活動事例:子どものこえを引き出し、聴き、そのこえが社会の中で生かされていくためのヒントや視点
Every Child’s Voice
Introduction
はじめに
フリー・ザ・チルドレン・ジャパンは、国立成育医療研究センター、一般社団法人Everybeingとともに、2023年から2025年にかけて、「子どもの権利がすべての子どもの毎日の当たり前となる社会」の実現を目指し、コンソーシアム Every Child’s Voice を結成し、活動を展開してきました。
私たちは、子どもたちの「こえ」を聴き、そのこえを社会に届ける取り組みを進める中で、子どもが安心してこえをあげるためには、おとなや周囲の環境がどのように関わり、支えることが大切なのかを実践を通して学んできました。
このページでは、ティーンボイスプロジェクトなどの活動を通して見えてきた、 子どものこえを引き出し、聴き、そのこえが社会の中で生かされていくためのヒントや視点をまとめています。
子どもと関わるおとなや、子どもの参加を進めたいと考える人たちにとっての、実践の手がかりとなることを願っています。
Every Child’s Voice
Every Child’s Voiceとは
子どもたちの「こえ」を社会に届け、子どもの権利とウェルビーイングの実現を目指す取り組みです。
フリー・ザ・チルドレン・ジャパンは、国立成育医療研究センター、一般社団法人Everybeingとともに、2023年から2025年にかけて「Every Child’s Voice」という名のコンソーシアムを立ち上げました。
この取り組みの目的は、「子どもの権利がすべての子どもの毎日の当たり前となる社会」を実現することです。
そのために私たちは、子どもたちの「こえ」を聴き、子どもとともに社会のあり方を考える活動を行ってきました。
子どもたちの「こえ」から学んできたこと
私たちのコンソーシアムが生まれた背景には、子どもたちが教えてくれた多くの「こえ」があります。
・「子どもの権利のことを、学校などでももっと知れるとよい」
・「子どもの権利の概念と、日常の生活が結びついていない」
・「子どもだからって、勝手に決めないで。ちゃんときいて」
私たちは、こうした子どもたちの「こえ」から多くのことを学んできました。 まだ出会っていない子どもたちがいるように、まだ聞くことができていない「こえ」も数多くあります。 そうした多様な子どもたちのこえを大切にしながら、子どもの権利という土台に立ち返り、 これからの社会のあり方や暮らしのあり方、そして子どもたちのパートナーとしての私たちのあり方を考えていくことの大切さを、 私たちは子どもたちから学んできました。
こうしたこえは、社会の意思決定の場に子どもが十分参加できていない現状を示しています。 子どものこえは、単なる意見ではありません。 社会をよりよくするための重要な視点です。 私たちは、子どもを「支援の対象」ではなく、社会を共につくるパートナーとして位置づけています。
子どもたちが安心して「こえ」を表現でき、そのこえが互いに響きあう社会であること。 そのような応答のある社会の土壌の重要性を、私たちは子どもたちの隣での活動を通して実感してきました。
子どもの「こえ」は発言だけではない~Viewsという考え方~
私たちは、子どもの「こえ」を単なる発言や意見(opinion)ではなく、「Views」として捉えています。「Views」とは、言葉による発言だけでなく、しぐさ、態度、目線、表情、行動など、子どもが表現するあらゆるものを含みます。
この「Views」という考え方は、国連・子どもの権利条約においても用いられている概念です。 条約では、子どもの意見は “opinion” ではなく “views” と表現されており、言語による発言に限らない、より広い意味での表現が尊重されるべきものとされています。
子どもは必ずしも言葉で意見を表現できるとは限りません。しかし、非言語も含めて常に何かを表現しています。 そのため、おとなはそれらを「意見」として受け止め、尊重する姿勢を持つことが重要です。
子どもが「こえ」をあげることは子どもの権利
子どもたちが大切なことについてこえをあげ、そのこえがきちんと受け止められることは、子どもが持つ大切な権利のひとつです。 子どもの権利条約第12条では、子どもの意見を丁寧に聴き、その発達段階に応じて十分に考慮することが定められています。 近年、日本でも「こども基本法」 や「こども大綱」において、子どもの意見表明の重要性が明確にされています。
