【コラム】 受け入れ先を探し求める移民たち

フリー・ザ・チルドレン・ジャパンのパートナー団体であり、フ

ィリピンで活動を行うプレダ基金の運営を行っている、シェイ

・カレン神父が執筆したコラムをご紹介します。

http://www.preda.org/fr-shays-articles/the-migrants-that-seek-a-welcome/

尊厳と価値、そして譲ることのできない人権というものを持

つ人間として、自分たちのことを考えてみましょう。

私たちは人であり、動物ではありません。動物は、野生

の中で危険や敵に囲まれています。食べるものを手に

入れ、生き残るために戦い、殺しあいます。多くの人間

は、この地球上で平和に暮らし共存するためにもっと高

い規範を持っています。ですが、すべての人間がそうだ

というわけではありません。人間の数はとても多く、他の

種のほとんどを絶滅の危機に追いやってきました。だか

らこそ、仲良く平和に暮らしていくためには、互いを思い

やる協力関係と、平等にそして正義感を持ってすべての

生き物に手を差し伸べることが不可欠です。自らを気遣

うように、他者を愛し、気遣うという社会の原則は、生き残

るための戦略でもあります。困っている人に救いの手を差

し伸べ、自らのコミュニティーに迎え入れ、調和と信頼関係

を築き、お互いを支えあうということは、社会に平和と安定

をもたらします。

こうした善と価値をないがしろにしたとき、我々は自分勝手

で内向きな部族主義へと戻っていくのです。部族主義は他

者を拒絶し、排除します。そして争いと暴力を招きます。ヨ

ーロッパや北アメリカの裕福な国々では、中東やアフリカ

出身の貧しい人々や不運な人々に対する差別や排斥が

拡大しています。狂信的な反外国人、反移民、反イスラム

集団の中には、異民族に対してヒステリックなまでの嫌悪

感を抱き、精神錯乱状態に陥っている集団もあります。移

民のための保護施設を攻撃し、さらには移民そのものを攻

撃するのです。先進国に暮らすこうした世代は、ボスニア戦

争や世界大恐慌、ヨーロッパでは第二次世界大戦終結以

降、戦争や破壊、飢餓、貧困、そして強制退去を一度も経

験していないというのが特徴です。

第二次世界大戦の後ヨーロッパ大陸は、食べるものも住む

家もなく、国から国へとさまよい歩く難民や強制移住者、移

民たちで溢れました。彼らは歓迎され、崩壊したヨーロッパ

を再建しました。こうした人々は数十万単位でアメリカへと

渡り、受け入れられました。こうした受け入れと移民たちの

尽力によってアメリカは偉大な国となりました。今日、ドナル

ド・トランプ大統領の下、国民の半数が移民に反対していま

すが、そうした国民自身が移民であり、移民の子孫です。彼

らは思いやりと寛容、共生への道を放棄しました。アメリカで

あろうとどこの国であろうと、人種的憎悪では国を偉大にする

ことはできません。国を偉大にするのは、新たにやってきた移

民たちの犠牲と奮闘なのです。

今の世代はそれほどの貧困に苦しんだことがありません。

地球上には不幸な人々や虐げられている人々、お腹を空

かせた人たち、あるいは戦争や暴力、基本的権利の侵害

から逃れてきた人々が存在します。今の世代の多くは、そ

うした人々に対して自己中心的で内向きで、しかも人種差

別的な態度すら擁護している指導者を選んでいます。戦争

は、欧米の搾取的な政策によって引き起こされています。

629人の移民を乗せた救難船Aquarius(水瓶座の意)は非

常に危険な旅の途中で救助されました。自国で、そしてそ

の後再びリビアでの苦難や空腹、貧困、そして不法監禁や

不当な投獄から逃れてきた移民たちは、希望と生き延びる

夢、そしてより良い生活を追い求めました。ヨーロッパ諸国

やアメリカ、カナダには思いやりのある優しい人が大勢いま

