【平和教育事業報告】フィリピン・ミンダナオ島イスラム自治区にて、教育者・保護者への研修を実施しました

フィリピン南部では長きにわたり、イスラム国(IS)の軍事活動や海外テロリストグループによる攻撃など、武力闘争や政治的な混乱が続いてきました。

フリー・ザ・チルドレン・ジャパンとパートナーを組んでいるフィリピンのNGO、金光教平和活動センターインフォメーションオフィス(KPACIO)は、イスラム教徒(モロ民族)が多く暮らすフィリピン南部のミンダナオ島に持続可能な平和を確立することを目指し、主に幼児期の子どもたちの心に平和をともす、教育支援を行なっています。

平和構築に向けて、KPACIOが幼児教育に力を入れる理由は、人間の脳の発達は5歳までが最も急速で、歩くことや話すことだけでなく、自尊心、世界観、道徳的な基盤が確立される時期であるためです。社会から疎外され、弱い立場にあるモロ民族の子どもたちが、質の高い包括的な幼児教育とケアを受けられるようにすることを目的としています。


この度、2021年4月から2023年5月までの約2年間にわたってミンダナオ島で実施された平和教育プロジェクトが完了したので、ご報告いたします。

当プロジェクトでは、ミンダナオ島のバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治区において、幼児教育に携わる教師や保育者、保護者、社会福祉開発局の職員などを対象としたワークショップや研修を行ないました。

フィリピンでは2013年に幼児教育法が成立しましたが、バンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治区では、3~6歳の子どもたちが幼児教育を受けることができておらず、取り残されている状況にあります。こうした地域のひとつが、今回のプロジェクトを実施したマギンダナオ・デル・スール州パグラット市です。

パグラット市は2015年現在、総人口15,920人、8つのバランガイ(フィリピンの最小自治単位)からなっています。
9歳以下の幼児人口は総人口の約30.67%、4,483人です。

パグラット市では、2020年の新型コロナウイルスの流行に伴い、公立の幼稚園と学校は全て閉鎖されました。2022年には試験的に学校が再開されましたが、親たちは病気を恐れ、子どもたちを幼稚園や学校に連れて来ませんでした。このような恐怖感が、2020-21年度の総就学者数の減少につながり、特に幼稚園への入学者数は前年度の15%減少しました。


パグラット市内のモスク


市内にあるパーム油プランテーション

KPACIOは、通常の生活に戻る準備として、パグラット市と協力し、2022年10月12、13日に児童発達支援員を対象としたインクルーシブ研修、2023年5月10、11日に3歳から5歳の子どもを持つ親を対象とした家庭での早期学習を行なうためのワークショップを実施しました。

ワークショップでは、家庭で行なう早期学習のデモンストレーション(数え方、話し方、聞き方、分類と並べ方、文字の書き方、形と尺度など)や、グループごとにディスカッションを行い、洗濯、料理、掃除、ベッドメイキングなど、家庭での活動を通して子どもたちがどのように学ぶことができるかを考える実践的なワークと発表を行いました。

また、2022年10月には、17人の児童発達支援員や地域の青少年育成協議会スタッフなどを対象に研修を実施。子どもの発達やインクルーシブ教育、インクルーシブ・ランゲージ(包括語:性、人種、能力などの差別をしない語)などに関する講義と、疑問点などを解消するためのフォーラムを開きました。


当初は2021年内にプロジェクトを完了する予定でしたが、新型コロナウイルスの流行により移動が制限され、実践的な活動とグループ活動に制限が生じ、プロジェクトを円滑に進めるのは非常に困難を伴いました。現地のインターネットの接続環境にも課題があったことからオンラインでの実施も難しく、期間を延期し、2023年5月にようやく事業を無事に終了することができました。

このプロジェクトは、愛知教職員組合連合会様からいただいたご寄付により実現されました。温かいご支援に心より感謝いたします。