Background
背景
パンデミックが子どもたちにもたらした影響
新型コロナウイルスの感染拡大は、子どもたちの生活にも大きな変化をもたらしました。 突然の休校やソーシャルディスタンス、オンライン授業など、子どもたちはこれまでにない環境の変化を経験しました。 こうした影響を明らかにするため、日本とイギリスで全国規模の調査研究が行われました。
日本では、国立成育医療研究センターの「コロナ×こども本部」が、2020年から2023年にかけて0〜17歳の子どもとその家族から「こえ」を集めました。 イギリスではUniversity of Oxfordによる Co-SPACE研究 が、同時期に子ども・若者のこころの健康について調査を行いました。
両国の研究者は、パンデミックを通して見えてきた子ども・若者・保護者のこころの健康の変化から学ぶことを共通の目的として協働してきました。 調査では次のようなこえも寄せられました。 「学校のコロナ対策に参加したい。決められたことしかしないのはおかしい」 「おとなだけでいろいろ議論しないで、こどもの気持ちも聞いてください」
また、休校明けの調査では、「こどものことを決めるとき、おとなはこどもの気持ちや考えをよく聞いていると思いますか?」 という問いに対して、中高生の約4割が「あまりそう思わない」「全くそう思わない」と回答しました。
コンソーシアムの活動テーマ
新型コロナウイルスの感染拡大は、子どもたちの生活にも大きな変化をもたらしました。 突然の休校やソーシャルディスタンス、オンライン授業など、子どもたちはこれまでにない環境の変化を経験しました。 こうした影響を明らかにするため、日本とイギリスで全国規模の調査研究が行われました。こうした背景から、私たちは子どもや若者を単なる調査の対象ではなく、社会を共につくるパートナーとして位置づけ、こえを集めるだけでなく、そのこえをどのように社会に活かしていくかを子ども・若者と共に考える取り組みを行うことにしました。
その取り組みとして立ち上げたのが、Every Child’s Voice コンソーシアムです。 このコンソーシアムでは、まず「コロナ禍における子どものメンタルヘルスとウェルビーイング」をテーマに活動を開始しました。
ウェルビーイングとは何か
ウェルビーイングは、人権が大切にされていることを土台に、身体、心、社会的に(周囲との関わりや社会、自然との関わり)ちょうどよく満たされている状態であり、同時に、そこに向かうプロセスそのものでもあります。
ウェルビーイングは、個人の身体の調子などに影響を受けますが、自分の周囲の人たちとの関わり、保育園や学校などの組織のあり方、地域の状況や文化、国の制度、自然環境とも相互に影響しあい揺らぐものです。
子ども時代のメンタルヘルスとウェルビーイングはその後の人生に影響することがわかっています。
これからに向けて
子どもの権利に根差し、ウェルビーイングに開かれた環境であることは、子どもたちが生きていくうえでとても大切な土台です。
今回は私たちがテーマを設定しましたが、今後は子どもたちのこえからテーマを広げながら、今回のコンソーシアムの枠組みにとどまらず、子どもの権利に根差したウェルビーイングな環境を子どもと共に育んでいきたいと考えています。
Teen’s voice project
ティーンボイスプロジェクトとは
「ティーンボイスプロジェクト」は、2020年から世界中で広がった新型コロナウイルス感染症が、子どもや若者にどのような影響をもたらしたのかを、子ども自身が調査し、考え、社会に発信する取り組みです。 全国から小学校高学年から18歳までの16人の子ども(「ティーン探究者」)が参加しました。 参加者の募集にあたっては、多様な視点が集まるよう、年齢や地域のバランスに配慮しながら選考を行いました。
このプロジェクトの特徴は、子どもや若者を調査の対象としてではなく、社会について共に考える「共同研究者」として参加してもらったことです。 ティーン自身が自らの経験や考えを社会に伝え、よりよい社会をつくるためのアクションにつなげていくことを目指しました。
ティーン探究者(子どもたち)は、どんな活動をしたの?
