【コラム】骨抜きにされた正義ではなく、真の正義を求めて

フリー・ザ・チルドレン・ジャパンのパートナー団体であり、フ

ィリピンで活動を行うプレダ基金の運営を行っている、シェイ

・カレン神父が執筆したコラムをご紹介します。

 

http://www.preda.org/fr-shays-articles/the-process-of-justice-and-injustice/

 

サンバレス州スービックベイ、カラパンダヤンにあるAvilaと

いう名のセックスバーは、2013年2月6日、性的奴隷にされ

ていた若い女の子たちが、司法の力による正義の力によっ

て救出され権力を乱用していたオーナーでアメリカ国籍のア

ーサー・デイビッド・ベンジャミン(49歳)に正義による裁きが

下された時から、鉄柵で閉ざされたままになっています。

 

2013年以降、強制捜査への恐怖を感じたオーナーたちが、

営業も建物も放り出したままになっているセックスバーや売

春宿が、同じ国道沿いに他にも多数存在します。強制捜査

のきっかけとなった情報は オーストラリア連邦警察の元お

とり警官よってもたらされました。

 

プレダ基金所長はその情報に基づき、確認を取るためにプ

レダのソーシャルワーカーを手配しました。その後、具体的

な行動を起こすためにフィリピン国家警察(NBI )に連絡を取

りました。プレダは、アーサー・ベンジャミンがアメリカ国籍で

あることからアメリカ合衆国国土安全保障省絡を取りました。

同国の国土安全保障省は、ベンジャミンへの監視強化のた

め、NBIの合同調査に加わる特別捜査官を派遣しました。

 

2013年2月6日、NBIはプレダとフィリピン福祉開発省と

共に、Avilaとその近くにあるMiami Hotel の強制捜査を

同時に行いました。さらに政府の歯科医から、Avilaで働

いている女の子たちは間違いなく未成年者であることの

裏付けを取りました。国土安全保障省の捜査官も強制捜査に加わりました。

 

計15人もの若い女の子たちが救出され、アーサー・デイビ

ッド・ベンジャミンはオロンガポ市において、有能で信頼の

おけるMa. ChristinaMendoza-Pizarro裁判官の前で裁判に

かけられました。ベンジャミンは最終的に軽い方の罪状を認

めました。Mendoza-Pizzaro裁判官は服役に加え、損害賠償

と慰謝料として相当額の金銭を犠牲者である原告代表の子

どもに支払うことをベンジャミンに命じました。これは、被害者

の子や他の若い犠牲者たちに正義がもたらされた大きな勝利

であり、同時に、調査を始め、それを最後までやり通したプレダ

のソーシャルワーカーたちが収めた大きな成功でした。

 

ベンジャミンの事件はこれで終わりではありませんでした。

アメリカ大使館にある合衆国国土安全保障省は、非道な児

童虐待や児童ポルノに関わっている疑いのある、フィリピン

国内のすべてのアメリカ人に鋭い関心を向けました。情報収

集のため国土安全保障省は、ベンジャミンとその仲間や擁護

者たちを監視下に置いたのです。

 

国土安全保障省はすぐにベンジャミンに関する証拠をつか

みました。アメリカの国内法に基づき、外国で違法な性的行

為に及んだとして2018年3月18日、ベンジャミンをアメリカの

判事に告発しました。第一訴因は、2012年3月から2012年1

2月にかけて16歳の子どもに対して違法な性行為を行った

こということです。

 

第二訴因は、継続的に同法に違反していたとされる上記事

実とほぼ同様の案件です。ベンジャミンは2013年1月18日か

ら2月6日にかけて、未成年者に対して違法な性行為を行った

として罪に問われました。彼は、捜査当局に対してこれを認め

ています。ベンジャミンはアメリカで長年服役することになると

みられています。

 

他の国々にも治外法権に関する同様の法律は存在します

が、仮にそうした法律があったとしても、用いられることはあ

まりありません。虐待や性的暴行に及んだ人間がその犯罪

を行った国から逃亡した場合、その者は祖国で裁かれるべ

きです。自国の外で行った虐待の被害を受けた子どもたち

にとっての正義をもたらすということは、すべての国におい

て最優先事項となるべきです。アメリカでそうなっているよ

うに他のすべての国においても。

 

1996年、プレダ基金は、ボラカイのビーチリゾートでして性

的虐待を行っていたドイツ人とオランダ人から2人の子ども

を救出しました。虐待の容疑で逮捕された2人は国外へ逃

亡しました。プレダはこの事件をドイツまで追いました。筆

者はドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州イーザーロ

ーンまで行き、検事と話をしました。この件はVaupel裁判官

によって裁かれることとなり、子ども2人とそのソーシャルワ

ーカーのための飛行機とホテルの費用は裁判所が支払い

ました。子どもたちは裁判で証言し、証言は信用されました。

被告人は有罪判決を受けたましが、言い渡されたのはたった

2年半の懲役でした。これが法律のできる最大限ということだったのです。

 

ヨーロッパには、虐待を加えた人間により同情的で、性的

暴行や虐待を受けた犠牲者のトラウマや痛みを無視した

とすら思える裁判官や法律が存在します。 フランスやフ

ィンランドなどいくつかの国々では、子どもへの性的虐待

に有罪判決を下すためには、そこに暴力や強制があった

ことを裁判官に対して証明しなければなりません。犠牲者

が抵抗し、反撃したことの証明を求められることもあります。

ほとんどの場合、暴力を証明することは不可能であり、性的

虐待に関する法律が、虐待を加える支配的な男に対して反

撃することを子どもたちに求めていること自体、まったく理不

尽です。法律は、子どもたちを虐待する人間に有利に働いています。

 

最近アイルランドで、ダブリン出身の男が携帯電話に児童

ポルノを所持し、またそれを送信したとして懲役18ヶ月の有

罪判決を受けました。この判決は不当に軽すぎますが、さら

にその後、執行猶予となりました。男は無罪放免となったも

同じです。これは骨抜きにされた正義です。裁判官は、ポル

ノ映像のために性的虐待や暴力を受けた無力な子どもにで

はなく、犯罪を犯した者により同情を示したように思われます。

このような子どもたちは、その映像が閲覧され、拡散されるたび

に性的暴行を受け、虐待されているのと同じです。公正な判決を

下し、子どもたちを守るために、他者の気持ちを感じ取るための

訓練を行う、感受性トレーニングを受ける必要のある裁判官もい

るのではないでしょうか。

 

(訳者: Mikikoさん)

 

カレン神父と、プレダ基金の子どもたち