【報告】オーガニック子ども食堂事業(千葉県・つくば)に取り組みました

2020年9月~2021年3月に実施した、ひとり親家庭や、経済的な困難を抱える家庭の子どもや若者、障害のある子どもへお弁当を提供する「オーガニック子ども食堂事業」について報告します。

 

(2023年9月14日追記)
配布する弁当の調理・梱包・運搬、関係団体・配布先との調整など、本事業の主要な活動の大半を担当した、寺子屋オーガニックカフェEDENのオーナーで、当団体の理事も長年兼任された永野恵理さんが2023年9月13日に逝去されました。ここに生前の功績へ心からの謝意・敬意を表すとともに、故人の新たな旅立ちへ最大のエールを贈ります。

 


  

目次

●子ども食堂とは
●子どもの「孤食」問題
●事業背景:「子ども食堂」運営側のハードル・コロナ禍の影響
●実施(事業)内容
●頂いたコメント(抜粋)


●子ども食堂とは

子どもへ無料または安く栄養のある食事や交流・団らんを提供する場のこと。「子ども食堂」という名前ですが、子どもだけを対象にしているのではなく、高齢者やその他近くにすんでいる人々も気軽に立ち寄れる場として地域ネットワークづくりの要(かなめ)となる機能も果たしています

行徳子ども食堂にて(C)FTCJ・行徳子ども食堂
行徳高校(定時制)にて(C)FTCJ・塩浜子ども食堂(千葉県市川市)

引用
市川子ども食堂ネットワークHP「「こども食堂」って何?」
農林水産省HP「子供食堂と連携した地域における食育の推進」

 

●子どもの「孤食」問題

親が働いている・共働き、生活様式の多様化(家族一人ひとりの生活時間が異なる)、経済的な厳しさ、ネグレクト(育児放棄)などの虐待といった様々な事情で子どもが一人で食事を食べざるを得なかったり、栄養・量・コミュニケーションを十分に確保できない食事をとったりして「寂しい・つらい」と感じているケースが増えつつあることが分かってきています。

 

こうした、孤独やつらさを感じながら一人で食事を摂ることを「孤食」(こしょく)と呼びます。(「一人で食べる方が気が楽」「そもそも一人暮らしだから」など、自ら望んだり、寂しい・つらいといった感情を伴ったりしない場合は「孤食」に当てはまりません)

中でも、子どもの孤食・子食(子どもだけで食事を摂ること)の場合、

・親が朝から晩まで仕事で食事を用意したり片付けたりする余裕がないため、毎日何百円かのお小遣いでコンビニ弁当やファストフードを買って(または配送してもらって)食べている
・親が共働きで帰りが遅いため、買い置きの惣菜やレトルト、冷凍食品で食事を済ませている
・家が貧しくて満足に食事が摂れない
・親がネグレクト(育児放棄)で食事を用意してくれない
などのケースが存在しています。

 

いずれのケースも、栄養が脂質や炭水化物などの特定成分に偏っていたり、摂取量が不足していたりしていて、心身の成長に本来必要な栄養・量をとれないばかりか、市販の惣菜やコンビニ弁当・ファストフードには体に良くない食品添加物も含まれていることがあり、身体の成長に悪影響を及ぼしてしまう危険性もあります。「たまに」の頻度であれば差し支えないものの、毎日毎日菓子パンやファストフード、カップ麺などの濃い味の粉物ばかりを摂っていたら、おとな以上に肥満などの生活習慣病にかかり易くなってしまいます

 

さらに、誰ともコミュニケーションを取ることなく、一人で寂しい・つらいと思いながらご飯を食べていると、(テーブルマナーなどの躾・教育の機会が無いという問題の他にも、)折角おいしいものもおいしいと感じられなくなってしまったり、メンタルヘルス不調に直結したりするなど、心の成長・発達にも深刻な悪影響を及ぼしてしまいます

 

参考
厚生労働省「保育所における食事の提供ガイドライン」(平成24(2014)年3月、P.3(pdfデータ上では7ページ))

 

以上のように、子どもが一人で寂しく食事を摂ることや、食べる量の不足や摂取する栄養の偏りは心身の発達に深刻な影響を与えるため、各地のNPOや自治体が子ども食堂を運営して、無料または安価・安全・栄養バランスの整った食事や団らんの場を提供したり、フードロスになりそうな食品を無料・または安く提供したりするなどの取り組みを行っています。

 

●事業背景:「子ども食堂」運営側のハードル・コロナ禍の影響

子ども食堂には食事・交流、団らんの場や居場所を提供するという、とても重要なメリットがありますが、何もない状態から子ども食堂を始めようと思うと、以下のような準備が必要になります。

