フィリピン 障害者支援プログラム
フィリピンの視覚障害者たちのおかれている現状と課題
WHO(世界保健機関)によると、世界人口の約15%にあたる10億人が何らかの障害を持って暮らしています。しかし、フィリピン国家が把握している国内の障害者は、全人口のわずか1.5%。このことから、フィリピンでは多くの障害者が出生届も出されず、存在も知られぬまま生活していると考えられています。
フィリピンの子どもたちの小学校への就学率は96%以上と高い割合となっている一方、視覚障害をもつ子どもで小学校へ通えているのは5%以下です。日本には盲学校が70校以上ありますが、フィリピンにはたった2校しかありません。12年生、つまり高校卒業までの教育を提供しているのは、フィリピン国立盲学校の1校のみです。
地域の学校に通っている視覚障害者もいるのですが、適切な学習支援が受けられないため授業に参加できずにただ教室に座っている子が多く、とくに7年生以降の中等教育になると、障害のある児童・生徒への支援者が在駐している学校はほとんどありません。地方ではとくに、障害者への理解が進んでいないことや学校の数が少なく通学距離が長いことなどが理由で、視覚障害者が教育を受けるのは本当に難しいのが現状です。
視覚障害者への教育が重要な理由
盲学校では、点字の読み書きや数学などの教科科目のほか、白杖を使って外を単独で歩く方法や、調理や掃除・スポーツをする方法、コップに適量の飲み物を注ぐ方法、洋服の前後の見分け方、刃物の安全な使い 方、一人で買い物する方法など、日常生活で必要な様々なスキルを全て学びます。
視覚障害者の生活に関する解説動画(一例)
他にも視覚障害者の生活に関する解説動画を、
当団体Youtubeチャンネルに多数アップしています。
ほとんどの家族にとって、障害のある子どもを持つのは初めてなので、親たちはどう育てたらいいのか、どう教育したらいいのか不安に思っています。障害のある自分の子には何もできない、将来の可能性がないと考えてしまっている親もいます。だからこそ、障害者への教育方法を心得た人と出会って いるか否か、学校教育を受けているか否かで障害者の人生の選択肢 、社会参加の幅は大きく変わってくるのです。
事業のあゆみ
2016年11月からフィリピンの障害のある子どもや若者が社会に参画し自立できるよう応援するため、教育支援を中心に様々な活動に取り組んでいます。
視覚障害者教育支援事業
(2021年9月~)
フィリピン政府は2020年から厳しい新型コロナウイルス感染対策をうちだし、学校では対面授業を原則禁止し、分散登校やオンラインで遠隔授業を行うことを推奨しました。しかし、フィリピンの低所得者家庭では自宅に電気やインターネットがなかったり、機器を買えなかったりして、オンライン授業に参加できない子どもが出てきている状況が各地で起き、教育格差が急速に拡大しています。
中でも、視覚障害のある子どもがオンライン教育を受けるには、読み上げたり、音声変換や、視覚障害者向け電子書籍アプリなどが必要で、パソコン等の機器購入のハードルが健常者よりも高くなっています。そのため、視覚に障害のある低所得家庭の子どもたちは、健常者以上に授業へついていくことが厳しい状況が2年半続きました。
このような状況から、「視覚障害のある子どもがオンライン授業を受けるために必要な機器が、貧しくて買えないので助けてほしい」という声がフィリピン全土からあがっていることがわかりました。そこで、現地パートナー団体PBU(フィリピン盲人連合)とともに、2021年10月からフィリピンの低所得世帯の視覚障害のある子ども(日本の中1~高3)を対象に、オンライン授業を受けるために必要な性能・機能を有したスマートフォンを無料提供するとともに、機器の使い方を本人と家族へ教える「教育支援」を実施しています。
支援対象者は、
①視覚に障害のあるフィリピンの7~12学年生(日本の中学~高校生)であること。
②オンライン授業に参加するための電子機器を保有していないこと
③低所得世帯であること
という審査基準で選考を行い、2022年12月までに視覚障害のある子ども90人へスマートフォンを届けることができました。
2023年現在、対面授業が再開されましたが、視覚障害児にとって勉強面でも生活面でも様々な情報を得るためにはスマートフォンは非常に有益なツールです。そこで、貧困家庭の視覚障害者の子どもたちを対象に、引き続きスマートフォンの提供を続けたいと考えています。しかし、活動のための資金が足りていません!視覚障害者の教育・自立支援に向け、ご寄付のご協力をよろしくお願いします。
フリー・ザ・チルドレンのフィリピン視覚障害者支援事業ブログへ
視覚障害マッサージ師の起業・再就職支援事業
(2020年9月~2021年8月)
(For English Version, please refer the blog post.)
