難民として生きているのは、今注目されているシリアの人たちだけじゃない!

カナダのクレイグとマークのコラムの紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/global-refugee-crisis-syria_b_8153996.html

十四歳の少年、Abdibasiは、2008年にソマリアのモガディシュで起こった航ミサイルの爆撃によって命を奪われた父親と兄弟との突然の別れの直後から今に至るまで、言葉を発することができない状態が続いています。爆撃が発生してからは、Abdibasiはケニアのダダーブにある世界最大の難民キャンプで暮らしています。十四年間の人生の半分以上を、難民として生きてきました。

息子のことで葛藤しているAbdibasiの母親は、息子が抱えている重度のPTSDをなんとかしたいと思っても、難民キャンプで受けられる支援はほんのわずかであるという現状を、カナダ人ジャーナリストに訴えています。AbdibasiのPTSDは回復の兆しを見せていた時期もありましたが、2012年に起こったテロ攻撃で、Abdibasiの心は再び砕かれてしまったのです。

これまで、何千人もの子どもたちが、ダダーブの難民キャンプで生まれ育ちました。その子どもたちは、難民以外の人生を知りません。テント以外の家を知りません。このままだと、「残念だけど、難民がこの世界からいなくなることなんてあり得ないんだよ」と、来年で25周年を迎えるこの難民キャンプの歴史のささやきが聞こえてきそうです。

海岸に打ち上げられて、穏やかに眠るような表情をしていたアラン・クルディ君の遺体の写真は、人々が国の違いを超えて、地球の各地でシリア人難民を助けようという機運をつくるきっかけになりました。しかし、シリア人難民の数が四百万人とたくさんいることが大変なのは間違いありませんが、それでもシリア人難民の数は、世界に二千万人近くいる難民の、五分の一程度占めるにしか過ぎないという見方ができるのもまた事実です。今の世界の難民の数は、第二次世界大戦以降最多となっています。先ほど紹介した、Abdibasiとその母親が世界の見出しを飾ることはありませんが、彼らの置かれている状況も過酷で支援が必要であるということは、シリア人の難民の人たちと何も変わりません。

今は多くのカナダ人たちが、「シリア人難民を迎えよう」「シリアのために寄付をしよう」と意気込んでいますが、他にも絶対に無視してはいけない難民の人たちがいるということを、これから紹介します。

①サハラ砂漠以南のアフリカ
2011年の今頃、私たちはダダーブで新たな生活を始めることを望んでいるソマリア人父親についてコラムで書いていました。ダダーブに入るために並んでいた父親は、八歳の息子の手をしっかりと握りながら、「妻と他の三人の子どもは、ここにたどり着くまでに生き延びることができなかった。ソマリアとダダーブの国境沿いに作った小さな墓で今は眠っている」と私たちに語ってくれていました。

ダダーブの広大な難民キャンプには、35万人が暮らしています。キャンプで生活している難民の大半がソマリア人で、「屋根のない刑務所」といわれています。2006年からキャンプを取材しているジャーナリストは「この9年間で状況はほとんど変わっていない」といいます。

資金不足に陥っている世界食糧計画は、ダダーブへの食糧支援を今年の夏から縮小せざるを得ませんでした。

暴力的な争いが続く南スーダン、ソマリア、中央アフリカ共和国の三か国では、合計で300万人以上が難民となっています。これら三か国の難民は、ケニア、エチオピア、スーダン、ウガンダといった国々で難民生活を送っています。

②アフガニスタン
20011年に紛争がシリアで始まるまで、最も深刻な難民問題を抱えていた国はアフガニスタンでした。2001年のタリバン政権の崩壊をきっかけに紛争が激化し、500万人が難民となりました。その後、難民となっていた多くの人々が帰還していますが、今でもパキスタンで165万人、パキスタンでは95万人のアフガニスタン人が難民として暮らしていることを国連は把握しています。イランでは、難民の彼らが政府からの迫害を受けたりもしています。パキスタンでは、暴力的なタリバンから攻撃を受けることもあります。

過酷な状況から抜け出すために、多くのアフガニスタン人が飛行機でインドネシアへと逃れました。そうしてインドネシアに逃れた難民たちが、悪意ある人身売買のブローカーに言われるがまま、ボートに乗ってインド洋を超えてオーストラリアを目指そうとする人も少なくありません。

