年も続いています

OECD「Education at a Glance 2021」P.268 Figure C4.1の和訳版グラフ
OECD「Education at a Glance 2021」P.268 Figure C4.1の和訳版グラフ(クリックで拡大)

※英語表記ですが、https://www.compareyourcountry.org/snaps/education-at-a-glance-2021/en/2857/2018 でも同じものをブラウザ上で確認できます。

 

引用
OECD「Education at a Glance 2021」(邦題:図表で見る教育 2021)(英語、P.268)
日経BP 教育とICTオンライン「OECD、2020年版「図表でみる教育」を発行」(2020年9月14日)

 

4:「教育の無償化」に対する各政党の考え方は多様(参考)

昨年(2021年10月31日)に行われた衆議院選挙の際、政党アンケートを送った9つの政党が掲げた教育関連の公約の中から、「無償」を含んでいる文章を抜粋してみました。(「教育の無償化」に関する記載がなかった政党は教育関係の公約をそのまま抜粋しました)
※本キャンペーンの投票結果(6月上旬公開予定)と併せて、7月の参院選の公約を政党ごとに比較してみるのも(時間はかかりますが)良い経験になると思います。

 

・自民党
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/manifest/20211018_manifest.pdf
(P.32右下)
○幼児教育・保育の無償化を着実に推進しつつ、「幼児教育振興法」の制定や、教職員配置の改善、幼少接続の改善等、幼児教育の質的充実を推進します。
(P.33左下)
○私立小中学校の家計急変世帯支援、高校生等への就学支援の充実、低所得世帯の高等教育無償化を着実に実施し、所得連動型拠出金制度や多子世帯支援等の検討を進め、教育の機会均等を実現します。

 

・立憲民主党
https://change2021.cdp-japan.jp/seisaku/ 内「政策集2021」(pdfをブラウザで開かずにダウンロードする設定になっていますのでご注意ください)

(P.38~39)
○教育は国が一義的な責任を持つという観点から、国連社会権規約の漸進的無償化を実現するために大学の授業料を引き下げます。
○高校の授業料無償化について、所得制限を撤廃します。
○公立小中学校の給食を無償化します。○義務教育の給食を無償化します。(P.55にも記載あり)
○(中略)大学など高等教育まで公教育全体を通じた無償化を進めます。
○全ての就学前教育・保育の無償化を推進します。

 

・公明党
https://www.komei.or.jp/special/shuin49/wp-content/uploads/manifesto2021.pdf
(P.20右半分)
○(中略)現行では低所得世帯に限り無償化している0~2歳児の保育料について、全世帯まで段階的に無償化をめざします。
○2020年4月から年収590万円未満を対象に私立高校授業料の実質無償化が実現しました。さらなる公私間格差を是正するため、公立と同じ年収910万円未満まで段階的に無償化をめざします。(以下略)
○2020年4月から低所得世帯を対象に、給付型奨学金と授業料等減免の充実による大学など高等教育無償化が実現しました。家庭の経済的事情に関わらず、希望すれば誰もが大学等へ進学できるよう、年収590万円未満の中間所得世帯まで段階的に無償化をめざします。

 

・国民民主党
https://new-kokumin.jp/wp-content/themes/dpfp/files/DPFP-Policies-Pamphlet2.pdf
(P.10)
0~2際の幼児教育・保育無償化の所得制限をなくし、完全無償化をめざします。(中略)義務教育を3歳からとし、高校までの教育無償化を実現します。学校給食の無償化、学費以外にかかる副教材、修学旅行などの学年費を無償化し、義務教育課程の金銭負担をゼロにします。

 

・日本共産党
https://www.jcp.or.jp/web_policy/2021/10/2021s-bunya-013.html

日本の教育への公的支出は先進国最低水準です。憲法に定められている義務教育無償の原則にたち、教育に“お金をかけない政治”を根本から改めます。小学校・中学校での副教材費、給食費などのあらゆる教育費の無償化、高校教育の無償化、大学・短大・専門学校の学費をすみやかに半額に引き下げ、高等教育の無償化をめざします。

○すべての幼児教育・保育の無償化をすすめます。
○給食費、制服、副教材費、修学旅行積立金など、義務教育期間中の教育費の無償化をすすめます。
○自公政権が行った所得制限導入をやめ、公立高校と同等に私立高校の学費無償化を引き上げます。さらに、年収910万円までは実質無料にします。
○入学金、授業料、施設整備費も無償化にします。
○オンライン授業に必要なタブレット等の機器は国が負担します。
○すべての学生を対象に、大学・短大・専門学校の授業料をすみやかに半分に値下げし、段階的に無償化をはかります。

https://www.jcp.or.jp/web_policy/2021/10/2021s-bunya-059.html

日本の高等教育の公費負担は、先進国(OECD加盟国)の中で最下位です。

(中略)

