【コラム】コロナ禍と子どものメンタルヘルス、ウェルビーイング

フリー・ザ・チルドレン・ジャパンは2022年4月からウェルビーイング事業を始め、情報発信、教材開発・海外教材の翻訳、教育機関・イベントなどでのワークショップ試行など、本格始動に向けた準備を進めています。(詳細はこちら

 

その一環として、コロナ禍が国内外の子ども・若者のメンタルヘルスにどのような影響を与えているのか調査した、国内外の研究論文や報告書、報道記事などの概要をFTCJのボランティアスタッフがレポートしてくれました。

ぜひこの機会にご覧ください。

コロナ禍と子ども、若者のメンタルヘルス不調との関係(概略図)
コロナ禍と子ども、若者のメンタルヘルス不調との関係(概略図、クリックで拡大)(C)FTCJ

 

▼FTCJボランティアスタッフ レポート執筆者コメント:コロナ禍が始まって間もなく4年という長い歳月を迎えるため、世界中すべての人の心身が、過去に無い長さ・強さのストレスによって知らず知らずのうちに疲弊しています

 

別件の資料として雑多にまとめた情報をウェブ公開用に少し整理したものですが、コロナ禍で世界の子ども・若者たちの心に何が起きたのか、これからどうしていくべきなのかなど、何か参考になれば幸いです。

レポートはこちら(A4用紙約30ページ相当の長さ・情報量かつ図表が多いためPCからの閲覧を推奨)

 

(諸注意)
※このレポートは2023年4月23日時点で公開されていた情報を基に作成したため、レポートP.7で引用した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」の最新(2022年度)版が10/4に文科省HPで公開されるなど、引用した統計数値の一部がレポート作成から本記事公開までの間に更新されています。最新の統計情報はそれぞれの引用元のウェブサイトをご確認ください。
※結果の統計処理や専門指標の分析過程・説明についてはそれぞれの引用元や専門機関のウェブサイトをご覧ください。
※本文書内で紹介した情報・データの著作権は引用元の著者・機関に帰属します。PDFデータのセキュリティ設定強制変更、データの二次配布・当団体以外のウェブサイトへの転載(データの中身が映りこんだスクリーンショット・画像の公開を含む)を禁止します。文章・図表・画像の引用を希望される場合は、お手数ですがお問い合わせフォームやメール、SNSのダイレクトメッセージなどで当団体までご一報ください。


<筆者コメント>

10月10日「世界メンタルヘルスデー」を過ぎてしまいましたが、FTCJウェルビーイング事業に対する個人的な考えも一部述べます。

1:ノウハウ不足だった反省を、世知辛い社会に生きる現世代へ
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私は大学生・大学院で「交通”心理”学」を研究していましたが、当時は「危険運転に対し相手がどう思った・感じたか」という、”他者の心”のみに着目していました。

 

一方、”自身”のメンタルヘルス、ウェルビーイングについて本格的に着目するようになったのは、2010年代半ばで色々あり過ぎてうつ病になり、医療機関や就労移行支援施設で専門的な治療を受けるようになった20代終盤からでした。

 

治療・リハビリで自分のメンタルヘルスやウェルビーイングを分析・自覚したり、発生した問題、障壁に対し対処・対策を講じたりする術や経験を習得していくさなかで、「幼少期にこれを知っていたらあんな状態には陥らなかったのかも、もっと早く立ち直れていたかも」「学生時代にこの概念を身につけていたら、あの時あの子へかける言葉があっただろう、あの人へあんな酷いことは言わなかっただろう」とネガティヴな後悔、強い罪悪感と自責の念を感じたりすることが度々ありました。

 

2020年代の子ども・若者世代は、私が学生時代を過ごした1990~2000年代とは異なり、コロナ禍以前から何かと過密・過剰な社会に生きており、私たちのようなおとな世代には想像できないほどの数・大きさのストレスに常時さらされています。一方、わたしたちおとな世代よりも「人生の選択肢が拡がっている」という功の要素もあります(経験格差(解説)という新たな格差問題も伴っていますが…)。

 

つまり、今の世代の子ども・若者たちは、私たちおとな世代以上に、自分の心や人生、メンタルヘルスやウェルビーイングへ各々が適する手段で向き合っていく機会や術が求められ・重要になっているのです。

 

若いうちから自分の心と向き合う経験や術を得ておく必要性を30代になってから痛感したことからも、20年ほどの時代背景の違いがあるとはいえ、2030年代を担う次世代の子ども・若者の皆さんにはメンタルヘルス、ウェルビーイングについて早いうちから少しでも知っておき、少しでも後腐れなく、”よく”生きていってほしいと思っています。

2:日本社会の遅れぶりに対する違和感・危機感
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私が大学当時に北欧の留学先で各国・様々な年代の留学生たちと過ごした経験や、一般企業勤務当時に出張先の国の同世代社員たちと語り合った経験から、(日本には子ども・若者が自分の人生や心と向き合うような経験・ノウハウが少なすぎるのではないか…?)という危機感を覚えたことが何度もありました。

 

