カナダの先住民女性が直面している人身売買の実態とその解決策を考える

クレイグとマークのコラム紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/human-trafficking-aboriginal-women_b_6713818.html

ある女性が、取り乱した様子で涙を流し警察に助けを求めていました。「ギャングの男に誘惑された娘の行方を捜しているのです」と。その後、女性の娘を人身売買に出そうとしていた男が逮捕されました。被害者の少女は、彼女の家族がいる先住民居留地に戻ったのでした。残念ながら、いつも彼女のように家族のもとに帰ってこられる女性ばかりではありません。カナダではあまりにも多くの先住民女性が行方不明になったり殺害されているというのが現実です。

先住民女性(未成年の少女含む)は、非先住民に比べて、人身売買の被害に逢う確立が高くなっています。先日発表された研究報告は、女性を売買して乱暴に扱うというこの現代版の奴隷制度ともいえる行為が、千人以上の先住民女性が行方不明になっているという現状に深く関わっていると結論づけています。この現状を変える為に行動を起こさなくてはなりません。

冒頭に紹介したような話を何度も聞いているのが、カナダ国民安全処で先住民女性の人身売買の実態調査を行った研究者たちです。先住民の女性がなぜこのような状況に置かれているのかを知るため、その研究者たちに話を聞きました。

研究者たちは、貧困、薬物依存、家庭内暴力や性的暴行など、先住民の住む地域で深刻となっている問題が、先住民女性が搾取されやすい状況をつくりだしていると指摘します。 今挙げたような問題は人身売買に逢う女性に一般的に見られる傾向だとした上で、先住民女性の被害者の家族が、何世代にもわたり問題を抱えているのが一つの特徴だとしています。かつての政策(植民地時代に先住民の子どもに強制されていた同化政策など)が、先住民家族や地域の崩壊や自分たちの文化が奪われたことへの喪失感を招き、薬物依存のような深刻な問題を引き起こしたのであると。もしかしたら、この植民地時代から私たちに残された最悪の遺産は、先住民たちが依存症や暴力に苦しんでしまうことで、彼らの家族である少女を売買することが珍しくなくなってしまったという状況かもしれません。

多くの先住民の女性が、新しくできた「彼氏」がきっかけで薬物依存症になり、肉体的、精神的な暴力の被害に逢うこともあります。そのような境遇を経た女性たちが人身売買の被害者になってしまうこともあるのです。

ただでさえ対応するのが難しい問題ですが、法的な問題が事情を更にややこしくしているといいます。カナダの刑法では、被害者とその家族に脅威が及んでいるか、彼らがその脅威を感じていない限り、人身売買の被害があったとは認められないのです。(訳者注:カナダでは一定の制限の下で売春が合法化されているので、線引きが難しい部分もあるのかもしれません) 人身売買を行っている人間と被害者が関係を持っている場合は、被害者が身の危険を感じることなく、警察に行かない場合も、残念ながらあります。そのような状況では、検察も立件するのが難しくなります。実際、それが原因で立件できなかった事例もあります。

人身売買の被害者への支援も充分とはいえません。被害者救済を謳っている多くの機関が、被害者が抱えている複雑な事情を考慮していないと研究員は指摘します。「長期的に入居できるシェルター(※避難所として安全に滞在できるところ)、トラウマや依存症を抱えている被害者を包括的に支援できる場所が必要です。人身売買の被害に必要なのは、安心して眠られる場所だけではなないのです。」

今月、多くの先住民の代表、州知事がオタワ(訳者注:カナダの首都であるため、政治的なイベントも多く開かれる街でもある)に集まり、行方不明になったり殺害されている先住民女性を救うために何ができるのかを話し合います。人身売買の問題についても話し合われることでしょう。

先住民女性が直面する人身売買の問題は解決策のないどうしようもない問題ではありません。人身売買の捜索や対応に当たっている警察官に対より良いい訓練を行い、彼らが問題解決のために必要としているものはできる限り提供する必要があります。法律の改正も必要です。そうすれば検察も対応しやすくなるでしょう。被害者支援も充実させる必要があります。もちろん、貧困に苦しむ先住民、問題を抱える先住民家庭への支援が必要なのは言うまでもありません。

先住民の女性がモノ同然に売買されているという事態が起こっているということを、この国は恥じるべきです!

(翻訳:翻訳チーム 清田健介)

訳者コメント:今回のコラムには、カナダでとても大きな反響がありました。この問題が、今カナダの最も深刻な社会問題の一つだからです。先住民の女性は、非先住民の人々と比べて、行方不明になったり殺害される確率が高く、先住民の団体をはじめ、多くの人々が全国的な先住民女性の実態の調査などの対策を求めています。(クレイグとマークも対策を取る必要性があるとの立場をコラム等で公言してきました。) しかし、カナダのハーパー首相は先住民の女性の問題を特別に扱う必要性はないとの姿勢を崩していません。
https://www.youtube.com/watch?v=nPqaL7J4F10

コラムでも言及されていた会議は先月多くの知事も参加する中でされましたが、ハーパー首相は欠席をしています。
http://www.huffingtonpost.ca/2015/02/27/politicians-first-nation_n_6766926.html

先住民の人々は、植民地時代の政策の影響もあり、カナダ社会での立場は改善されてはいるもののあまり良いとはいえません。
http://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/minority/world/minority_canada.html

また、生活保護に頼ってばかりいるというステレオタイプなマイナスイメージを先住民に持っているカナダ人も少なくないように私個人としては感じます。

そんな中で、カナダのフリー・ザ・チルドレンは先住民人々の問題に関する啓発活動を新しく始めています!
http://www.freethechildren.com/get-involved/campaigns/we-stand-together/

海外でのボランティア活動をカナダで広めるのに大きく貢献したFTCがこのようにカナダ国内問題に取り組む事の影響力は大きいと思います。

先住民の女性の問題に関心のある方には、Finding Dawnというドキュメンタリーを強くお薦めします。カナダ映画局が全編無料で公式公開していますので、下記のリンクで是非ご覧になってみて下さい!
https://www.nfb.ca/film/finding_dawn