大学・専門学校の授業料をすみやかに半額にし、段階的に無償化にする―――国際人権規約が定めた高校・大学の段階的無償化条項が、国民世論と運動におされて留保撤回されました(2012年)。これは高等教育無償化を国際的に約束したものです。無償化にむけた学費負担軽減の第一歩として、大学予算を増やして、入学金を廃止し、大学・専門学校の授業料をすみやかに半額にし、段階的に無償化をはかり、誰もがお金の心配なく学べるようにします。

https://www.jcp.or.jp/web_policy/2021/10/2021s-bunya-056.html

○学費の半減――大学・短大・専門学校の学費をすみやかに半額に引き下げ、高等教育の無償化をめざします。
○「高校無償化」の拡充――私立高校の負担の軽減をすすめ、高校教育の無償化をすすめます。公立高校の授業料無償化の所得制限をなくします。
○朝鮮学校への無償化措置の適用――自公政権は、「高校無償化」や「幼保無償化」の対象から朝鮮学校を排除してきました。しかしこれは、内外人平等の国際人権規約などに違反した差別的な施策です。2019年には国連・子どもの権利委員会からも是正勧告を受けています。朝鮮学校に無償化措置を適用します。
○義務教育での負担の解消――「義務教育は無償」を定めた憲法26条にそくして、学校給食の無償化をすすめます。義務教育で残されている教育費負担をなくします。
○タブレットは義務教育段階では無償ですが、壊れた時や自宅で使う場合の通信費は対応がさまざまです。破損時の保障をはじめ保護者負担を生まないように求めています。また、高校ではタブレットそのものに自己負担があります。高校無償化の立場から、無償とすべきです。
○私立高校の学費無償化――国の私学予算の増額により、①自公政権が行った所得制限をやめ、すべての生徒に公立高校の授業料と同額の授業料補助を行います。②授業料実質無償化を年収910万円以下の家庭まで拡大します。③入学金、施設設備費も無償化の対象にします。④国の奨学給付金を拡充し、通学費や生活費まで保障できるようにします。
○学校給食の充実――(中略)学校給食費の未払いをすべて保護者の責任にするのではなく、無償化を検討するとともに、生活の実態に応じて、必要な免除措置をすすめるようにします。

 

・社民党(党HPから衆院選2021関連のページが削除されてしまったため確認不可)

○高校の授業料無償化制度から朝鮮学校を外す差別をやめ、国籍を問わず子どもたちの学ぶ権利を保障

引用
NHK選挙WEB

 

・日本維新の会
https://o-ishin.jp/shuin2021/ishin_manifesto.pdf

(P.10)
次世代の子どもたちへ、教育負担をゼロへ
家庭の経済状況にかかわらず、等しく質の高い教育を受けることができるよう、義務教育の他、幼児教育、高校、大学など、教育の全過程について完全無償化を憲法上の原則として定め、給食の無償化と大学改革を併せて進めながら国に関連法の立法と恒久的な予算措置を義務付けます。

 

・れいわ新撰組
https://reiwa-shinsengumi.com/wp-content/uploads/2021/10/reiwa_newdeal-manifesto2021.pdf
(P.16・28)
奨学金に苦しむ約580万人の借金をチャラに。教育は完全無償化へ。小中学校に無償給食を。

 

・N党
子どもが生まれたら、出産した母親に1000万円を支給するといった支援を政府に求める。
引用
NHK選挙WEB

 

5:SDG4で定めていること

先述した「国際人権規約」には「無償教育の漸進的な導入」(教育にかかる費用を少しずつタダに近づけていく・タダにすること)が定められていましたが、
この国際人権規約の採択(1966年)から49年後に定められたSDGs(SDG4)でも、

4.1 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中等教育を修了できるようにする。
(4.2 2030年までに、すべての子どもが男女の区別なく、質の高い乳幼児の発達支援、ケア及び就学前教育にアクセスすることにより、初等教育を受ける準備が整うようにする。)
(4.3 2030年までに、すべての人々が男女の区別なく、手頃な価格で質の高い技術教育、職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。)

というターゲットがあり、「誰もが無料・安い費用で教育を受けられるようにすること」が定められています。

 

こうした背景を受け、

2025年までに、全ての子どもが高校までの教育を受ける中で生じる学習費を完全無償化(授業料および授業料以外の学習費すべてについて私費負担をなくすこと)することに取り組む考えがありますか?

という内容の質問を主要政党へききました。

 

果たして、各政党はどのように答えたのでしょうか?
https://www.jnne.org/sdg2022/voice3/ の回答を読んで、自分が最も賛同する政党はどこか、その理由や他に考えた・思ったことや伝えたいことなどを記入してみましょう!

 


質問4 国際的な教育課題に対する日本の支援:学校保護宣言(The Safe Schools Declaration)について(昨年の記事から再掲)

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※バナー画像には113カ国と表記されていますが、バナー制作後にチュニジアが新たに加わったため、2022年4月現在で学校保護宣言を支持している国は114カ国です。

実行委員会による解説動画(4/14に実施した「実践者のためのワークショップ」より)

<問題点のまとめ>(一例)
・「子どもの権利条約」を批准し、SDGs達成に向けて取り組んでいる日本政府は、世界の過半数の国が支持している「学校保護宣言」への支持を未だに表明していない。「誰一人取り残さない」というSDGsの基本理念と「子どもの権利を保障する(守る)」という点などにおいて矛盾した状態になっているのではないか?
・国際社会で日本の存在感を高め、あらゆる分野でリーダーシップを発揮し続けていくためにも、国際社会の流れに加わることが大切ではないか?

