荒廃したカカオ園の復活を目指して

WE Charity(フリー・ザ・チルドレン)が運営するエクアドルの農業研修センター。今回は、この施設で行われている「カカオ研修」についてご紹介します!(清田)
https://www.we.org/en-CA/we-stories/global-development/cacao-farm-ecuador-rainforest-agricultural-training

 

 

 

愛と信頼
Melquiades Coelloは、昼メロのようなドラマ性と筋立てを持たせて、カカオ農業の話をします。カカオの木を思わせながら、彼は言います。

「みなさんが新しい恋人に出会った時には、恋に落ちる前に、恋人のことを知る必要がありますね。ロマンスの場合も農業の場合も、鍵となる要素は一緒です。」と。

それは、“Amor y fe,”つまり、「愛と信頼」です。

 

 

 

 

 

 

彼の話を聞いている聴衆であるエクアドルのアマゾン川流域から来た小規模農家の一団は、声を上げてくすくす笑います。

それから、真顔になったCoelloは、とても真剣になり、彼らの物知り顔の笑いを抑えます。

この一団は、WE Charityによる農業研修センター(ALC)でのカカオ研修開会式に臨んでいます。

というのは、彼らの畑には、多くの注意を払う必要のあるこれからの恋人たち(カカオの木)で一杯だからです。

参加者の1人、Flora Andyは、十分な果実生産に失敗して、自分のカカオ園を荒らしてしまい、それ以来、再開のための融資は受けましたが、再開に必要な知識・技術を持っていません。

同じく、Neptali Shiguangoのカカオの木は、花は着けるが、実がならないので、このALCでの研修を受ける前には、畑を整理するつもりでした。

6ヶ月の研修コース期間中、AndyやShinguango他、約100名の農家は、適切に管理されずに枯れていっている自分たちのカカオの木を守る戦いにあたって、Coelloの知識を学び取ろうとしています。

ALCの主任インストラクターであるCoelloは、農村部では「カカオエンジニア」として有名です。

また、軽妙な比喩にもかかわらず、彼の仕事ぶりはまじめです。地方の農家の生活は、エクアドルが世界のチョコレート市場に占める規模の小ささを反映して、厳しい状況にあります。

 

Coelloは、通訳を通じて、「これは、彼らにとって人生初の機会です」と、言います。

2017年以来、彼とALCのチームは、最先端の教室を建設したり、技術を培う機会を提供し、生活の向上を図るために、地域農家との信頼を醸成しながら、仕事を続けてきました。

43歳の彼は、子どもの頃から、実家のカカオを育ててきました。

当時、父親は、彼に300本のカカオの木を与え、収穫物から得た金で学校を卒業するようにと、言ったのです。

カカオ栽培は、農家生き残りの手段になり、さらには世界市場の一端を担い得ます。

 

2024年までに、世界のチョコレート市場は、1610億ドルに達すると報じられています。

世界のお菓子好きを満足させるために求められているのは、一旦、発酵させ、乾燥させたカカオ豆です。

 

 

 

 

 

 

 

エクアドルは、かっては世界最大のカカオ輸出国でした。

しかし、後に、イギリス人、スペイン人入植者たちが、植物病害や海外の作物を持ち込んだのです。

数世紀に渡る植民地支配は、農村部の先住民家族から、好適な土壌のある区域、市場への出荷体制、正規の農業研修を受ける機会などを奪い、当時は、なじみのない作物であった大量のカカオの木を農民たちに残したのです。

儲かる換金作物であったものが、今は、とりあえずの生き残り手段になっています。

もし、このカカオの木が、早急に、実を着けないと、農家は絶望から抜け出せません。

農民は、自分たちの土地、コミュニティを離れ、犯罪に訴えることさえありますと、Coelloは言います。

アフリカのアイボリーコーストやガーナが、有名ブランドのチョコレート菓子向けに大規模な栽培をし、世界のカカオ生産をリードしています。

でも、エクアドルのカカオには、熱心に支持するファンがいます。

この国の独自品種Fino de Aromaは、深みのある香味と残り香で評価が高く、安物の豆があふれる市場では、希少性があります。

エクアドルのカカオは最高だと評価するチョコレート愛好者の支持を受けており、より高値で売れます。

ナポ川沿いの区域を持つ農民の多くは、Fino de Aroma種を含む、カカオ園を引き継いでいます。Coelloが指導する生徒たちの多くは、荒れたカカオ園を放置していますが、もし、栽培管理法を学べば、それらのカカオ園は金脈に変わるかもしれません。

