思いやりの気持ちを持って、みんなで社会を良くする方法
ドレス・フォー・サクセス・オタワの創設者のマレーネさんは、
二人の子どもたち育てている母親です。今回は、そんなマレ
ーネさんが、親子で地域に変化をもたらしている様子をご紹介します!(清田)
https://www.we.org/stories/dress-for-success-ottawa-marlene-floyd-talks-charity-and-parenting-tips/
カナダのオタワ市で初めてドレス・フォー・サクセスの活動が
始まった日、オタワ支局の共同設立者で、多くの支援活動の
管理者でもあるマレーネ・フロイドは、「一年ぶりに社会復帰を
果たそうとしている女性」に出会いました
(※訳注:ドレス・フォー・サクセスはニューヨークを本部とし
たNPO団体。DVで苦しんでいたり経済的に困難を抱えてい
る女性たちの自立を目標に、就職活動用のスーツの寄付や
キャリアアップのための様々な支援活動を行っている)
彼女は、DVシェルターから店頭に着きました。このお店は、
団体の活動理念である、「女性たちの経済的自立を支援す
る」という理念に基づいて運営されています。来店したばか
りのこの女性客は、このお店について、どのような感想を持
つでしょうか?
このお店で繰り広げられようとしていることは想像がつきませ
んでしたが、この女性客について、一つだけはっきりしていた
ことがあります。それは、試着でスカートを履こうとしないとい
うことでした。
マレーネはそこに注目しました。女性客に対し思いやりを持
って接したり、笑いを引き出したりすることで、徐々に2人は
お互いに親しみやすい雰囲気になりました。マレーネは、客
が綺麗にプリーツの整ったカルヴァン・クラインのスカートの
スーツを試着してみようと思うタイミングを分かっていたので
す。スーツを試着すると、彼女は自分の姿に驚きました。鏡
越しでマレーネに背を向けていても、喜ぶ姿を見て彼女は
嬉しく思いました。その女性は、背が高くて大きな声で笑う
人でした。
「とても親切に対応してくれてありがとう。」と彼女はマレー
ネに言いました。
その瞬間、マレーネは、自分の転職(前職は政府関係職で
す)は正しかったと、改めて感じました。
マレーネを政治の道に導いたものは、ドレス・フォー・サクセ
スの活動に彼女を導いたものに似ていました。マレーネは、
若い頃から、自分と同じ女性を応援したいという気持ちを育
んできました。ドレス・フォー・サクセスでは、女性に影響を与
えられるというこことを、直接マレーネ自身の眼で確認できた
のです。
「よく私たちは、女性たちが社会で最下層の待遇を受ける
のを目にします。」とマレーネは指摘します。「彼女たちが
ここに来てくれる理由は、とても単純なことかもしれません。
このスーツを着てみてください。自信のなかった彼女たちの
肩が上がっていくのが分かるでしょう。彼女たちは、自分が
美しくなるのを分かっています。彼女たちの心にある心配事
を、スーツによって取り除いて、自分たちの能力に自信を持
つことができるようになるのです。」
カナダのノバスコシア州の小さな町で生まれ育ったマレーネ
は、故郷の町で女性が直面する状況に自然と詳しくなってい
きました。その中でマレーネが分かったことは、経済的な自立
ができない状況が深刻であればあるほど、女性たちが搾取さ
れ、そのような境遇から逃れることができないということです。
彼女の両親は、生まれ育った地域に恩返しとして、行動で示
すことが重要だと考えていました(両親は地元の消防活動の
ボランティアに熱心に取り組んでいました)。マレーネ自身は、
自由党員として長くボランティア活動を行ってきた経験がありま
す。そのような経緯のある彼女が、女性たちの生活をより良くし
ようとする組織を設立する転機を迎えたということは、ある意味
でとても自然なことといえるでしょう。
(※訳注:自由党:自由主義を党是とするカナダの政党。カ
ナダのジャスティン・トルドー現首相が党首を務めており、
現政権の与党でもある。)
「この活動は、単にスーツを寄付するだけではありません。」
とマレーネは言います。「女性たちひとりひとりが、社会的・経
済的地位を好転させて、力強く生きていくことができるよう支援
しているのです」
ドレス・フォー・サクセスでは、この考え方がすべて活動にお
いて重要です。活動では服を寄付することとは別に、客のた
めに「ドレス・リハーサル」を行います。ドレス・リハーサルで
は、地域の企業の人事担当者が主導して、就職試験の面接
の練習を行ったりしています。また、地域の企業が主催する
かたちで、ワーク・ライフ・バランスのような問題に関するワー
クショップを行っています。また、 ドレス・フォー・サクセスでは
、ファイナンシャルリテラシーを身につけることができるプログ
ラムも実施しています。
このような取り組みは全て、社会復帰を後押しするために
不可欠だとマレーネは説明します。「女性たちを励ますこと
などを通じて、彼女たちに自信を持ってもらうこと、社会人と
して活躍するためのスキルを身につけてもらうことが重要です。」
私生活では、2人の子どもの母親であるマレーネは、仕事
を通して得た生活の教訓を、育児にも活かしています。特
に大切にしているのが、地域や社会を良くするために、ア
クションを起こすことの大切さを教えることです。マレーネ
の教育により、4歳のメイルと1歳のエロディは社会の中で
の女性の役割を理解して育つことでしょう。そして、どのよ
うに女性たちをサポートすることが地域全体を支えていくこ
とになっていくのかを理解していくことでしょう。
