大いなる好奇心を抱いて

カナダのジャスティン・トルドー首相の弟である、映像作家兼ジャーナリストのアレクサンダー・トルドー。若者たちに、旅に出ることの大切さを訴えます。(清田)

https://www.we.org/stories/interview-with-journalist-and-filmmaker-alexandre-trudeau-at-we-day-about-travels/

 

 

 

 

 

 

アレクサンダー・“サッシャ”・トルドーは哲学者です。

 

映像作家、ジャーナリスト、作家でもあるアレクサンダーは、物事を内省し理解することで人生を切り開いてきました。この「内省」と「理解」の両方を追求することが映像作家からベンチャーキャピタリストまで幅広く仕事をする指針となりました。

マギル大学の卒業生(哲学専攻)である彼は、組んでいた手を広げながら、こう言いました。

「私の目標は、哲学を実践することでした。今でもそうです。様々な思想を取り上げて、その思想がどこから来たのか、どこで作られたのか、どのように使われたのかを見せるのです。」

 

考古学者の手法を用いて、アレクサンダーは常に未知の領域を掘り起こし、知識の泉を広げています。

今年の春モントリオールで行われたWE Dayのステージに現れた彼は、好奇心いっぱいでショウ・アンド・テルというプレゼンテーションを行いました。観客は地域社会や国際社会をより良くすることに熱心な生徒たち。彼らの前に立ち、アレクサンダーは「知の追求」について口火を切りました。

言葉がとめどなく溢れ出します。

「知識と違って、知は、勝利や明瞭さ、成功、著名人から得られるものではありません。知恵は、恐れや孤独、混乱、他者への欲求などから生じるものです。」

 

アレクサンダーにとって、「知の追求」は長い間、旅、それも目的のある旅と結びついてきました。

 

幼い頃、父親ピエール・エリオット・トルドー(1960年代末期から80年代中期にかけて2回首相として登板したカナダの政治家)に連れられて行った海外旅行。

その中でもカナダの人々が思い出す旅と言えば、おそらく中東とヨーロッパの旅行でしょう。カナダの総理大臣代理であった父親に伴われてその地を訪れた時、アレクサンダーは7歳で、親しみを込めて「サッシャ」と呼ばれていました。

カリスマ的な世界の指導者がベドウィン人と踊るという象徴的な写真と、小さな息子を抱きかかえる父親のスナップ写真とがごっちゃになりながらも、アレクサンダーは当時のことを思い出します。

例えば、真夜中に父親に起こされて背の高いラクダに乗ったことなどです。

 

 

 

 

 

 

 

この巨大なラクダの背に乗って眼下に広がる世界を見下ろした時、恐怖や興奮、アドレナリン、感謝の気持ちなど、今まで味わったことのない感情が押し寄せてきたことを思い出します。その時の気持ちが忘れられず、彼は冒険や知識欲を欲するようになったのでした。「見知らぬ異国の地に降り立ち、どのようにしたらうまく行き、自分の道を見つけるかを考えることほど刺激のあることはありません。今日何を食べるかなんてことも含めてね。」思い出話をしながら、彼の青い目が生き生きと輝きだします。「そういうタイプの旅行にすぐに夢中になりました。」

 

旅には教訓がつきものです。アレクサンダーが父親と世界をトレッキングした際には、常に多くの事を学びました。

中東とヨーロッパへの旅行中、父親は国家間交流の重要性を強調しました。

異なる考えや多岐にわたる専門性を融合すれば世界中の人々を近づけることができるだろうと言いました。

今思えば、その旅行で父親から息子へと受け継がれた教訓は人生の礎となり、それは、アレクサンダーの子どもたちだけでなく、映像作家、ジャーナリスト、語り手として観客と分かち合うものとなりました。

 

けれども、最初は、内省して考えるということは孤独な作業でした。世間の関心を集めながら成長したアレクサンダーは、彼を知らない土地で癒しを求めました。北米でヒッチハイキングした際には見知らぬ人の車の助手席、サハラ砂漠での野宿、ヨットでの大西洋横断など、一人になって自分と向き合ったのです。

若き冒険家の旅に対する熱い想いが、やがて海外放浪から学んだことをたくさんの人々と分かち合いたいという想いへと変わり、旅人から映像作家へと進路変更することになりました。

 

放浪熱と好きなメディアを組み合わせて、アレクサンダーは自分の土台となるもの、つまり映画製作に行きつきました。

彼は映画製作についてこういいます。

「技術的にも、政治的にも、社会的にも難しいものでしたが、こんなにパワーのある媒体はありません。見る人は映画の中の出来事を疑似体験します。人々の内在意識に直接訴えるのが映画です。人間とは何かを語るのに最適なツールと言えるでしょう。」

 

2017年のWE Dayでもメインスピーカーを務めたアレクサンダー。

このベテランスピーカーがWEスクールプログラムを通してサービス・ラーニングの力を実現しようとする生徒や教育者に対し、映画を変革の手段として利用しようという提案は自然な流れでした。

「アンド、アクション!」キャンペーンでは、招待を受けた生徒たちが、支援活動の一環として映画について学習し、自分や他者を受け入れることの大切さを伝える映画製作にチャレンジしました。

例えば、いじめをテーマに女優ミリー・デイビス(映画「Odd Squad」や「Wonder fame」に出演)が演じた短編映画などもその一つです。キャンペーン中、彼女の名前などと共に、アレクサンダーがドキュメンタリー映画を製作する理由や望ましい世界を作るために意識を変えて欲しいという願いが繰り返し伝えられました。

「人々の間にあるギャップを埋める努力を常にしています。それができれば世界は大きくて未知のものに見えるかもしれませんが、けっして異質で怖いものではなくなるのです。人は地理的な分断を超えて誰かの事を思いやることができるのです。」

 

WE(フリー・ザ・チルドレン)と同じく、アレクサンダーの目標も「つなぐ」こと、つまり世界中の人々を近づけることにあります。アレクサンダーが最初のドキュメンタリー映画「Liberia: The Secret War」を完成させてから20年、映画製作をするために彼は世界中のたくさんの情勢が不安定な地域に赴きました。

 

アレクサンダーが使用したカメラは、まるで左官が使うコテのように、紛争の歴史や表面下にある腐敗を掘り起こします。

印刷物よりも映画の方が好きなアレクサンダーですが、最初はジャーナリストとしてスタートしました。

その後も物書きを続け、2,3年前には作家としてもデビューし、「Barbarian Lost: Travels in the New China」を出版しました。

 

アレクサンダーの旅への執着はおそらく収まることはないでしょう。

しかし、二人の子どもの父親として、最近は、家からあまり遠くに離れない方がいいと思うようになりました。

しかし、旅から得られる教訓と遠くにいる人々をつなげるということを忘れることはありません。

 

アレクサンダーは若い世代に自分で考える力を育てて欲しいと言います。自分の頭を使って解決すること、そして、既成概念の外側にある世界を見て欲しいと。

「経験上、僕がアドバイスできることは、好奇心を持とうということ。それもとびきり強い好奇心を。好奇心の先に本当にやりたいことが見えてくるから」

 

 

(原文記事執筆:サラ・フォックス 翻訳:翻訳チーム 山田さつき 文責:清田健介)