コンゴ民主共和国南キブ・コミュニティ開発プロジェクト:パイロット・フェーズ報告
コンゴ民主共和国・南キブ州からの新たな一歩
長年にわたり紛争が続くコンゴ民主共和国東部。特に南キブ州では、土地が荒れ、農作物が育ちにくくなり、人々は深刻な貧困の中で暮らしています。若者たちは、不安定な状況を逃れるために都市へと移り住み、農村は人手不足に。これが国全体の食料不足や物価高騰にもつながっています。
そんな中、2024年7月、フリー・ザ・チルドレン・ジャパンは南キブ州の農村地域で、新たな支援事業をスタートしました。対象は、貧困下にある村の人々。地域の土壌に合った農業技術や、持続可能な農業の研修を通じて、自立への一歩を支えています。
このプロジェクトの現地責任者を担当しているのが、南キブ州出身のミシェル・チクワニネさん。彼はかつて子ども兵士として過酷な経験をしながらも、現在は平和活動家として世界中で声を上げ続けています。2023年、彼から「故郷の人々が貧困から抜け出し、自分たちの力で未来を築けるような支援をしたい」と連絡をもらいました。
ミシェルとは2013年から共に活動してきた仲間でもあり、その想いに私たちは深く心を動かされました。そして、 まずは農業研修から始めようと決意し、2024年7月に事業を開始。現在、ミシェルはこの国際協力事業のプロジェクトマネージャーとして、現地の人々と共に歩みを進めています。
今回は、その2024年に取り組んだ南キブ州コミュニティ開発プロジェクトのパイロット・フェーズについてご報告します。
南キブ州からの報告:農業を通じた希望の芽
2024年、私たちはコンゴ民主共和国南キブ州にて、コミュニティ開発プロジェクト(SKCDP)のパイロット・フェーズに取り組みました。長年の紛争と貧困により、農業が困難な状況にあるこの地域で、持続可能な農業技術の導入と、地域の人々の自立を支えることを目指した取り組みです。
このパイロット・フェーズは、2024年7月から12月まで実施され、無事に終了しました。プロジェクトでは、コミュニティ農業の活性化、ジェンダー・エンパワーメント、そして食糧安全保障の改善を柱に据え、地域に根ざしたアプローチを展開しました。
農業研修に参加する受講者を前に、研修の趣旨などを説明する事業責任者のミシェル
🌱 主な成果
- 参加者数:30名(すべて地元農家)
- 女性参加率:76.7%(30名中23名が女性)
- 研修期間:準備1ヶ月+本研修2日間+フォローアップ5ヶ月
- 物資配給:参加者の農家一人一人に、農具や肥料、苗床などを提供
プロジェクト責任者のミシェル(右から2人目)と農業専門家と受講者の女性
研修では、都市農業の技術を導入し、苗床の準備、有機肥料の生産、計画的な列植方法などを参加者の農家が習得できるよう、セミナーと実践のプログラムを提供しました。理論(2時間)と実践(3時間)のセッションを通じて、参加者は自らの農地で技術を応用し、知識の共有も活発に行われました。
重点作物としては、インゲンマメ、グリーンピース、タマネギ、ニンジン、ネギ、キャベツ、トウモロコシなどが挙げられ、参加者はこれらの作物の栽培に挑戦しました。
トレーニング手法とカリキュラム
1.サックガーデンづくり
南スーダンとウガンダの「ガーデンズ・オブ・ホープ」プロジェクトにヒントを得た、限られたスペースを有効に活用する裏庭農業技術の提供と研修を実施しました。
2.苗床の準備
適切な種子の発芽技術、庭への移植のための苗の準備、最適な植物の健康と成長の確保のための研修と実践を行いました。
3.有機肥料の生産
農民自身が持続可能な肥料を製造できるようにすることで、外部からの農業投入物への依存を減らし、作物に費用対効果の高い栄養を与えられるよう、技術的知識を身に付けるための研修と実践を行いました。
4.体系的な植栽方法の研修
分散栽培から列植栽培に移行することにより、作物管理が改善され、収量増加の可能性が高まるため、その手法の提供と実践を行いました。
研修をセミナー形式で提供した後は、受講者の農家一人一人が実践できるよう支援しました。
🌾 インパクトと変化
- 降雨の遅れにもかかわらず、種子の発芽率が向上し、植物の成長が目に見えて健全に。
- 農民からは「作物の発育が良くなった」との前向きな声が多数寄せられました。
- 参加者には、鍬・鋤・じょうろ・熊手・鉈などの農具と多様な種子品種を提供し、農作業の質が向上しました。
- 女性の参加促進により、歴史的なジェンダーの壁を乗り越え、研修や資源への平等なアクセスが実現しました。
課題と今後に向けて
南キブ・コミュニティ開発プロジェクト(SKCDP)のパイロット・フェーズは、農業慣行の改善、女性のエンパワーメントの促進、そしてカバレ地域の食糧安全保障の向上に向けて、大きな可能性を示しました。参加者の高い意欲と地域に根ざした取り組みにより、短期間ながらも確かな成果が生まれています。
一方で、いくつかの課題も明らかになりました。たとえば、降雨の遅れによる作物の成長への影響、農業資材の安定供給の難しさ、そして一部地域での交通インフラの未整備による研修参加の制限などです。また、女性の参加率は高かったものの、家庭内での意思決定への影響力や、収穫物の販売に関する権限など、ジェンダーに関する構造的な課題も残されています。
それでもなお、このプロジェクトは、現地チームの並外れた回復力、柔軟な問題解決力、そして目標への揺るぎないコミットメントによって、前向きな変化を生み出しました。
今後は、パイロット・フェーズで得られた学びを活かし、特定された課題に戦略的に取り組みながら、地域全体へのインパクトを拡大していきます。SKCDPは、南キブ州の持続可能な開発と生計向上に貢献するため、より包括的で参加型のアプローチを展開していく予定です。
ご寄付・ご支援くださった皆さまへ
企業の皆さま、個人で応援してくださった方々、そして学校単位でご支援くださった皆さま、本当にありがとうございました!皆さまの思いが、子どもたちの笑顔と希望につながっています。心より感謝を込めてお礼申し上げます。
このプロジェクトは、農業を通じて地域の人々が自らの力で未来を切り拓くための第一歩です。今後も、私たちフリー・ザ・チルドレン・ジャパンは、現地の声に耳を傾けながら、持続可能な支援を続けていきます。