ティーン探究者は、新型コロナウイルスの感染拡大によって子ども世代が受けた影響、特にウェルビーイングやメンタルヘルスについて調査を行いました。 同世代へのアンケートやインタビュー、子どもやおとなとの対話を通してこえを集め、コロナ禍の対策の中でどのような取り組みが良かったのか、また課題があったのかを検証しました。
その結果をもとに、地域や学校、国に向けて、よりよい社会のあり方について提言をまとめました。また、活動の中ではイギリスの子ども・若者とも交流し、国際社会に向けても意見を発信しました。
活動の進め方
2024年3月には参加者が川崎市に集まり、新型コロナウイルスに関する知識や子ども参加、政策提言について学ぶ研修を行いました。 研修では、子どもといっても背景や立場はさまざまであること、そして「この場に現れていないこえ」が存在する可能性についても考えました。
その後、ティーン探究者は関心のあるテーマを話し合い、6つのグループに分かれて調査・研究を進めました。
活動プロセス・実施スケジュール
ティーンボイスプロジェクトの主なスケジュール
| 期間 | 実施内容 |
|---|---|
| 2023年12月15日~2024年1月27日 | ティーンズ探究者の募集 |
| 2024年3月28日~2024年3月30日 | ティーンズ探究者向け合宿 |
| 2024年4月~9月 | ティーンズ探究者による対話と提言を作成、イギリスとの意見交換、政策決定者(こども家庭庁)への働きかけ |
| 2024年8月5日 | こども家庭庁への提言 |
| 2024年11月10日 | 子どもの権利条約フォーラムでの発表 |
子どもたちの提言
提言に向けたティーン探究者の調査活動では、ティーン探究者の発案によって、教育委員会や教員へのオンライン/対面での聞き取りが行われました。 集まった情報をもとに課題とそれぞれの願いが整理され、同様に英国で調査研究にかかわった子どもや若者とのオンラインでの意見交換を経て、提言に取りまとめられました。 2024年8月5日には、こども家庭庁を訪れ、提言を発表しました。
ティーン探究者による提言
子ども探究者は調査を通じて以下の願いや気づき、要望を提言としてまとめました。
・子どもたちがないがしろにされていると感じる
・子どもたちの考えや意見や気持ちが大切にされていないと感じる
・子どもの権利の保障という意識がおとな側に足りていない
・あらゆる決定に子どものこえをもっと聴いてほしい(日本では突然学校の一斉休校が総理大臣から発表されて2~4か月ほど休校になりました)
・子どもをまんなかに考えてほしい
・学校の中で子どものこえを聴く仕組みがあるといい
・社会のあらゆるフェーズにいる人々が
(1) 子どもの権利を理解し、
(2) 子どもは「社会の一員である」ということを理解し、
(3) 子どものこえを聴いたり、子どもにわかるように情報を伝えたりしてほしい
・子どもたちも「社会の一員である」ということをおとなにちゃんと理解してほしい
(こえを聴いてほしい、情報をちゃんと伝えてほしい)
・コロナの時に柔軟性のある対応をして欲しかった意見を自由に言え、自由に言った意見を実行していってほしい
・おとなと子どもが話し合う環境が欲しい
より詳細な報告は「こども・若者の こころの健康をサポートするために: 日本とイギリスのこども・若者による 公衆衛生上の緊急事態への提言 」(2025年2月13日 国立成育医療研究センターなど)をご確認ください。
また、日本と英国の子ども探究者による提言内容を踏まえて、以下のInfographicを作成しました。
伴走実践ガイド
私たちは、子どもを単なる「調査の対象」ではなく、共に社会をつくる「パートナー(共同探究者)」と捉え、このティーンボイスプロジェクトを実施しました。プロジェクトの実践を通して、子どもが安心してこえをあげ、そのこえが社会の中で生かされていくために大切な視点が見えてきました。そのために、子どもの参加を支えるおとなが知っておきたい基本的な考え方・準備・実践のポイントをまとめました。参考にしてください。
私たちの視座:おとなの心得
子どもの「こえ」は社会を動かします。そのことを子どもとともにおとなが信じましょう。しかし、子どものこえを社会に届ける活動は、単発の機会だけでは実現しません。必要なのは、子どもたちが自分の力を認識し、自分の内なる「こえ」や周りの「こえ」に気づき、それを安心して表現し、さらに社会の意思決定につながっていくまでの一連のプロセスを支える継続的な仕組みです。子どもが社会の一員として、そして、当事者として、こえをあげ行動できるようになる環境を育てていくことが重要です。 以下、子ども参加を実施する際に、おとなが意識しておくべき具体的な留意点を整理しています。
A.子どもの権利を子ども自身に伝える意義
子どもに権利を伝えることは、「あなたには知る力がある」「あなたのこえには意味がある」と伝えること。それは、子どもを“信じる”という行為 そのものです。
A-1. 自分を大切にする力を育てるため
権利を知ることで、「自分には大切にされる価値がある」と気づくことができます。たとえば、「暴力を受けてはいけない」「意見を言っていい」と知ることは、自己肯定感や安心感の土台になります。
A-2. こえをあげる力を育てるため
子どもが自分の思いや願いを表現することや、暴力など不適切な対応から守られることは、権利の一部です。権利を知っていることで、「これはおかしい」と感じたときにこえをあげたり、助けを求めたりすることができます。
