ケニアの農村部で行われている、新型コロナウイルス感染防止に向けた取り組み
ケニアでも都市部を中心に感染が広がりつつある新型コロナウイルス。
マサイマラ地方のナロク郡でも、感染防止に向けた取り組みを行っています。(清田)
https://www.we.org/en-CA/we-stories/global-development/preparing-for-the-storm
欧米諸国では、新型コロナウイルス(COVID-19)はもはや身近に迫り来る脅威となっていますが、ケニアでは、まだ上陸し始めたばかりです。
ケニアでの感染確認の多くは都市部のナイロビに集中していますが、大地溝帯のマサイマラ地方近郊のナロク郡の、 WE Charity(フリー・ザ・チルドレン)が支援するバラカ病院のスタッフは、コロナウイルスがこの地域に上陸するのも時間の問題だと理解しています。
感染予防の準備を怠たって感染が拡大すれば、悲惨な人災となってしまいます。
まさに時間との闘いなのです。
WE Charityは、現在三つの緊急課題に注力しています。
感染予防のための啓発活動、感染予防のための、弱い立場置かれている人たちに向けた保健体制の強化、医療従事者への支援の強化です。
「ナロク郡に於いては、WE が素早く初動対応に当たりましたが、問題の深刻化はまだこれからです。」国境なき医師団でケニアでのゼネラルマネジャーを務めた経験があり、現在はWEでケニアでの感染症対応を指揮しているレイン・マホンはそう語ります。
ウイルス対応に当たり初期段階で重要となってくるのは、啓発活動です。
「リモート」が推奨されている現状では、大掛かりな広報活動ができず、やれることも限られてきます。
WEの調査では、ナロク郡には、「新型コロナウイルス」という単語すら聞いたことがない人が2割程度いると推定されています。
はびこっている誤った認識
WE Charityの保健ディレクターを務めるJoseph Gachiraによれば、報道を通じて、パンデミック(大流行)が欧米だけで起こっている問題と考えている人や、高齢者しか感染しないと信じている人が多くいるといいます。
Gachiraはバラカ病院やKishon Medical Clinic 、WEのモバイルクリニックの現場を監督し、人の命を奪うウイルスへの対応策を練っています。
村びとのなかには、N95マスクさえつけていれば大丈夫だと考えている人もいるといいます。
さらに奇妙な話を信じている人もいるそうです。
「消毒液にはアルコールが使われていますよね?なので、アルコールを飲めば感染せずに済むんじゃないかと思っている人もます。」 Gachiraは笑いながら言います。
「村びとたちを納得させるのには時間を要します。村びとたちは混乱しているのです。コロナウイルスをインフルだと思い、『どうして今年のインフルエンザは世界でこんなに人が亡くなっているのだ?』と聞いてくる人もいます。
WEのチームは、ナロク郡の300,000人にリーチすることを目標としています。
トレーニングセッションや戸別訪問を通じて、感染予防のために、手のきちんとした洗い方や人との距離の取り方などを教えています。
新型コロナウイルスの感染が拡大する分、予防も拡散させていくのです。
当事者間で情報を広めて行くことを目指したアプローチ
WEは、各村で尊敬されているリーダーたちに、「感染予防アンバサダー」になってもらうためのトレーニングを行っています。
このトレーニングを受けたリーダーたちの手も借りて、WEは30,000人にリーチすることができました。石鹸5,000本を配ることができました。
Gachiraにとって、トレーニングの成果を見るのはとても嬉しいことでした。
トレーニングの終了後すぐに、各家庭や店に手洗い場が設けられました。
水や燃料用に使われたジェリ缶を再利用した、熟慮された手洗い場でした。
基本的に、この地域は社交的な人たちが多い土地柄ですが、いまは握手の挨拶をやめて、代わりに、言葉を交わしたり、足や肘などをタッチし合って挨拶をしています。
