弟が世界のどこにいても、その存在が否定されない社会をつくるために、アクションを起こしている青年のストーリー

旅行先の中国で、障害のある弟への偏見を肌で感じた少

年。今回は、その家族旅行をきっかけに、アクションを起こ

し続けている青年を紹介します。(清田)
https://www.we.org/stories/young-canadian-fights-prejudice-and-stigma-in-struggle-to-raise-awareness-around-people-living-with-disabilities/

 

 

2010年、家族旅行で中国を訪れていたデビッド・ワンは、弟

のエドワードをショッピングモールに連れて行きました。これ

は二人にとってはたわいもないことでしたが、この二人に対

する周囲の反応は、必ずしも好意的といえないということに

デビッドは気づきました。デビッドは、中国では障害のある子

どもが外に出ることはまれで、見かけることがあったとしても、

歓迎されるようなことはないのではないかという雰囲気を感じ

取りました。これが、デビッドが中国への旅を通じて得た大き

な気づきでした。

 

カナダに帰国したデビッドは、家族と住むバンクーバーに戻

り、なぜ中国の人たちが弟に対してあんな反応をしたのかを

考えました。そして、幼い頃に、障害のある子どもたちと接し

た時の記憶を辿り、障害のある子どもたちの親が、子どもを

外の世界から守るために、必死になっていたことを思い出し

ました。

 

デビッドの弟、エドワードは、発達障害があるという診断

を受けています。デビッドは、弟と同じような障害のある

他の子どもたちに、強い関心を持っていました。子ども時

代、デビッドは「弟と自分は違う」という風に感じてはいま

せんでしたが、デビッドと同じような障害のある子どもが

いる家庭を訪ねた時、その子どもたちの親が、子どもた

ちを「普通に」扱っていないことに、デビッドは気づいたと

言います。「子どもたちを愛して守ろうとするが故に、子ど

もたちを外の世界から隠していました。なので外出もさせ

ていませんでした。」子どもたちを守ろうとしているという理

にかなった理由があることはデビッドも理解していましたが、

自分の家族と共にした経験を通じて、子どもを守ろうとするた

めのこのような行為は、子どもの成長と発達を阻害することに

なるということを、デビッドは知っていました。

 

弟のエドワードの場合は、あらゆることを自立するための機

会と捉えて、いろんなことをさせていました。デビッドは、エド

ワードがハサミを自分で使えるようになるために、何度も紙

を切って一緒に練習した時のことをよく覚えています。この

ような努力の甲斐もあり、「周りの同じような障害のある子

に比べると成長は早かった」といいます。

 

エドワードにもし、「普通にはできない」ようなことがあれば、

ワン家では、「エドワードにあったやり方」を見つけて、乗り越

えていきました。その一つがコミュニケーションです。「幼少期

の頃の弟は、会話は全くできませんでしたが、歌うことは好き

で、いつも何かを歌っていました。歌うことで、人とつながりを

持とうとしていたんですね。」デビッドは言います。

 

音楽が好きだった弟を見ていたこともあり、デビッドは音楽

を通じて障害のある子どもたちをエンパワーメントしていこ

うと考えました。音楽を、コミュニケーションの道具として積

極的に活用する活動をしようと考えたのです。

 

中国から帰国して間もない、2010年の10月、デビッドは、

「社会多様性子ども財団」(SDC)を設立します。この団体

には、二つの活動目標があります。一つは、障害のある

子どもたちを、音楽療法のような社会性が身につくプログ

ラムなどを通じて、エンパワーメントしていくことです。もう

一つは、活動家の若者たちに、積極的にいろいろな地域

に出て行ってもらって、障害のある子どもたちの偏見を無

くすための啓発活動を行うことです。このような活動を通じ

て、全ての障害のある若者たちをエンパワーメントしていく

ことを目指しています。

 

団体設立当初から、啓発活動に取り組んできたデビッドた

ちですが、デビッド個人の思入いれがとても強いのが、障

害のある人への偏見を肌で感じた、中国での啓発活動です。

 

中国でのデビッドの活動は、対話を持つことから始まりまし

た。現地の人々に直接会い、障害のある人たちの状況を尋

ねました。そんなデビッドの問いは、「障害のある子どもはこ

こにはいない」という決まり文句で突き返されました。デビッド

は、そのような経験を通じ、いかに障害者への偏見が強いの

かを痛感していきます。このような根強い偏見があるが故に、

障害のある子どもたちの親は、我が子を地域から遠い隔離さ

れた学校に入学させざるを得ないのです。「中国では、障害の

ある子のための学校は地域から完全に隔離されています。」デ

ビッドはこう指摘します。「子どもたちが地域から隔離されている

が故に、中国の障害児の発育は、カナダの障害児よりもさらにゆ

っくりになっているのです。」

 

これまで七回中国に渡ったデビッドは、SDCが活動を行っ

ている江蘇省、貴州省、雲南省などの地域で、障害のある

人への理解が進みつつあると感じています。障害のある子

どもたちが通う学校では、音楽療法や芸術療法が採り入れ

られるようになってきました。また、以前は避けられていた、

障害のある子どもたちを、外へ連れ出す活動も、重要な課

題として、取り組みが行われるようになってきています。

現在、SDCは、バンクーバー、アメリカ、中国で活動を行っ

ています。デビッドは現在22歳。社会の障害のある人たち

への認識を、世界中で変えようとしているチェンジメーカー

に成長しました。自身の弟のような、障害のある若者を対

象とした事業を行う傍ら、この秋にはWE Dayにも携わりま

した。バンクーバーの大勢のチェンジメーカーで埋め尽くさ

れた会場のステージに立ち、アクションを起こす大切さを訴

えました。

 

デビッドと弟は、最強のチームです!障害のある人たち

に対する偏見を植え付けられていた人たちが、この兄弟

と出会い、障害のある人たちへの認識を変化させていま

す。デビッドの夢は、世界中でSDCの事業を展開し、共生

とエンパワーメントのメッセージを訴えていくことです。

「子どもたちが持っている能力、できることはそれぞれ

違ったとしても、彼らは何だってできます。それぞれの

子どもたちにあったやりかたを見つけて、工夫して導いていけば良いだけなのですから。」

 

 

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(原文記事執筆: サラ・フォックス )