 

<質問の背景と補足>

1:「教育への攻撃」とは

考え(政治、軍事、イデオロギー(政治思想・社会思想)、宗派、民族、宗教など)のちがいから争いが起こり、以下のような攻撃が、学校、通学路、教員、子どもたちなどに向けられることをいいます。

●学校(建物)への攻撃(略奪含む)
●生徒、教員、その他教育関係者への攻撃
●学校・大学の軍事利用
●学校内あるいは通学路における子どもの徴兵・徴用
●学校内・大学構内、あるいは通学路での子どもに対する性的暴力
●高等教育に対する攻撃(学生・教員・職員への暴力、施設への攻撃など)

2015年~2019年の間に、世界では11,000件を超える「教育への攻撃」が発生し、22,000人以上の教員、生徒、教育関係者が被害を受けました
参考・引用
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンHP

報告書『攻撃される教育 2020(Education under Attack 2020)』を発表」(2020年7月29日)
攻撃される教育 2020」P.2
当団体ブログ記事 教育を攻撃から守る国際デー(9月9日)(2020年9月9日)

 

ほかにも、「教育を攻撃から守る世界連合(Global Coalition to Protect Education from Attack:GCPEA)」の調査によると、2013年~2017年の間に、世界29ヶ国で、学校や大学が軍事利用(兵舎、軍事拠点、基地として利用するための占拠、射撃の訓練場としての使用など)されたり、学校が破壊されたり、教師や生徒が殺害されたり拉致される被害が出ていることが報告されています。
引用
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンHP「学校を軍事利用から守る「学校保護宣言」日本政府も調印を」(2018年4月23日)

 

2021年にはミャンマー・アフガニスタンで、2022年にはウクライナで「教育への攻撃」が起きており、罪のない多くの子どもや教育者が犠牲になっています。特にウクライナでは、2014年から続いている紛争で多くの教育施設が攻撃を受け、数千人の子どもたちが教育を受けられない状況が続いてきましたが、昨今のロシアによる不当な戦争行為によって、2月27日までに少なくとも6ヶ所の教育施設が砲撃を受け、35万人の子どもたちが教育を受けられなくなったと国連が推測したほか、「ウクライナ 学校 攻撃」で検索すると、筆舌に尽くし難い「教育への攻撃」がロシアによって行われていることが数多く報道されています。(個人差はありますが、衝撃の強い内容や写真なども表示されることがありますので検索の際はご注意ください)

引用
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンHP「【ウクライナ危機】学校への攻撃で子どもたちの命と未来が危機に」(2022年3月1日)
キャンペーンHPの設問解説内*2「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)reliefweb「Ukraine: Attacks on schools endangering children’s lives and futures」(英語・2022年2月27日)」の日本語版です。

 

校舎が破壊されて学校に通えなくなるだけではなく、攻撃・誘拐・性的暴力への恐怖やトラウマで学校に行けなくなってしまう子ども達も少なくありません。子どもたちが教育を受けられなくなってしまうことは、その地域・コミュニティ・国の発展や将来への悪影響、飢えや貧困などの連鎖にも繋がってしまいます。「教育への攻撃」は、基本的人権や「子どもの権利条約」の「育つ権利」など、多くの人権を著しく(ひどく)侵害する卑劣な行為です。

 

2:学校保護宣言とは
公式HP:https://protectingeducation.org/ (英語)

学校の軍事利用に反対を表明する垂れ幕(フィリピン・ミンダナオ島、2019年) (C)FTCJ

このような現状を受け、「教育を攻撃から守る世界連合(Global Coalition to Protect Education from Attack:GCPEA)」は、世界中の全ての人々が安心・安全な環境で学ぶことができる社会を目指し、2012年に、「武装紛争下で学校や大学を軍事目的使用から守るためのガイドライン」の策定に着手し(作り始め)ました。このガイドライン策定の動きは、2014年以降は、ノルウェーとアルゼンチン両政府が主導する形で引き継がれ、2015年「学校保護宣言」としてオスロ会合で発表されました。

 

「学校保護宣言」には、主に次のようなことが述べられています。

1. 軍事利用の目的で、開校中の学校を使用することの禁止
2. 民間人が退去後の学校の使用は最終手段の場合のみとすること
3. 武装紛争下における学校の意図的破壊の禁止
4. 敵が軍事目的で使用している学校への攻撃をする際、事前警告をするなど代替手段の検討義務
5. 戦闘部隊による学校警備の原則禁止
6. 「武装紛争下で学校や大学を軍事目的使用から守るためのガイドライン」の実施

※宣言の全文を各国語に翻訳したものも公式HPで公開されています。
一覧(英語)

https://ssd.protectingeducation.org/safe-schools-declaration-and-guidelines-on-military-use/
日本語版
https://protectingeducation.org/wp-content/uploads/documents/documents_safe_schools_declaration-jpn.pdf

 

この宣言は、生徒・教師・学校にとってより安全な環境を武力紛争下で確保するために、具体的な措置を講じることを国が政治的に誓約するものなので、本宣言及びガイドラインには法的拘束力がなく、法的義務/権利に影響しませんが、宣言に支持を示した国において、学校の軍事利用が大幅に減るなどポジティブな変化が起きています。

引用
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンHP「学校を軍事利用から守る「学校保護宣言」日本政府も調印を」(2018年4月23日)
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ)ニュースリリース
戦時下の学校を保護するために各国が動く」(2019年5月27日)

