理想主義と現実主義は両立することを教えてくれるカナダの街の話
カナダのクレイグとマークのコラムの紹介です。
クレイグは自身のことを「恥しらずの理想家」と言ってますが、
でもその理想家がこれだけの学校を建てたりしてますからね。
理想について、ホームレス問題解決と絡めた話を呼んで頂けたらと思います。
皆さんも胸を張って理想を語って下さいね。(浅田)
六年前、メディソンハット市のミュニティー住宅協会が、ホームレスの状態にある人々を街から無くそうという政策を、クラグストン市議に持ちかけました。市議は当時それを冷ややかな目で見ていました。団体側の要望は全てのホームレスに住宅を与えるという非常に分かりやすい政策でした。しかし、市議は「ホームレスの状態にある人をゼロにすることを目指して活動をされているのですね。良いと思いますよ」程度の反応でした。
しかし、協会側は、住宅を必要とする人に住宅を提供できれば、路上生活をしている人がいる場合に比べて、警察や医療に必要な予算を四分の一削減できるという主張を市議に対して行いました。クラグストン市議は2013年の市長選に当選し、市長としてこの「実験」を行うことに同意しました。
その思い切った実験は成果を出しました!今年、メディソンハット市は、全てのホームレスの状態にあった人々を支援して、カナダで初めての「ホームレスのいない街」なったのです。人口約6万人の小さな街に住んでいた900人近くのホームレスが、家賃免除でアパートか一軒家に引っ越しました。そして、ホームレスゼロ政策により市も恩恵を受けました。警察が緊急出動する回数や、病院の緊急救命室に駆け込む人の数が減少したのです。
この世界は、理想主義の信念を掲げる言葉であふれています。「ホームレスの状態にいる人々を無くそう「貧困を無くそう」メディソンハットは、「理想主義の言うことは実現できない空想ばかり」という考え方が全てに当てはまる訳ではないということを教えてくれる街といえるでしょう。そもそも、人間がこの世で達成した偉業の歴史の裏には、「とんでもない目標を掲げる人」と、「その目標なんか達成できる訳ないと口を挟む人」が必ずいるのです。
「人類が空を飛べるなんて思っている人は誰もいなかった。そんな世界にもライト兄弟のような人たちが現れたりするようなことがある訳です」(クラグストン市長)
例えば、天然痘について考えてみてください。この病気のワクチン自体は1800年代から存在していたものの、天然痘は1970年代まで命に関わる病気でした。5000万人の感染者がいて、年間200万人が亡くなっていました。「社会は天然痘の全世界での流行を根絶することができるのか?」天然痘の根絶を目指すのは、風邪をこの世からなくそうというようなモノなんじゃないかと思う人もいたかもしれません。しかし、1958年から、世界保健機関のような組織は、その目標が達成可能だと信じて、多くの人材、物的資源、献身的な努力をこの問題を解決するために費やしました。それを達成するのには20年もかかりました。それでも、1979年、世界は天然痘の根絶に成功したのです。
先日、私たちは子ども兵士に関する記事を書きました。昨年、国連は各国の軍による子ども兵士の勧誘や採用を2016年までにやめさせるという目標を掲げました。子ども兵士がいると国連から勧告を受けた八カ国中七カ国が、この勧告に沿った具体的な政策の策定を進めています。勧告を受けていたチャドは、既に子ども兵士のいない国になりました。
理想に投資をするということは、人間の可能性を心の底から信じるということでもあります。
厳格で保守的な家庭に育ったクラグストンン市長は、自分自身が努力して今の地位に就いたということに対しての自負を強く持っていたこともあって、「ホームレスの状態にいる人は、そうなる前に怠けていた結果そういう状態になったのだ」という考え方を信じて疑わなかったと言います。しかし、市長をしていく中で、そのような考え方が正しかったのかを自問自答するようになりました。そして、自分が人を信じれば、その信じた相手は期待以上の成果を出すことがよくあるということを学んだといいます。
緊急救命室への駆け込みが減る一方、法廷への出廷率があるという奇妙な変化もありました。住宅を持った新たな住民たちが、未払い分の罰金の清算や逮捕歴の清算など、過去に抱えた法的な問題を解決するために、自ら出廷した人が多くいたのです。
メディソンハット市がある、アルバータ州の他の市でも、州政府が政権交代前に行った支援策によって、メディソンハット市を模範としたホームレス支援が行われる予定です。州全体で、既に一万人以上が新しい住宅に入居しました。アメリカでは、ユタ州が同じアプローチで支援策を行い、ホームレスの状態にいる人の数が、ゼロに近づいてきています。
クラグストン市長既に次の理想の実現を見据えています。それは、街全体から飢餓を無くすことです。市のフードバンクが、希望する全ての住民に食糧支援をする予定です。市側が住民に対して行うのは「なぜ支援が必要か?その状況を改善するために行政としてできることは何か?」の確認だけです。
メディソンハット市の取り組みとその姿勢を、今年は世界中の人が学ぶべき年でもあります。ミレニアル開発目標の最終年度に当たる年だからです。世界は今、ミレニアル開発目標後に向けて何をするべきかを模索しています。
ミレニアル開発目標は、理想主義的な理念から生まれたモノです。目標を今年中に達成することはもうありませんが、この15年間で、教育問題や母子健康改善のための努力が絶え間なく続いてきました。
世界は理想主義に幻滅してはいけません。天然痘を根絶した時や、街がホームレス状態にある人を救い出した時と同じように、高い理想と信念を持って、絶対的貧困をこの世からなくしていきましょう!
参考リンク
天然痘の根絶
http://apital.asahi.com/article/sakai/2015022700018.html
子ども兵士に関する過去のコラム
ミレニアル開発目標後の世界に向けて
http://www.ugokuugokasu.jp/whatwedo/postmdgs.html
(訳者:翻訳チーム 清田健介)