社会の転換期をリードする映画監督、ジェニファー・シエベル・ニューサムへのインタビュー
今回の「世界のWEニュース」は、映画監督のジェニファー
・シエベル・ニューサムへのインタビューをお届けします。自身の活動
や子育て、「#metooムーブメント」など、幅広い話題について語っ
ています!(清田)
https://www.we.org/stories/filmmaker-and-mother-jennifer-newsom-pushes-for-female-representation/
ジェニファー・シエベル・ニューサムは、文字通り常識にとら
われない生き方をしています。
ニューサムが脚本、プロデューサー、監督を務めた初の長
編映画、「Miss Representation」は、女性がどのようにメディ
アで描かれているのかを探るドキュメンタリー映画です。(ネ
タバレ注意:メディアでの女性の描かれ方は、良くないと映
画では結論づけています。)
2011年のサンダンス映画祭で初上映されたこの映画は、
女性の若さや美しさ、性的魅力がもてはやされている一方
で、女性が社会のリーダーになる可能性を削いでいる現代
社会の風潮について探っています。この映画への世間の反
応は、「この問題に関する教育の支援を強化して欲しい」「社
会もこの問題に取り組んで欲しい」そして「少年や成人男性も
この問題を解決するために行動して欲しい」といったような叫
びでした。
同年、ニューサムはNPO[The Representation Project]を
立ち上げました。このNPOは、多くの人の可能性を閉ざす
要因となっている、偏った固定観念を社会から無くしていく
ことを目指しています。
現在43歳のニューサム自身は、社会の固定観念からは解
放された人生を歩んでいるといって差し支えないでしょう。
サンフランシスコ生まれで、スタンフォードを卒業した映画監
督であるニューサムは、役者でもあり、アスリートでもあり、4
人の子どもの母親でもあります。現在は、夫であるギャビン・
ニューサムカリフォルニア州副知事、そして子どもたちと共に、
地元のサンフランシスコ郊外で暮らしています。サンフランシス
コといえば、1960年代に、若者たちが従来の社会にとらわれ
ない、自由な性表現や、多様なライフスタイル(パートナーとの
関係含む)を求めた社会運動「性の革命」の中心地となるなど、
リベラルな風土の土地柄であることが有名ですが、ニューサム
自身は保守的な家庭で育ちました。核家族で、家庭で中心的な
存在となっていたのは父親でした。ですから、家庭内の思想は、
60年代に一世を風靡したフェミニストであるグロリア・スタイネム
よりも、古き良きアメリカを描いた画家のノーマン・ロックウェルに
近いものでした。
父親の勧めで、チームスポーツをやっていたニューサムは、
スポーツを通じて、積極性やリーダーシップを身に着けてい
きました。ニューサムは、女子サッカーのジュニアチームの
アメリカ代表の一員として、そしてスタンフォードの女子サッ
カー代表チームとして、プレーしてきた経歴があります。
大学時代は、環境保護団体「コンサベーション・インターナ
ショナル」のスタッフとして勤務した経験もあります。スタン
フォードでMBAを取得後、役者として芸能界入りを果たしま
すが、その際、当時の所属事務所から、「年齢をサバ読み
してはどうか?(ニューサムは当時28歳になる目前でした。)
MBAを持っていることも伏せておいた方が良い」という提案
を受けます。「私はその提案を二つとも突っぱねてやりました
よ。」ニューサムは当時を振り返りながらこう言います。
2014年、The Representation Projectは、ハッシュタグを使
ったキャンペーン「#askhermore」(他に聞くことないの?) を
展開します。これは、映画関連の受賞式のレッドカーペット
で行われる、ハリウッド女優へのインタビューをSNS上で判
定してみようというキャンペーンでした。芸能リポーターは、
女優に対して、役者としてのキャリアについてよりも、容姿
やファッションについて質問しがちです。このキャンペーン
は、インタビューの中に見え隠れする「芸能界に存在する
些細な性差別」を検証していこうというものでした。
それから3年後の2017年、社会がハリウッドの性差別の
問題に向ける眼はより厳しいものになります。
業界に君臨していた男性たちに対して、次々とセクハラや
暴行の被害告者たちから告発が行われます。FOXニュー
スの看板キャスターだったビル・オライリー、NBCテレビの
朝の情報番組の名物司会だったマット・ラウアーなどが番
組を降板します。俳優のケヴィン・スペイシーは、撮影が終
了していた映画を降板します。お笑い芸人、ミュージシャン、
映画監督たちが、次々と失墜していきます。「世間の目が厳
しくなったから、こういう風に慌てて対応しているんだろう。ず
っと前からあったのに」という印象を持っている方もいるでしょ
う。「良い風に解釈すれば、セクハラや性的暴行の問題を社会
が初めて真剣に受け止め始めたということなんです。いま私た
ちは、社会の転換期に遭遇しているのです。」ニューサムは現
状についてこう語ります。
「#metooムーブメント」のきっかけとなった、映画プロデュ
ーサーのハーヴェイ・ワインスタインの不適切な性的行為
が告発され大きな騒動となっていた頃、ニューサムの寄稿
