ボパールの悲劇から学ぶべきこと、そしてやるべきこと

クレイグとマークのコラムより

1984年12月3日、インドのボパールの工場から有害の化学物質が漏れ、工場周辺のスラム街の住民3700人が少なくとも亡くなり、50万人もの人が健康被害などを受けました。この悲劇は、現在においても史上最悪の化学工場事故となっています。法学者で、ビクトリア大学学長のカッセルズ教授は、この事故に関する著作を20年前に出しています。今回、事故から30年になるのを前に、この事故で浮き彫りとなった企業責任の問題に世界がこの30年間どう対応してきたについて教授に話を聞きました。現在、多くの開発途上国の人々が、現地で活動するカナダ企業に対し不満の声を上げています。ボパールの事故の教訓が今ほどカナダにとって必要とされている時代も無いのではないかと思ったのも話を聞いた理由です。

ボパールで行う汚染作業と、被害者への支援に膨大な費用が必要となったこともあり、インド政府と被害を受けた地域の当局は、何らかの金銭的賠償を求めていました。でも、そのお金を払うべきなのは誰だかみなさんには分かりますか? 教授によると、ボパールの事故は、この当たり前の質問に答えること(教授が言うように堅く言えば、事故の責任の所在を明確にすること)がとても難しい事例だったのです。

ボパールの工場は、アメリカに本社のあるユニオンカーバイドの子会社によって運営されていました。インド側は、責任は親会社が取るのが筋だと思い、アメリカの裁判所で裁判を起こしました。教授は、この裁判は国際会社法上の二つのやっかいな問題に直面したと指摘します。裁判所は自国の企業が国外で行った行為を裁けるのかという問題、そして、親会社は子会社が行った行為に対して責任があるのかという問題です。

一番目の問題に対してのアメリカの司法の答えは「ノー」でした。事故はインドで起こり、インドの規制の下で運用されていた為、インドで裁判を行うのが、「最も適切な対応と考えられる」との判断でした。

しかし、その後にインドで行われた裁判では、裁判の過程で、インドの裁判所がユニオンカーバイドに2億7000万ドルの賠償の支払いを命じました。教授によれば、この判決は、子会社と親会社の関係に「法人格否認の法理」(※日本語の参考リンクに用語の解説あり)を適応した初の判決だということです。この裁判は最高裁まで争われ、インドの最高裁で4億7000万ドルでの和解を強いられることになりました。このような判例にも関わらず、一般論としての親会社の子会社に対する責任の問題は未だにはっきりしていないというのが教授の見解です。

カナダでは、今では外国人もカナダの企業の行為についてカナダの裁判所で裁判を起こすことができます。最近では、グアテマラの原住民たちが、HudBay Mineralsの子会社の人間が殺人やレイプをグアテマラ人に対して行い、現地の人々の人権を侵害しているとして、HudBay Mineralsを訴えています。エクアドルの人々は、巨大石油会社シェブロンの子会社テキサコのエクアドルでの活動が現地の汚染の原因になったとして、シェブロンのカナダ法人に賠償を求めています。

先日、カナダ政府は企業の社会的責任政策の一環として、海外で責任ある行動が取れなったカナダ企業には政府の支援を打ち切ることを発表しました。

カッセルズ教授は、企業がこの30年間企業市民の精神で様々な問題に取り組んできたと一定の評価をしつつ、企業の海外活動で影響を受ける人々を守る為に多くの事をしなければならないといいます。「カナダの裁判所は今行われている裁判を通じ、企業が追うべき責任を司法の立場から明確に示すべきです。他国の政府もカナダのように踏み込んだ政策を取るべきです。又、多国籍企業に対して声を上げている人々の訴えに対処する為の、国際基準や機関の確立に向け、世界の努力が必要です。」(カッセルズ教授)

ボパールの人々は、事故後の今も汚染水や呼吸疾患に苦しんでおり、乳幼児の死亡率や、先天性欠損を持って生まれる子どもの確率も高くなっています。ボパールの人々は、更なる賠償を求め、今も法廷で闘っています。彼らにとって事故はまだ終わっていないのです。

30年前、世界はボパールの人々を守れませんでした。私たちは、企業責任を国内法と国際法に基づき遂行する義務があります。ボパールの人々と全ての開発途上国の人々の尊厳と命を守るために..

参考リンク
英語

http://en.wikipedia.org/wiki/Bhopal_disaster 

(事故に関するウィキペディアのページ。※日本語版と多少情報が違うところあり)

http://www.chocversushudbay.com/

http://www.cbc.ca/news/business/chevron-s-18b-ecuador-pollution-lawsuit-comes-to-canada-1.1259887

http://www.theglobeandmail.com/report-on-business/industry-news/energy-and-resources/ottawa-vows-to-protect-canada-brand-with-social-responsibility-policy/article21579511/

http://www.ibtimes.co.uk/exclusive-30-years-bhopal-gas-tragedy-thousands-victims-still-wait-justice-1475466

日本語
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95%E4%BA%BA%E6%A0%BC%E5%90%A6%E8%AA%8D%E3%81%AE%E6%B3%95%E7%90%86 (法人格否認の法理)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%81%E6%A5%AD%E5%B8%82%E6%B0%91 (企業市民)

(訳者:翻訳チーム 清田健介)