子どもたちに、読書の楽しさを伝えている魔法の電話ボックス
秋といえば「読書の秋」! 今回は、ロンドンの小学校で子どもたちに読書の楽しさを伝えている、「電話ボックス型図書館」の取り組みをご紹介します。(清田)
いたって普通のロンドンの町を走る、いたって普通のロンドンの通りに立つ、いたって普通のロンドンの学校の校庭に、決して普通ではない電話ボックスがひっそりとたたずんで います。 少なくとも、オールドバラ小学校の WE(フリー・ザ・チルドレン) Club のメンバーたちにとっては。
彼ら生徒たちにとって、その電話ボックスは魔法のようなものです。
その彼らの遊び場にしっとりと佇む空間で、女の子たちは悪の勢力と戦う魔法使いに、男の子たちは勉強そっち のけで難破船を捜索する海底探検に出掛けます。
これがオールドバラの電話ボックスアドベンチャーの楽しみ方です。デヴィ、シャーン、 ラハヴィ、リシャーンたちは、オールドバラ小学校の WE Club のメンバーで、みんな6年生 のクラスメートです。
彼女らはたまたまみんな、本の素晴らしさに魅了され 特にファンタジ ー小説 意気投合した仲間で、電話ボックスはそんな彼女たちの憩いの場なのです。
電話ボックスが小さな図書館に姿を変えてから、この場所にはハリーポッターやファントムブルース、ライオンキングやライオンと魔女などの本があふれかえっています。
保護者も子どもたちもみんな、無料で本を借りることができます。
「私たちはいつでも読書に重点を置く学校、本を称賛する学校でありたいと願っています」
オールドバラ小学校の校長スー ザン・マラニーは言います。しかし、この学校の試みは実際、挑戦の連続でした。
オールドバラは、すべてのイギリスの中でも、最も民族的多様性に富んだ地区の一つであるレッドブリッジ・ロンドン自治区にあります。
そのため、生徒たちの多くは英語を第二言語として話し、保護者に至っては、英語に苦労する人も少なくありません。
もしこの電話ボックスの設置前に子どもたちが、家で家族と一緒に本を読むかと尋ねられたら、みんな、答える のをためらったでしょう。
生徒たちの、読書に対する無関心さ (教育課程としても単なる趣味としても) からマラニーは、生徒たちにとって読書を楽しいものにしようという目標を定めました。
「私たちはまず、読書を楽しめる子どもたちと、言われたから読んでいる子どもたちがどれほどの 割合なのか調べ、そのバランスを変えていくことから始めました」。
そう心に決め、彼女は WE Club に向かいました。WE Club は貧困による汚名と戦い、前 向きで健全な気持ちを高める運動や、地元のフードバンクのために食物を集める、といった様々 な活動を指揮する6年生たちによるグループです。
彼らは学校を WE Read Together 運動の 一部として変えてしまい、本をもっと身近なものにし、読み書きを上達させようという画期的なアイディアを考えつきました。
そして、貸し出し可能図書館になった電話ボックスは、 そんな彼らによる最も注目を集めた成功作です。
年に一度、学校では大きなブックフェスティバルがあります。いくつもの箱に入ったたくさんの本が所狭しと廊下に並べられ、興味を持ってくれる子どもたちを待っています。何人かの子どもたちはおこずかいを手に、お目当てを探しに来ます。
11歳のリシャーンによる と、本を交換し合うというアイディアはそこで生まれました。
WE Club のメンバーたちは両 親に寄付を募る手紙を書きました。本が十分に集まると、彼らは電話ボックスに集まり、始まりの第一歩を祝う開会式を開きました。
「みんなが集まり、すぐに興味を持ちました」 開会のテープカットが済むと本に一斉に飛びついたクラスメートたちのことをリシャーンは 話します。「始まるとすぐに親たちも本を手に取っているのが見えました」。
マラニーにとっては、親たちが見せる関心が最も興味深いものでした。
