大きな貧困格差(シェイ・カレン神父のコラムより)

FTCJのフィリピン支援事業の現地パートナーNGO「PREDA基金」代表の
シェイ・カレン神父による1月26日コラムを紹介します。

フィリピンが抱える貧困問題の現状と、その格差についてのメッセージです。

The Great Poverty Divide
「大きな貧困格差」

http://www.preda.org/en/news/fr-shays-articles/the-great-poverty-divide/

訳者:FTCJ翻訳ボランティアチーム 石丸優子さん

バクララン教会のそばで売られているフィリピン料理屋台店

マニラ首都圏の不潔な刑務所から救出されたばかりの、読み書きが
あまりできない10代のマヌエル少年はの願いは、両親や家族に会い
たいというものでした。家が無いため家族で路上で生活していたと言
います。彼らは、バクララン教会の近くに屋台を持ち、ビニールシートの
下に住んでいたそうです。そして毎週のノヴェナ(大きな祝日の前に捧
げられる9日間の祈り)や日々のお祈りのために教会に来る人々に、
再生植物油とブラウンシュガーで調理されたバナナを売り、かろうじて
生計を立てていたようです。

水曜日のノヴェナの祈りの日には、裕福な人と貧しい人の両方で教会
を埋め尽くします。しかしその大多数は貧しい人々で、家族への十分な
食料や病人への薬を買うため、神聖な助けを求めます。一方、無責任
で悔悟しない裕福な人は、神の赦しを乞い、天国への切符を得るため
にお金を寄付します。ああ、何という大きな違いでしょう。貧しい人々は
あとほんの数日生き延びようとし、裕福な人々は永遠に生きようと
しているのです。

神に祝福される人々は、責任ある裕福な人々です。それは啓蒙されて、
社会や人間についての真実を知り、彼らの影響力や資産を、世界を
より良い方向に変えるために使うと決意する、ザアカイのような人々です。
彼らは変化をもたらす主体者として、貧しい者、搾取される者、虐待
される者に同情し、富める者と貧しい者との不当な格差を無くすために、
自分達の才能・富・努力を捧げます。でもそれは簡単な仕事ではあり
ません。スイスのダボスで行われる国際会議で、世界の指導者達が
方向性を見失っているように、貪欲と過剰は世界経済に損害を与え、
我々は未だにそれを修復できないでいます。

より率直に言うと、平等と正義が支配する、愛と思いやりに満ちた
世界こそが、キリスト教にとっての真実であり目標です。ナザレの
イエスがそんな世界が近づいていると宣言した時、堕落したお金持ち
のエリートが、彼を冒涜者、反逆者、国家や彼らの地位を脅かす危険
人物だとみなしました。そしてイエスを拷問し、最も残酷な方法での
死刑を宣告しました。今日まで、世界中の人権擁護団体や社会活動家
たちが、虐待と苦難の犠牲者を助けるため、また民主主義と平等に
基づいた正当な社会をもたらすために、懸命に活動してきました。
彼らの多くは非難中傷され、拷問され、殺されもしました。
それでもなお、彼らの志を受け継ぎ、尊い使命を全うする為に、
より多くの英雄たちが立ち上がっています。

精神的、社会的な変革を目指すそのような英雄的闘争を、無責任な
お金持ちと、勘違いした彼らの信奉者たちは、「階級闘争」と呼びます。
しかしイエスはその闘争を、最も貧しい人々とその支援者が、尊厳を
もって生きられる、また軽蔑されたりののしられたりすることなく、
最も祝福される「神の王国への道」と名付けました。

フィリピンでは、飢えと貧困をなくす為にすべきことがたくさんあります。
2011年12月に行われた調査によると、前年の52%からは改善が
みられたものの、調査対象者の45%の人が「自分は貧しい」と
答えました。また36%の人が「飢餓を経験している」と答えました。
世界飢餓指標(Global Hunger Index)も、フィリピンの飢餓状況は未だ
「深刻」なままであることを示しています。

熱心な人権擁護者であるダグマール・ヴォール会長率いる「経済協力
開発委員会」を代表し、フィリピンのパラニャケ刑務所を訪れたドイツの
国会議員一行は、最も悲惨な状況を目の当たりにしました。刑務所を
訪れた彼らは、空腹の収容者たちがすし詰め状態にされた監房を
目撃しました。中でも、都市貧困層を象徴する未成年の収容者たちは、
掘っ立て小屋に押し込まれ、残飯に頼って暮らしていました。
これを受けて委員会は、フィリピンを“開発半ばの中所得国”とする
他機関の評価を再検討することと併せて、可能であれば、
貧しい人々の暮らしに直接影響を与えられる開発援助を
提供することを考えています。

そんな中、フィリピン国内でも正義の台頭が期待されています。
というのも、アキノ大統領率いる政府が腐敗と戦っており、また
社会福祉秘書のコラソン・”ディンキー”・ジュリアーノ・ソリマンが、
条件付きの現金付与による貧困削減プログラムを提供しています。
(これは、特定の条件を満たすことによって貧困家庭にお金が付与
されるプログラムのこと)

この現金の支給によって、しばらくの間は飢餓が緩和され、より多く
の子どもたちが予防接種を受け、学校に行けるようになると期待
されています。しかしフィリピンに根強く残る貧困や飢餓の原因その
ものは解決しないでしょう。その原因とは、フィリピンの人口
9600万人のうち、たった1%の人々が富の70%を所有している

という社会の不平等な構造です。これを無くすには、機会の平等によって、
貧しい人々が権力と威厳をもつ中流階級に移行するための、政府の
改革と公正な富の分配が必要です。しかし何よりもまず、貧しい人々の
人権と市民権の保障を最優先しなければなりません。