インドのタバコ作りで働く女の子たち

BBCニュースより

(訳者:翻訳チーム 金田豊正)

The original article

 

児童労働反対世界デー(6月12日)に、プランインターナショナルのダビンダー・クマール氏は南インドのアンドラ・プラデシュ州でインドの手巻きタバコ「ビディ」作りに従事する女の子や女性たちの悲惨な状況を紹介しています。

 

5歳のアリヤちゃんは、このことは一番になるためのゲームのようなものだと思っていました。

アリヤちゃんは、朝起きてから夜寝るまでずっと、お母さんや近所の女の子やおばさんたちが必死にこの競争を繰り広げているのを見てきました。

実は、みんなは、インドの伝統的な手巻きタバコの「ビディ」を作っていたのです。

「ビディ」一本を作るためには、地元の黒檀の木から採れる葉を乾燥させたものをきつく細長く巻いて、その中にたばこの葉を詰めて、最後に尖ったナイフの先を使って両端を閉じるという大変骨の折れる作業が必要になります。

しかも、一日10時間から14時間働き詰めで、アリヤちゃんのお母さんたちは少なくとも1000本の「ビディ」を作らなければなりません。それでも、仲介業者から得られる収入は2ドル(160円)以下のわずかなものでした。

一方で、こうして集められた「ビディ」を販売するタバコ会社は10億ドル(800億円)の売り上げを得ています。

アリヤちゃんのお母さんたちが作った「ビディ」はタバコ会社に引き取られて包装された後、とても高い値段で売られているのです。

実際、「ビディ」はとても人気のあるタバコでインドのタバコの売り上げのほぼ半分を占めています。

 

人間ロボット

アリヤちゃんの住むアンドラ・プラデシュ州のカディリでは、代々にわたり数百の世帯が生計を維持するために「ビディ」作りに依存してきています。

その路地の密集したカディリのスラム街にはロボットのような動きの組み立て工程の作業が存在していました。

若い女の子や女性たちが戸外に座って、前後に揺れていたりして、何かに夢中になっているのです。

それは、とても人間技とは思えないスピードで異常な動きでした。

地域ボランティアのシャヌ氏によると、「彼女らは、生活のために目標の手巻きタバコの数を速く作らなければならないという極度のプレッシャーから、多くの人が食事を摂らないばかりか、トイレに行く必要がないように水を飲むことすら避けています。」ということであった。

カディリで「ビディ」を作っている人は、インドの他の地域と同様に、ほとんどが女性で、その多くが若い女の子たちでした。

 

素早く動く指先

既にアリヤちゃんは「ビディ」作りを習い始め、カットされた紙を使って手巻きの練習をしています。

そして、彼女は「早く「ビディ」を作ってお母さんのためにお金を稼ぎたいの」と言っているのです。

3年ほど前の調査で、インドで「ビディ」を作る子どもの数は170万人以上というショッキングな数値の報告がなされています。

素早く動く子どもの指先が手巻きタバコ作りに適しているため、タバコの製造会社は意図的に子どもたちを起用しているのです。

インドの法律では、手巻きタバコの作業は危険な業務と認定しています。

しかし、法律の抜け道があるのです。両親の仕事を手伝う子どもの場合にはこの法律の適用外になって子どもの手巻きタバコ作業を認めてしまうことになるのです。

プランインドのアニータ・クマール女史は、こう説明しています。「正式には、手巻きタバコ製造の請負業者から注文を受けるのは大人の女性たちです。ただし、彼女らは納期のプレッシャーに直面すると必ず子どもたち、主に女の子たちに家の仕事として手伝いをさせてしまうのです。」

この状況に対して、“なぜなら、私は女の子なの(Because I am Girl)”というグローバルキャンペーンの一環として、児童人権組織が、女子の「ビディ」作りにかかわることを含め、インドのアンドラ・プラデシュ州の女子の児童労働を対象としたプログラムを開始しました。

このプロジェクトは3年間で1500人の女の子たちに効果を及ぼすと考えられています。

クマール女史は、こう言っています。「我々は地域社会や地元の行政機関と共に一つの良いモデル事例を作り上げ、子どもたちが不適切な児童労働に陥らないようにしていきたいのです。」

不健康な生活環境、賃金を搾取するような状況、奴隷のような仕事環境、重大な健康被害など、「ビディ」作りに携わる人々の状況は、種々のレベルにおいて基本的な人権や自由の侵害に関与してきています。

 

南インドの女の子の大半は小学校を卒業すると家の生計を立てるために学校に行かず働くことになります。

4人姉妹で一番年下の11歳のサルマさんは去年学校に行かなくなりました。

彼女はため息をつきながら、語ってくれました。「私だって学校に続けていきたかったけど、家がとても貧乏で、家賃を払うのも大変な状況なの」

サルマさんは黄疸(肝臓の病気)が発症していて、とても虚弱な感じで、座っているのがやっとという状態でした。

そう、彼女は家族のために一日1500本の「ビディ」を作らされていました。

彼女はすぐに医者にかかる必要がある状態でしたが、地元の病院に行くということは、診察待ちで時間がかかるため仕事を休まなければならないことと往復の交通費が必要ということで、彼女の両親は、その両方ともしてあげることができませんでした。

 

保護されない現実

健康被害の実態は「ビディ」作りの作業者すべての年齢層に明らかに発生していました。

「ビディ」作りを続けていると高濃度のニコチンが皮膚を通して直接体の中に吸収されていきます。

子どもたちの指先は徐々に痩せて衰え、この子たちが40歳代になることには、もはやタバコを巻くことはできない指になってしまいます。

最悪なこととしては、「ビディ」作りの作業者に対し、健康被害を防御することもできなければ、健康被害を被った後の生活保護もなく、州や国の支援もないといった印象を受けています。

 

気温が45度に届く夏では、山積みしたタバコの葉の中で無防備の赤ん坊が遊んでいるように、カディリの通りは、むせ返るようなタバコの灰でできた雲の中に包み込まれます。

それでも、若い女の子たちは汗まみれになりながらも、目はタバコの作業トレイにくぎ付けになったまま、ひたすら「ビディ」を作っています。

手巻きができなくなった年老いた女性たちは「ビディ」に使う黒檀の葉の刈り取りの手伝いをしています。

そして、それらの仕事は明日の食事と住む場所を確保するために今日も夜遅くまで続くのでした。