兄から託された想い、そして後輩に託す想い
フランンシス・ナイモデゥの兄は、弟の可能性を信じて、フラン
シスが一歩を踏み出すことを後押ししてきました。そんな兄の
想いを受けたフランシスはいま、後輩を後押ししようとしていま
す。(清田)
https://www.we.org/stories/all-boys-high-school-in-kenya-maasai-mara-adopts-mentorship-program/
1月の火曜日、暖かい朝を迎えました。10年生(高校2年)
のフランシス・ナイモデゥは、ケニアのマサイ マラ村のネグロ
ット男子高校の管理ブロックの近くに立っています。この日は
入学日で、彼は数人のクラスメートと共に、高校生活の第一
歩を印す9年生(高校1年)の新入生を今か今かと待っている
ところです。
彼は、ネクタイを正し、シャツにぴたっと付け、制服のセーター
を手で軽くはたきます。これから彼の「息子」に会うところで、第
一印象がすべてを決めるからです。
フランシスと同級生は、学校が新設した父―息子の指導プ
ログラムの一員なのです。10学年の上級生(父親)には新入
生(息子)の助言者となる仕事が課せられています。「父親」
役就任早々しなければならないことは、新入生が学校生活
の初日をうまく乗り切れるように手助けをすることです。
フランシスの「息子」の名は、ザドック・ キベット。彼は一番
乗りの生徒の1人ですが、実際の父親に付き添われて来ま
した。まず気づいたことは、他の生徒たちが自分と比べて何
と背が高いんだろうということでしたと、ザドックは言います。
初日の準備をしながらザドックは、背の高さのために皆にか
らかわれるのではと心配していました。彼は高校でのいじめ
の話をいろいろ聞いていたのです。
ザドックは名前を告げて、学校での「父親」に紹介されまし
た。その人が見上げる程だったのは驚くことではありません。
フランシスは、初日に不安になることをよく知っているので、
この指導プログラムについてザドックと父親に説明しました。
フランシスは、自分が受け持つ新入生に、心配することは全
く何もないよと力づけました。僕が見守ってあげるからと。
フランシスは、良き相談相手、そして、お手本に出会うこと
の大切さを知っています。
彼がいま高校にいられるのも、もともとは兄のおかげなので
す。フランシスは5人兄弟の3番目の子どもとして生まれまし
た。両親は彼が幼い頃に他界しました。彼ときょうだいを育
て上げてくれたのは長兄でした。
フランシスが8学年を終了した時、兄には彼を高校に行か
せる余裕はありませんでした。家族の中で誰ひとりとし
て高校に行った人はいませんでした。そんな時に、マサ
イマラ村で新しい男子高が開校したのです。WE(フリー・
ザ・チルドレン)の支援で設立されたこの学校は、WEがキ
サルニ女子学校ですでに女子高の生徒に実施していると
同じように、奨学金の全額給付制度を創設しました。これ
らの女子高はこの地域でこのような制度を設けた最初の
ものでした。そしていま、この最初の男子高でも、男子生
徒に同様の機会が与えられることになったのです。
フランシスの長兄は、マサイの社会の中で、これまでにない
新たな人材が求められていて、これからの時代を生き抜くた
めには、教育が重要であることを理解していたので、フランシ
スに学校に志願するよう強く勧めました。この誇り高き弟は断
言します「兄はいつも、僕たちきょうだいには最高の人になる
ための可能性を秘めた素質が備わっていると、確信していた
のです」。
フランシスは発足したばかりのクラスの一員になりました。
ネグロット高校のプログラムに参加した時、フランシスは兄
の熱心さに見習いたいと思いました。2年目を迎えた今、彼
は兄のように立派なおとなになる道を着実に歩んでいます。
「もっと自信が持てるようになりました。いまは僕と同じような
若者に気楽に声をかけ、学校でただ勉強しているだけでなく、
一所懸命勉強しなさいと励ますことができます」と彼は熱心に
訴えます。「父―息子」プログラムは、彼が兄から受けた助言
の仕方を後に伝えて行く良い機会になるだろうと、彼は言います。
このよき指導者プログラムだけが、ネグロット男子高校の唯
一の新しいものではありません。2017年1月の正式開校一周
年の祝賀と同時に、キャンパスが拡張してきました。新しい教
室、新しい寄宿舎が建ち、それに新たに教育の助手が何人か
採用されました。この人たちは、通常の授業に加えて正課外の
授業もしなければならず多忙でした。
ネグロット高校の一周年記念日にはこれらの変化が目立ち
ましたが、最も画期的な出来事は、マラ地域からさらに33人
の男子生徒が高校の教育を受けられる機会ができたことです。
「父―息子」プログラムによって新入生が不慣れな環境に
移行するのが容易くなると、ゴドフレイ・ケプシロル校長は
説明します。更に付け加えて、このプログラムはまた、全て
の生徒にとって、彼らが成長して自信に満ちかつ思慮深い
若者に成長していく過程で、お互いに学び合う良い機会に
なるとも言います。
フランシスにとって、学校に環境部を作って―そして部長に
なること―が、9年生(高校1年生)の時から心に秘めていた
目標の1つでした。部員が木や草花を植えて校庭を常に爽
やかで美しくしている姿から、フランシスは忍耐強くいること
と、環境に敬意を払うことの大切さを教えられました。
彼の新しい「息子」が、ネグロット校の自然環境は本当
に青々としていますねと語ったとき、満足感で胸がずき
ずきしたのも不思議ではありません。彼は、ザドックが
このクラブの新しいメンバーになってくれればと希って
います。
(原文記事執筆:セディ・コスゲイ 翻訳:翻訳チーム 松田富久子 文責:清田健介)