「産まれてきておめでとう!」:全ての命にそう言える世界をめざして
世界中で、毎日聞こえる赤ちゃんの産声。でも、赤ちゃんを
安心して迎えられる状態に世界中がなっているかといえば、
残念ながらそうではありません。フリー・ザ・チルドレンは、そ
んな世界を変えるための取り組みを行っています。ケニアの
バラカ病院もその一つです。(清田)
https://www.we.org/stories/baraka-hospital-provides-live-saving-care-in-maasai-mara-for-expectant-mothers/
妻の陣痛が始まると、ジェームズ・オンワヤはパニックにな
りました。
「3人も子どもがいるのだから、その状況には慣れていると
思いますよね」と彼は言います。それでも彼が緊張してしま
うのは、医療設備の不足を懸念しいているからでした。
出産当日の準備を進める中で、ジェームズと妻のベロニカ
は赤ちゃん用の服やおむつ、毛布を入院用のバックに詰め
たり入れ直したりしました。夫婦は、病院へ行っている間に
子どもたちの面倒を見てもらえるよう妻の妹にも頼みました。
そのような状況だったので、彼は「いつでも赤ちゃんを迎え
られると思った」と言います。
しかし、子どもたちの一人が「お母さんが痛そう」と駆け寄
ってきた時、ジェームズは仕事を投げ出し、難産にならない
ことを願いながら一目散に家へ帰りました。
彼が心配するのには、事情がありました。
2年前、ベロニカは3人目の子どもを出産しました。家族は
ケニアのマサイ・マラ国立保護区内のムニアスという村に
住んでいました。そこから最寄りの医療施設であるバラカ
クリニックまでは車で45分かかりました。クリニックは、少
し前に新たに外科手術棟が整備され、医療設備が完備さ
れた病院となりました。
当時、バラカクリニックは村に住む人々に必要な治療を提
供する保健センターとしての役割を担っていました。しかし、
産婦人科棟はありましたが、難産の場合に対処するための
設備は整っていませんでした。ベロニカの赤ちゃんが危険な
状態だとわかった時、彼女はクリニックから2時間もかかる医
療施設へ移送されると告げられました。バラカクリニックの救
急車は、その後彼女を安全に運び、ベロニカは無事に元気な
女の子を出産しました。しかし、夫婦はその時の恐怖を忘れる
ことができませんでした。
4人目の赤ちゃんを迎えようとしている今、ジェームズは夫
婦の出産計画を実行しました。妻の妹に来てもらい、運転
をしてくれる隣人を大声で呼び、車を手に入れました。でこ
ぼこの道のりを可能な限り早く病院に着けるよう向かいま
した。
病院に到着後、ベロニカは入院となり、ジェームズは病室
の外で待機しました。2時間もすると、彼はそわそわとし始
めました。当時を思い出しながら彼は言います。「農夫とし
て忍耐力には自信があったのですが、妻の出産時となると
落ち着いてなんていられませんね」
ジェームズが待合室をうろうろ歩き回っている時、ベロニカ
は陣痛に耐えていました。医者たちが、赤ちゃんが苦しい
状態に陥り、自然分娩が難しい状況だと彼女に伝えると、
ベロニカは異変を心配し始めました。彼女には緊急帝王切
開術が必要でした。
病院スタッフがジェームズに状況を報告すると、ベロニカは
外科棟に移送されました。「先生たちが何をしようとしている
のか、理解できずにいました。でも、赤ちゃんを安全に産む
にはこの方法しかないと説明されました」とジェームズは言
います。2年前の恐怖を思い出しましたが、現在のバラカ病
院では難しい症例も治療できる設備が整っているので、ジェ
ームズに不安はありませんでした。どこか他の場所へ移動す
る心配は必要ないのです。医師たちはその場でベロニカの手
術をすることができました。
2017年7月1日、ベロニカとジェームズはバラカ病院の外
科棟で緊急帝王切開術によりイースター・クワンボカを授
かりました。ベロニカは、バラカ病院で初めて帝王切開術
で出産した女性でした。「先生たちに手術をするしかない
と言われた時は、不安でした」と彼女は言います。「でも、
やっと娘を抱きしめた時は、本当に安心しました」
以前は受けることができなかった今回のような外科治療が
身近になり、出産を控える母親たちの声は感謝で溢れてい
ました。母親の一人でアビゲイル・トヌイは、緊急帝王切開
術で2人目の子どもを出産した後、病院での経験を尋ねら
れた時のことを振り返ります。彼女は「Kongoi, kongoi miss
ing dagitari. Mungu asaidie waliojenga hii hospitali ambayo
imenisaidia」とスワヒリ語で言いました。「先生に大変感謝し
ています。私を助けてくれた病院を建てた方々にも本当に感
謝しています」という意味です。
WE(フリー・ザ・チルドレン)は、2010年10月からバラカ病院
での医療支援を通して、数千人もの母親たちの健康管理
を支えてきました。最初は、母親たちが産前・産後を通して
質の良い医療の確保を目的とした健康センターとして開設
しました。そして2017年初めには病院としての機能を備える
施設になり、母子の死亡率減少のための機能を担う外科棟
が整備されました。
バラカ病院の院長であるネヘミア・カハトは、新しい外科棟
ができたことで、病院が妊婦たちにより良い医療を提供す
ることができると言います。また、「万が一、合併症が起こ
ってしまっても、今はその場で対処できることを嬉しく思い
ます」と語ります。
この記事を執筆中の時点で、バラカ病院の産科病棟は満
室でした。6人の新生児たち(うち2人は双子!)がお母さん、
お父さんや家族に付き添われて赤ちゃん用ベッドを満床に
しました。この赤ちゃんたちは、病院にいつでもかかること
ができるのが当たり前の世代として育ち、「病院の設備が
整っていなくて大変だった」なんていう話は、昔話としてお
となから聞くことだけの、縁のないものになっていることで
しょう。そういう変化が起こるのは、そんなに悪いことでは
ないと思います。
(原文記事執筆:セディ・コスゲイ 翻訳:翻訳チーム 山田
あさ子 文責:清田健介)