「ウェルビーイング」という言葉・概念は、2000年代頃から海外の教育・研究機関で使われ始めていたようですが、日本でウェルビーイングやメンタルヘルスといった言葉が使われるようになったのは2010年代半ば頃からで、そのフィールドも主に企業だったように思います。

 

実際、文部科学省が「生きる力」という概念を学校教育の現場へ導入したのは2020年頃ですが、「ウェルビーイング」という言葉を「教育振興基本計画(第4期)」に導入したのは今年度、厳密には2023年6月後半からでした。(詳細

 

この「教育振興基本計画(第4期)」には「47都道府県への公立夜間中学設置推進」(解説)という施策も明記されており、学校生活や学びがおとなになってからでもやり直せるようになりつつありますが(1年ほど前に「リスキリング」という単語も色々と話題になりましたが)、個人の心身形成の大部分を占める「子ども時代」は、フィクションでもない限り「その時・場限り」です。

 

このレポートの中でも言及しましたが、2021年5月時点でOECDがコロナ禍を「Mental Health Crisis:メンタルヘルスの危機」と形容していたことに加え、日本の子どもの自殺率はOECD諸国内でも最悪レベルの水準が長らく続いているという統計結果が出ていることからも、今の日本の子ども・若者世代がウェルビーイング、メンタルヘルスについて学ぶことの必要・重要・緊急性は極めて高いといえます。

 

「友好・同盟・条約・枠組みのよしみ」「足並みを揃える」「前例が無い」ではなく、「人生・心身・命を守る」ことを第一義に、実態/体を伴った取り組みが政治家や教育者だけではなく日本社会全体に求められていると考えています。

3:体現・探求の継続
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私は2019年からFTCJにインターン(~2022年8月)→ボランティアという形で関わっていますが、その前に勤務していたある塾では、ソーシャルアクション以外の形で「子ども・若者に内在・潜在する、変化を起こす力」を何度も体験したとともに、「子どもたちは、本人の意思とは無関係、無意識に、身近なおとなをロールモデル・反面教師にする」ことも数え切れぬほど経験しました。

 

それゆえ、子ども・若者に内在・潜在する、変化を起こす力を最大限引き出し、発揮できるようにするには、私たちおとな世代が変化の体現者で在り続けなければならないと思っています。

 

一方、先述した「子ども・若者の皆さんがメンタルヘルス、ウェルビーイングについて早いうちから少しでも知っておくこと」の実現には、教える私たちおとな世代があまりにノウハウ不足である現状が最大の障壁になっていると感じています。

 

そのため、「子ども・若者世代へ直接教えること」だけではなく、「教えるおとな世代へのサポート」も並行対応している当団体及び本事業が「直ぐにでも子ども・若者世代にウェルビーイング、メンタルヘルスについて教え・伝えたいものの、そのためのノウハウや前例を持ち合わせていない」というもどかしい現状に一石を投じることができるのではないかと考えています。

 

さらに、その過程で私自身が自らの生活、特に10年近く付き合っている精神障害に対する試行錯誤・チェンジメーキングに関する新しい知見や経験を得て、その教訓を次世代へ語り継いでいくような流れができれば、より良い形のWin-Winになるのではないかという淡い期待も寄せております。

 


・この記事を書いた人(筆者プロフィール)

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FTCJボランティアスタッフS.S(記事公開当時、本人の意向により氏名・写真は非公開)

東京都出身、工学修士。ジャズやディスコ音楽、洋楽に傾倒していた両親や、海外の大手医療機器メーカーに勤務していた親族に感化される形で幼少から国際志向を有し、中学・大学でオーストラリア・アメリカ・フィンランド・エストニア・タイ、計5カ国の海外渡航、短期留学を経験。

大学/院では塾講師のアルバイトを6年、うち2年は機械製図・設計科目のTAも兼任し、当時全盛期だった「ゆとり教育」などの日本の教育や、(現在の「ブラック校則」なども含め)教育者の在り方、教育制度などに強烈な問題意識を覚えつつ、教育を通じた子ども・ユースの人格・リーダーシップ(現在の「生きる力」)などの育成・醸成に携わる。

大学院卒業後は一般企業2社に計5年勤務、労働災害による精神障害罹患&ドクターストップで退職、障害と貧困の二重苦の中、2年ほど三途の川のほとりをお散歩。

2018年以降、自身の「Gift + Issue = Change」の体現として、国際協力+教育の非営利活動、業界での社会復帰を模索するようになり、「世界一大きな授業(現:SDG4教育キャンペーン)2019」事務局インターンをきっかけに、2019年2月末から教育・国際協力分野双方を扱うFTCJと関わるようになる。

2019年7月以降は翻訳・教材開発・データ集計/分析・資金調達/クラウドファンディング・事務局運営などの裏方全般、団体広報代理(2020年~2022年5月)、「SDG4教育キャンペーン2021・2022」実行委員(子ども・ユースロビイング企画)を歴任。2022年8月以降はインターンからボランティアへ立場を変え、2023年5月現在、団体事務局・翻訳業務、フィリピン支援(、たまにケニア支援)、ウェルビーイング事業を担当。