MDGsの達成向けて フィリピンからのレポート
国連は2011年7月7日、「ミレニアム開発目標(MDGs)報告2011」を、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長の「MDGs達成に向け大きな前進があったがその陰で最も立場の弱い人々が置き去りにされている」というメッセージとともに発表しました。
MDGsとは、「2015年までに世界の貧困を半減すること」など、世界が2000年に約束した目標です。MDGsは開発途上国の貧困問題解決に向け、国連や各国政府などの諸機関が掲げたもので、8つの目標にまとめられています。
MDGsについて↓
http://www.ftcj.com/webstudy/index.html#/india/india5_10/talk1
さて、世界の目標期限まであと5年をきりました。2015年までに達成しようと打ち立てた目標へはどのくらいの所まできているのでしょうか。それが、冒頭にご紹介した国連事務総長の言葉の通りで、この目標に向け、世界中でかなりの改善がみられていますが、課題も残っています。
「すでにMDGsのおかげで、数百万人が貧困を脱出したほか、数限りない子どもたちの命が救われ、その就学も確保されました。MDGsは妊産婦の死亡者を減らし、女性の機会を拡大し、衛生的な水の利用を広げ、多くの人々を致命的な重病から解放しました。」と事務総長は述べました。
しかし、その一方で、「女性と女児の地位向上、持続可能な開発の促進、さらには紛争、自然災害、食料価格がエネルギー価格の乱高下など複数の危機による壊滅的な影響からもっとも弱い立場にある人々を保護するという点では、まだまだ長い道のりが残っていることも、この報告書は示しています。都市部と農村部との間には、気の遠くなるような格差が残っています。」と潘基文総長は続けました。
11年前の団体設立当初からフィリピンの子どもへの教育支援をおこなってきているフリー・ザ・チルドレン・ジャパンとしても、フィリピンの子どもの小学校や高校からの中退率の依然として高いことをみても、この目標期限までにゴール2は残念ながら達成不可能なのではないか、と思わざるを得ない状況です。
そこで、実際にフィリピン政府機関のひとつ
「National Economic and Development Authority」(経済開発局)が、
2010年9月に発表したMDGs達成に向けての中間報告書のデータをもとに、
フィリピンの現状をみていきたいと思います。
◆フィリピン MDGsに向けた報告2010年
1) ゴール1の極度の貧困や飢餓を2015年までに半減させる目標については、達成できる見込みです。1991年では、24.3%の最貧困家庭がみられましたが、2006年では14.6%にまで下がりました。半減の12.15%にあと、もう一息です。しかし課題もあり、統計的には貧困率の半減は達成できる見込みでも、都市と地方の格差が非常に大きいのです。
具体的には、首都圏地域では最貧困ライン以下で生活する人々の割合は、1.2%のみですが、ビサヤ諸島では26.2%、ミンダナオ諸島では30%以上にもなる地域もみられます。また、栄養失調状態にある子どもが依然として多くみられることも課題です。さらに、収入の安定につながる雇用創出もうまくいっていません。
2) 初等教育へのすべての子どもの修了については、非常に厳しい状況です。このままでは目標を達成できそうにありません。就学率は、首都圏では93.7%、全国をみても最低でも74.9%に上りますが、小学校修了を表す卒業率に至っては、首都圏でも85%、最低地域では37.5%しかありません。これは、紛争地域で治安も不安定なイスラム教徒ミンダナオ自治地域(ARMM)での数値です。
国連の報告書によると、子どもの教育を阻むものとして大きな三大要因は、貧困、女児であること、紛争地帯に暮らしていること、があがっています。ミンダナオ島全体の小学校卒業率は60%~70%と非常に低くなっています。
フリー・ザ・チルドレン・ジャパンの活動を通して、小学校に入学しても、家族を支えるために労働力として駆り出されてやむを得ず学校を中退する児童のケースによく遭遇します。まさに、負のスパイラルといえる現象が起きています。
両親が教育をあまり受けていない→安定した収入のある仕事に就けない→家族を養えない→政府からの社会保障などもない→子どもが働き一家を支えざるをえない→子どもは小学校を中退し、成長しても安定した仕事に就けない・・・。
この貧困の悪循環を断ち切るためにも、教育は非常に大切です。フィリピン政府には、もっと初等教育の普及のために政治的意思を表し、政策に反映させてほしい、というのが国内外のNGOが訴えていることのひとつです。
3) 性による差別に関しては、フィリピンは以前から女性の地位が高いため、すでに目標をクリアしています。例えば、小学校の就学率をみても1996年の時点から中等教育(高校)では女児の方が就学率が高く、2009年は、初等教育も中等教育も女児が男児よりも就学率は高くなっています。
4) 乳幼児の死亡率の削減の目標については、非常に大きな進歩がみられます。1990年は1000人に対して80人の乳児死亡率でしたが、2008年には34人にまで減少しました。
5) 妊産婦の死亡率の削減について、2015年までの目標数値に達成できそうにありません。また、リプロダクティブ・ヘルスへのアクセスの目標実現も厳しいでしょう。カトリック国の宗教観が、避妊普及を阻んでいると指摘されています。
6) HIV/エイズの感染は、フィリピン国内では非常に増えており、問題になっています。今後これ以上の拡大がないよう治療と予防の2つから問題に取り組む必要があります。
7) 飲料水へのアクセスについては、目標達成は中程度です。ルソン島地域では徐々に飲料水アクセスへのインフラが整ってきましたが、ビサヤ諸島やミンダナオ諸島の地域では、非常にゆっくりとした改善になっています。
8) 世界とのパートナーシップを構築につながるインターネットや携帯電話の普及といった通信環境は、かなり整ってきました。
▼改善に向けて フィリピンに求められていること
いくつかの目標は達成できる見込みがみられ、政府の取組みなどが評価される部分がありますが、多くの課題が残っていることも事実です。これらの課題を解決するための取組みの提案も報告書の中で発表されていますので紹介します。
・持続的な経済発展
・人口増加抑止につながる良い政策
・貧困率が高い地域に目を向け、しっかりとした政策を実施する。
・社会福祉サービスの設置と運用
・政府や自治体のガバナンスと透明性(汚職や政治腐敗も目標を阻む要因である)
・平和と安全の向上にむけた政策
・適正で効果的な資源利用
・問題への世論喚起(特に地域の人々への呼びかけ)
・官と民の協力関係の強化とパートナーシップ構築
など
途上国の課題は、その国の政府が市民とともに取り組み、解決していくことが重要ですが、日本にいる私たちも、MDGs達成に向けアクションを起こしていくことが大切です。なぜなら、一人一人の行動や声が、世界を変えるからです。東日本大震災以降、国内では被災地復興に向け、皆が協力していこう、という機運が高まり、多くの日本人がボランティアのために被災地を訪れたり、募金をしたりと行動に移しています。そのムーブメントは国内からだけでなく、海外からもメッセージが寄せられたり在日外国人がボランティアをするなど暖かな輪が広がっています。
こういった輪が日本国内の問題だけにとどまらず、途上国への関心につながることを願いつつ、国際社会の一員として活動していきたいと思います。
フィリピンのミンダナオ島の鉱山で働く13歳の少年。働いて家族を支えるため小学校は3年生で中退。鉱山では金を採取するために水銀が流れ出る現場。そんな環境でも少年は毎日30キロの砂袋を何度も運び、働いていた。「いつか、学校にはまた戻りたいな」