す。しかしながら、排他的で、勝手な思い込みからくる不安

の中に生き、人種差別的な考えを持つ人間が、さらに多く

存在します。

629人の不運な移民たちは、イタリアとマルタで受け入れを

拒否されました。この国の有権者たちは、反移民政策を導

入しようとしている指導者を選んだのです。ハンガリー、ル

ーマニアそしてポーランドは、「キリスト教を基礎とした社会

を純粋に、そして汚れのない状態」で維持することを目的に、

移民の入国を禁じています。オーストリアとイタリアはこうした

排他主義的政策を踏襲しているのです。これは人権とEUにと

って大きな後退を意味するものです。何千マイルにも及ぶ塀を

建設する国もあり、トランプ大統領も同様の政策を行うといっています。

拒絶された人々にその扉を開けたのはスペインの人々でし

た。難民を受け入れ、仮の住まいや支援を提供しました。こ

のような心ある対応は、人の持つ良心からくる力強い行為で

あり、こうした行為により、外から来た人々は受け入れられた

と感じることができるのです。同時に、人間の本質の中に善良

な部分があるのだということを確信でき、平和な共存は実現で

きるのだと思い起こさせてくれます。

一方、よそから来た人々を拒絶し、さらに多くの人々に国外

退去を命じてきた者たちは、国際義務や人道的責務を放棄

したことになります。彼らは非情で、思いやりに欠けています。

ですが、そんな偽善行為や無知で教養もない態度を気にする

者もいないようです。私たちもっと関心を持つべきです。心を開

き、難民や移民たちを受け入れなければ、慈悲や思いやり、愛

は閉ざされてしまいます。我々の自己中心的な姿勢は、家族や

地域社会、自分自身をも傷つけることになるのです。よそから来

た人々に愛情を注ぐことによって、本当の意味で、すべての人に

対する健全で無欲な愛を得ることができるのです。

移民たちは、豊かな国に暮らす人々に相手にされなくなり

使い捨てにされた人々です。その豊かな国の人々の祖先

は移民たちが従来住んでいた土地に侵入し、占領しました。

そしてその土地の人々を奴隷にし、1,300万人もの人々を船

に乗せ、奴隷としてアメリカへ送ったのです。そして近代にな

り、そうして送られて来た人々は、「開発途上の地域の人々」

として扱われ植民地に依存するよう仕立てられたのです。植

民地化した人々を搾取し、そこにある資源を盗み取り、そこに

暮らす人々を貧困へと陥れるという構図ができあがったので

す。今日の新植民地主義的統治はこうした搾取を永続させ、

容認しています。搾取する者たちは多国籍企業を使ってその

抑圧的な企業方針を維持し、腐敗した独裁者や暴君は見て見

ぬ振りをしています。最も残忍な独裁者である金正恩に対して

最高の賛辞を送っているトランプ大統領の姿勢は、その一例と

いえるでしょう。

思いやり、よそから来た人々に対する寛大さ、共感、友情そ

して移民や難民を受け入れる姿勢は、今、かつてないほど

必要とされています。中東やアフリカでは、全くもって悲劇

的で恐ろしい事態となっています。戦闘に関わっていない

何千もの人々、大抵は女性や子どもたちが爆撃され、焼

かれ、手足を切断され、首を切られ、強姦され、殺されて

います。テロ集団に属する残忍で無慈悲な兵士らによっ

て何百人もの女の子や女性たちがさらわれ、性奴隷とし

て売られているのです。こうした兵士たちは何の罪もない

多くの人々を虐殺していますこのような状況と圧倒的な貧

困、政治的腐敗から、貧しい人々はより良い生活を追い求

め移住を希望するのです。地中海に浮かぶぼろぼろのゴム

ボートに全てを賭けることは、悪夢から逃れ、もう一度生きる

ための闘いにおいて完全なる捨て身の行為であり、勇気あ

る、勇敢な行為なのです。私たちはそのためのチャンスを彼

らに与えるべきです。

(訳者: Mikikoさん)

カレン神父と、プレダ基金の子どもたち