 

3:日本政府は「学校保護宣言」への支持を(2022年3月末時点で)未だに表明していない
※政党名のネタバレを避けるため、止む無く詳細説明を割愛していますが何卒ご了承ください。

    
(一例)

支持を表明する国は毎年増えており、2022年4月現在で国連加盟国の半数以上に相当する114カ国が学校保護宣言への支持を表明しています。しかし、日本は「子どもの権利条約」を批准し、SDGsに取り組んでいる一方、「防衛・自衛隊運用上の都合」などの理由で学校保護宣言への支持を表明するまでにはまだ至っていませんG7(7つの主要先進国、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)のうち、「学校保護宣言」の支持を未だに表明していないのは日本とアメリカだけです。

 

引用
教育を攻撃から守る世界連合(Global Coalition to Protect Education from Attack:GCPEA)公式サイト「学校保護宣言」支持国一覧(英語)

参考
外務省HP「万人のための質の高い教育 日本の取組」(2020年8月11日)及び「開発協力大綱」(2015年11月2日)

 

(補足)
用語解説:国際人道法 (International Humanitarian Law)
「武力紛争の際、一般人や負傷者や病人、捕虜や医療従事者、支援団体などの人々や乗り物・施設などを攻撃してはならない」など、武力紛争・軍事作戦時の国際ルールのことで、1949年の「戦争犠牲者の保護のためのジュネーブ諸条約」や、1977年に締結された追加議定書など、複数の条約や議定書で構成されています。

引用
国連広報センターHP「国際人道法」
外務省HP「ジュネーヴ諸条約及び追加議定書」(2022年3月15日)

参考
日本赤十字社Twitter
https://twitter.com/JRCS_PR/status/1510791763342118914

 

用語解説:武装紛争下で学校や大学を軍事目的使用から守るためのガイドライン
教育を攻撃から守る世界連合(Global Coalition to Protect Education from Attack:GCPEA)のHP内に日本語でアップされています。
https://protectingeducation.org/wp-content/uploads/documents/documents_guidelines_jp.pdf

こうした背景を受け、

■SDGsに取り組み、国際社会でリーダーシップを発揮し続けていくためにも、日本政府は「学校保護宣言」を支持すべきだと思いますか?

という質問を主要政党へききました。

 

果たして、各政党はどのように答えたのでしょうか?
https://www.jnne.org/sdg2022/voice4/ の回答を読んで、自分が最も賛同する政党はどこか、その理由や他に考えた・思ったことや伝えたいことなどを記入してみましょう!

 


質問5 国際的な教育課題に対する日本の支援:「教育を後回しにできない基金」(ECW)について(昨年の記事から抜粋・再掲)

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実行委員会による解説動画(4/14に実施した「実践者のためのワークショップ」より)

<問題点のまとめ>(一例)

・世界では相次ぐ紛争、災害、感染症の拡大などの緊急事態により、教育を受けられない子どもがおり、日本国内でも、子どもや若者が災害や感染症蔓延の危機的状況下に置かれ、SDG4で確保・向上することが定められている「質の高い教育へのアクセス」が困難になることが毎年、全国各地で起きている。
・しかし、日本は紛争・災害・感染症蔓延などの緊急時における教育支援に特化した、ユネスコの基金「Education Cannot Wait」へ資金拠出したことがない。

 

<質問の背景と補足>

1:キャンペーン公式HPの設問解説のソース一覧

・「学校に行くことができない初等・中等教育就学年齢の子どものほぼ半数にあたる1億2,700万人が紛争や災害による危機状況下に生きる子どもたちです。この数はコロナ禍によってさらに増加しました。また就学年齢にある難民の子どもの48%が学校に行っていません。紛争や災害状況下では、女子の不就学リスクは高まります。2023年までに2,000万人の女子が学校を辞める可能性があります。」のデータ引用元は下記のウェブサイトです。

Global Partnership for Education(教育のためのグローバルパートナーシップ)※GPEの詳細は質問6で説明します。
「CHANGING THE COURSE OF EDUCATION IN EMERGENCIES」(英語・2022年1月24日、ページ中ほどの「The education emergency」参照)

 

・「平和と成長のための学びの戦略」は外務省HPで公開されています。
全文:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/bunya/education/pdfs/lspg_ful_jp.pdf
骨子(簡易版):https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101247.pdf
(「3. 重点分野」に「紛争影響国や貧困地域の子ども,障害者など,様々な要因により質の高い教育へのアクセスから疎外されている人々に対応した支援」と記載されている)
この戦略は、国連でSDGsが採択された2015年9月に策定されたもので、近々改訂されることになっています。

 

引用
Global Partnership for Education(教育のためのグローバルパートナーシップ)日本事務局ブログ
「GPEユースリーダー達による、 遠藤彰氏(在シリア日本国大使館シリア臨時代理大使兼シリア特別調整官)へのインタビュー」(2022年3月18日)

 

