今こそ、先住民の子どもたちの問題と真摯に向き合うべきカナダ社会
カナダのクレイグとマークのコラムの紹介です。
カナダの首都オタワにあるダウンタウン。この都会の一角で、少人数の先住民の人たちが、輪になり焚火を燃やしていることが時々あります。彼らは、先住民の家族を支援するプログラム「The Circle of Care」に集う人々です。
The Circle of Careは、先住民の子どもたちとその家族が離れ離れになるようなことを防ぐために、先住民を支援する団体「Wabano Centre」が行っているプログラムの一つです。
プログラムについて説明する前に、先住民の子どもたちの状況について説明しましょう。
2011年に行われたカナダの最新の国勢調査では、カナダの全人口に於いて先住民の人々が占める割合は5%以下となっています。それにもかかわらず、児童養護や養育里親家庭など、家族から離れて生活しているカナダの子どもたちの内、その半数近くが先住民の子どもたちとなっているのです。
特に私たちが心を痛めてしまうのは、家族から離れて暮らしている子どもたちの大半が、親族からの虐待で家族と離れているのではなく、家庭が貧しいが故に子どもたちと離れ離れになっているという事実です。
先住民の児童擁人権護家のシンディ・ブラックストックと、Circle of Careコーディネーターのジーナ・メタリックは、「先住民の子どもたちは、栄養不足の状態であったり、劣悪な住宅環境で暮らしていることも多い。そのような状況から、両親が育児放棄の容疑で拘束される事態に発展することも多い」と語ります。
先住民団体の推定によれば、1989年から2012年にかけて、カナダの先住民の子どもたちが養育里親家庭や児童擁護施設などで、家族と離れ離れになった状態で夜を過ごした時間は、合計6,600万時間にもなるそうです。そんな衝撃的な数字を聞くと、私たちも安心して眠ることができません。
先日、カナダ人権裁判(訳注:人権問題について審議をする独立行政機関。通常の裁判所からは完全に独立している組織)は、「カナダ政府の政策は先住民の子どもたちを差別してきた」という趣旨の判決を下しました。私たちは、この決断に称賛の拍手を送りたいと思います。
カナダ政府が過去に進めた、先住民の子どもたちを家族から無理やり引き離して寄宿学校で行った「同化政策」の政策は、先住民の人々に、「痛みとトラウマの連鎖」を現在でももたらし続けています。今こそ、過去の政策から完全に決別し、Circle of Careのような、先住民の子どもと家族の絆を守るために行われている先進的な事業に政府が支援をするべき時です!
Circle of Careでは、子どもたちと離れ離れにならざるを得ない状況に陥る可能性のある家族や、今まさに子どもと離れて暮らしている家族が、行政の福祉局などで家族の担当となっている児童保護ワーカー(CPW) と共に輪を作り、仲介者も交えて話し合いを行います。
仲介者は家族側、保護ワーカー双方が、解決するべき問題(例えば依存症など)についてじっくりと話し合うことができるように必要な手助けを行います。このような中で話し合いが行われ、双方が納得できる形で、子どもが両親の下に居続けられる(あるいは戻ることができる)ようにするためにするべきことを決めていきます。
Circle of Care側は、家族が落ち着いた状況で話し合いができるように、各家族の要望に応じて伝統的な風習を話し合いが行われている最中に取り入れています。体に泥をつけたり、太鼓を鳴らしたり、貝殻や羽の糸電話を使用することもあります。
家族が希望すれば、家族が所属する部族の部族長が、共に話し合いに参加して助言を行うこともできます。また、部族長が家族の代理として保護ワーカーと話し合うことも可能です。
Circle of Careでは、非先住民の児童支援従事者を対象に、先住民家庭特有のニーズや先住民文化を学ぶ研修も行っています。Circle of Careを参考にした取り組みを、カナダ全土で行っていくべきなのではないかと私たちは考えます。Circle of Careの活動によって、オンタリオ州で家族の下に戻ること(あるいは居続けられること)ができた子どもの数は、州政府の目標数を上回るという成果を出すことができたのですから!
ブラックストックは、アメリカ政府の下で実施されている、先住民の問題解決のために行われている事業についても話してくれました。カナダも参考にする価値のあるモノだと思います。
The Family Unification Programは、貧困などが原因で、児童福祉の観点から見て危機的な状況に追い込まれているアメリカの先住民の子どもたちがいる家族を支援するプログラムです。
このプログラムにより、アメリカの児童支援員は、先住民の家庭に対し、最大で一万四千ドル分までのクーポン券を渡すことができます。このクーポン券は、家の修理代や水道代や電気代の支払い、栄養価のある食品の購入など、日常生活で必要なモノに対して使うことができます。
アメリカが総額1,500万ドルを投じているこのプログラムは、これまで約1,600家族が利用しています。このプログラムを利用した「子どもと離れ離れになる可能性のあった家族」の内の九割が、子どもと離れることなく今でも一緒に暮らすことができています。
また、子どもと既に離れて暮らしている状態でこのプログラムを利用した家族の内、62%の家族が子どもたちと再び暮らすことができるようになっています。また、長期的には、政府予算の2,200万ドル分の節約にもつながりました。
私たちはこれまで、多く素晴らしい先住民の若者たちと共に活動してきました。そして、彼らがリーダー、そして変化の担い手となり、彼らが住む地域などに与えているインパクトも目の当たりにしました。どのような状況であれ、子どもが両親や家庭から離れ離れになるということは、その子どもの大きい可能性を縮ませてしまうモノです。
そのようなことが発生してしまうような状況を維持していく必要性は何もありません。カナダにはできるはずです。もっとたくさんの先住民の子どもたちと家族が一緒に暮らせるようにすることも。そして、先住民の若者たちを力づけることができる前向きな取り組みにお金を使うことも!
参考リンク
カナダの先住民について
http://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/minority/world/minority_canada.html
カナダ先住民に関する過去のコラム
(訳者 翻訳チーム 清田健介)