 

(一例、今回の事業では該当しないものもあります)

・食材、食品を用意するための費用

寄付、フードロス対策などによる安価または無償での食材・食品提供、フードパントリー、自家生産などでまかなっている・コストを抑えることが主流になっていますが、これらの手段で用意できない食品があったり、特定の食品(主にお米や飲料、缶詰、インスタント食品)を大量に配布する場合は、業務用専門店で購入して対応することもあります。


(参考画像、別事業の報告記事より)

 

・配布場所を借りる費用(場所を有料で借りる場合)

NPO法人の事業所や公共施設、学校、お寺の境内、マンション・団地の一角などを無償で借りて実施したり、(縮小営業中の集客も兼ねて)自ら経営・運営している飲食店を利用したりする方法が主流になっています。

お寺の境内を無償で借り、車でオーガニック弁当を配布した様子
(C)東菅野つなぐ食堂/NPO法人市川子ども文化ステーション

 

・梱包、包装、配送コスト

宅配する場合は、採算の都合で、送料を着払いに(受益者=支援される方が負担する)せざるを得ないケースもあります。自ら配送する場合、配送するための車や燃料費、ドライバーの確保も必要です。こうしたケースは、ドライバーはボランティア・配送は自家用車(つまり燃料費は自己資金=自腹)で対応している所もあります。

 

・調理場所、設備(飲食店以外で自ら調理する場合)、調理にかける時間、調理に要する光熱費

配布する量が多くなると、一度で大量の食材を調理しなければならなくなるので、相応の規模・性能・数の調理設備や時間が必要になります。(一般の家庭用キッチンや調理器具で何十食も用意するとなると、相当の調理回数・時間を要します)

本事業でのお弁当作りの様子
(C)FTCJ・寺子屋オーガニックカフェEDEN

 

・ラベル表示(自ら調理したものを配る場合)

原材料名や食材の産地、生産者名、アレルゲン(食品アレルギーを起こす食材)、賞味期限などの情報を記載したラベルを貼ることが食品表示法などの法律で細かく決められており、作った場所や配布・販売する場所などの条件で印字しなければならない内容が細かく変わるため、地域の保健所に相談してから実施することが推奨されています。そのため、保健所とのやり取りも相応の手数と時間を要しますし、食品にまつわる法律の知識も必要になります。

 

ラベルの印刷にも、印刷業者に頼む場合はその費用、自ら印刷する場合は相応のPCスキル(MS Officeの「差し込み印刷」や印刷機の設定などが不自由なくできるレベル)、ラベル台紙や印刷用インク/トナーのコスト、印刷・貼り付けに要する時間と手間がかかります。

配布したお弁当にラベルを貼った状態
(C)FTCJ・寺子屋オーガニックカフェEDEN

 

・栄養バランスの確保、食品添加物の確認(購入したものを配布する場合)

市販の弁当や惣菜などには賞味期限・保存期間を長くできるようにしたり、見栄えを良くしたりするなどの目的で「食品添加物」が含まれていることがあります。食品添加物が全て危険・有害というわけではありませんが、安全・安心を徹底したい場合は、有害な食品添加物が含まれていないかどうか調達(購入)前に確認する必要があります。

また、市販のお弁当やお菓子は脂や炭水化物(糖)が多い一方で野菜や食物繊維が少なかったり、塩分や糖分を多く含んでいたりする(調味以外に抗菌や賞味期限・保存期間を長くするなどといった他の目的もありますが)など、栄養バランスが偏っているものが少なくないため、栄養バランスまで考えて食料支援を行おうとすると、食料調達のハードルが大幅に上がってしまうのが実情です。

 

・仕入元からの理解/許可を得ること(購入したものを配布する場合)

コロナ禍を受け、子ども食堂向けに安価または無料で商品を提供するようになったお店もあります。(栄養バランスに若干偏りはありますが、)一部の大手牛丼、宅配ピザチェーンでも、子ども食堂向けに安価で自社製品を提供している所があります。

とはいえ、実質的に「転売・横流し」の形になってしまいますし、「できたてを食べて欲しい」「お店に来てもらったお客さんにこそ食べて欲しい」といった方針のお店もありますので、他所のお店から配布・販売する食べ物を調達する場合は、調達元のお店から理解を得ることが必須です。

 

・地域の理解を得ること

残念ながら、子ども食堂=貧困=地域のイメージダウンに繋がるといった偏見を持たれていることがあるため、トラブルを防ぐためにも、実施前に活動を行う場所の町内会・自治会・福祉協議会などの関連団体に事前相談しておくことが推奨されています。