③東南アジア
海を渡ろうとするアフガニスタン人の難民たちは、命がけの船旅をする中で、スリランカで多数派となっているシンハラ人からの迫害を逃れようとしているタミル人や、ビルマで起こっている内戦や、極悪な軍事政権から逃れようとしているビルマ人たちと、過酷な船旅を共にすることがあります。現在、20万人以上のタミル人が、インドやネパールで難民として暮らしています。タイの難民キャンプでは、12万人以上のビルマ人が暮らしています。国連の推定によれば、今年初めの三ヶ月間の間に、東南アジアの港を目指していた難民の人たちが、300人東南アジア内の海上で亡くなっています。

④イエメン
シリアからも近いイエメンからは、大勢の人々が内戦や、サウジアラビア軍がイエメンで行っている空爆を逃れようとして、アデン湾を越えてソマリアやジブチへ逃げようとしています。

⑤パレスチナ人
大勢のパレスチナ人が今も中東各地にある難民キャンプで暮らしています。中には1950年代から運営を続けているキャンプもあり、キャンプ内で「難民三世」として暮らしている人もいます。

冒頭で紹介したAbdibasiは、マスコミ受けするような悲劇的な結末を迎えて亡くなった訳ではなく、今も生きています。しかし、彼は言葉を失ったまま、過酷な現状の中にいる人が集う難民キャンプという場で、ひっそりと生きています。そして、世界の大多数の人は、Abdibasiのことを気にしていません。「何かしらの悲劇が起きない限り、人々がこのような問題に目を向けることはないのか?と聞かれれば、残念ながら悲劇が起きて初めて人々の注目が集まるという面はあると言わざるを得ません」Abdibasiを取材したジャーナリストはこう私たちに語ります。

そもそも、少年が海岸でどうして亡くなっていたといえば、それは世界がシリアの難民問題をずっと無視してきたからです。今注目したところで、このアラン君が帰ってくることはないのです。もう彼にとっては手遅れだったのです。私たちは、自分たちが他の人に手を差し伸べるようになるまでに、もっと多くの子どもたちを犠牲にして死なせるとでもいうのでしょうか?本当にそれで良いのでしょうか?

参考リンク

注目がようやく集まったシリア難民問題
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kimuramasato/20150905-00049210/

戦後最大といわれている難民の数
http://jp.wsj.com/articles/SB12208919310003153678304581056802282432450

ダダーブに関する過去のコラム(英語)
http://www.freethechildren.com/2011/09/dont_forget_about_dadaab/
「屋根のない刑務所」ともいわれるダダーブの難民キャンプの状況

http://meanwhile-in-africa.hatenablog.com/entry/2015/06/21/002932

イランに住むアフガン難民の状況
https://www.hrw.org/node/265849

パキスタンのアフガニスタン難民
http://www.ide.go.jp/Japanese/Serial/Photoessay/200709.html

スリランカで難民が出る要因となっている内戦について

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol40/

ミャンマーとタイの国境の(本文ではビルマ)の難民キャンプ
http://sva.or.jp/activity/oversea/brc/background.html

サウジラビアの攻撃や内戦で増加するイエメンの難民
http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/53823-%E5%9B%BD%E9%80%A3%E3%80%81%E3%80%8C%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%81%AE%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%A1%E3%83%B3%E6%94%BB%E6%92%83%E3%81%A7%E3%80%81%EF%BC%91%EF%BC%92%E4%B8%87%E4%BA%BA%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%81%8C%E9%9B%A3%E6%B0%91%E5%8C%96%E3%80%8D

長期化するパレスチナ人の難民生活
http://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2015/05/0515.html

※、本文で「ビルマ」と表記されている国は、日本では正式には「ミャンマー」と呼ばれています。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/

この名称は、ミャンマーで軍事政権が発足した際、軍事政権によって「ビルマ」から「ミャンマー」と変更されたことに由来しています。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mutsujishoji/20130113-00023048/

カナダ政府は、この軍事政権を正当な政府として承認していないため、現在も「ビルマ」の名称を使っています。
http://www.canadainternational.gc.ca/burma-birmanie/index.aspx?lang=eng

クレイグとマークも、このようなカナダ社会の背景を受けて「ビルマ」と表記していると思われます。いろいろと議論のある問題ではありますが、原文の意図を今回は尊重致ました。ご理解頂けますと幸いです。

(訳者 翻訳チーム 清田健介)