【コラム】フィリピンの政治家は、子どもを刑務所に送るのか?

フリー・ザ・チルドレン・ジャパンのパートナー団体であり、フィリピンで活動を行うプレダ基金の運営を行っている、シェイ・カレン神父が執筆したコラムをご紹介します。

https://www.preda.org/2019/03/will-senators-vote-to-send-children-to-jail/

 

Bahay Bagasa通称「希望の家」は、青少年刑務所です。私たちはお菓子と飲み物を持参し、監房の中の若者たちに差し入れました。25人ほどの女の子たちが1つの部屋にギュウギュウ詰めになっていました。

エアコンもなければ扇風機もありません。扇風機を何台か持って行きましたが、熱帯地方の暑さで、鼻をつく体臭が監房に充満していました。

水不足の問題も起きています。プレダ基金が監房から救出した子どもが、体を洗ったりシャワーを浴びたりすることが許されたのは週に2回だけだったという証言をしてくれています。

この状況は、混み合う監房の中で生活しているフィリピン人には相当厳しいです。体を洗ったりシャワーを浴びたり、良好な衛生状態を保つことに普段からこだわりがあるのがフィリピン人ですから。

扉や窓にはめられた鉄格子が、そこが刑務所の監房であることを物語っています。

逃亡などできません。子どもたちは青少年犯罪者として閉じ込められ、当局から犯罪者として扱われています。

 

監房から出され、広い場所に連れてこられた男の子たちが、お菓子や飲み物を受け取りました。

ベッドも家具もない窮屈な監房の中、鉄格子の向こうに子どもたちが押し込まれています。

そんな惨状を私たちに見られると思ってか、職員たちは気が引けていたような表情をしていました。

この状況を変えるために職員たちにできることはほとんどありません。

状況を変える権限を持っているのは、マニラ首都圏17都市の市議会や市長たちなのです。

 

ここは完全に閉ざされた空間で、収監されている若者たちに希望などはありません。彼らはまるで檻に入れられた動物です。

15歳以上の若者は拘置所に送られます。少年用の監房で、幼い男の子が泣いているのを目にしました。

なぜ年長の若者たちと一緒の監房に入れられているのか尋ねました。彼は見るからに幼く、10歳ぐらいでした。

男の子は犯罪者同様、16歳から18歳の少年たち30人ほどと一緒に収監されていたました。何をされるのか不安に思い、男の子は怯えていました。このような子どもの権利侵害に対して疑問を投げかける機関や政治家は多くありません。

プレダ基金や子どもの権利を擁護する他団体は声をあげ、このような状況を変えなければならないと呼び掛けています。

 

男の子や女の子たちの攻撃性やストレス、怒り、暴力性の度合いは、このような狭い空間では高くなります。

はけ口がまったくないのです。バスケットボールもできず、体を動かすこともできません。

娯楽もほとんどないのです。性的虐待が頻発する夜の暗闇の中、この小さな男の子に起こり得ることを考えると恐ろしくなります。

 

こうした場所から救出された同じような幼い男の子たちは、レイプや性的虐待、腐った食べ物、虐待、いじめ、暴力について証言しています。

これが深刻な子どもの権利侵害である以上、この幼い男の子をこの場所から移動させるべきだと、ソーシャルワーカーに話をしました。ここの職員たちは、問題ないと考えていたようです。まったく苛立たしいことです。

 

15歳以上の若者が裁判を受ける場合、ビニール袋を利用してシンナーを吸うなどの軽犯罪によることが多いです。

こうした行為は自らの脳にダメージを与えます。薬物使用で裁判を受けることもあります。

生きているだけ、彼らは運がいいです。 残虐非道な薬物取り締まりの犠牲者として撃ち殺されるよりはましですから。

しかし、15歳未満の未成年者は罪に問われるべきではなく、年長の少年や少女たちと一緒の刑務所に収監すべきではないのです。

 

これは子どもの権利侵害にあたり、政府と市民社会に責任があります。

政府と市民社会は、虐待が横行するこのような環境から子どもたちを守り、擁護するために、積極的に取り組むべきです。

 

このような事態を招いている直接の原因は、腐敗した政府高官たちです。彼らは人民の福祉増進のためではなく、自らのために政治を行なっています。

大富豪とその家族が国を牛耳っています。

法律は、彼らの利益と事業、そしてその子どもたちの利益と事業に有利に作られています。彼らにとって身内の子ども以外はさして重要ではないのです。

 

私たちは14歳のJohn-Joを青少年鑑別所から救出しました。話によると、彼は夜間外出禁止令違反で逮捕されたそうです。

路上で暮らし、帰ることのできる家のない幼いストリートチルドレンたちのための行政が運営している施設はありません。

こうした子どもたちは建物の出入り口や木の下、駐車しているジプニーやバスの後部座席で眠るのです。

 

彼らは捨てられた子どもたちであり、望まれなかった子どもたちなのです。

社会の中で虐げられ、拒絶され、人間として漂流する存在です。

子どもたちは家で親に殴られ、拒絶され、叱責され、そして路上へ逃げ出します。

家庭には、食べ物も安らぎも、そして愛情もほとんどないのです。子どもたちは、

同じような境遇の他のストリートチルドレンたちと、より良い生活を求めてさまようのです。

そして彼らは逮捕され、さらなる困難に直面するのです。

 

幸せな生活をスタートさせるためにJohn-Joをプレダのボーイズホームに連れて行くことになりました。

ですがその前に私たちは彼の親を探しました。街から離れた場所へ車で向い、狭い路地を歩きました。

そこで彼の父親と兄を見つけました。

2人がやっと立っていられるほどのスペースの小さな箱のような掘っ建て小屋に暮らしていました。彼らはテレビを見ていました。

 

John-Joの父親は息子がなぜ逮捕されたのかと尋ねました。

プレダのソーシャルワーカーが、彼を鑑別所から救い出したこと、そして学校へ通うこともできるもっと良い場所へ連れて行くことを説明したところ、父親は理解を示し、息子を抱きしめました。

 

フィリピンの上院は5月15日までに、刑事責任を問われる年齢を15歳から12歳に引き下げる法案を発議し、投票を行うことになります。

結果次第では、さらに多くの子どもたちが鑑別所に収監され、暴行や虐待を受けることになるかもしれません。

国家が子どもたちを犯罪者として扱うことになり、彼らに社会不適合者の烙印を押すことになります。

そのようなことは許されるべきではありません!

 

(訳者: Mikikoさん 文責:清田健介)

 

カレン神父とプレダ基金の子どもたち