もうすぐ開校!幸せの国ブータンのユニークなロースクール

クレイグとマークのコラムの紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/bhutan-law-school_b_6993082.html

裁判で争ってばかりいる弁護士に「幸せ」なんていう言葉は似合わない? ブータンでは、そんなことはないみたいですよ!

二月、ブータン国王がロースクール(法科大学院)の設立を承認しました。このロースクールは、アジアにある小さなブータンという国で開校する初めてのロースクールになります。この学校はとてもユニークになる予定です。どうしてかというと、この学校は新しいやり方で弁護士を育成し、ブータンを「幸せ」に繁栄させるための人材を送り出そうという「実験」をしようとしているからなのです。ブータンの思い描いている司法制度は、北米とはかなり違うモノなのです。犯罪者を訴追するとか、コーヒーが熱かったからどっかの会社を訴えてやるとかいう司法制度とは違うモノを!(訳者注:訴訟大国のカナダやアメリカではお決まりのジョークです!)

この司法制度改革は、ブータンがここ数十年をかけて少しずつ進めている「絶対王政から21世紀にふさわしい民主主義国家への移行」の一環です。1971年、ブータンの前国王(現国王の父親)が新しい考え方を示したことで経済学の常識を覆しました。それが、「国民総幸福量(GDPならぬGNH!) です。ブータン政府は、社会制度から国家予算まで、全ての政策をこのGNHを軸にして行ってきました。そんな今までのやり方に基づき、今度は新しい司法制度をつくろうとしているという訳です。

歴史的には、ブータンでは王が「法」そのものでした。王の任命した裁判官が、最終的な判断まで全て行っていました。しかし、殆どの軽い問題は各地域内で非公式的に裁かれてきました。村長が仲介役となり判決に近いモノを出してきたのです。(民事、刑事問わず)村長の決断にも、村全体が関わりました。弁護士とか被告とか原告は存在せず、そもそも代理人を立てるという発想もなく、物事が上手く機能していたのです。

ブータンも近代化を進める中で、司法制度を導入し、それに伴いきちんと育成された弁護士や裁判官が必要になりました。国内にロースクールがないので、ブータンの司法での仕事を志す学生は、インドやイギリス、北米のロースクールに留学をすることになります。アメリカ人法学者のペイル教授は、ブータン人留学生が、欧米の伝統的な「原告と被告が敵対し、その闘いの勝者が全てを手に入れる権利を持つ」という考え方を叩き込まれて帰国すると言います。

「ブータン人留学生は、裁判には勝ち組と負け組がいて、裁判に勝つというのは勝ち組が負け組を叩きのめすことだという考え方が前提となっている社会での考え方を叩き込まれます。それはブータン人学生にとって不幸なことです」。(ペイル教授)

ペイル教授は、外国で教育を受けた弁護士は、ブータンの地域の中で育まれてきた「法」を見落としてしまうといいます。その「法」とは、相手同士で争うのではなく、関係の修復を目指し、交渉を通じて和解し、お互いにとって有益なカタチになるようにするというやり方です。このような考え方に基づく地域内の司法制度はカナダの先住民たちの間でもみられます。

ペイル教授は、2013年にブータン政府からユニークなオファーを受けます。「欧米の制度を取り入れつつ、ブータンの地域の考え方を反映させた教育ができるロースクールの設立に協力して欲しい」というモノでした。

そんな経緯も経て開校することになったロースクールでは、従来(欧米)とは全く違うやり方で法を教えます。「欧米では、学生は過去の判例、すなわち原告と被告敵対する事例を重点的に学びます。そうすることで、法で解決するということは争いを通じて解決を図ることだという考え方が学生に刷り込まれていきます。(ペイル教授)

欧米とは対照的に、ブータンでは実践的な経験を重視し、過去の判例に頼るのではなく、学生自らが解決策を見出し、事案を解決させるために様々な選択肢を提示できるようになることを目指しています。例えば、法廷で争う代わりに、和解に持っていくことを目指して努力するといった具合です。そんな弁護士の仕事は、私たちのイメージする弁護士と違い退屈に聞こえるかもしれません。でも、イメージと違って聞こえるのは、ブータンで教えられる法哲学が、従来とは全く違うからです。敵対し、争い、いつも勝ち組がと負け組必要とは、必ずしも言えないのです。

ブータンの弁護士の卵が国民的価値観をしっかりと学べるようにするため、ブータン初のロースクールでは環境法と開発法、そして、持続可能性と繁栄と幸福を社会にもたらすための法の役割を学ぶことが必須となっています。この小さな国が持っている先進的な大事な価値観を学びます。

ブータンのロースクールの校舎も、この国の先進性を反映する場になります。環境に配慮し、効率的なエネルギーを使い、校舎周辺の自然をしっかりと保護した上で校舎の建設が進められます。

学校建設の工事は間もなく始まり、2017年には第一期生が入学する予定です。将来的には、欧米からの学生を迎え、彼らがブータンの法哲学を学べる場になることをペイル教授は願っています。

私たちが住む北米の社会は、メディアやポップカルチャーを通じて、法廷をまるでスポーツのように扱っています。勝者が全てを奪い去り、誰もが他者を負かして自分の利益のことばかり考える..自分以外はみんな敵..それが北米の人々が司法制度に持っているイメージではないでしょうか?

ブータンのロースクールは、私たちの法律に対する考え方を変えるかもしれない、大変画期的な実験です。法律を巡って争う代りに、法律を通じて社会をよりよい場所にするために手を取り合うこともできるのかもしれません。このブータンの実験に、全欧米諸国が目を向け、耳を傾けるべきです!

(訳者:翻訳チーム 清田健介)

参考リンク
国民総幸福量について(ブータン政府観光局日本語版のホームページから)

http://www.travel-to-bhutan.jp/about_bhutan/%e5%9b%bd%e6%b0%91%e7%b7%8f%e5%b9%b8%e7%a6%8f%e9%87%8f

おまけ

ブータン国王が2011年来日の際に国会で行った演説全文

http://news.nicovideo.jp/watch/nw147415