 

・周知手段及び広報コストの確保

チラシデザイン、印刷、地域への掲示協力依頼、ウェブサイトやSNSアカウントの取得、デザイン、管理、運営など、コスト以外にも様々なスキルが必要になります。

 

・食中毒対策

万一食中毒が起きた場合に備える保険もありますが、相応の保険料がかかります。

 

・価格設定(販売する場合)

受益者(支援する対象)が経済的に困難を抱えている世帯が多い=あまり高額にはできないため、販売する場合の価格設定は300円程度が限度になっています。先述した多様なコストを考えると、助成金が取れたり、300円で販売したりしても、運営にかかるコストとほぼ相殺されるか上回ってしまう(プラスマイナスゼロか赤字になってしまう)ことも少なくありません。

 

関連情報
子ども食堂ネットワークHP「子ども食堂を作りたい人」
三重県庁HP「子ども食堂開設ハンドブック」
東京都多摩府中保健所HP「子ども食堂の方、開設を検討している方へ」
厚生労働省HP「子ども食堂における衛生管理のポイント」

 

以上のように、子ども食堂を開設・運営するにはたくさんの人数、スキル、モノ、資金、知識、時間、手間などが必要になるため、子ども食堂を一度実施するだけでもとても大変なこと(個人レベルで実施するのは極めて困難)であり、継続的・サステナブル(持続的)に実施・運営していくとなればさらに困難を極めます。そのため、ボランティアや自己資金(自腹)で運営したり、官民双方の助成金を活用したり、単発または継続支援型クラウドファンディングで資金調達したりすることでギリギリ運営できている、または不定期に開催している所が多いのが実情です。

 

しかし、コロナ禍によって子ども食堂は
運営団体自体が経済的に厳しい状況に置かれている
・公共施設の閉鎖、休業などにより会場確保が困難になった
・新型コロナウイルス感染対策へのコスト増
万一、感染者を出してしまった時の補償、保険制度が少ない(あっても保険料がかかる、食中毒対策の保険と併せると負担が大きい)
・(個別配送しない限り)三密対策が困難受益者も支援拠点に来にくくなった(感染対策をしているとはいえ、コロナ禍で人を集めることに対する罪悪感、後ろめたさ、周囲からの白い目に耐えながら実施するなどの精神的負担も…)
といった新たな困難に直面しており、資金難・運営難で活動休止・終了した子ども食堂も少なくありません

 

さらにコロナ禍で人・モノの流れが変わったことで、「寄付や食材が集まりにくい、食料が集まっても種類が偏りやすい」という課題も新たに発生しています。確かに、先述したとおりファストフード、コンビニチェーンなどのお店から子ども食堂向けに丼、ピザ、弁当、揚げ物、おにぎりなどを無償または安価で提供されていますが、毎日牛丼、ピザ、から揚げ…といった脂っこいものが続くのはどうしても不摂生になりがちです。市販の弁当や惣菜は、賞味期限・保存期間を長くできるようにしたり、見栄えを良くしたりするなどの目的で、体に良くない「食品添加物」が含まれていることもあります(全ての食品添加物が危険・有害というわけではありません)。

 

子どもの心身の健全な成長には、安心・安全・栄養バランスを兼ね揃えた食品が必要ですが、子ども食堂でこうした食品を採算を取りつつ安定して提供し続けることがコロナ禍でさらに困難になっています。そのため、「支援を途切れさせてはならないので、安全性や栄養バランスの確保を諦め、主に揚げ物やコンビニ弁当、チェーン店のテイクアウト丼などを配って対応しており、歯がゆい思いをしている」という声も多くの子ども食堂運営団体から上がっています

 

参考
子ども食堂ネットワークHP「子ども食堂サミット2021」パンフレット(pdf)

 

●実施(事業)内容

「コロナ禍で子ども食堂の運営や安全・安心・栄養バランスを兼ね揃えた食料支援がさらに困難を極めている」という背景を受け、「市川こども食堂ネットワーク」と協働し、2020年8月~2021年3月の間に、オーガニック弁当(無添加・手作り・レンチン・冷凍無し)1,000食分を、千葉県市川市のひとり親・貧困家庭の子ども、行徳(現:船橋)高校定時制に通う高校生、佐倉市の障害児学童、コロナ禍でアルバイトができなかったり、仕送りが少なくなったりして経済的に厳しい状況に置かれた筑波大学の学生に配布・販売しました。

