シリア人難民と彼らの支援者を待ち受けるいばらの道

クレイグとマークのコラムの紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/syrian-refugees_b_6572850.html

シリアでは、大勢の人たちが武器を持つ集団の攻撃(政府側の軍人か、武装集団なのかもよく分からない)におびえながら今も暮らしています。カナダに住んでいるダリアは、この悲惨な状況をいつも気にかけ、シリアに住む家族を救い出さなければならないと考えていました。しかし、カナダの官僚が移住を希望している難民を18ヶ月も待たせ、難民とその家族に莫大な自己負担をさせているという現実に、ダリアとその家族は直面することになります。難民とその家族が直面する問題に、カナダの人々はどのように向き合うべきなのでしょうか?

2011年にシリアで勃発した紛争は、現在の世界が抱える最も深刻な人道的危機となり、この4年間に戦禍のシリアを逃れた人々の数は380万人以上となっています。カナダは既に1275人のシリア人難民を受け入れており、更に一万人以上を今後受け入れると表明しています。しかし、新しい生活の地を求めている難民と、彼らを助けたいと願うダリアのようなカナダ人は、カナダで大変な試練に直面することになりそうです。

カナダに来る6割のシリア人難民に対する経済的な支援を、政府では無く教会をはじめとする民間に委託するという方針に私たちは驚きました。

ダリア(仮名)は10年以上前に夫と共にカナダに移住し、アラビア語教師をしています。彼女の両親や兄弟(故郷を追われたパレスチナ人) は、今は戦場となっているシリアの首都ダマスカスの郊外で暮らしており、ダリアは彼らが安心して暮らせるようにしたかったのです。家族の多くは紛争以降は隣国であるレバノンの難民キャンプで生活しながら、カナダへの難民申請をしました。

政府の直接的な支援は受け入れる定員が少なく、受け入れられそうな見込みも無いので、政府の仲介を通じて民間の支援団体を探そうとしますが、条件の良い団体がありませんでした。そこでダリアは近所の人の力も借りながら、政府の規定に基づき自ら支援団体を立ち上げました。

それでもダリアの家族13人は、役所による面接や医療検査(役所であるが故に非常に時間がかかる)を経て、カナダに来るのに18ヶ月もかかったのです。しかもこれで苦難が終わる訳ではありません。

カナダ難民協議会によると、難民の初年度の支援費は2万5千ドル程かかるそうです。しかし、カナダ政府が2012年に難民への医療支援を削減した事もあり、医療を必要とする難民は膨大な費用がかる事になったといいます。

ダリアは地域の人々や教会、モスク等からの寄付を通じて、必要な費用や物資を賄ってきました。ダリアの家族のアパートがシミに荒らされた時は、彼女の負担で家具を総取替えしなければなりませんでした。

ダリアが面倒を見なければならないのはお金だけではありません。家探しや子どもの学校への転入、そして語学教育を受けられるようにする為の手配もありました。(ダリアの家族は英語が全く話せないので)幸いな事に、ダリアが彼らの通訳になれているので心配はいりませんが、難民の支援者その難民の母語が話せない場合は、通訳を雇わなければならないという問題もあります。

ダリアの家族は少しずつカナダでの生活に慣れてきていますが、ダリアは今ここにいない二人の兄弟の事が気がかりです。一人はまだシリアに留まり、もう一人はレバノンでカナダのへ難民申請をしている途中ですが、警察によってシリアにいつ強制送還されてもおかしくない境遇にもいて、それを恐れています。 

カナダ難民協議会のディンチ執行役員は、「当団体は、カナダ政府が難民に対し経済的な面も含めた支援を民間任せにし始めている事を強く懸念しています。難民の支援活動をするカナダ人の数も減るかもしれません」と言います。

カナダは助けを必要とする人々に対し思いやりがあり寛容な国として国際的な評判があります。そもそも、この国の人々はその殆どが元々移民であり難民です。35年前には、この国が5万人のベトナム人難民のふるさとになりました。「ボートピープル」がそれから今までこの国をどれだけ豊かな場所にしてくれたかは言うまでもありません。そんなこの国の偉大な遺産が過去のモノになる姿など、私たちは見たくありません!

参考リンク
http://data.unhcr.org/syrianrefugees/regional.php

http://www.ctvnews.ca/politics/canada-will-resettle-another-10-000-syrian-refugees-minister-promises-1.2177144

http://thetyee.ca/News/2015/01/22/Canada-Syrian-Refugee-Target/

http://www.hrw.org/news/2014/05/05/lebanon-palestinians-barred-sent-syria

http://ccrweb.ca/en/letter-resettlement-syrians-jan-2015

http://www.thestar.com/news/atkinsonseries/2014/09/26/can_canada_duplicate_its_boat_people_rescue_with_syrian_refugees.html

※カナダは、基本的には移民や難民の受け入れに積極的な国ですが、コラムでも指摘されている難民の医療費の削減など、シリア問題が深刻になる前からカナダ政府(特に今のハーパー政権)はここ数年財政難などを理由に政策転換をしてきました。
http://ayak.ca/2014/08/%E7%A7%BB%E6%B0%91%E6%94%B9%E9%9D%A9%E3%80%9024%E5%9B%9E%E3%80%91/ (日本語)

この方針を強く支持する人もいれば、クレイグとマークのように難民への消極的な姿勢に反対する人々もいて、カナダ全体ではっきりした答えが出ている訳ではありません。良くも悪くも政治的な論争になっているのは確かです。
http://www.pr-tocs.co.jp/canadian_review/?p=40 (日本語)

日本の場合は、上の記事でも指摘されているように一定の数の難民を受け入れた事例も歴史的にはあるものの、基本的にはかなり消極的といえるでしょう。日本に来たい難民がいないのなら問題ありませんが、申請する人が数百人もいるのに数人しか認められていないのであれば、この状況を改善するために日本もするべき事があると思います。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/300/205180.html

この紛争以降、国連が日本に難民の受け入れを呼びかけていて、シリアから日本に来ている人がいるという現実がありながら、検討中としている日本はクレイイグとマークが批判
するカナダよりも深刻な状況にあると思います。
http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2014/05/0520.html

私たち自身の問題として、シリア人難民の問題を考えていく必要があると感じます

(訳者:翻訳チーム 清田健介)