画面の中や舞台上からこぼれ落ちてしまっている、私たちの『多様性』
クレイグとマークのコラムの紹介です。
http://we.org/we-at-school/we-schools/columns/living-we/looking-mirror-diversity-lacking-watch/
若き役者の卵として、ローン・カーディナルはシェイクスピ
アの戯曲を演じたいという夢を持っていました。しかし、そ
んな野心的な若者に対する先輩の役者の反応は冷淡なモノで
した。「先住民に、先住民ではない役柄を演じる機会なんて与
えられないことを彼は知らないらしい」と..
カーディナルは、今、こうふりかえります。「先輩たちは正し
かった。先住民としての役柄を演じることしかできず、自分
がリア王を演じるようなことなんてなかった」と..
カナダではコメディー俳優として活躍し、ハリウッドのアニ
メ映画『 オープン・シーズン4 おおかみ男とひみつの森』
では声優も務めたカーディナルは、先住民として初めてアル
バータ大学の演劇科を卒業して以来の25年間、多様性が欠如
したカナダの芸能界でもがき続けてきました。俳優として、
映画監督として(舞台演出家としても)、舞台やスクリーンで
先住民が演じられる機会を少しでも増やそうと努力してきました。
芸能分野に於ける多様性に関する議論は、今年の二月、アカ
デミー賞に一人も非白人の演者がノミネートされなかったこ
とに対する批判が噴出したこともあり、 まさに「炎上」し
ていた状態でした。#OscarsSoWhite (アカデミー賞は真っ白)
のハッシュタグが広まって議論が巻き起こっていた頃、カナダ
の国立芸術センターと、カナダ国立映画制作庁では、多様性の
問題に取り組んでいくという指針を発表していました。
多様性の問題に芸能界が取り組むことは非常に重要です。子
どもにとって、自己肯定感を形成する上で芸能が与える影響
はとても大きいからです。また、芸能界の側からみても、将
来的に業界を発展させていくためにも、多様な客層にアピー
ルするために多様性の問題に取り組むことが不可欠です。
映画やテレビの画面上に於ける多様性の欠如が、どれほど子
どもたちに大きな影響を与えているかを調べた、興味深い研
究があります。2012年、インディアナ大学の研究者たちは、
400人の子どもたち(9歳~12歳前後)を対象に調査を行いまし
た。調査で子どもたちに聞いた質問は、テレビの視聴時間と、
自己肯定感を持っているかどうかについてでした。その調査結
果は驚くべきモノでした。白人の女の子と非白人の子どもたち
(性別問わず)には、テレビの視聴が長ければ長くなるほど、自
己肯定感が低下するという相関関係がはっきりと出たのです。
なぜかというと、女の子や非白人の子どもたちが、テレビの
中から自分たちのお手本となるロールモデルを、主役級の役
柄で見つけられることが少ないからです。それとは対照的に、
主役級の役柄を演じている白人男性がテレビの画面上にはたく
さんいるので、テレビの視聴が長ければ長くなるほど、白人の
男の子の自己肯定感は上昇するという調査結果が出ています。
このような状況があるからこそ、カナダ国立映画制作庁が行
おうとしている取り組みは重要なのです。カナダ国立映画制
作庁は、今後の三年間、財政的な支援を行う映画監督の内、
少なくとも支援対象者の半数は女性の映画監督にするという
ことを発表しました。これは、事実上男性社会となっている
映画業界で女性の存在感を高めていくための素晴らしい試み
だと思います。
国立芸術センターも、似たような取り組みを新たに発表しま
した。今後の三年間で、先住民の演劇部門を新たに設立し、
カナダの公用語である英語とフランス語の演劇部門と同額の
予算をつけて支援事業などを行っていくというモノです。
カーディナルは、このような新たな取り組みを賞賛しつつ、
舞台や放送業界でよくある「人種や民族で出演する舞台やテ
レビが分かれている実態」(例えば、カナダの「先住民向けの
テレビ局にしか先住民の俳優が出ていない状況など)を是正し
ていくべきだと言います。一般的な舞台や、映画の中で様々な
背景を持った役柄を見ることは、子どもたちに強力なメッセー
ジを送ることになると、カーディナルは信じているのです。
「誰もが見るような作品の中で、先住民の役柄を見ることは、
先住民の子どもたちにとってとても重要です。彼らに希望を与
え、自分たちにもチャンスがあるんだと、作品を通じて実感し
てもらうことができるからです。」(ローン・カーディナル)
今の子どもたちは、多文化主義的な環境で育ち、男女平等の
考え方が根付いている世代です。彼らのそのような状況が反
映されているようなエンターテイメント作品を、彼らは見た
がっています。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は、女性のレイと、ア
フリカ系アメリカ人のフィンを主役級の役柄にしたことで、大
きな注目を集めました。私たちの友人は、娘さんとこの映画を
見に行ったそうで、「強い女性主人公を見せることができた」
と話していました。私たちが最近ロサンゼルスで開催したWE
Dayでは、インド系カナダ人のユーチューバー、リリー・シン
が会場を盛り上げてくれました。彼女の人気ぶりは、ハリウッ
ドスター顔負けです。
性別や民族を問わず、全ての子どもたちが自己肯定感を持て
るようになるためには、彼らのお手本となるような存在と出
会い、「自分たちも社会の一員として、価値がある存在なん
だ」という実感を持てるようになることが必要です。
リア王であれ、遥か彼方の銀河系で活躍するジェダイであれ、
舞台上やスクリーンの中を、私たちの社会が持つ素晴らしい多
様性で満たしてみませんか?
参考リンク
批判を受けた今年のアカデミー賞
http://www.jctv.co.jp/sociallikers/sns/1406/
インディアナ大学の研究(英語)
http://www.racebending.com/v4/blog/study-examines-television-diversity-self-esteem/
カナダ国立映画制作庁の試み(英語)
http://www.huffingtonpost.ca/2016/03/09/national-film-board-of-canada-gender-equality_n_9419892.html
カナダ国立芸術センターの試み(英語)
「フォースの覚醒」への批評(多様性を重視したキャスティングにも言及)
http://eiga.com/movie/78626/critic/
リリー・シンを紹介した過去の記事
おまけ
スター・ウォーズ旧三部作で、レイア姫以外の女性キャラクターが話しているシーンを調べてみたら..(続きは下記のリンクで!)
https://www.youtube.com/watch?v=ODgwL7DJ9dY
俳優のローン・カーディナル:画像出典http://d13b0lbl16ld7z.cloudfront.net/wp-content/uploads/2016/04/Gv-April.23-Secondary.pdf