A-3. 他者への思いやりや対話の力を育てるため
自分の権利を知ることは、同時に「他の人にも権利がある」と気づくことでもあります。それは、思いやりや対話、協力の力を育てることにもつながります。
A-4. 社会を変える力を育てるため
子どもが自分の権利を知り、こえをあげることで、社会の不公正や課題に気づき、変えていく力が育まれます。子どもは「守られる存在」だけでなく、「社会をつくる一員」でもあるのです。
A-5.権利を行使できるようにするため
子どもが子どもの権利について理解していなければ、権利行使の主体として使うこともできません。子どもの市民権を保障するために不可欠な一歩です。
B. 子どもと協働する際のおとなの留意点
前提として、子どもの権利についておとなが学び、子ども自身が自分の権利について体験できる環境をつくります。 また、子どものウェルビーイングには、おとな同士の関わりや周囲の環境も影響するため、おとな自身が権利の相互尊重に根差した関わりをできるようにする必要があります。
B-1. 権力構造の自覚と関係性の見直し
おとなが「指導する」立場ではなく、「共に考え、共につくる」立場であることを常に意識する必要があります。子どもの意見を「未熟なもの」と位置づけるのではなく、ひとつの大切な視点として受け止め、対等な関係を築くことが求められます。
B-2. 安全で安心できる場の確保
子どもが自由に発言できるよう、「否定されない」「笑われない」「同調圧力がない」環境を整えます。言語化に限らず、絵・写真・ジェスチャーなど多様な表現手段が許容されることが望ましいです。B-3. 子どもの生活やペースへの配慮
学校や家庭生活との両立を考慮し、無理のないスケジュール設定や関わり方の柔軟性が必要です。疲れたときには「休む・抜ける・やめる」選択ができるよう明示することが重要です。B-4. プロセスの共有と楽しさの保障
子どもにとって提言や成果の達成よりも、「自分のこえが社会に届く」「他者と協働する」経験そのものが重要です。おとな自身もそのプロセスを楽しみ、共に成長する姿勢が求められます。「こえ」を政策提言につなげるときのポイント
子どもたちの「こえ」を社会に届ける際には、次の点に注意する必要があります。
| 項目 | やってほしいこと(DO) | やってはいけないこと(DON’T) |
|---|---|---|
| 言葉の尊重 | 子どもの言葉をできるだけそのまま受け止め、言葉にならない願いを汲み取る。 | おとなの都合で勝手に要約・編集・修正をしない。 |
| 最初から協働 | プロセスの最初から最後まで一緒に行う。 | 最後に形だけ意見を聴く「形骸化」をさせる。 |
| フィードバック | 提言がどう活かされたか、検討結果や理由を必ず子どもに報告する。 | 声を聴くだけで終わらせ、その後の経過を伝えない。 |
| 生活の優先 | 学校や家庭生活を優先し、いつでも「休む・やめる」選択を認める。 | 活動のために学校生活を犠牲にさせる。 |
重要なのは、 子どものこえをおとなが「代弁する」のではなく 子どものこえがそのまま社会に届くよう支えることです。
C. 運営上の想定される課題と対応の方向性
| 課題区分 | 想定される課題 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 参加の継続性 | モチベーションの個人差、学校・家庭との両立の困難さ | 自発的な関与を重視し、関心や得意に応じた役割設計を行う。途中参加や途中退出も可能とする柔軟な運営設計が望まれる。 |
| 意見の尊重 | おとなの意向が無意識に優先され、子どもの意見が編集・修正されるリスク | 子どもの発言はできるだけそのまま受け止め、ようやくやいいかを急がない。子どもの言葉で残す努力をおとな側が行う。 |
| 多様性の担保 | 特定の地域・属性・意欲のある子どもに偏る。 | 募集方法を多様化し、学校・福祉・NPO・SNSなど複数のチャネルを活用することで、背景の異なる子どもが参加できるようにする。 |
| 成果の活用 | 子どもが作成した提言が形骸化し、反映されないリスク | 行政・議会・教育機関など提言の届け先と連携し、定期的なフォローアップ体制や成果の報告機会を設ける。 |
D. 募集時に配慮すべき点
D「できる子」だけに偏らない募集設計 書類選考や作文選考のみに頼ると、表現力や自信のある子どもに偏る傾向があります。抽選や推薦、地域・年齢・性別等のバランスを考慮した選考が有効です。
D-1. 多様な表現を認める姿勢の明示 「話すのが苦手でも、絵や写真やメモで伝えても大丈夫」といったメッセージを募集要項に明記することで、より多様な子どもたちのエントリーが期待できます。
D-2. 保護者や学校への丁寧な説明 子どもの活動を支える保護者や教員に対して、企画の目的や意義、スケジュール、サポート体制を丁寧に説明することが、参加の継続や信頼関係の構築に寄与します。
D-3. 交通費や通信費の支援 地域や経済状況に左右されない公平な機会提供のため、交通費、デバイス貸与、通信支援等についても検討し、明記することが望まれます
【参考】子ども参加を促すおとなによる伴走のポイント助成協力
本事業の実施および本ウェブページの作成にあたり、一般財団法人デロイト トーマツ ウェルビーイング財団及び公益財団法人CBGMこども財団よりご支援をいただきました。