#BringBackOurGirlsの一年に見る、クリックティビズムの限界

カナダのクレイグとマークのコラムです。

一年前の今頃、世界はナイジェリアと共に立ち上がっていました。「私たちの少女を返して」と。あれから一年経った今、実際には誰一人少女たちが帰ってくる気配はありません。

殆どのカナダ人は、一年前までボコ・ハラム(ナイジェリアのイスラム過激派の武装集団。暴力的なやり方で西洋式の教育と文化に対する反対運動を行っている)の名前すら知りませんでした。しかし、彼らがナイジェリアのチボクで270人の女子生徒を拉致した後、ボコ・ハラムは世界中で話題になりました。その名を知らない人を探すのが今では難しくなった程です。

憤ったナイジェリア人たちは、ソーシャルメディア上で、#BringBackOurGirls(私たちの少女を返して)というハッシュタグを使って運動を始めました。このハッシュタグは世界中に広まり、300万件以上リツイートされました。アメリカのミシェル・オバマ大統領夫人も、このハッシュタグが書かれたプラカードを持った写真を投稿したりしていました。

しかし、それから一年後の今、#BringBackOurGirlsは何を達成したのでしょうか?少女たちは家には帰ってきませんでした。一部の報道などでは、57人の少女が監禁場所から脱走したとの情報もありますが、大多数の生徒は監禁されたままのようです。児童でありながら花嫁(または性奴隷)として売られていった生徒もいるようです。最近では、「少女たちは亡くなっているかもしれないということを示す証拠が出てきている」と発言した国連の高官もいます。悲しいことに、#BringBackOurGirlsは、クリックティビズム(ネットを通じて社会を良くしようとする活動)の限界を示す事例になってしまったと言わざるを得ません。

ソーシャルメディアは、社会問題を解決したい人や、それを応援したいと思っている人たちをつなぐ、心強い(もう「欠かせない」という言葉の方が良いかもしれませんね)ツールになってきました。しかし、団体(企業、NPO/NGO含めて)や活動家たちは、ただ単純に新しいハッシュタグを作ったり、動画を作って拡散されることを期待するだけでは不充分だということを学ばなくてはならないと思います。私たちが世界を変えるためにソーシャルメディアを使うときは、一度クリックしてくれた人にも注目してもらえるようなるために、そして何より、ハッシュタグがツイッターのトレンドから外れた後でも引き続き注目して行動を起こしてもらえるようにするために、対策を練るということが絶対に必要です。

#BringBackOurGirlsは、最初はこの少女たちの危機を無視しようとする姿勢が強かったナイジェリア政府に対して、国際的な圧力をかけるための起爆剤になったのではないかという人もいます。ナイジェリアのムハンマド・ブハリ次期大統領も、選挙期間中に少女の救出を公約にしていました。このような政治的な変化をもたらしたという事実は、ソーシャルメディア上の運動の強みが発揮された好例だと思います。 つまり、世の中の問題をこれまでとは比べモノにならない規模で世界中の人に伝えることができるのです。もし、このボコ・ハラムによる少女たちの誘拐が20年前に起こって、紙で署名運動をしたら、どれぐらいの数の署名が集まっていたでしょうか?恐らく、300万件まで集まることはなかったと思います。

大勢の人に知らせることができたら、次はどうすればいいのでしょうか?少し前に、署名サイトのAvaazと、Change.orgの代表者の方とお会いする機会があったのですが、両サイトの方が同じことを言っていました。「ネット上の運動を効果的にするには、リアル(現実世界)での運動を並行してやる必要がある」ということを。政府の高官に手紙を送ったり、支援者が集まって会合を開いたり、人の目に付くような場所でデモを行ったり..でも、問題は、現時点でどれぐらいネット上での社会運動が「リアルな社会運動」になっているのかということだと思います。

昨年、アメリカの広告会社が、1200人のアメリカ人を対象に、ネット上での社会運動や活動に関するアンケート調査を行いました。一見すると、その調査結果はとても良いモノに見えます。アンケート回答者の64%が、社会問題を扱うフェイスブックページやツイッターアカウントを「いいね!」や「フォロー」をしたことがあり、ボランティアや寄付などもしてみたいと回答しました。

しかし、そのアンケート調査からは、実際に寄付行為をしたりする人は、時期や季節を問わずとても少ないことも明らかになっています。回答者の70%が、社会問題や環境問題にどのような良い変化が起こせるかを調べるために何らかのデジタル媒体を使っているとしながらも、実際に何かして変化を起こしているとした回答者は25%に留まりました。

そして、これは今更言うまでもありませんが、ソーシャルメディアで一つの話題が注目をされている期間は、金魚の寿命とたいして違わないということも忘れてはなりません。#BringBackOurGirlsは春の間はツイッターのトレンドになっていたものの、夏までには他の話題のトレンドで埋め尽くされ、#BringBackOurGirlsは姿を消していました。昨年の十月、ナイジェリアの活動家たちは、ナイジェリアで誘拐されたままになっている少女たちを思い、世界規模で行動を起こそうとしましたが、国際的な報道機関で取り上げられることは殆どなく、ソーシャルメディア上で話題になることもありませんでした。

四月には、誘拐された少女たちについて世界が忘れていないという意思を示すために、各地で行進が企画されました。行進に参加することができなくても、マララ財団のような女子教育の推進活動を行っている団体に寄付することもできます。

ソーシャルメディアの登場で、私たちは大事な社会の問題についての発信もこれまでとよりもずっと多くの人にできるようになりました。ナイジェリアのチボクで誘拐された少女たちは、過激主義の被害者になりましたが、このままだと「チボクの少女たちはネット上の意識高い系が起こした祭りの被害者にもなった」と言われるようになってしまっても仕方がないような気がします。変化を起こしたいのであれば、クリックだけでは不充分ですよ!

参考リンク

少女誘拐と#BringBackOurGirlsの背景
http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2015_0414.html

http://www.huffingtonpost.jp/2014/05/10/malala-bring-back-our-girls_n_5302600.html

ナイジェリアの政治的な状況
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/page4_001098.html

http://jp.wsj.com/articles/SB12112543374486784702504580563152139200856

http://www.sankei.com/world/news/150414/wor1504140040-n1.html

ソーシャルメディアで社会は変わるか?

http://scienceportal.jst.go.jp/columns/highlight/20130131_01.html(肯定的な意見)

http://ent.smt.docomo.ne.jp/article/14189(どちらかというと否定的な意見)

マララ財団

http://www.malala.org/