・「2019年の日本の緊急人道支援に占める教育支援の割合は3.2%」の計算過程は以下のとおりです。

国際連合人道問題調整事務所(UNOCHA)のデータベース「Financial Tracking Service(FTS)」によると、日本政府が2019年に行った人道支援の総額はUS$474,764,194(1米ドル=110円と仮定すると約522億2400万円)、教育分野への緊急人道支援総額はUS$15,213,338(1米ドル=110円と仮定すると約16億7300万円)なので、これらを割り算すると、15213338÷474764194≒0.032→約3.2%となります。

引用
国際連合人道問題調整事務所(UNOCHA) Financial Tracking Service(FTS)「Japan, Government of 2019」
(ページ上部の「DONOR DATA」というタブをクリックし、「View by」というプルダウンメニューで「Sector」(支援分野)を選択)
UNOCHAの詳細は国連広報センターのHPFTSの詳細は外務省HPをご覧ください。

(参考:同ページ内のExcelデータとの数値の違いについて)
https://fts.unocha.org/donors/4537/summary/2019 内の「Funding by sector(支援額の分野別内訳)」の円グラフ右上からダウンロードできるExcelの表には、「Education:4.1%」と異なる数値が表記されていますが、このExcelデータには「Not Specified(支援分野が指定されていないもの)」「Multiple Sectors (shared)(複数の分野を兼ねる支援)」の金額が支援総額に含まれていないことに起因するものです。

 

・「同年のEUの10%」の引用元は下記のウェブサイトです。

欧州委員会(European Commission、欧州連合(EU)の政策執行機関)HP
「Education in emergencies Factsheet」
https://ec.europa.eu/echo/what/humanitarian-aid/education-emergencies_en

ページ中ほどの「Funding」で、「It (the share of education in emergencies in our humanitarian budget) is maintained at 10% of the humanitarian budget as of 2019.(2019年の緊急人道支援の予算における教育支援の割合は約10%)」と記載されています。

 

:日本はECW(Education Cannot Wait)への拠出実績(支援資金を出したこと)がない

用語補足:ECW(Education Cannot Wait)
公式サイト:https://www.educationcannotwait.org/ (英語)

参考情報
外務省HPでの説明「万人のための質の高い教育 分野をめぐる国際潮流」(2020年8月11日)

ECW公式Youtubeによる説明動画(英語、1:49)

緊急事態下の教育に力をいれるための、ユニセフ(国連児童基金)による新たな教育基金で、日本語では「教育を後回しにはできない(基金)」と呼んでいます。2016年5月23~24日にトルコ・イスタンブールで国連が開催した「世界人道サミット」で正式に発表、設立されました。紛争や自然災害、感染症蔓延(まんえん:拡大していること)などの危機的状況下で暮らす子どもと若者に質の高い教育の機会を提供することを目的としています。

引用
公益財団法人 日本ユニセフ協会HP「世界的な教育危機に取り組む 新たな基金が設立「Education Cannot Wait」緊急時下こそ教育を」(2016年5月23日)

 

日本でも、(憲法9条により戦闘行為が起きる可能性は限りなく低いものの)、災害(特に台風・地震)や異常気象などで家や学校が被災したり、コロナ禍で学校が休校になったり試験が中止・延期になったりして、子どもたちが教育を受けられなくなる状況が全国各地で起きています。「危機的状況下で暮らす子どもと若者に質の高い教育の機会を提供する支援」は開発途上国の子どもたちだけの話ではないのです。

イメージ画像:台風で被災した学校(フィリピン・2013年11月) (C)FTCJ
イメージ画像:紛争地域の仮設校舎と子どもたち
(2019年3月、フィリピン・ミンダナオ島マラウィ市) (C)FTCJ
イメージ画像:開発途上国の感染症対策支援(ケニア)(C)FTCJ

※これらの画像はイメージ画像として掲載したもの(当団体及び当団体の海外パートナー団体が独自に実施した支援活動の様子)であり、ECWとは関係ありません。

 

ユニセフ=国連の基金ですが、各国政府以外にも、民間企業が設立した財団やNGO・NPO団体などもECWへ資金や技術などのノウハウを提供しています。
なお、2022年3月時点で日本政府は、災害・紛争・緊急時の教育支援に特化しているECWに資金を拠出したことがありません

 

資金拠出国・団体内訳の詳細
ECW公式サイト(英語、「DONORS & PARTNERS」のセクションを参照)またはユニセフ公式サイトによる情報開示ページ(英語)

 

こうした背景を受け、

災害・紛争時などの人道緊急援助に関するODAの実績がある日本は、災害・紛争・緊急時の教育支援に特化している「教育を後回しにできない基金」(ECW)へ支援資金を拠出すべきだと思いますか?

という質問を主要政党へききました。

 

果たして、各政党はどのように答えたのでしょうか?
https://www.jnne.org/sdg2022/voice5/ の回答を読んで、自分が最も賛同する政党はどこか、その理由や他に考えた・思ったことや伝えたいことなどを記入してみましょう!

