貧困の「治療」に当たる獣医たち

カナダのクレイグとマークのコラムの紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/veterinarians-in-south-sudan_b_6948066.html?utm_hp_ref=free-the-children

戦禍のスーダンを逃れようとして、多くの人々が隣国の南スーダンに渡りました。難民となったスーダンの人々は飢餓や病に苦しみ、全てを失いました。そんな中で、予期せぬ人々から救いの手が差し伸べられます。その救い主こそ、獣医だったのです。

世界では十億人近くに及ぶ貧困層の人々が、農村部で暮らしているといわれています。農村部に住む貧困層の人々の内、約三人に二人は、何らかの家畜を食糧、あるいは収入源にして暮らしています。先ほどご紹介した南スーダンの難民、あるいは、先日サイクロンPAMで甚大な被害を受けたバヌアツ(太平洋の島国)の農家の人たちをはじめとした、開発途上にある地域に住む人たちにとっては、家畜である動物たちは、「歩く銀行口座」です。家畜が預金であり、生命保険です。家畜を失うということは、全てを失うということなのです。多くの人々が存在にすら気づいていないこの問題の解決に取り組んでいるのが、国境なき獣医師団(VWB)です。

エリン・フレーザーは、世界12カ国にネットワークを持つ、VWBインターナショナルの一員であるVWBカナダの共同設立者で、VWBカナダの専務理事でもあります。フレーザーは、ホンジュラスで若き獣医のインターンとして働いていたときに、開発途上の地域では動物がとても大切な役割を担っていることを学んだといいます。今回は、VWBが南スーダンのMaban Countyで行っている事業や、「開発途上の地域の動物を助けることで、その地域の人々も豊かになれる」という、フレーザーが持っている刺激的な考え方についての話を聞きました。

2013年になった時点で、Maban Countyにはスーダンから来た13万人の難民がいました。この難民と共にやって来たのが、35万匹以上の動物たちです。干ばつや病気の流行などによって、毎週500匹程の動物が死亡していました。彼らの死によって、その家畜の所有者の未来への希望も毎週失われていました。

そんな2013年の後半、VWBがカナダ政府からの財政的な支援を受けて、Maban開発プロジェクトがスタートしました。最初の優先課題は、動物たちの命を守ることでした。家畜で生計を立てている人々は、動物の死によって生活の糧を失うだけでなく、動物の死骸がきっかけとなる健康被害を受けることに可能性もあるため、早急に対処する必要がありました。VWBは、Mabanの四つの主要難民キャンプ、そして都市部で、16万匹の動物を対象にした予防接種や回虫駆除、怪我の治療などを行いました。

もちろん、よそからやって来た獣医にこの地域がずっと頼ることはできません。そこで、VWBは動物の健康管理をする施設をMabanに三つに開設ました。そして、地元の人々に対して訓練を行い、そこから43人のアニマルヘルスワーカーが誕生しました。彼らは動物の一般的な病気や怪我の治療、予防接種などの基礎的な医療行為ができます。このアニマルヘルスワーカーたちは、地元の人たちに動物の健康管理に関して正しい知識を身につけてもらうための啓発活動も行っています。アニマルヘルスワーカーの育成は、その地域の新たな雇用や収入源の創出にもつながっています。

私たちは、動物たちの病気がヒトにも感染することがあるという事実を忘れてしまいがちです。しかし、この過去10年間だけでも、鳥インフルエンザや豚インフルエンザに感染した多くの人々が命を落としています。(開発途上国でも先進国でもです) 開発途上にある地域では、動物と接触する機会も多いので、動物が感染源となっている病気に感染する可能性がより高くなります。Mabanでは鳥インフルエンザや豚インフルエンザに感染するリスクは大変低くなっています。但し、狂犬病のヒトへの感染を防ぐために、VWBが300匹近くの犬を対象にした予防接種を実施したことはあります。

このような事業の成果もあり、Mabanの動物の健康状態は改善されていきました。しかし、たくさんの動物たちのための水や放牧が足りない状態が続いた為、多くの問題を抱えていました。そこで、VWBは二つの食肉処理施設を開設し、家畜を安全且つ衛生的に解体できる人材の育成に取り組み、23人が家畜の解体作業ができるようになりました。(ここでも、新たな雇用が創出されました!) 一定数以上の家畜を所有する家庭に対しては、食肉処理施設が家畜を公平な価格で引き取りました。その結果、家畜の全体量が減少し、地域内での所得が25万ドル増加しました。食肉処理施設では19トンの肉が生産され、食糧難に苦しむ家庭の負担が軽減されました。

食糧の所得増加の他、VWBは地域内での女性の地位の向上のための支援も行っています。Mabanの250人の女性世帯主に対し、鶏の飼育方法の指導を行っています。
開発途上にある地域、特に紛争や災害直後の地域の貧困問題は、様々な問題が絡み合っている中で発生しているといえます。そんな問題を解決するためには、時には独創性と奇妙なアイディアを思いつく能力が必要な時もあるのです。だって、獣医たちが貧困を「治療」できるなんて、普通だったら誰も思いつかないでしょう?

参考リンク
南スーダンの難民キャンプで起きていること
http://jp.icrc.org/2012/09/20/200912southsudan/

バヌアツのサイクロンの被害状況
http://www.huffingtonpost.jp/shuuichi-endou/cyclone-pam_b_6928258.html

(訳者:翻訳チーム 清田健介)