ドラマ「13の理由」から、映画やテレビでの、こころの病気の描き方のあり方について考える

クレイグとマークのコラムの紹介です。

https://www.we.org/we-schools/columns/global-voices/13-reasons-tv-can-smart-mental-health/

 

「自傷行為をして叫ぶ少女は、白衣を着た病院のおとなた

ちに抑えつけられ、看護師たちが、鎮静剤の注射を打つ準

備をしている..」 映画「17歳のカルテ」に出てくるこのシーン

を見ながら、エミリー・ニコラス・アングルの頭に、ある疑問

が浮かびました「これが、私の姿なの?」

 

エミリーは、若い女性として、重度のうつ病と不安障害と向

き合いながら生きてきました。しかし、エミリーテレビや映画

で見る、自分と同じような境遇の人たちの姿は、固定観念に

基づいた、極端なモノばかりでした。すなわち、拘束されて、

どこかに収容されている人たちばかりが描かれていたので

す。エミリーはこまで多くのことを乗り越えてきましたが、メデ

ィアのお決まりのうつ病や不安障害の描写によって、恐怖感

を覚えてしまったことを、今も忘れられずにいます。

 

動画ストリーミング配信サイト「ネットフリックス」配信のドラ

マ「13の理由」が、十代の子どもたちの自殺の問題に関す

る描写を巡って、世界中で論争の的となっています。このド

ラマはヒットしましたが、その代償として、「こころの病気につ

いて、どのように発信をしていくべきなのか?」という課題を、

アメリカの芸能界に残していきました。専門家は、芸能界は、

こころの病気を抱える人たちの描写に関して、まだ改善の余

地があると指摘します。特に、若者に大きな影響力を持つコ

ンテンツの場合は、痛ましい記憶や感情を呼び起こしてしま

う可能性のある内容に関しては、細心の注意を払うべきだと

指摘します。「13の理由」をきっかけに起こった論争は、エン

ターテイメント・メディアが、こころの病気の問題を、どのよう

により正確に発信できるかについて考える、絶好のチャンス

です。

 

「こころの健康に課題を抱えている人たちが直面する最大

の問題は、『社会の偏見』です。その偏見を煽っている最大

の要因は、メディアでの描かれ方にあるのです。」ボストンを

拠点に活動するプロデューサーで、こころの病気に関するラ

ジオ・テレビ番組、ドキュメンタリー映画で賞の受賞歴もある、

ビル・リキテンスタインはこう語ります。

 

リキテンスタインは、架空のキャラクターは、こころの病気を

抱えている人たちへの偏見を減らすことができる可能性もあ

ると指摘します。そのためには、極端な固定観念に基づいた

描写を避け、こころの病気を抱えているキャラクターを、肯定

的に描くことが必要です。そして、そのキャラクターを、「こころ

の病気を抱えるキャラクター」として描くのではなく、「一人の人

間」として描き、こころの病気はその人の一部でしかないという

ことをしっかり伝えることが必要です。リキテンスタインは、その

ような描き方がきちんとできている事例として、ドラマ「HOMELA

ND」の主人公、キャリー・マティソンを挙げます。ドラマでは、マ

ティソンが自身の双極性障害と向き合いながらも、優秀なCIA

職員として活躍する様子が描かれています。

 

テレビドラマの制作者の視点から考えた場合、自殺という

のは、テレビドラマを劇的な展開にさせる要素があること

は確かでしょう。しかし、番組を見ている視聴者は、こころ

の病気を抱えている人たちに待ち受けている結末は、実

際にはそのような悲劇ばかりではないということを知るべ

きです。リキテンスタインは、現実にいる人たちに近い境

遇のキャラクターを描くことで、多くの人たちが、こころの

病気を乗り越えるためのヒントを得ることができると指摘

します。「ポジティブな結末」をテレビで描くことは、現実の

世界でこころの病気に向き合っている人たちを、励ますこ

とにもなるのです。

 

今私たちが書いたようなことは、若者にとってとりわけ重要

であるということを、エミリーは指摘しています。エミリーは

指摘しています。エミリーは現在、トロントのReframe Healt

h Labsで、 Director of Health Engagement and Communic

ationsを務めています。「大半の若者は、物事が好転したと

いったような経験をすることは、あまりないですからね」 エ

ミリーはそう語ります。

 

若者たちが、例えば好き映画を通じて、困難を抱

えた人たちが回復を果たして、力強く歩んでいく様

子について学ぶことだって、やろうと思えば可能な

訳です。

 

さらに多くの情報や、リソースの提供も必要です。「映画や

テレビが変わるだけでは不充分です。若者たちに、そのよ

うなコンテンツを冷静に読み解く力(リテラシー)を身につけ

てもらう機会をつくることも大事です。」若者のこころ病気に

関するエキスパートである、ダルハウジー大学の、スタン・

カッチャー教授は、そう指摘します。

 

映画やテレビ番組自体も、この問題の解決に深く関わるこ

とができます。台詞の中でこころの病気について扱うことも

できますし、番組の終わりに、関連するウェブサイトを紹介

することもできるでしょう。また、ドラマなどであれば、番組

を見ている子どもたちや保護者に向けて専門家の意見を

紹介する特番をつくることもできます。「13の理由」では、

番組出演が、ドラマの中で登場するこころの病気の問題

について、専門家とディスカッションする番組を配信して

います。

 

そして、「専門家に相談するだけ」というのも、取り組みとし

てはまだ不充分です。専門家に意見を聞いて、それで終わ

りにするのはやめましょう。プロデューサーは、こころの病気

を抱えて生きている当事者の人たちや、当事者団体や支援

団体とも意見交換をするべきです。そして、当事者の人たち

にも共感してもらえるようなキャラクター像を作り上げ、番組

や映画を通じて、より健全なメッセージを発信していく必要が

あります。

 

エンターテイメント・メディアには、エイズから、同性愛者

の権利向上に至るまで、あらゆる社会問題を改善・解決

するために重要な役割を果たしてきたという歴史があり

ます。こころの病気に関する社会からの偏見を、取り除

くことができる力も、絶対に持っているはずです!

 

参考リンク

 

ドラマ「13の理由」を巡る論争

 

http://www.tvgroove.com/news/article/ctg/1/nid/34547.html

 

製作者側の見解

 

http://www.tvgroove.com/news/article/ctg/1/nid/34514.html

 

おまけ

 

ケビン・ブリール: うつ病をわずらうコメディアンの告白(TEDトーク)

 

https://headlines.yahoo.co.jp/ted?a=20161024-00001830-ted

 

デミ.ロヴァートは、自身のこころの健康に関する経験についても、オープンに話しています。こころの病気を抱えながら、力強く生きていく人たちを追ったドキュメンタリー映画『Beyond Silence』のエグゼクティブプロデューサーも務め、こころの病気を抱えた人たちに対する偏見の解消を進めるための活動を行っています。