 

 


質問6 国際的な教育課題に対する日本の支援:「教育のためのグローバルパートナーシップ」(Global Partnership for Education:GPE)について(昨年の記事より一部再掲)

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<問題点のまとめ>(一例)
・コロナ禍で子ども、若者たちが教育を受ける機会が奪われている。
・特に貧困地域の女の子はコロナ禍の影響を強く受けている。学校に通えなくなった女の子が児童労働や児童婚、人身売買に出されるなど、コロナ禍による教育への影響は、これまで世界中の政府、NGO・NPO団体などが改善に取り組んできた社会問題の悪化も招いている。
・女の子が教育を受けられるようになることは、複数の社会問題の解決及び複数のSDGsの達成などに直結している。コロナ禍で女子教育への支援の歩み・手が緩んだり止まったりしてしまうと、アフターコロナ(新型コロナウイルス感染拡大が収束した後)の世界は、コロナ禍前よりも悪い状態に後戻りしかねない。
・日本のGPEへの拠出額は、世界の国々の中でも下から数える方が早く、G7内ではイタリアに次ぐ最下位に位置している。
・GPEは教育「基金」だが、資金調達以外にも支援している国の教育改革も現地政府などと協力して行っており、日本もモンゴル・ネパール・ラオスなどでこの活動の実績がある。GPEへの資金拠出が増やせなくても、国際教育支援、SDG4達成を加速するためにGPEに関われる手段、チャンスが残されている。

 

<質問の背景と補足>
用語補足:教育のためのグローバル・パートナーシップ:GPE(Global Partnership for Education)
■公式サイト(英語)
https://www.globalpartnership.org/
和訳版
https://raiseyourhand.jp/

参考情報
外務省HPでの説明「万人のための質の高い教育 分野をめぐる国際潮流 または 日本の取組」(いずれも2020年8月11日)

 

2002年に世界銀行が主導して、設立された世界で唯一の教育問題に特化した国際基金です。すべての人に公平で質の高い教育を提供することを目指しています。途上国、支援援助国、民間企業、(日本を含む)各国政府や、国連機関、NGOなどの多くの関係者に支えられています。世界中から教育のための資金を調達し、教育システムの改善・強化などを通じて、途上国が直面する教育の最重要課題(低所得国や地域の教育制度の変革など)を解決すべく、支援を行っています。

 

世界がコロナ禍に入ってからすぐに、GPEは5億米ドルを超える緊急資金を調達して、教育機関の閉鎖による被害を軽減し、66カ国で教育システム再開をサポートしました。現在、GPEでは、コロナ禍に伴う学校閉鎖の影響を最も受けている女子・障害児・極貧家庭の子どもたちへ質の高い教育を継続的に提供できるようにすべく、必要な資金:50億米ドル以上を2025年までに調達(集めて用意)する計画「GPE2025」を進めています。GPEでは、この「GPE2025」を達成・実現することで、さらに8,800万人の子どもたち(うち、女の子が4,600万人)が学校に通えるようになると試算しています。

引用
GPE日本事務局プレスリリース 教育のためのグローバル・パートナーシップ「Global Partnership for Education(GPE)」が1月24日「国際教育の日」にあわせてメッセージを発信」(2021年1月26日)
GPE日本事務局プレスリリース「GPE ( 世界で唯一の教育課題に特化した国際基金 )サッカーの世界的スーパースター、ディディエ・ドログバ氏がGPE の『Raise Your Hand』キャンペーンに登場」(2021年4月26日)
和訳版GPE公式サイトトップ (同じ図や説明はGPE公式サイト内の「Case for Investment」というpdf文書にも多言語で記載されています)

 

参考動画

GPE日本事務局公式Youtubeチャンネル(1:19)

 

1:コロナ禍が女の子を教育から遠ざけている
質問1の解説にも記載したとおり、2020年に始まったコロナ禍により、世界中で多くの学校や教育機関などが休校・閉鎖になり、子ども・若者たちが教育を受ける場所や機会が奪われています。新型コロナウイルス感染拡大のピークだったとされる2020年4月時点で影響を受けた子ども・若者の人数は、世界で15億人以上にのぼると言われています。
引用
公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンHP「『女の子を学校に戻すためのガイド』を国連機関とともに作成」(2020年9月2日) 英語版はこちら

 

コロナ禍で学校に行けなくなった影響を特に大きく受けているのが、貧困地域の女の子たちです。家計が苦しくなり、親から児童労働や物乞い、児童婚、売春、人身売買などに出されているという実態が当団体のパートナー団体から報告されています。特に、児童婚などによって、女の子や若い女性たちが早い年齢で母親になると、学校を中退せざるをえなくなるなど、教育を受けることが極めて困難になってしまいます

引用
当団体ブログ「インドのコロナ禍における深刻な状況」(2020年11月24日)

公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンHP「【第8報】学校閉鎖下の女の子に教育の機会を~新型コロナウイルス対策緊急支援~」(2020年5月28日)

 

イメージ画像 (C)FTCJ

 

2:女の子が教育が受けることがとても大事な理由

イメージ画像

 

全ての子どもたちに教育を受ける権利があることは、質問1の「子どもの権利条約」の解説などで触れましたが、「女の子は学校に行くよりも家事をするか働いて収入を得ることの方が大事」「女の子が学校に行く必要はない」など、長い歴史を経て形成された男尊女卑の文化や偏った考え方、差別などによって、女の子・女性が教育を受けられていない状況が世界のあちこちで今も起きています。また、こうしたジェンダー差別が根深く残っていることは、学校にお手洗いがない(あったとしても適切なものではない)、貧しくて生理用品が手に入らない(=生理中の女の子は学校に行けなくなってしまう)、通学路で暴力・性的暴力を受ける可能性がある、女性の教員が少ないなど、「女の子にとって学校が安心できる場所でない」という教育環境整備の遅れにも影響しています。

