「水道管で安全な水を飲む!」:長年の悲願を実現させた夫婦のストーリー
今回は、最愛の娘を失うという悲劇に襲われながらも、安
全な飲み水を求めて闘い続けた、エクアドルのモンダナ村
に住むバルカス夫妻のストーリーをご紹介します。(清田)
https://www.we.org/stories/parents-confront-tragedy-with-action-for-access-to-clean-water/
ナポ川は、アマゾンの熱帯雨林領域を流れる、全長
1,000km以上の川です。ナポ川は、アマゾン熱帯雨
林地域の経済活動や日常生活を加速化させるため
の拠点にもなっています。電動のカヌーが積み荷を
運搬し、人々がフェリーに乗って通学や通勤、帰宅
をしています。この流域では川の岸辺に洗濯ロープ
が張られ、漁師たちが日々収穫した魚を運んできた
り、近くの子どもたちが浅瀬の沿岸で跳ねて遊んだ
りする姿が見られます。
しかし、ナポ川はモンダナ村の村人200人の飲み水の水源
にもなっていました。ミゲル・バルガスとマリア・バルガスは
その村で4人の子どもたちを育てていました。バルガス一家
は、ミゲルが「ハイウェイ」と呼ぶその川から少し入った所に
ある、カカオと果物の畑で生計を立てていました。
両親は川の水が浄化処理されていないことを知っていまし
たが、川以外の水源はありませんでした。
2001年、二人の娘で当時13歳だったネリーマルシアが川
の水を飲んだ後、熱病にかかりました。夕暮れ時が終わ
る頃で、家族はついうたた寝をしてしまい、目が覚める頃
にはネリーマルシアの容体が悪化していました。深夜、両
親は娘をカヌーにくくり付け、診療可能な近くのクリニック
までパドルを漕いで駆けつけました。
クリニックは適切な整備が整っておらず、両親は大きい都
市へ娘を連れて行くこともできませんでした。午前5時を少
し過ぎ、ナポ川に朝日が昇る直前にネリーマルシアは亡くなり
ました。
「娘の死は、川の水や寄生虫によるものだったかもしれない」
とミゲルは言い、15年の月日が経っても原因を探しています。
「たとえ一時的な効果であっても、医者が1錠でも薬を処方して
くれていたら、もっと医療設備が整っていたら、、」彼の声は、徐
々に小さくなります。「分からない。けれど、娘は亡くなりました」
バルガス夫妻は、ネリマルシアーの死について正確な要因を特定す
ることができませんでした。しかし、水を介した伝染性疾患の症例は、
その地域ではよく見られています。
3人の育ち盛りの子どもたちと、管理している79エーカー
(約0.3㎢)の畑があるので、夫婦はカカオの収穫に集中
しようとしました。畑で採れた果物を売る市場を求めたり、
子どもたちの学校の送迎をしたりしました。しかし、そのよ
うな中でも、ミゲルとマリアの脳裏には娘を失った悲しみが
ありました。「なぜこんなことが起こってしまったのか」悲劇
を繰り返さないために、どうすれば良いのか?」と。
その答えは、ミゲルには明確でした。それは、水をろ過して
きれいにすることでした。深い悲しみにあった父は、解決の
ための糸口をつかみ始めました。彼の村の各世帯で、水道
管から水を飲めるようにするための権利を求めて活動を始
めたのです。
彼は目標を実現させるために、地域の行政を3回訪問しま
した。30分カヌーを漕いだ後、3時間バスに乗りました。3度
の訪問で、状況を改善するという約束を取り付けることはで
きました。
ミゲルの活動は10年以上続きました。マリアはその間、自
宅に水を運ぶのに木製の一輪車を使用していました。彼
女は夫に、周囲の人たちや地方の行政機関担当者に集
まってもらうことを勧めました。一輪車で重い荷物を押す
妻の身体の痛みがひどい時は、ミゲルが巧みに操作を
手伝いながら、「水道管できれいな水を飲む」という夢を
主張し続けたのです。
WE(フリー・ザ・チルドレン)の現地でのエクアドルで活動は、1999年
に高地で始まりました。そして2013年にはナポ川の近くの地域まで
活動範囲が拡大しました。WEの支援チームが初めて会った人物の
一人が、ミゲルでした。
「私は、あの日のことを忘れることはないでしょう」と、ミゲル
は言い、WEのエクアドル支援活動プログラムのリーダーが、
初めて彼の家を訪れた時のことを語りました。「リーダーは、
『ミゲルさん、あなたが必要としているものは何ですか?』と
聞きました。そこで私は、日頃から周りに言っていることは何
だろう?と考えました。答えは、『私たちに必要なのは水です』
でした」
村人と現地の行政機関の支援を受けながら、WEは村の川
の両岸にそれぞれきれいな水が供給できるようにするため
の計画を立ち上げました。水が近隣の住宅に届く前に、水
源からろ過システムに配管される仕組みです。この安全な
水こそ、ミゲルが主張し続けてきたことです。
今ではマリアが洗い物で水が必要になったら、蛇口を開け
るだけでシンクに水が溢れます。孫たちが遊んで喉が渇い
たら、ミゲルはコップに水を注いで渡します。孫たちが水で
病気になることはないのです。
ネリーマルシアの残した遺産は、滴るきれいな水にと共に、
この村を支え続けることでしょう。
(原文記事執筆:ワンダ・オブライエン 翻訳:翻訳チーム
山田あさ子 文責:清田健介)