文がハフィントンポストで公開されました。ニューサムは、ワ
インスタインとの個人的な経験を綴りつつ、「『公然の秘密』
は、もう秘密にするべきではない」と訴えました。ニューサム
は、「『公然の秘密はもう秘密にするな』は、2017年に語られ
た大きなテーマだったと思います。これを私や社会が語った
ことが、性的暴行を受けたサバイバーたちの告発を後押しし
ていったのだと思います。」とニューサムはふり返っています。
では、2017年は女性を取り巻く環境が改善した年だったの
でしょうか?ニューサムは、多くの女性が2018年のアメリカ
の中間選挙への出馬を考えていることは明るい兆しだとし
つつも、「やるべきことはまだたくさんある」と指摘します。
「女性は全人口の半分を占めています。そして、全ての子
どもは女性から生まれています。でも、アメリカの女性の国
会議員の数は全体の2割に留まっています。フォーチュン誌
の「世界企業番付」にランクインする企業の内、女性がCEO
を務める企業は5%程度に留まっています。そして、アメリカ
ではまだ女性が大統領になったこともありません。」
しかし、「公然の秘密はもう秘密にするな」が、社会の転換
期を象徴する言葉になっているのは間違いありません。「も
う、後戻りすることは不可能でしょう。」(実際、このニューサ
ムへのインタビューを行った数日後に、#metooムーブメント
を起こした、「沈黙を破った人たち」が、タイム誌の「2017年
の人」に選ばれました。) 2018年の元日には、セクハラの撲
滅を目指す団体 「Time’s Up」 (もう時間切れ) が発足しまし
た。この団体の設立にあたって発表された声明に名を連ね
ていた人たちの中には、リース・ウィザースプーンや、ション
ダ・ライムズなど、多くの芸能関係者も含まれています。また
団体が設立した、セクハラの被害者を法的に支援するための
基金では、設立から1週間で、目標金額の1500万ドルが集まり
ました。その基金への寄付金は現在も増え続けています。
ニューサムは、社会は確実に転換期を迎えていると確信し
ています。そして、次世代にその望みを託しています。「 WE
Dayカリフォルニア」の実行委員などを務めながら若者たちと
関わっていく経験や、自身のNPOの活動で若者たちと関わっ
ていく経験を通じて、次世代に希望を感じるようになっていき
ました。「子どもたちを励まし激励する社会を造っていく必要
があります。励まし、支え合って生きていくことの大切さ、勇
気を持つことの大切さを伝えていく必要があります。しかし
もっと大切なことは、若者たちに、社会を良くしていくために、
おとなたちと一緒に考え、行動を起こすように促すことかもし
れません。これからの社会を造っていくのは若者たちであり、
またその社会で生きていくのも若者たちなのですから。」ニュ
ーサムは力強く語ります。
未来に希望を託すニューサムですが、自身も未来に向けて
歩み始めています。現在は次回作のドキュメンタリー映画を
製作中で、性を重視した価値観が、アメリカの経済的・社会
的格差にどのような影響を与えているかに迫る作品となって
います。タイトルはまだ未定ですが、2019年の上映を目指し
ています。
それでは、ここからはニューサム自身の言葉を紹介します。
子ども時代の経験が、社会や人のために行動を起こす原
動力に
私は5人姉妹の一人として生まれました。私が7歳の頃、
8歳だった姉が事故で亡くなりました。それは事故だった
のですが、私は、姉が亡くなったのは自分のせいだと思
い、自分を責めました。それを母に伝えた時、母から「ジ
ェン、あなたはリーダーになるべきよ」と言われました。も
うはるか昔のことですが、いまもその言葉を鮮明に覚えて
います。
父からは、スポーツを勧められました。私はジュニア女子サ
ッカーのアメリカ代表チームに在籍していまいた。女性は男
性と同等にスポーツはできないと思われがちですが、そんな
ことはありませんよ。オリンピックの代表選手レベルだったら
特に。スポーツは、恐れずに前に進むことの大切さを教えて
くれました。姉の死は、命というのは宝物であること、精一杯
生きることの大切さを教えてくれたのです。(その後、言葉を
少し詰まらせて)ごめんなさいね。
私は、とにかく人のために生きたい思ってきました。
姉の死からそれほど経っていないころ、私たち家族は、ケニ
アとタンザニアに行きました。私は完全に東アフリカに魅せら
れていました。文化や、風景の美しさはもちろん、人々の生き
方に魅了されました。その旅のなかで、路上でぼろぼろの服
を着て、食べ物を求めている子どもたちを見かけました。私
は、食べ物がないとか、着る服がないとかいう状況になるこ
とを考えたことがありませんでした。私は、自分がどれだけ
恵まれているのかを子どもながらに痛感しました。そして、
私の人生には、できること、やるべきことがたくさんあるの
ではないかと思うようになったんです。
子どもたちが自分らしく生きていけるようにするための子育て
(ニューサムには、4人の子どもがいます。8歳のモンタナ、6
歳のハンター、4歳のブルックリン、末っ子のダッチは2月で
2歳になります。)
私は、子どもたちを性で区別することなく、一人の人間とし
て向き合いながら育てるようにしてきました。そうした結果、
モンタナはドレスを着るのを嫌がる子になりましたね。クリス
マスに写真を撮る時ですら、ドレスを着たがらないんですよ!
