日本国内の難民問題について— 有馬みきさんとのインタビュー
日本国内の難民問題について— 有馬みきさんとのインタビュー
子ども記者チームが東京大学持続的平和研究センターの有馬みきさんにインタビューを行いました。
<有馬みきさんプロフィール>
アマースト大学、ハーバード大学院卒業後、日本大使館専門調査員、ユニセフJPO、UNHCR駐日事務所法務官補佐を経て現職。難民審査参与員、東京大学持続的平和研究センター研究員。
(http://cdr.c.u-tokyo.ac.jp)
>>難民支援に興味を持ったきっかけを教えてください。
学生時代にアメリカで暮らし、自分が外国人という立場になった経験からマイノリティの問題に自然に興味を抱くようになり、将来は国際機関に応募してみたいと思うようになりまし た。そこで、大学院の夏休みにインターシップで国連本部に行き、政治局アフリカ部に配属され、カントリープロフィールをアップデートする仕事をしました。
その後、この仕事で扱った国、ルワンダで大虐殺が始まり、難民が大量発生し、難民に関する興味が強くなりました。
しかし、すぐにその世界に入ったわけではありません。
大学院を出て、国連に興味を持ちつつ、日本大使館で働き始めました。
同時に、週末は難民団体で英語を教えたり、話し相手として訪問したりするボランティアをしていました。
その中でもベトナム人の家族を訪問した時の印象はずっと心に残っています。彼らは英語をほとんど話せなかったのですが身振り手振りでコミュニケーションをとっていました。大変な生活状況にもかかわらず、明るくたくましく生きている、という強烈な印象を受けました。
その後、Junior Professional Officerという制度を通してユニセフでの仕事を始めました。ここでは、アルバニア事務所に配属され、児童福祉関連のプログラムの企画運営をする一方、国内で暴動が起きると、緊急人道援助の仕事も経験しました。
途上国での生活の苦労や、銃声の音を聞きながら眠る不安な日々を過ごした実体験は、今でも難民の気持ちを理解するのに役立っているのではないかと思います。
その後、結婚を機にユニセフを辞めて帰国しました。
新聞の求人欄に「国連」という二文字が大きく書かれているのを見つけ、国連難民高等弁務官事務所(以下、UNHCR)の日本事務所で働き始めました。当時は偶然見つけた仕事でしたが、やってみたらとてもやりがいがありました。
>>今まで、UNHCRなどでどのような難民支援をおこなってきましたか?
東京事務所の法務部に在籍し、日本に来る難民の人を法的な形で保護することが仕事でした。当時のUNHCRでは個別に申請者のインタビューを行い、積極的にサポートする必要がある人を見極める、というスクリーニングを行っていました。
難民と思われる方がいた場合、法務省の担当部局へ報告し、難民認定を促す働きかけをしていました。それでも認定されない場合には訴訟になることが多かったです。弁護士の紹介もしました。
また、難民不認定処分取り消し訴訟の弁護士費用を負担するプロジェクトの運営などを行っていました。他には難民認定に携わる入国管理局 の職員向けの研修を行ったり、本部から英語で発行される資料を紹介したりしていました。
その後、子どもを授かり、大学院で学び直したり、夫の海外転勤に伴って再び海外で暮らしたりしたこともありましたが、帰国後は難民審査参与員になりました。東京大学での仕事もほぼ同時に始めました。
>>難民問題における日本の課題とは何でしょうか?それとは反対に、改善している、良い点はありますか?
