クレイグとマークが語るカナダ総選挙2015:こころの健康問題 編

カナダのクレイグの記事の紹介です。

http://www.weday.com/global-voices/youth-issues-election-2015-mental-health/

ジェニファーは、11歳の我が子ジェイコブの症状が日に日に悪化していくのを目の当たりにしていました。ジェイコブは始め、家からの外に出ることを拒むようになりました。そして、ジェイコブは自分の体が毒で汚染されているという風に考えるようになり、その恐怖心から自分の体を叩き自傷行為をするようになりました。やがて、食事も取らなくなりました。2013年の11月、ジェイコブは学校でパニックを起こし、そのパニックは非常に辛い発作を引き起こしてしまったのです。

ジェイコブの家族が、ジェイコブをオンタリオ州の地域の中で治療受けられるような環境を作れるようになるまで、一年ほどの時間を要しました。精神科医がジェイコブの状態を診断した時、彼らは「ジェイコブはこの年齢の子どもの中では最も重度な強迫性障害を患っている」との診断をしました。

カナダ精神保健委員会によると、約120万人のカナダ人の若者(若者の五人に一人)がこころの病気で苦しんでいます。カナダではここ最近、こころの健康問題への社会の認識が高まり、こころの病気を抱えている人に対する世間からの風当たりも以前に比べれば弱まっています。しかし、だからといって、ジェイコブのような精神障害を抱えている人が治療をすぐに受けられるようになったという訳ではなく、現状はまだまだ良いとはいえません。

間もなく行われるカナダの総選挙に向けて、私たちは若者に関する重要な問題をいくつか取り上げることにしました。こころの健康問題も重要な問題です。

世界保健機関のCollaborating Center in Mental Health Training and Policyのデイレクターをしているカナダ人のスタン ・カッチャー博士は、「1975年、精神的な問題で治療を必要としている人の中で、実際に治療を受けていた人は四人に一人でした。その状況は今もあまり改善していません」と語ります。

今年五月、カナダ保健機関が出した報告書によると、こころの病気に関する医療的な処置を病院の緊急救命室で受けた若者の数が、2006年から2014年の間に46パーセント増加しました。若者や彼らの両親が緊急救命室にまで行かざるを得ない状況まで追い込まれるのは、危機的な状況になったときに、身近にこころの健康問題で緊急的な処置をしてくれる場所がないからです。

ジェニファーは、我が子が知的で好奇心旺盛な素晴らしい子どもであると私たちに話してくれました。ジェイコブは第二次世界大戦からホッケーの選手に関することまで、あらゆる分野に関して百科事典並みの知識があります。そんなジェイコブですが、幼稚園性の時から、人の話や大事な場面で必要な時に注意や集中力を向けることができないという問題と葛藤していました。小学校四年生になると、深刻な症状が見られるようになります。誰かにさわられると体を汚染されて自分が今の自分でなくなってしまうのではないかと考える妄想の症状が見られるようになったのです。

ジェイコブが二年前に学校でパニックを起こした後、医者から「精神鑑定を受け、その結果に基づいた治療を行うように」と言われました。そして精神鑑定を希望してから実際に精神鑑定を受けられるようになるまで、一年も待たされたのです。「それぐらい待たされるのが今のカナダでは当たり前になってしまっている」と、こころの健康問題に取り組む団体の担当者は語ります。

「私は激怒しましたよ」とジェニファーは言います。「もし子どもが身体的な病気にかかれば、すぐに治療をしようという風になるでしょう?でも子どもがこころの病気の場合は、深刻な問題として誰も考えていないんですよ」

専門家によれば、心の健康問題に関する最も重要な問題は予算の不充分さにあります。ある報告書によると、カナダの医療予算毎1ドルにつき、こころの健康問題に回されているのは7セント程です。しかし、カッチャー博士によれば、カナダ人が抱えている病気の四割が、こころの病気だということです。これでは、今の医療予算はカナダの実態を反映しているとはとてもいえません。

カナダ政府は、こころの健康問題に関する対応や治療を地域で受けられるようになるために予算を今よりも大幅に増やすべきです。カッチャー博士は、こころの健康問題に特化した保健室を学校に設置して、若者が必要な時に適切な処理がすぐに受けられるような環境の整備などをすることを提案しています。

カッチャー博士は、このような投資や政策の実行を行うことで、カナダはこころの健康問題に関して全世界のお手本になれるだろうと語っています。それを語った上で、「これまでもカナダほどこころの健康問題に取り組んだ国は他にない」ということも付け加えています。

カナダ精神保健委員会によれば、もしカナダが予防や早期診断、治療を通じて、こころの病気を抱える患者の数を一割減らすことができれば、今の医療費を年間四十億ドル削減することができるそうです。
数ヶ月病院と争った末、ジェニファーはようやくジェイコブに精神鑑定を受けさせることができました。そして2014年の八月から、外来治療が受けられるようになりました。

ジェニファーは私費のカウンセリングや、治療施設を探すために交通費も含めジェイコブの強迫性障害に二万五千ドルを費やしたとしています。今ジェイコブは13歳になり、学校には戻っていないものの、支援を受けながら快方に向かっているとのことです。

ジェイコブのような若者は、この社会に大きく貢献してくれる可能性を持っています。必要な時に必要なお金を社会が使わなかったからという理由で、若者が本来持っていた知性が破壊されてしまうのを黙認してしまうというのは、社会にとって大きな損失であると同時に、絶対に言い訳することが許されない社会全体の不正な行為だと思います。

厚生労働省のこころの健康に関するHP
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/

若者の心の病相談室(NHKの情報サイト)
http://www.nhk.or.jp/heart-net/kokoro/index.html

前回のコラム

クレイグとマークが語るカナダ総選挙2015:若者への雇用対策 編

10月19日、カナダで総選挙が行われ、野党第二党だった自由党が議会全体の過半数
を獲得しました。これによって与党保守党が野党第一党となり、カナダで約10年ぶりの政権交代が実現することになりました。
自由党党首のジャスティン・トルドー党首が、カナダの新しい首相になります。

http://www.bbc.com/japanese/34578275

コラムで触れられた問題も含め、新政権の舵取りに注目したいところです。

(訳者:翻訳チーム 清田健介)