インドの貧困の影で、利用される子どもたち
インドは、近年著しい経済成長がみられるにも関わらず、深刻な人口過剰、
環境悪化、貧困、民族・宗教間の紛争など様々な問題を抱えています。
インドをひとことで言うと「世界で最も貧富差のある経済大国」。
全人口12億人のうち約4億人が1日2ドル以下の生活水準と言われています。
しかし、世界長者番付トップ10に常時2名以上おり、英語が話せる人口が世界
で最も多く、平均年齢26才という若い労働力を用いて、世界的なIT技術者を
多数輩出しています。その一方で、3人に2人が農業に関わっています。
インドの人口は世界で中国についで2番目に多く、
世界でもっとも大きい民主主義国家です。
フリー・ザ・チルドレン(FTC)は1998 年からインドで活動を開始し、なかでも、
長年インド政府から忘れ去られていた北インドの農村部に焦点をあて、
支援をしています。今回は、その農村支援開発に30年以上携わっている
現地NGOでFTCJのパートナー団体から貧困層をターゲットにした人身売買や、
物乞いをするために行われている子どもの貸し借りについての情報が届きましたので、
ご紹介します。
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(翻訳協力:翻訳チーム 金田豊正)
◆事例1)
その家族はインドの田舎の小さなあばら屋に住んでいました。
お父さんは日雇い労働者で、さらにお母さんも身を粉にして働いていましたが、
暮らしはとても貧乏で、5人の家族を養うのにぎりぎりの生活でした。
ある日、四歳の娘のマリーナ・ハトゥンは家で遊んでいる時に、お母さんが
煮詰めていたサトウキビの絞り汁の入った釜戸につまづいて倒れ込んで
しまいました。お母さんは泣き叫んで周囲に助けを呼び、娘を救い上げると
マリーナは既に気絶していました。近所の人たちが駆けつけ、マリーナは
近くの診療所に運ばれました。彼女の上半身は大やけどを負い、また、
顔の一部もやけどを負っていました。しかし、貧しい家庭のマリーナは満足
な治療を受けることはできませんでした。やけどのせいで彼女の両腕は体
にくっついてしまい、顔にはひどい痕が残ってしまいました。
そんな不運な彼女のことを、人を喰いものにする詐欺師たちが目を付けました。
詐欺師たちは宗教の名を借りて、聖なるハッジの巡礼(イスラム教のメッカ
への巡礼)の時の聖なる水はマリーナに神の治癒を授けるであろうと説明し、
無学な母親を信じ込ませました。お母さんは娘がサウジアラビアに無事着く
ように娘の頭に愛情をこめてキスをしました。
しかし、マリーナは物乞いの器を持たされて路上で座らされ、体の不自由な
子どもを見た巡礼者たちから同情を買い寛大な施しを受けるための道具に
させられていたのです。聖なるハッジの巡礼の時期が終わっても、マリーナは
家に戻りませんでした。母親は娘が治癒するためにはもう少し時間がかかると
詐欺師たちから言われ、信じるしかありませんでした。詐欺師らにとって施しで
得られるお金は大変魅惑的なものだったので、少しでも長くマリーナを置いて
おきたかったのです。
メッカでは聖なるハッジの巡礼の期間には、たくさんの男の子や女の子が
マリーナのように物乞い用の器を持って道端に座っています。FTCJのパートナー
団体である現地NGOは、今までこのハッジの巡礼期間の物乞いのために
人身売買の被害にあったインドの子どもたち400人以上をサウジアラビア
から救出してきました。
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◆事例2)
36歳のサマナ・スルタナはコルカタのパークサーカスの路上生活者です。
彼女の生まれ故郷はコルカタから約70キロメートル離れたハスナバードです。
故郷の村では仕事に就けないため、サマナと6人の同年齢の女性たちは都会の
コルカタに職を探しに来ました。
しかし、彼女らは仕事を見つけることができなかったので、路上での物乞いを
始めたものの、体に支障の無い健康な彼女らが物乞いをやっても、満足な施しを
得ることができませんでした。
そこで、彼女らは子どもたちを雇い、路上での物乞いをかれらにさせ始めました。
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より多くの施しを受けるために、物乞いをするお母さん同士で、赤ちゃんを貸し借り
しているケースもよく見られます。子どもを抱いて物乞いをしたほうが、より、多くの
同情を受け、多くのお金をもらうことができるからです。
生きていくための知恵とも言えますが、そのために、子どもが犠牲になったり
利用されたりする場合も多いのが現状です。
インドの路上で物乞いをするストリートチルドレンの少女たち