「社会は、人々が手を取り合って行動を起こせば、より良い
方向に変えていくことができます。行動を起こせば、生きや
すい社会を造っていくことができるのです。大切なのは、誰
かを支援したいと思う気持ちです。」とマレーネは主張しま
す。「ドレス・フォー・サクセスは、地域が一体となれること
を示す、素晴らしい事例の一つとなっています。特に、地
域も女性たちが、集える素晴らしい場となっています。」
4歳のメイルでさえ、周囲の変化に影響する自分の能力に
気づいています。ドレス・フォー・サクセスの活動が小さな
ブティックから大きな店舗に移転することになった時、マレ
ーネはメイルに作業を手伝ってもらいました。その日の夜、
メイルは眠りにつく前に「ママ、私今日、お店に来る女の人
たちを助けたんだよね?」と一日を振り返りました。
地域を変えるチェンジメーカーとしての経験を活かして、自
身の子どもたちに、ボランティアや思いやりを持つことの大
切さを、マレーネがどのように伝えているのかを見てみましょう。
地域に関心を持つ子どもに育てるために、マレーネが提唱
する5つのポイント:
1.「子どもたちに、自分たちは社会の一員であることを教え
てください。」
マレーネにとって、社会の一員であるという自覚を子どもた
ちに持たせるということは、子育てにおける重要な目標です。
去年のクリスマスは、マレーネ一家は近所の家を周り食べ物
を寄付してもらい、その集まった食べ物を必要な人に届けると
いう慈善活動を行いました。この活動は、メイルとエロディが「
みんなが食べ物を当たり前に食べられる訳ではない」という事
態を知らせるのに役立ちました。「年齢によっては、自分が地
球という世界の一員であるということを認識するのは難しいか
もしれませんが、小さなことから始めることはできます。」と、マ
レーネはいいます。マレーネは、まずは子どもたちに家族の一
員であることを教えることから始めて、次に近所、その次に地域
、そして国との関わり、世界へと範囲を広げて教えていくことがで
きると提案しています。「やがて、子どもたちは自分たちが世界と
いう大きな枠組みの一員であることを認識するようになるでしょう。
2.「子どもたちの年齢に合わせた方法で、子どもたちと話し
ましょう。」
両親の会話を聞いたり、メディアを見たりする中でも、幼い
子どもたちが常に様々な情報を得ていることをマレーネは
分かっています。「私たちは親として、子どもたちが理解で
きるやり方で、得た情報を処理できるように手伝わなけれ
ばなりません。」今年の1月にケベックで起こった、モスク襲
撃事件の際は、マレーネは二人の娘を夜通しかけて現場に
連れて行き、目の前の現実を説明する時間を作りました。
「私たちは、子どもたちとケベックで起こった事件について話
しました。」と彼女は言います。「私たち家族は、非常に簡単
なやり方で支援を行いました。とても悲しんでいる友達を支
えに行くのは当然のことです。地域の一員として、仲間を思
う気持ちを示すべきです。」
3.「ご自身に合った方法を見つけてください。」
仕事を上手にやりくりしたり、子どもをきちんと育てたり、自
分自身のための時間を作ることは不可能であると、マレー
ネは認識しています。「料理をしたくない時は、子どもたち
にはマクドナルドを食べてもらいます。子どもたちは、約束
した時間以上に、動画ストリーミング配信サイト『ネットフリ
ックス』を見てしまいます。子どもたちの歯を磨くのを何日
か忘れることもあります。私は完璧な母親ではありません。」
母親ができることは、子どもたちの大事な時に、必要な選択
をしてあげることです。マレーネは、自身に対するこの質問の
答えを、子どもたちに行っています。それは「私は子どもたち
に何を教えてあげられるだろうか?」ということです。彼女の
場合は、ボランティアイベント全体の管理者としての役割も
あり、その質問の答えは次のポイントに関連しています。
4.「可能なら、子どもたちを一緒に連れて出してください。」
マレーネによると、これは二つの教訓を教えてくれます。そ
れは、一緒に連れ出すことで、子どもやちが、地域でのボラ
ンティア活動や、変化を起こすためにアクションを、日々の生
活の一部として当然のものと認識するように導きます。また、
子どもと一緒にいることで、団体側も、実質的に、ボランティア
の一員として、家族や子供たちと接するようになります。「確か
に、子どもたちは主要な仕事や活動ができる歳ではありません。
でも、梱包したり、物品を整理整頓したりすることはできます。」と
彼女は言います。「家族で一日がかりの活動は難しいかもしれま
せんが、一時的でも1、2時間なら参加することはできると思います。」
5.「子どもたちにとって必要なものと、子どもたちが望むも
のをはっきり区別して下さい。子どもたちが望むものが彼
らのためにならない場合は、はっきり『ノー』と言って下さい」
最後に一番難しいポイントが残っていました。これが、マレ
ーネが母親として苦労してきたことです。子どもたちが育つ
につれて、求めるもの全てを与えてばかりではいけないとい
う決断をするのは、とても難しいことです。これには試行錯誤
が予想されます。母親としてマレーネは毎日学習し、成長して
いるのです。マレーネ自身の母親との思い出深い経験は、彼
女を目標に向かって動かす原動力となっています。「母はかつ
て、私に謝ったことがあります。」と彼女は言います。「あなたの
欲しいものを全部あげられなくてごめんなさい。」私は「ママ、あ
りがとう。ママは私に必要なものを全部くれたよ。」と答えました。
(原文記事執筆:サラ・フォックス 翻訳:翻訳チーム 山田あさ子 文責:清田健介)