難民審査参与員として私自身認定手続きに関わっていて感じることがあります。それは、日本政府の難民援助に対する支出はUNHCRでも第二位ですが、国内の難民保護に関しては消極的で、国民も難民に対して関心が薄いということです。
難民認定について言えば、制度上の問題は大きいです。先進国は、難民認定で一度不認定になった後に異議申し立てをする権利を認めています。
日本の場合は、一次審査が法務大臣の名前で出て、異議申し立てについても、最終的には法務大臣が判断します。そのため、ほとんどの場合が一時審査と同じ結果になるのです。
ただ、良くなっている面もたくさんあります。
以前は、日本に入国してから60日以内に申請しないといけない、と法律で定められていました。いくら異議申し立てをしても「60日以内に申請しなかった」という理由で、中身を見てもらえないという状況でした。弁護士団体や支援団体が様々な働きかけをしたこともあり、現在は その法律は改正されています。これは大きなステップだったと思います。
また、私が難民支援活動を始めた1998年の頃と比べると日本の市民社会はとても活発になったと思います。当時は難民に関心があっても、皆、目は海外に向いており、国内の問題を扱う団体が本当に欠けている状態でした。今では、難民支援協会が設立され、東京だけでなく関西などにも学生団体ができ、少しずつですが前進していると思います。
>>日本では、難民の方はどういう生活をしている方が多いのでしょうか。
難民の人は、日本社会の、いわゆる底辺の部分を支えている方々が多いです。日本人がやりたがらないような仕事を一生懸命して、差別を受 けながらも日本語を学んで、頑張って生きている、という人が多いです。
難民の第一世代は、アメリカで言うblue-collarの仕事で頑張る、というケースが多いです。たとえば私が申請時点からお手伝いした家族では、お父さんが学のある方だったのですが、日本では工場などの仕事しかありませんでした。
そのような仕事をしながら3人のお子さんを育て、3人とも日本の大学を卒業しました。
その子たちは今では日本でも有名な企業に就職したりして日本社会の一員として成功しています。移民も同じですが、幼い頃に日本に来たり日本で生まれたりした難民の子ども達は、親世代と比べて言葉や文化の問題が比較的少ないので日本社会にとけ込みやすいようです。
東日本大震災後には、日本で暮らす難民の方々から「何かお手伝いしたい」という声があがり、被災地にボランティアに行く難民たちがいました。
自分たちが苦労してきたらこそ、人の痛みや苦しみに敏感なのかもしれません。
自分たちの暮らしも決して楽でないのにもかかわらず、被災地に支援に行って役に立ちたい、という難民の方々がいることは是非知っていただきたいと思います。
>>難民の多くが子どもですが、子どもの難民は避難先ではどのような生活を送っているのでしょうか。
日本の場合、私が見てきた限り学校は柔軟に対応してくれます。
どんな状況であれ子供に教育の機会を与えることが大事、という考えを多くの先生方が持っており、基本的には子供の難民は学校に通えます。
ただ、日本語を学ぶのは大変ですので、周りの人のサポートが大切です。日本国内に住んでいる難民の数が少ないので、難民のコミュニティーができにくく、孤立してしまうことがあります。この辺は日本人社会が補わなければいけない部分だと思います。
世界的に見ると、いまシリア難民の子供が百万人以上います。
その中には、家族と離れ離れになっている子が多く、学校に行けていない子も多いです。精神的なトラウマを抱えている子も多いのでこころのケアが必要です。
また、避難中に生まれた子供は出生登録がされないので事実上無国籍になって しまうのも問題です。他にも、世界的には18歳未満の子供が保護者のいないまま国外に出てきて難民申請するケースが増えています。このような場合は大人と同じ扱いではいけないということでインタビューの仕方を工夫する等という話が進んでいます。保護者のいない子どもは搾取の対象になりやすいので、そのような面でも注意が必要です。日本もこれから取り組んでいかなければならない問題であると考えています。
>>今、日本の小学生、中学生、高校生にできることは何ですか?
まずは知ることから始めてほしいと思います。知らないと何も問題意識も持たないし、知らなければ知らないで普通に生活はしていけるのでそのまま通り過ぎてしまうことが多いと思います。
難民問題に限らず社会問題全般に言えることですが、知ることで多くのことに気づくことが出来ます。そこから、では自分には何ができるか、と考えていくことが出来ます。
それはとても大事なプロセスだと思います。何が出来るか、ということに正解はないし、答えは一つではありません。自分で考えて何か行動を起こそうと思うことが大切だと思います。ぜひ友達や家族に話をして、知る機会を増やしてください。
===インタビューをしてみての感想=====================
とても貴重な話をお聞きする事ができました。日本国内の難民問題はまだあまり知られていないの で、もっと関心が広まるといいな、と思いました。
また、日本は先進国として、保護を必要としている人々にセイフティーネットを築くべきだと強く思いました。
–補足—
<難民とは?>
難民とは、母国にいたら迫害を受ける恐れがあるため他国に避難した人々のことです。この場合の「迫害」とは、「人種・宗教・国籍・政治的意見・特定の社会集団に属する」などを理由とする迫害を指しています。
引用:http://www.unhcr.or.jp/ref_unhcr/refugee/
<難民として認定されるには?>
入国管理局の難民調査官が面接を行い、認定または不認定となります。不認定となった場合、異議申し立てを行うこ とも可能です。異議申し立てでは、難民調査官と難民審査参与員による面接が行われます。
引用:http://www.unhcr.or.jp/protect/j_protection/protection.html http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyukan_nyukan58.html
<日本は難民をどれくらい受け入れているの?>
平成25年には3,260人が難民申請を行い、そのうちの6人が難民として認定されました。
日本での難民申請者の主な国籍はトルコ、ネパール、ミャンマー、スリランカなどです。
引用:http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri03_00099.html
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本当に貴重なお話ですね。有馬様、お世話になりました。ありがとうございました。