自分の意思をしっかり持った子に育ちました。
ハンターは、愛すべき小さなお医者さんですね。私たちは、
彼を「ハンター博士」と呼んでいます。家族の誰かが怪我をすると、
いつも怪我の状態をチェックしてくれます。
ブルックリンは、いつもトラックで遊んでいる冒険家ですね。
私はできるだけ自宅で仕事をして、子どもたちと過ごす時間
を確保しています。社会性を身につけさせ、愛と思いやりの
ある人間になるように育てていきたいと思っています。男の
子たちには特に。また、女の子たちに望んでいることは、活
発で体を良く動かして欲しいということですね。外見に気を
取られることなく自分らしく生きて欲しいと思っています。
子どもたちにも暴行などの問題について話し、「公然の秘
密」をつくらない
子どもたちには、「自分には無理だ」という思いを持っている
人や、「自分には力がない」という思いを抱えながら生きてい
る人たちがいるということを伝えるべきだと思っています。
早い年齢のうちから、固定観念に縛られず、ありのままに
生きていくことの大切さを子どもたちに伝えていくことが重
要です。また「合意」の大切さについて伝えていくことも重
要です。誰も勝手に自分の体を触ることは許されていない
し、他の人の体を勝手に(合意なしに)触ってはいけないと
いうような感じで。もちろん、年齢が上がるに従って、踏み
込んだ話しをしていく必要があります。
ダイエットやデート、ファッションと関係がない、今年女性が
持つべき目標
政治的な活動を積極的に行っていきましょう。自分たちの
社会の状況、社会が抱えている声を政治の場で反映させ
ていくということを真剣に考えるべき時期だと思います。私
たちや、他の人たちの状況を良くしていくために、あらゆる
機会を最大限に有効活用するべきです。それを実現してい
くためにも、女性たちのリーダーシップが必要なのです。
そして、これは大事なことなのですが、社会でリーダーシッ
プを取ることは、選挙で当選したリーダーでなくても、います
ぐ誰でもできることです。家庭でリーダーになることもできる
し、地域でリーダーになることもできるし、学校でリーダーに
なることもできます。
私たちの手で、社会を変革していかなくてはいけません。変
革のための唯一の道、それは私たちが積極的な意思を持っ
て、行動を起こしていくことです。私は、社会が歩むべき道は、
この道しかないと思っています。
参考リンク
セクハラの告発を受けて番組を降板したFOXニュースのビ
ル・オライリー氏についての記事(オライリー自身は、セクハ
ラの事実は無いと主張している)
http://www.huffingtonpost.jp/2017/04/19/bill-oreilly-is-out-at-fox-news_n_16119348.html
セクハラの告発を受けて番組を降板した、NBCテレビのマ
ット・ラウアー氏についての記事
http://www.bbc.com/japanese/42176588
セクハラの告発を受け映画を降板した、ケヴィン・スペイ
シー氏についての記事
http://www.bbc.com/japanese/41938609
映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏のセク
ハラが告発されてから、「#metooムーブメント」が広まるまで
の経緯
http://diamond.jp/articles/-/146450
タイム誌が2017年の「今年の人」に選んだ、「沈黙を破った
人たち」
http://www.bbc.com/japanese/42261257
2018年に始動した「「Time’s Up」について
https://rockinon.com/news/detail/171935
多くの女性の立候補者が出馬する可能性があるといわれ
ている2018年のアメリカの中間選挙
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/world/article/388125/
日本にも広がっている「#metooムーブメント」
https://mainichi.jp/articles/20171228/k00/00m/040/076000c
ニューサムを紹介した、クレイグとマークの過去のコラム
(原文記事執筆: ケイティー・ヘウィット)