(補足)
行徳高校定時制では、平成29(2017)年度で給食が廃止されたため、平成30(2018)年度以降は地元の弁当屋から弁当を配達してもらい、300円で販売する形で夕食を提供していました。詳細は学校公式HP内2018年5月18日の投稿をご覧ください。また、行徳高校定時制は令和4(2022)年度に船橋高校定時制へ統合されました。詳細は学校公式HPをご覧ください。

 

詳細内訳

時期 配布・販売場所 配布・販売数 関連リンク(全て外部サイト)
2020年 10月31日(土) 行徳子ども食堂 50 ブログ報告 Facebook
11月21日(土) 東菅野つなぐ食堂 50 Facebook
11月30日(月) 行徳子ども食堂 50 ブログ記事
12月11日(金) 行徳子ども食堂 50
12月19日(土) 塩浜子ども食堂 50 公式サイト 寺子屋オーガニックカフェEDENのFacebook投稿
12月26日(土) 寺子屋オーガニックカフェEDEN 30 Facebook
12月28日(月) 行徳子ども食堂 50 Facebook
2021年 1月8日(金) 鬼越つなぐ食堂 50 ブログ記事 Facebookイベントページ
1月14日(木) 塩浜子ども食堂/行徳高校定時制 50 行徳高校定時制公式HP掲示板での紹介
1月22日(金) 筑波大学/第2回「新型コロナに係る
学生への食料支援事業」
(配布1回目)
100 寺子屋オーガニックカフェEDENのFacebook投稿
1/13 1/19 1/22
筑波大学 学内ニュース
1/22 1/29 2/18 2/26
大学Twitter(1/25)
大学Facebook(1/24)
行徳子ども食堂 50
2月5日(金) 行徳子ども食堂 50 寺子屋オーガニックカフェEDENのFacebook投稿
2/4 2/5
2月18日(木) 塩浜子ども食堂/行徳高校定時制 50 寺子屋オーガニックカフェEDENのFacebook投稿
公式サイト
2月26日(金) 東菅野つなぐ食堂 50 Facebook
3月4日(木) 塩浜子ども食堂/行徳高校定時制 50 寺子屋オーガニックカフェEDENのFacebook投稿
公式サイト
3月12日(金) 鬼越つなぐ食堂 50 ブログ記事 Facebookイベントページ
3月20日(土) 東菅野つなぐ食堂 50 Facebook
寺子屋オーガニックカフェEDEN 20 寺子屋オーガニックカフェEDENのFacebook投稿
※文中にある「チェンジメーカー・フェス2021」の詳細はこちら
2020年8月~ 2021年3月 ひだまりキッズ ユーカリが丘
(定員5名/日のため
毎週2~3食を提供)
100 ひだまりキッズ ユーカリが丘Facebook
総計 1,000

 

●頂いたコメント(抜粋)

・オーガニック弁当を通して、食の素材の大切さに気づきました。

調理過程(一例)(C)FTCJ・寺子屋オーガニックカフェEDEN

 

・毎回おいしいです、ありがとうございます。

実際に配布・販売したオーガニック弁当(一部)

 

・排便に問題がある子どもたちのお通じが、お弁当を食べた翌日良くなりました。

(C)障害のある子どもの学童 ひだまりキッズ ユーカリが丘

 

・エデンの時(オーガニック弁当)は10分で無くなります。みなさん心待ちにしていて、配布する私たちも嬉しいです。(配布協力団体のみなさんから)

オーガニック弁当配布の様子(C)東菅野つなぐ食堂/NPO法人市川子ども文化ステーション

 

活動拠点:寺子屋オーガニックカフェEDEN(2023年9月14日閉店、リンク先は追悼アカウント)
配布協力:市川子ども食堂ネットワーク(うち、行徳こども食堂塩浜子ども食堂鬼越つなぐ食堂東菅野つなぐ食堂の4拠点)
助成:公益財団法人パブリックリソース財団「J-Coin基金


私たちフリー・ザ・チルドレン・ジャパンは、永野さんの遺志も引き継ぎ、国内の子どもたちへの経済・食料支援などを状況に応じて今後も実施していく予定です。子ども食堂は公的援助の体制や財源がまだまだ不十分なため、どこも運営を継続していくための資金調達・確保が非常に困難な中で運営しており、コロナ禍で活動停止・終了を余儀なくされた拠点も全国に数多く存在しています。引き続き、皆さんのご協力・ご支援をいただけますと幸いです。
関連ページ:寺子屋オーガニックカフェEDEN Facebook(2021年3月4日投稿分)

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