 

もし自分や自分の子どもたちが教育を受けられなかったら、将来どんなことが起きてしまうのか少し考えてみましょう。例えば、基礎教育(文字の読み書きや簡単な計算の仕方、そして自分の持つ権利についてなどの教育)を受けられなかった子どもたちは、将来就職できる仕事や得られる収入が限られてしまうことで、家族や地域を支えていくことが難しくなってしまい、こうした状況が次世代に引き継がれていく…という「貧困の悪循環」に陥ってしまいます。他にも、教育を受けられなければ、性や生殖などの保健の知識、社会や科学、人権に関する知識やスキル(技術・技能)も習得する(教わる)ことができないため、社会から取り残されてしまったり、将来、自分が病気になったり妊娠・出産した時に正しいケアができず、自分や子どもが死に至ってしまったり、児童労働や犯罪などの悪いことから身を守る方法が分からず巻き込まれてしまったりするなど、生きていく上で多くの困難に直面してしまいます。

 

こうした問題・困難は、先述したとおりコロナ禍で悪化していることが分かっています。見方・言い方を変えれば、貧困、人口爆発、乳幼児死亡率の高さ、就学率の低さ(教育へのアクセス)、児童労働など、コロナ禍以前から起きている社会問題の多くは、子ども、特に女の子が教育を受けられるようになることで改善・解決することができるのです。
例えば、
・読み書き、基礎的な計算、社会、科学などに関する知識を得ることで就職の幅(就ける仕事の範囲)が拡がり、収入が増え、安定した生活を送れるようになる。
→貧困の撲滅、長い目で見ればその国や地域の教育水準の向上、経済、産業の発展や環境保護などにも繋がっていく
・社会や人権などについて知り、身を守る知識を得ることで、自分が犯罪に巻き込まれたり、自分の子どもを人身売買や児童労働などへ巻き込んだりすることを防げるようになる。
→犯罪や児童労働の防止、人口爆発の抑止、長い目で見ればその国や地域の人権意識の向上や、ジェンダー平等などにも繋がっていく
・性や生殖(リプロダクティブ・ヘルスケアなど、様々な呼び方があります)、病気などの保健の知識を習得することで、自分自身や家族などに正しいヘルスケアができるようになる。
→平均寿命、乳児死亡率の改善、長い目で見ればその国や地域の衛生状況の改善や就学率の向上などにも繋がっていく
など、あらゆる分野に長期的なメリットがもたらされるのです。

 

実際に、女の子が教育を受けられるようになったことで、
・妊娠や出産での死亡率や乳幼児死亡率の低下
・自分の子どもも教育を受けさせるようになる(=就学率のさらなる改善)
・児童婚、望まぬ妊娠の抑止(=人口爆発の抑止など)
・GDP(国内総生産)など、その国の経済指標の向上
など、短期・長期双方の視点から、あらゆる社会問題が改善しているという報告も出ています。(具体例は下記の引用元ページなどをご覧ください)

 

以上より、国内外の多くのNPO・NPO・政府機関が協力し、長い年月をかけて子どもたち、特に女の子の就学率改善(女の子が教育を受けられるようにすること)に取り組んでいます。また、先に挙げた社会問題は、SDG4以外のターゲットにも深く関わっています。つまり、子どもたち、特に女の子が教育を受けられるようになることで、複数のSDGsの達成=よりよい世界の実現に向けて大きく前進できるのです。

引用
当団体HP「教育支援
特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパンHP「【世界の女子教育】女の子が学校に通えない3つの原因
外務省HP「開発協力大綱 平和と成長のための学びの戦略 ~学び合いを通じた質の高い教育の実現~ 」(2015年9月)(pdf、
P.5)

 

3:女子教育支援の歩みを止めてはならない
当団体を含め、国内外の多くのNPO・NPO・政府機関が協力し、長い年月をかけて、世界中の女の子たちが少しずつ学校に通えるようにするための支援活動を行ってきました。しかし、コロナ禍で教育を受けることが困難になったことや、世界的な不況で家計が厳しくなったことで、女の子が児童労働や物乞い、児童婚、売春、人身売買の被害に遭うケースが増えており、長年の歩みが後退しつつあります

 

何事も、積み上げていくためにはとても長い時間とたくさんの労力を必要としますが、積み上げたものが崩れたり壊れたりするのはあっという間です。今、コロナ禍で誰もが苦しい状況にありますが、ここで長年積み重ねてきた女子教育支援の手や歩みが緩んだり止まってしまったりしてしまうと、アフターコロナ(新型コロナウイルスの感染拡大が収束した後)になった時、コロナ禍以前よりも女の子が教育を受けられていない状態に後戻りし、元通りの状態に戻るまでにさらに長い年月を要することになってしまいます

 

女の子が教育を受けられるようになることは、世界のあらゆる課題を解決し、SDGsを達成するために必要不可欠です。だからこそ、コロナ禍でも子どもたち、特に女の子が教育を受けられるよう支援し続けることが特に重要になっており、国際社会も支援に向けた動きを加速させています。国だけではなく、私たち一人ひとりも、今できる最大限のことが何なのか考えて実行していくことが必要です。