 

迷信と伝統

カカオの植え付け間隔、潅漑、適切な遮光度に関する講義の後、

Coelloは、質問を受けます。すると、1人の女性、Clemencia Chimboが、手を挙げて言います。「私たちは、生理中に、農園に入れますか?」と。

 

 

 

 

 

聞こえるようなざわめきが、一団から起こります。

地方の古老の間には、女性の月のものは、作物の生育を妨げるという強い思いこみがあります。

経血が不作の原因だと、非難されるかもしれません。

Coelloは、ため息をついて、「それは、ただの迷信です。」と、言います。

 

「あなたが、枝を切ったり、肥料を施せば、大きな違いを生じます。でも、生理では何の違いも起こしません。」

彼は、教室内の女性と男性の比率が、ほぼ同じであることを指摘して、ある実験を監督者に提案します。

全員が、その日のうちにALCの農場に入り、指導の課程で何度も農場に入ります。

その意味するところは明らかで、統計的に言えば、間違いなく、私たちがいる間に何度か月経周期があり、これから6回はあることでしょう。

6ヶ月間、みなさんは、カカオの状態を見ることになります。

みなさんは、古老の言うことが迷信だと言うことを証明することでしょうと、Coelloは言います。

彼の最大の難事は、生徒たちに今までの誤った知識を改めさせることだと思われます。

地方の言い伝えや時代遅れの農法が、多世代にわたって最初にあります。

 

Raul Alvaresが、立ち上がって、発言します。

少年時代に、彼は父親と、カカオの植え付けを行いましたが、それはほとんど成長しませんでした。

現在、54歳になる彼の悩みは、妻と11人の子供たちのための収入を稼ぐことです。

彼は、父親のやった失敗を繰り返したくはありません。

「私たちは農家ですが、研修なしでは目が見えないのと同じです」と、彼は言います。

 

Venancio Aguinda、55歳は、3年間カカオ園に資金を投入してきましたが、未だに実を着けていません。「私たちは、浪費し続けています」と、彼は言います。

24歳のJose Andiは、母親から1/4ヘクタールの土地を相続しました。そこは草木が茂りすぎ、“remontado.”の状態ですと、彼は言います。

彼は、ジャングル状態の畑を耕して、カカオを植えたいと思っています。

 

その日の午後、研修グループは、教室を出て、実習場所であるナポ川の土手沿いにある約70ヘクタールの農場に向かいます。

この野外実習が、ALCをユニークにしているものです。

地方農家の多くは、学校や地方農業に独自の既得権を持つ公的あるいは企業的プログラムのいずれかで、すでに何らかの形でのカカオ栽培研修を受けています。

にもかかわらず、こういった研修グループは、実際に植物をどう扱うかを示してくれる指導者に出会うことがありませんでした。

学校でのプログラムを受けたAndiによれば、「私たちが受けたのは、教室での講義だけでした」。ヨーロッパのあるチョコレート会社が運営するAguindaによる以前のクラスでは、健康に良いカカオについてのビデオを見せられただけでした

 

Coelloのたとえを借りると、これは、頭だけの遠距離恋愛に相当するものです。「恋人をよく知るためには、みなさんはその人と一緒の時間を過ごさねばなりません」。

 

 

 

 

せん定は、指導要領での最初の実践的なレッスンです。

農民たちは、1列に並んで、せん定用手ばさみを借り受けます。

この必需品の道具は、バラを扱う都市郊外の庭師からたやすく譲り受けました。多くの農家は、前の世代から引き継いだ一家のカカオ園を持っているのですが、必要な道具さえ揃えていません。

農民は、母なる自然に任せ、枝が空に向かって野放図に伸び、互いの葉が密集しているのをそのままにしています。

これが、一番の問題ですと、Coelloは言います。この状態を放任すると、カカオの木の密集した葉が、革質の細長いさやの形で枝にぶら下がっている果実にあたる光を遮ってしまいます。

植物の成長を放任するのは、樹木仕立の上では大きな間違いです。

カカオの木は、日本の盆栽のように、成長を抑える仕立てを必要とします。

ジャングルを抜けて行くと、農民たちは、実証圃場を一目見て、口をあんぐりと開けて、その場に立ち尽くし、耕され、適度にせん定されたカカオの木を見つめます。

それらは、生い茂り、光沢のある緑色のジャングルの中で、まるで、エイリアンです。

今後数ヶ月のうちに、農民たちは、自分たちの収穫を犠牲にすることなく、これらの見本を元に新しい技術を実践するでしょう。

 

