気候変動の問題は人権問題だ!

カナダのクレイグとマークのコラムの紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/climate-change-human-rights_b_7033784.html?utm_hp_ref=free-the-children

イヌイット族(訳者注:カナダの先住民族のひとつ)の活動家であるWatt-Cloutierは、隣人が帰宅しなかった日のことを今でも覚えています。

Nattaqは、Watt-Cloutierの家の目と鼻の先に住んでいました。経験と知識が豊富な狩人で、先祖代々からこの土地で暮らし続けてきました。凍っているような場でも安全に留意しながら狩りをしてきました。(どの時期に安全に狩りができるかも熟知していました。) しかし、2001年の二月、いつもの年であれば充分に氷が張っていて安全なところで、氷が割れて雪上車が水中に急落するという事故が起きたのです。

Nattaqは自力で水中から地上へと這い上がり、救助されるまでの二日間を生き延びました。その間に負った凍傷により、両足を切断せざるを得ない状態になりました。

イヌイット族として長年政治活動を行ってきたWatt-Cloutieは、「この隣人の事故は、気候変動によって環境だけでなく、イヌイット族の基盤となってきた知識や伝統、アイデンティティーが脅かされていることを物語っています」と語ります。

先日、世界中でアースアワーが実施されました。気候変動に立ち向かおうとする世界への支持を簡単に表明できる機会であるということで、カナダでも多くの人が一時間灯りを消して過ごしました。しかし、先ほど紹介したWatt-Cloutieや、アイルランのド元大統領で国連人権高等弁務官を務めたメアリー・ロビンソン等をはじめとする著名人が、「多くの人が気候変動について誤った見方をしている」と言い始めています。「気候変動は単なる環境問題ではなく、人権問題でもあるのではないか」と。

「気候変動によって、教育を受ける権利、文化を継承する権利、健康な生活を営む権利、イヌイット族として生きる権利が脅かされています。」(イヌイット族の活動家、Watt-Cloutie)

Watt-Cloutieは、気候変動をイヌイット族が直面する二度目の外部からの抑圧だと捉えています。カナダがイヌイット族の子どもたちにかつて強制していた宿舎学校での教育(訳者注:日本が戦前に行っていた皇民化教育に制度としては非常に近い)に続き、再び虐げられているのだと。

水温が上昇し、氷が解けているという単純な問題ではありません。多くの人々のかけがえのない土地が、予期できない危機に瀕しているのです。狩りの活動にも影響が出始め、食糧の充分な確保が困難になる事態が既に発生したりもしています。

Watt-Cloutieは、環境の変化でイヌイット族の伝統文化次世代への継承が困難になることも問題として挙げました。なぜならイヌイット族とその土地の環境は、切っても切れない深い関係にあるからです。そのつながりが切れかけていることで、自殺率が上昇するなどの社会的な問題が起きています。「今起きている現象はこれから起こる問題の序の口でしかないでしょうね。」Watt-Cloutieの未来への展望は悲観的です。

国連人権高等弁務官(在任期間は1997年~2002年)として世界の悲惨な出来事を目の当たりにしてきたロビンソン元大統領ですが、気候変動の世界での深刻さを考えると安心して眠ることもできないといいます。

「2050年までに、二億人もの人が気候変動で住む場所を奪われてしまうかもしれないということを考えると、目が覚めてしまうのです。(ロビンソン元大統領)

「クライメート・ジャスティス」という名前の財団も運営しているロビンソン元大統領は、最近、世界中の開発途上にある地域で何度も同じような内容の話を聞くようになったといいます。イヌイット族と同じように、昔からの言い伝えが当てにならなくなり、天候、干ばつ、雨の降り方まで昔と変わり、いつ種や苗をたり、収穫して良いのかさえ気候が変わっていているせいで予測することができないと。

一方、国連が先日出した報告によれば、2030年(今からわずか15年後です!) には、世界の6割の人々しか地球の清潔で新鮮な水を飲めなくなってしまうと現時点では見込まれているそうです。

ロビンソン元大統領は、気候変動によって基本的人権(きちんと食べる権利や清潔な水を飲む権利)が侵されることになれば、その動きは他の権利にも波及してくるだろうといいます。そのひとつが、女性の権利の問題です。「貧困による影響を最も受けているのは誰でしょうか?その答えは女性です。アフリカの七割の農家は女性なのです。日照りが深刻な時であろうがなんであろうが、家庭の食卓に食べ物を置かなくてはならないという役目を担わされています。日照りで水がなければ遠くまで探しに行かなければなりません。」(ロビンソン元大統領)

これだけの状況証拠が揃っているにもかかわらず、なぜ世界はこの問題に対してその場しのぎの対策しか打っていないのでしょうか?

もしかすると、私たちは今までこの問題をあまりに視野の狭い範囲でこの問題について考えていったにかもしれません。『地球を守ろう!』とか、『ホッキョクグマを守ろう!』という言葉に隠れて。

今私たちがやるべきことは、自分たちを守るためにこの問題に取り組むという意識を持つことです。飢餓から、格差から、私たちを守らなければなりません。失われるかもしれない危機にある、文化的な伝統や知識によって蓄積され続けてきた豊かな富とその営みを守らなければなりません。

気候変動との闘いは、人権を守るための闘いなのです!

参考リンク

日本でも行われたアースアワー

http://www.huffingtonpost.jp/wwf-japan/global-warming_b_6963312.html

クライメート・ジャスティスとは?

http://www.foejapan.org/climate/justice/whats_1.html

深刻化する水不足

http://www.focus-asia.com/socioeconomy/economy/412896/

気候変動と飢餓の密接な関係

http://ja.wfp.org/news/stories/11-20

(訳者:翻訳チーム 清田健介)