アウトリーチのミッションは大きな壁にぶち当たっていました。
4カ月も降り続いた雨のせいで、道路が通行できる状態ではなくなり、遠方の村にいくことが難しくなっていたのです。
先日も、マホンが物資を届けに行った際、配送トラックが泥にはまってしまい、トラクターで引き上げるという事態が発生していました。
この物理的な課題に対応するため、WEはテクノロジーを活用することにしました。
メッセージングアプリを通じて、感染予防に関する状態発信を行い、地域に住む20,000人の若者のスマートフォンに情報を届けることができました。
マホンは若者たちがスマートフォンで得た知識を、家族や他の村びとたちに積極的に伝えてくれることを期待しています。
WE Charityのバラカ病院の医師や看護師たちは、予防策を講じるだけでは不充分であるということを理解しています。
仮に新この地域型コロナウイルスが上陸した場合、80,000人以上の人々の命と健康が、バラカ病院の彼らの手に懸かっているのです。
Gachira は、病床の大半がナイロビの病院に集中していると指摘します。
新型コロナウイルスに感染した患者を移送したくても、長雨の被害などで道路も通れない状態となっているため、患者を移送することはできません。
そのため、的確な初動対応を行うことが何より重要となります。病院を利用しようとする人全員に、入り口に入る前に検査を受けてもらうなどの対応を取っています。
新型コロナウイルスの症状が見られない人はそのまま院内に入ることができます。
感染が疑われる人は、医療用テントなどの整備が整っている近くの別の病院に移送されます。
このような体制の構築により、病院のスタッフの安全を確保したうえで、新型コロナウイルスに感染した患者に対して適切な対応を取ることができます。
必要があれば、学校などを開放して、校舎内で患者の対応に当たることなども検討しています。
緊急課題となっている医療用品の確保
医療用品がなければ、病院は艇を成しません。
バラカ病院のスタッフたちはいま、マスクやグローブなど防具の予備在庫を掘り起こしています。Gachiraによると、新型コロナウイルスの影響で、ケニアの防具の多くが、中国をはじめとする感染が拡大した国々に売られてしまったそうです。
「医療用品が、高嶺の花になりつつあります。」マホンがこう嘆きます。
以上のような状況を踏まえ、WEはバラカ病院とKishon Health Clinicに医療用品の緊急輸送支援を行うこととなりました。
貨物船でマスクやグローブを最初に輸送し、その後まもなく10,000 本のKN95/N95 マスクと、人工呼吸器1台を輸送します。
この地域が、大地溝帯の南部に位置する農村部であるという点は、感染を抑えるという点では有益です。
村びとが感染予防のために必要な行動を取れば、爆発的な感染などは比較的起きにくい地域だといえます。
しかし、感染症が仮に出た場合は、大変な困難に直面します。
道路も通れない状態であるのに加えて、この地域には救急車が1台しかありません。
そのような状況で感染した患者を移送するという行為そのものが、感染拡大を招く危険性をはらんでいます。
WEでは、医療従事者と運転の二人だけでバイクでの現場移動を行うなどの感染対策を実施しています。
必要があれば、現地で活動するスタッフたちに治療を施したり、活動を中断し自宅などで待機するよう命ずる処置を行うことも想定しています。
私たちは、先が見えない大きな危機に直面しています。
感染者が明日出るかもしれないし、来週爆発的流行が起きるかもしれません。
しかし、懸命に働くスタッフや緻密な計画、WEに寄付をして下さる方々、そしてGachiraに言わせればケニア人の持ち前のユーモアで、バラカ病院のスタッフたちはこの状況を乗り越えようとしています。
「必ず上手く対応して、みんなで乗り越えていきますよ。」
(原文記事執筆: キーラン・グリーン )
フリー・ザ・チルドレン・ジャパンでは現在、支援地域での新型コロナウイルス感染防止への取り組みのための緊急支援募金を受け付けています。みなさまのご協力よろしくお願いします。