2013年11月にフィリピンを襲った大型台風(ヨランダ)によって被害を受けた地域への、緊急・復興支援の状況を把握するために、プロジェクト地域を5月18日から1週間訪問しましたので、ご報告します。
◆レイテ島タクロバンでの子どもケアプログラム◆
「子どもの権利を伝え、危険から子ども自身が身を守る術を学ぶ人形劇ワークショップ」について
フィリピン台風緊急復興支援の事業地訪問第3弾は、レイテ島のタクロバン市で行っている子ども(18歳未満)対象の人形劇ワークショッププログラムについて、ご報告します。
※フィリピン緊急支援の過去のレポートは下記のURLからご覧ください。
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フィリピン台風緊急復興支援 事業地訪問②
セブ島から船で3時間、レイテ島のオルモックに到着し、そこからバスで島をタクロバンまで横断しプロジェクト地域に向いました。
レイテ島といえば、第二次世界大戦でフィリピンを巡り日本軍とアメリカ軍が激戦を繰り広げ、日本兵8万人以上もが戦闘や飢えで亡くなったといわれているほどの悲惨な歴史を持つ島、といったイメージがあり、暗い印象を持っていましたが、夜には蛍が現れ、空には満天の星が輝く自然が美しい島でした。何十年ぶりに、思いがけず蛍を間近で見られ、小さな感動をしたほどです。
遠くに地熱発電所から出た煙が雲をつくっているのがわかりました。
さて、その本来は自然豊かでのどかなレイテ島を横断中、のどかとは言い難い台風の爪痕を数々目撃しました。屋根を失い傾く家屋、鉄骨がむき出しになってしまったビル、「Help Us!」と書かれたポスターが掲げられた屋根のない校舎、UNDPの支援物資のビニールを屋根にかぶせてなんとかしのいで生活している家々、到底住居とは言えない壁のないシーツだけがかかっている状態の住まいなど。いかに今回の台風が大きく島全体を暴風雨が襲ったのかを痛感されられる光景が広がっていました。
そのような復興にはまだほど遠い状況の地域を車で4時間走り、私たちが現地パートナー団体「PREDA基金」を通じて子どもへの支援を行っている、レイテ島タクロバン市に到着しました。
タクロバン市は海沿いで今回の台風の被害が非常に大きかった地域の1つです。その理由としては台風の中心が通過した地域だったことと、市が湾の内側に位置しているため、猛烈な風と海水が陸地に押し寄せ、高潮となってタクロバンを襲ったという地理的要因があげられます。
到着すぐにタクロバン市にあるいくつかの、家を失った人々のための避難テント(仮設住宅)がたくさん建てられている地域に足を運びました。これは、NGOや国際機関の支援によって設置されたものが殆どであることがわかりました。また、大きな船が高潮によって打ち上げられて陸地に横たわったままになっている場所に行ってみると、船の周りに被災した人々が自分たちで簡易的な住居スペースを建ててコミュニティを形成していることがわかりました。
この場所を案内してくれたのはこの地域出身の62歳のトライシクル(サイドカーの付いたモーターバイク)ドライバーでした。このおじさんは、大学卒業後、エンジニアとして政府機関で働いていたようですが20年間に退職してから地元に戻りドライバーとして生計を立てているということでした。
「子どもは3人いるが、教育は重要だから、大学には行かせたい。だからまだ稼がないといけないけど、去年の台風で家が倒壊し、しばらくは働けなかったし本当に困った。政府からの補助や支援は何もないから、自力でところどころ家を直したが、壁や屋根が不完全なので早くちゃんとした家にしたい。政府からの支援はないけれど、NGOなどの物資配給や、義捐金が少しもらえて本当に助かった。政府よりも素早い支援をしてくれてNGOの方が頼りになるよ。」 と話してくれました。
また、路上で出会ったタクロバン市の子どもたち(12歳~15歳)に様子を聞くと、
「NGOなどが学校を建て直してくれたから、新学期から学校に通えるようになることはとても嬉しい。」
「今は夏休みだからお母さんの仕事を手伝ったり、働いたりして家族を助けています。」
と答えてくれました。
翌朝、私たちの現地パートナー団体「プレダ基金」がタクロバンでやっている子どもを対象にした、子ども支援プログラム「子どもの権利と危険から身を守るための人形劇ワークショップ」を見学しました。朝の10時から地域の自治体(バランガイ)と協力し、コミュニティセンターで行いました。この地域には約200世帯おり、900人近い人々が住んでいます。事前に自治体から子どもたちにワークショップをやるので集まってほしいということを伝えてもらい、50人以上もの子どもたちが集まってきました。
まず最初に、楽しそうな曲を流しながらスタッフが子どもたちを歓迎します。
そして、スタッフの呼びかけで、子どもたちは楽しくゲームをしながらみんなで仲良くなります。「これから、プレダ基金による子どもの権利について学ぶ時間をもちます。子どもの権利って知ってるかな?」と絵のパネルを見せながら子どもたちに問いかけ、子どもには一人一人権利があることを伝えます。
「子どもは虐待や搾取、暴力、性的虐待、人身売買といったものから守られる権利があります。そういった危険な目にあわないように、これから危険から身を守るにはどうしたらよいか、そして、お友達や兄弟姉妹が危険な目に遭っていたらどうしたらよいかを学びましょう」とファシリテーターの呼びかけとともに、人形劇が始まります。
子どもたちは様々な人形の登場に釘付けです
30度以上あるなか、ファシリテーターは人形劇を30分以上行います。人形に併せた絶妙な動きと声色で、子どもたちを惹きつけます。
最後は子どもたちに今日学んだことが何だったか質問などして問いかけます。
そして、集まった子どもにジュースとスナックを配って終了です。約1時間半行いました。
スタッフは全員で6人。5人がこのレイテ島の出身で地元の若者で1人は、プレダ基金本部があるオロンガポの育成スタッフです。この被災地の子ども対象支援プログラムのために、今年になってスタッフとして雇われ、2月から人形劇やワークショップのファシリテーターになる研修を受け、4月から実際に子ども向けのセミナーを担当して、現在は毎日2回、様々な自治体と協力し、実施場所を変えて週に6回、合計週に12回セミナーを運営しているということです。
ワークショップ担当スタッフの6人、被災地での子どものケアプログラムのため、日々活動しています。
子どもたちに分かりやすく子どもの権利や、危険な環境から子どもが身を守るための術を学べる内容になっており、保護者や警察、社会開発福祉省や自治体からも高く評価されています。実際にこのワークショップに参加した子どもたちに感想を聞いてみると、学校では学べない大切なことを知れた。嫌な事や危険なめにあったらどうしたらよいか知れてよかった。という感想が聞けました。
人形劇ワークショップ・スタッフのみなさん、おつかれさまでした!
報告:なかじまさなえ