 

4:GPEに対する日本政府の対応(直近1年)

用語補足:G7・G20
G7はフランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7つの主要先進国のグループのことです。2022年の議長国はドイツがつとめています。
G20はこれら7か国に、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、EU(欧州連合)・ECB(欧州中央銀行)を加えた20か国・地域を加えて構成されるグループのことです。

 

2021年6月11~13日にイギリスのコーンウォールでG7サミットが2年ぶりに開催され、新型コロナウィルス感染拡大からの回復に加え、自由で公正な貿易の擁護、気候変動への対応・生物多様性の保全、最貧国の成長支援のための女子教育・食料安全保障・保健・持続可能な開発資金などについて議論が交わされました。

 

さらに、G7コーンウォールサミットの翌月、2021年7月28日-29日(現地時間)には、同じイギリスのロンドンで、教育支援のための世界的な資金調達会議 『Global Education Summit(世界教育サミット2021)』 が開催され、各国政府から今後5年間のGPEへの拠出金額(今後5年間で各国の政府がGPEにどのくらいのお金を出すか)が発表されました。

 

以上のように、2021年初夏は、世界の教育に関する重要会合が2連続かつイギリスで開催され、世界の教育問題の解決・SDG4達成に向けた国際社会の機運がこれまでになく高まっていた(国際社会の関心がとても高まっていたのですが、G7コーンウォールサミットでも、世界教育サミット2021でも、参加した国々の中で唯一日本政府だけが「日本は1年ごとに予算を組んでおり、長期間の拠出要請には明確に応じられない」という理由でGPEに対する今後5年間の具体的な拠出額を表明せず、国際社会から落胆の声が上がりました。

引用:高知新聞2021年9月5日号(紙面版)

 

昨年8/27に本キャンペーンが財務省担当者とオンライン面会した際にもGPEに関する質問をし、財務省は「GPEへの追加拠出は想定していない。財務省としてはIDA(世界銀行最貧国向け基金、173カ国が出資)において効果的な支援を行っている。」と回答しており、2021年の日本政府はGPEに対し消極的な対応を取っていました。

引用
・9/4 共同通信ほか多数「日本、女子教育資金示さず G7、27億ドル提供合意」
GPE公式サイトによる「世界教育サミット2021」報告ページ内 国別拠出額一覧表
(英語、ページ内「Donor government pledges」参照、日本だけが2021年度にGPEへ出す予算:720万米ドルしか記載されていない)

 

一方、2022年1月24日(国際教育の日)に日本政府はイエメンとシリアの教育支援とGPEへの資金拠出を表明し、イエメンの支援に約620万米ドル(約6億8,200万円)、シリアの支援に約160万米ドル(約1億7,600万円)、GPEの基金に対し約70万米ドル(約7,700万円)の資金拠出を表明しました。(1米ドル=110円として換算)

引用
教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)日本事務局HP「プレスリリース:日本政府、GPEに800万米ドル超の拠出を表明(2022年2月14日)

 

5:日本政府のGPEへの拠出額は、G7の中で最下位
和訳版GPE公式サイトGPE本部HPの拠出額ランキング・グラフにもあるように、2022年時点で日本がGPEに拠出している額は他国と比べるととても少なく、G7の中で最下位です。

 

6:資金拠出以外にもGPEに協力できる手段がある
用語補足:ローカル教育グループ(Local Education Group:LEG)

GPEは教育「基金」ですが、世界中の教育支援に必要なお金を調達しているだけではありません。支援している国の政府関係者のほかに、GPEに資金を拠出している他国の国際機関、二国間機関、教員団体、民間企業、財団、NPO・NGO関係者などが「ローカル教育グループ」(Local education group:LEG)をつくり、支援している国の教育制度・体制・手法などの整備・改革・改善を支援する活動も行っています。

引用
教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)日本事務局HP「GPEと、他の教育関連の国際機関やNGOとは何が違うの?」(2021年10月4日)

 

既に、日本からも在外公館、JICA、NGOがモンゴル、ネパール、ラオスなどでLEGに参加し、現地の教育改革の実績をあげています。こうしたことから、より多くの国のLEGへ日本が関わっていくことで、日本の教育ノウハウを世界の教育の進歩・SDG4達成のために活かすチャンスが増えるのです。

 

 

こうした背景を受け、

日本政府は、開発途上国の教育制度全体を改革・支援する、GPEの「ローカル教育グループ」の活動へ日本の教育関係者がもっと関われるようするための支援を強化していくべきでしょうか?

という内容の質問を主要政党へききました。

 

果たして、各政党はどのように答えたのでしょうか?
https://www.jnne.org/sdg2022/voice6/の回答を読んで、自分が最も賛同する政党はどこか、その理由や他に考えた・思ったことや伝えたいことなどを記入してみましょう!

 


以上の6問の回答から総合的に判断・投票する

それぞれの質問の回答を読み、自分が最も賛同する政党はどこか、その理由や他に考えた・思ったことや伝えたいことなどを記入してみましょう!
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「SDG4教育キャンペーン」のキャンペーンそのものに関するお問い合わせは
キャンペーン事務局:gce.japan.campaign@gmail.com(開発教育協会(DEAR))へお願いいたします。(@を半角に変更してください)