アンデス山脈の村の高校で行われた、初めての卒業式

アンデス山脈のシュイド村に新設された高校。
今回は、この高校で行われた初めての卒業式についてお伝えします。(清田)

https://www.we.org/en-CA/we-stories/global-development/village-Andes-first-high-school-graduation

 

 

 

63歳のローサ・チャフラは孫娘の高校へと続く丘を誇らしげに登って行きます。

青緑のセーターに赤いバジェタ(エクアドルの伝統的なショール)を羽織って、手にはプレゼントを持っています。今日は孫娘の卒業式なのです。

 

ここはシュイドという海抜12,000フィートを超える山岳地帯の村です。

先生と保護者たちが強風と格闘しながらステージや椅子のセッティングをしています。

風に乗って、ローストされたクイ(訳注:アンデス地方でお祝い事によく食される食用モルモット)の香りがかすかに漂ってくるのは、これから始まるお祝いの証です。 

 

チャフラの17歳の孫娘、マリア・ベレンは、卒業生たちと教室に集まって、式が始まるのを待っています。

チャフラも会場に着席して、この村に初めて設立された高校でマリアが卒業証書を受け取るのを楽しみに待っています。

チャフラの家族で高校の卒業証書を手にするのはマリアが初めてです。

 

マリアは6歳の時に母親を亡くしてから祖母であるチャフラと住んでいます。

2007年に小学校に通い始めた頃は、生徒の人数に対して教室の数が足りず、3学年が1つの教室に詰め込まれていることもよくありましたし、高校はありませんでした。

 

このような状況でも、チャフラは孫娘をできるだけ学校に行かせようと心に決めていました。

農場を経営していた彼女は、子羊や、子牛、若いロバなどの家畜を売って、マリアの小学校の学費に充てることにしました。

 

 

 

2009年、WE Charity(フリー・ザ・チルドレン)による小学校に新しい教室を建設するプロジェクトが始まり、6年生の教室まで出来上がりました。

しかしこの村では小学校の最終学年は6年生です。マリアの卒業もだんだんと近づいて来ました。2013年、マリアが6年生になったとき、チャフラとマリアは高校進学について不安に思うようになりました。

 

資金は限られているし、一番近い高校に行くのに車で30分かかります。この村は町から離れたところにあり、村までの道は曲がりくねった山道なので公共バスも通っていません。

そこで、高校に行かせる余裕のある家庭がお金を出し合って送迎バスを手配しました。

チャフラがマリアの通学のために負担する費用は、月収のおよそ25パーセントを占めていました。それに加えて、制服代、教科書代、一日のお弁当代などがかかるのは言うまでもありません。

村外の高校に通学するのは、あまりにもお金がかかりすぎていました。

 

しかし、十代の少女が学校に行くことを諦めなければならない場合、その先の人生は村の中に限定されてしまいます。

その次の選択肢として、金銭的な保証のため女性たちはまだ幼いうちに結婚を強いられ、十代で妊娠することも多いのです。

 

2013年、WE Charityとのプロジェクトによる小学校の新しい教室の建設が達成できそうな見通しが立ってから、保護者たちは、高校を建設しよう、する必要がある、と決断しました。

小学校だけでは少女たちの将来にとって十分ではなかったのです。

それを理解している女性たち、母親たち、チャフラのような祖母たちが活動の中心となり、高校建設に専念するため数日ごとに普段の仕事を中断し、建設現場でボランティアとして作業を手伝いました。

 

村に学校があったとしても、各家庭にはまだ捻出しなければならない費用があります。

チャフラの家計も苦しくなっていました。

「制服代や教科書代も必要でした。おばあちゃんの負担も何とかできないだろうか。そう考えていたとき、ガールズクラブについて知りました。」とマリアは話しました。

 

 

 

 

2015年、この村で発足したガールズクラブは、経済的に自立することを支援するプログラムで、少女たちが学校教育を受けられるように導き、教育の重要性を啓発することを目的としています。マリアはこのプログラムを通じてアンデス地方で古くからご馳走として食されてきたクイの飼育方法を学び、家族の食費を助けたり、学費の足しにしたりしました。

 

「最初は11匹でしたが繁殖して20匹になり、さらに25匹になりました。」

マリアは、ガールズクラブで活動を始めた時のことを思い出します。高校を卒業するまで頑張りぬくことを祖母と決意し、二人で力を合わせてクイを飼育・販売しました。チャフラは手始めに町の市場にクイを売りに行きました。

初めての試みでしたが、一匹残らずクイを売ることができました。

 

ただ、売りに行くためには一番近い町でも車で30分はかかります。

それよりももっといいやり方はないだろうか、と考えたマリアは、ある計画を思いつきました。

村内で宣伝するのです。

彼女は村の長、PTA会長、校長にお願いし、学校のスピーカーを使用して宣伝することを許可してもらいました。

「私の家でクイを販売しています。大きいサイズで8ドル、小さいサイズで5ドルです。ぜひいらしてください。」とマリアの声がスピーカーを通して響き渡りました。

 

村の至るところからマリアの家の庭にクイを買いに来始めました。

「こうして小さなビジネスを始めました。販売できるクイが揃ったら、スピーカーで宣伝して、お客さんが買いに来てくれ、学費の足しにしていったのです。」

 

 

 

 

以降販売したモルモットの頭数が100匹を超え、そのお金で高校の教科書すべてを賄うことができ、そのおかげで多くの試験に合格し、マリアは今日卒業を迎えます。
教室の中では、マリアがクラスメートたちと卒業証書授与式のステージに立つため列に並んでいます。

マリア・ベレンの名前が呼ばれ、卒業式のガウンと帽子を纏った彼女は歓声と拍手の中ステージに進み、校長先生の方に堂々と歩き、卒業証書を受け取りました。

 

マリアがステージを降りると、祖母のチャフラが待っていて、ここまで歩いて持ってきたプレゼントを手渡しました。

それはアンデス地方の伝統的なスカートで、特別な時のために作られるものです。

この村でそれをもらうことは、マリアが十分に成長した一人の女性として認められたことを意味します。

教育がそれを可能にしたのです。

 

卒業式後の食事会では、家族も集まって卒業生をお祝いし、メインディッシュにはクイもふるまわれました。

マリアの育てたクイもテーブルに並んでいるのを見て、このおめでたい門出の席に、ふさわしいご馳走だと思いました。

マリアの卒業に貢献してくれたのですから。

 

 

(原文記事執筆: KARLOSO FIALLOS   翻訳:翻訳チーム 山本晶子  文責:清田健介)