たくさんの両親たちが英語に自信がなく、学校に対して臆病だったので、結果としてめったにに会議や保護者会に出席しませんでした。
しかしこの図書館の出現で、彼らはそういったものに関わろうとする姿勢を見せ始めたのです。
彼女は言います。「今や彼らは学校の終わる時間に図書交換をしにやってきて、話し、笑い合い、本を手に取っています。そうすることでもっと快適に、も っと身近に学校に関わることができています」。
サンジェイ・パテルはそうした保護者たちの中のとても貴重な例です。
「私はどう考えても読書好きではありません」 その二児の父親は控え目にそう言います。彼自身、今まで読んでこなかったし、二人の娘 10歳のアニータ、7歳のエミリー にも読み聞かせなどほとんどしませんでした。
しかし、図書交換した本を彼女たちが家に持ち帰るようになってから事態は変わり始めたのです。
「彼女らは、何を読もうか迷っていました。私が思いもよらないような、面白そうだが難しそうな本を持って帰ってくるのです。しかしそうしたおかげで彼女たちは知らなかった言葉を憶え、自分たちに自信を持つことにもつながっているようです」
今やこの家族は、ほとんど毎晩一緒に読書を楽しみます。
かけがえのない時間とともに、実用的な効果も期待できます。もう、この父親は娘たちが成長するために、読 書は大きな助けであることは間違いないと信じています。
WE Club メンバーはというと、毎日クラスメートたちの変化を目にしました。
ラハヴィは 新しい本を握りしめながら、友達に初めての図書交換の日に感謝されたことを思い出します。
「たとえ家に本を持っていない人達にも私たちの本に対する愛情を広めることができる なんて、とても素晴らしいと思いました」。
オールドバラの学校中に続々と新しい読書の虫が生まれる中、WE Club の次なる計画の 場は、教室に移されました。40名の上級生志願者による、下級生への読み聞かせ、読書仲 間プログラムです。
今日は週に一度の読書仲間プログラムの集まりが昼休みに行われ、一冊の良書を通して、その内容の解釈と出てくる語彙について学び合いました。
上級生たちによって熱い弁論が繰り広げられたことをマラニーは興奮した様子で語ります。彼らは順番に下級生の模範となることを学び、新しい責任を担ってゆくのです。
「読書仲間がいれば、読書はもっと楽しくなります。キャラクターになりきっておかしな声を出したり、ジョークを言い合ったり、もっと本の世界にのめりこめるのです」
11歳のデヴィは言います。「読書を楽しいと思え ることで、些細な物事の面白い一面を再発見することができるんです」。
オールドバラ小学校のホールを歩けば、生徒たちの読書に対する情熱にすぐに気づくことでしょう。
校内で生徒たちと出くわすと、マラニーはよく「最近はどんな本を読んでるの?」 と挨拶代わりに尋ねます。
しかるべくしてその電話ボックス 摩訶不思議な世界の宝庫 は校門近くの校長室の隣に居座り、図書交換のために校庭に出られる日を今か今かと待っています。
ホールの陳列棚には生徒たちの読書感想文が所狭しと飾られています。
きちんときれいな字で書かれたものもあれば、鉛筆で落書きだらけのようなものもあります。
それぞれが本に対する愛情の証であり、その数から全校規模であることが伺えます。
「今やみんな本について言葉を交わし、子どもたちは読書仲間を求めています」 マラニーは自信をもってそう言います。「最も重要なことは、生徒たちは読書を楽しんでいるということです」
彼女はオールドバラが読書を称賛する学校であってほしいと望みました。
そして 生徒たち率いる WE Club がそれを実現したのです。
今、教室や校庭、そして新たな読書愛好家世代の発祥地から、読書の輪が広がり始めています。
(原文記事執筆: ジェシー・ミンツ 翻訳:翻訳チーム 沖野圭真 文責:清田健介)