農民は、おのおの、ランダムに指定された4株のカカオを受け持ちます。

その中には、政府奨励品種であるCCN51も含まれます。この品種は、奨励プログラムの一環として、多くが彼らの畑で育てられました。

このGMO(遺伝子組み換え作物のカカオ)は、大規模な生産割当が予定されている多収穫品種です。

これは、この地域でもっとも普及しているカカオ豆で、他の品種より温度の影響を受け難く、忠実な恋人でもあり、なじみのあるパートナーでもあります。

 

エクアドルの国登録品種であるFino de Aromaも割り当てられ、栽培の後期には、より念入りな管理を必要とするので、最終的には別途の研修を受けます。

長期にわたるALCプランは、研修生たちが、より洗練された作物、つまり、より手の込んだ、細かい栽培技術を要するカカオとの関係に慣れるのを支援するものです。

それは、収益が増えることでもあります。今のところ、失敗の許されない小さな畑でカカオ豆を植え替えるのは、リスクが大きすぎます。

農家は、まだほとんどが、今ある大量のカカオに頼っています。一番大事なのは、彼らの知識と経験を取り上げてしまわないことです。

科学的知見の活用とそれに対する懐疑主義

Coelloは、乱暴にみえるほどの勢いでカカオの木を切ったり、引っ張ったりして、彼と見学者の間の地面に、切り取った枝を積み上げます。

それから、彼は、農民に自分でやってみるようにと言います。

CoelloとALCチーム全員は、過去2年間、教室にする土地の開墾、実習圃場の耕耘、地元の人々との研修プログラムというアイデアのきっかけ作り、カリキュラムの作成など、農民の生活の質の向上を支援するためのあらゆることをやってきました。

今や、Coelloたちができることは、見守ることだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

近くの木の枝の叉のところにいるのは、Clemencia Chimboです。彼女は、せん定ばさみの刃で枝を挟んでいます。

両手を使っても、彼女はそれを切ることができず、焦っているのが目に見えます。

彼女は、いくつかの理由で気弱になっています。でも、木の中にいる不快感、扱いにくい枝、Coelloの注意深い視線は、ほとんど気にならないようです。

 

 彼女は、なぜ、村の古老が、生理の期間中は畑に入らないようにと言ったのか分かりませんが、その結果を恐れています。「すべてがだめになる」と、彼女は言いますが、そのわけは分かりません。

怖くなって、彼女は、下から枝を調べるために地面に飛び降ります。
 彼女は、Coelloが言いうように、それは迷信だということを納得しているのでしょうか。Coelloが、姿勢を正して、視線を向けると、Chimboは、顔をゆがませて、下を向いてしまいました。少し間をおいて、彼女は肩をすくめ、手短に答えます。
 

Chimboは53歳ですので、数十年ということになりますが、彼女が信頼を置く人はみんな、生理の害悪についてずっと警告していました。

 

自分のカカオ園は、実を着けませんが、なぜなのか分からないのです。彼女の体が悪影響を及ぼしているかもしれません。

まだそれほど身近な人というわけではないCoelloが、彼女の農家仲間や信頼を置くお年寄りは、間違っていると、言っていますが、そう簡単に、今までの考えを捨てていいものでしょうか。

 

ALCでは、伝統農法と新しい農業科学とのバランスが、とてもデリケートな問題になるでしょう。

 

ALCが、荒れたカカオ園を復活させ、この国のカカオとの以前のロマンスを再燃させることができるという研修プログラムについてのうわさから始まって、新しい伝統を創り出すことを、Coelloは、願っています。

Coelloは、格言の一つに目を向け、「La mejor publicidad es la envidia,」、つまり、羨望ほど良い評判はない、と言います。

 

 

 

彼の生徒たちが、自分たちのカカオ園を地図に載せるには長い道のりを要します。

しかし、一方で、エクアドルは、高級なカカオ豆という銘柄の産地としての地位を築きつつあります。

適切なタイミングと技術で、ナポ川沿いの地域の小規模農家は、拡大するグルメチョコレートマーケットの需要、産地のトレーサビリティや自作農への要望の高まりから、優位な立場を獲得できるかもしれません。

生徒と同様、Coelloも、成功の秘訣は何かということは知ってはいても、忍耐をもって、ゆっくりと、苦心しながら農民たちの慣習を変えていかねばなりません。。

 

「愛と信頼を持ってやるということが、すべてです。」

(原文記事執筆: ケイティー・ヘウィット  翻訳:翻訳チーム 山下正隆 文責:清田健介)