視覚障害者のほとんどがマッサージ(按摩)師の仕事に就き、1日10米ドル(1,000円)程度の収入で生計を維持していました。しかし、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、視覚障害マッサージ師は職場も仕事も失う事態に直面しました。
そこで、フリー・ザ・チルドレン・ジャパンでは、パートナー団体である現地のフィリピン盲人連合(Philippine Blind Union、略称:PBU)、視覚障害者ITセンター(Adaptive Technology for Rehabilitation, Integration and Empowerment of the visuallyImpaired、略称:ATRIEV)と協働し、これまで支援の手が行き届いていなかった35歳以上(子育て世代)の視覚障害のあるマッサージ師100人に、パソコンと経営スキルの短期研修を行い、起業・再就職して収入源を再確保するまでの緊急支援を行いました。
これらの研修の経費や、研修参加者の起業・再就職のサポート・援助などに必要な資金のうち200万円を、2020年9月にクラウドファンディングを実施することで調達し、支援事業を行いました。
100人以上の視覚障害者マッサージ師の生計維持・収入向上支援を行いました。ご協力くださった皆さま、本当にありがとうございました。詳しい活動報告はニュース(ブログ)をご覧ください。
中間報告(ブログ記事):https://ftcj.org/archives/18746
国立盲学校学生寮修繕及び、点字プリンタと読み上げソフト寄贈 教育支援事業
(2016年11月~2018年2月)
フィリピンには盲学校がたった2校しかなく、日本の高卒相当までの教育を提供しているのは、フィリピン国立盲学校のみです。そのため、質のいい教育の場を求めて、大学進学資格を得るため、あるいは職業訓練を受けるため、フィリピン国立盲学校にはフィリピン全土から志願者が集まり、併設された学生寮で生活しています。
フィリピン国立盲学校の学生寮(2016年時点で築46年)には、約100人の生徒が暮らしていましたが、屋根の断熱性能が低く、太陽の熱を直接寮内に通していたので、午前でも室温が35度を超えていました。そこで、このフィリピン国立盲学校学生寮の屋根の修繕・断熱化と建物
の電気設備を改良する工事のため、クラウドファンディングでのプロジェクトを立ち上げ資金を集めました。
たくさんの方にご支援をいただいたおかげで、学生寮の改修工事に着手することができ、2018年1月26日に引き渡し式が行われました。
屋根を鉄・断熱材・木の3層構造にしたことで断熱性能が上がりました。さらに、天井の形状を平面から三角形に変更したことで室内空間が高くなり、熱もこもりにくくなりました。電気設備も改修・強化され、扇風機などの空調機材を常に使えるようになりました。
また、点字プリンタ・読み上げソフト「JAWS」は、2017年8月10日にフィリピン国立盲学校へ納品されました。
学生寮改修・備品寄贈後、最後に残った支援金でフィリピン国立盲学校の視覚障害者や、ナガ市障害者支援センター所属の学生5人を無料で日本へ招聘して研修を提供し、本事業を完了しました。
その他の詳しい活動報告は団体ニュース(ブログ)をご覧ください。
(写真左は、フィリピン国立盲学校に点字プリンタが届いたときの様子)
「共に生きる社会」を目指したい
生まれる国が違うだけで、 教育を受けられないどころか家から出る機会もほとんど与えられず 、邪魔者呼ばわりされながら暮らさざるを得ない障害者たちがいます。能力に違いがあるわけではないはずです。違うのは、その能力を伸ばし、十分に発揮できる機会や環境があるかどうかです。
人は生まれる国を選ぶことはできません。障害者として生まれるか否かを選ぶこともできません。同じ生まれてくるなら、精一杯できることをして人生を楽しみたい、誰かに必要とされたい…、そう願うのは障害者だって同じです。
世界のどこに生まれても、障害があってもなくても、各自が「できること」を見つけてその能力を伸ばしていける社会、誰もが「自分は必要とされているんだ、ここにいていいんだ」と思いながら生きていられる、「共に生きる社会」の実現を目指していきたいと願っています。