クレイグとマークが語るカナダ総選挙2015:若者への雇用対策 編

カナダのHPにアップされていた記事の紹介です。

http://www.weday.com/global-voices/youth-issues-election-2015-unemployment/

22歳のコーナー・スミスは、苦渋の選択を迫られていました。「生活の足しにはなるけれども、先の見えないコストコでのバイトを続けるか?」それとも「二ヶ月間の契約でしかないけれども、自分のキャリア形成につながるかもしれないチャンスを取るか?」という選択です。

ここ10年近く、カナダの若者(15歳~24歳)の失業率は14パーセントで推移しており、国民全体の失業率と比べると二倍の数値となっています。これよりもっと深刻な事態は、この国には、自分たちが望まない職種に就いていたり、非正規など不安定な状況で働いている若者が27パーセントもいるということです。冒頭のスミスもそんな若者の一人で、自分が学校で勉強してきたことを生かせていません。

「カナダの若者は大卒者も多く、世界で最も教育レベルの高い若者たちがいる国がカナダだと言っても過言ではありません。しかし、望まない職種や不安定な状況で働いている若者の割合は、OECD諸国の中ではスペインに次いで二番目に高くなっています」オタワで全年齢の人を対象にしたキャリア支援を行っているNPOの専務、サーセン・ホプキンスは語ります。

間もなく行われるカナダの総選挙に向けて、私たちは若者に関する重要な問題をいくつか取り上げることにしました。今回取り上げる若者の雇用問題は、有権者全体で考えるべき問題であると思っています。

先ほど紹介したスミスは、政治学を専攻して半年前に大学を卒業しました。自分でも数え切れない程の数の履歴書を送りましたが、誰も彼を雇いませんでした。大学卒業後は、食べていくために、コストコで時給13ドルのバイトをしてきました。そんなスミスに、ようやく政治の仕事の話が舞い込んできました。総選挙関連の仕事に誘われたのです。給料はコストコよりも高く、もしこの選挙関連の仕事を履歴書に加えることができれば、可能性は大きく広がります。しかし、選挙という期間限定の仕事のため、この契約は11月までとなります。

「若者たちを待ち受けている今の労働市場の環境は過酷です。低賃金、非正規、期限付きの求人しかありません。そんな場に放り込まれるというのは恐ろしいことです」(サーセン・ホプキンス)

では、どうしてそんな状況になっているのでしょうか?

現在は、時代の変化にも対応でき、実務をしっかりこなせる人材の需要が高まっているということは一般的にも言われていることですよね。これに関連して、専門家からは、高校の進路指導が、実際には将来の職探しに役立っていないという指摘が出ています。今のように変化の激しい時代に、高校の先生たちが五年先の経済状況や需要のある職種を見越して、生徒たちに進路指導をするのは非現実的だからです。例えば、カナダのある州では教員が充分足りているにも関わらず、多くの学生が教員養成学校に出願しているという事態も起きています。

大学に入った後の問題ですが、よく言われるように学生の専攻に問題があるのではありません。大学側が、学生の専攻を踏まえた進路指導ができていないのが問題です。カナダの大学は、「在学中は就活よりも学業を優先しろ。」という風潮も強く、学生たちがある日突然労働市場の荒波に放り込まれるといった状況になってしまっています。

そのような問題への解決策の一つに、大学側が行っている職業体験実習プログラムがあります。このようなプログラムを修了した学生は、このプログラムから将来設計や就活をする上で大きな恩恵を受けていますが、カナダ統計局の調査では、このようなプログラムを修了した学生はカナダに12パーセントしかいません。

ホプキンスは、かつては学校を卒業したばかりの学生を想定していた職種の新規採用を企業がしなくなっていることも背景にあると指摘します。それに加えて、一昔前の社会であれば定年退職の年齢に差し掛かっている今の団塊の世代の人たちが、退職の時期を延期して今でも働き続けている状況もあり、雇用の流動化も起きづらくなっています。このような事情から、一昔前なら若者に回っていたかもしれない求人が、今では若者を求めなくなり、結果として就職が難しくなっているのです。

この問題に、政治はどのような解決策を持っているのでしょうか?保守党と新民主党は、若者のための職業研修への投資を約束しています。自由党と緑の党は、若いカナダ人たちが、地域に貢献しながら社会勉強ができるような制度の設立を提唱しています。自由党は、学校の職業体験教育への投資の拡充も掲げています。新民主党は、新たな政府では有給インターンシップを推進していくとも公約しています。

政府は、就職活動のやり方や進路指導改善のために投資をするべきです。また、雇用主が若者を雇用しやすくようになるための環境作りをするべきです。雇用主に何らかの承認を与えることや、減税のような政策が考えられると思います。業界側も行動を起こす必要があります。職業体験や実習の機会を若者に与えて下さい。有給のインターンシップ制度を導入して下さい。そして、経験のある先輩の従業員が若い後輩の従業員の相談にのってあげられるような環境を作って下さい。

私たちは、ヨーロッパのEU諸国の取り組みを学ぶ必要があると考えています。この四年間、若者の雇用状況が大きな問題となっていたEUは、新しい若者の雇用戦略を始めています。その政策の中には、就活のシステムの改善、研修制度や職業訓練の改善、新たな雇用を創出する企業とは政府は積極的に提携するといったようなことが含まれています。

冒頭に紹介したスミスですが、政府から短期契約の仕事の内定をもらい、短期間その政府系の仕事をするとの連絡がありました。今のスミスは、その計画が将来への希望につながると信じてそれに賭けるしかありません。

しかし、若者たちが将来のために、収入や雇用状況を犠牲にしてまで、未来への賭けをするような状況が良い訳がありません。そんな賭けを若者たちにさせることそのものが、この国にとっては大きな損失になっていると思います。

コラムに出てきた政党(カナダは日本と同じ議員内閣制)

与党

保守党
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80%E4%BF%9D%E5%AE%88%E5%85%9A

野党

新民主党
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E6%B0%91%E4%B8%BB%E5%85%9A

自由党
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80%E8%87%AA%E7%94%B1%E5%85%9A

緑の党
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80%E7%B7%91%E3%81%AE%E5%85%9A

投票は現地時間10月19日に行われて即日開票される。

(訳者 翻訳チーム:清田健介)