ベーシックインカムに懐疑的だったクレイグが、コロナ禍を機に考えを改めた理由
クレイグのコラムの紹介です。
https://www.we.org/en-CA/we-stories/opinion/i-was-a-basic-income-skeptic-until-the-covid-19-pandemic
現在、新型コロナウイルス(COVID-19)によって、カナダ人の半数近くが、失業中もしくは不安定な雇用状態となっています。
いわいるギグエコノミーの環境下で仕事を得ていた自営業たちは、政府からの支援も受けられず、難しい選択を迫られています。
おうち保育園を運営している女性は、新型コロナウイルスと最前線で闘う職種に就いている親御さんたちのためにも、なんとかおうち保育を続けているのですが、女性の家族が感染するリスクに晒される状態を覚悟したうえで、運営を続けている状態となっています。
また、わずか3日の間に、今年いっぱいの仕事がすべてキャンセルになったメイクアップアーティストもいます。
上記の二人とも、残酷な選択を迫られています。
おうち保育で預かる子どもの人数を一人や二人にする、あるいはアーティストがバイトなどを始めたとしても、今まで通りに食べていくことはとてもできません。
しかしながら、仕事を縮小しながら続けたり新たに始めたりすると、カナダ政府が緊急対策として実施する予定の休業補償を受け取る資格を失ってしまうのです。
国際開発の分野で仕事をしてきた経験から、「無作為なばら撒きをするよりも、実際に職を得て働くことができる環境を整備する方が良いに決まっている」とずっと信じていました。
ですので、アメリカの大統領戦況の民主党の予備選挙で、「すべてのアメリカ国民に毎月一定の額のお金を配る」という公約を掲げていたアンドリュー・ヤンのような政治家に対しても、懐疑的な見方をしていました。
ですが、新型コロナウイルスをきっかけに、私の意見は完全に変わりました。
カナダ政府による休業補償を受けられない人が多くいることや、カナダ政府が三段階に分けた細切れな経済対策を実施しようとしていると知ってから、「ちまちました政策よりも、ベーシックインカムを実行して、すべてのカナダ人にお金を配る方がよほど効果的だ」という意見に強く惹かれるようになりました。
いまベーシックインカムを実施すれば、人を助けるだけでなく、働き方が変化するなかで
生じるであろう将来的な社会問題に対して、先駆けて課題解決に取り組むことができます。
この危機が起きる前から、推定170万人のカナダ人がギグエコノミーの環境下で働いていました。Uberのライドシェアー(訳注:いわいる「白タク」事業のこと。日本では違法行為として禁じられている。) の運転手など、雇用関係を結ばない人たちが、仕事約を請け負って働いています。
自営業の起業家はもっとたくさんいます。
専門家は、このような先行きが不透明な働き方が、社会が将来的に脱工業化していく中で定着していくだろうと指摘しています。
しかし、私たちの社会のセーフティーネットは、未だに工業化社会であることを前提にしてつくられているのです。
新型コロナウイルスが発生する前から、ギグワーカーの経済状況は不安定でした。景気が悪くなれば、契約を打ち切られ易い存在です。
失業保険というものもありますが、これは基本的に安定した働き方をしていた正社員だった人たちなどを想定してつくられた制度なのであって、仕事が不定期に入ってくる状況にいる人たちのことを想定した制度にはなっていません。
ベーシックインカムを導入すれば、生きていくための最低限のお金は毎月手に入ります。
そうなれば、ストレスは軽減され、こころの健康は改善されるでしょう。ギグエコノミーの時代にあっても、ある程度の経済的安定が保障されます。
そうすれば低賃金労働者がその日暮しをすることもなくなるでしょう。
「そんなの理想主義者の絵に描いた餅なのでは?」と思われる方もいるかと思いますが、すくなくともカナダではそうではありません。
オンタリオ州では、2017年に試験的にベーシックインカムが導入されました。
政権交代のため、わずか1年で終了しましたが。
マニトバ州の町では、5年間ベーシックインカムの実験が行われました。小規模な町で行われた実験であるため、この実験からベーシックインカムに関して普遍的な知見を得られるとは言い難いのですが、町民の経済的負担が軽減され、健康状態が著しく改善されるという結果が出ました。
また、ベーシックインカム反対派の人たちがよく懸念として挙げている、「働かなる人たちが増える」という事態が起きることはありませんでした。
ベーシックインカムは、ばら撒きではありません。この危機を乗り越える起爆剤になり得ますし、経済構造が変化するなかで、弱い立場に置かれる人たちの強力な味方になり得るのです。