先進国は、気候変動で打撃を受ける開発途上国に支援を!

翻訳チームより2016年最初の記事になります。

クレイグとマークのコラムの気候変動に関する記事の翻訳です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/climate-change-vulnerability_b_8830656.html

 Ali Noor Gediは栄養失調の状態になっていました。彼は、カナダの乳児の平均的体重よりも少し大きいぐらいの体重しかない三歳児でした。Aliの腕はあまりにも細いため、難民キャンプの看護師は静脈内注射を上手く行うことができませんでした。そんなAliを、難民キャンプを訪れたクレイグはそっとなでていました。

四年前、クレイグがケニアのダダーブの難民キャンプを訪れた時、クレイグはAli親子以外にも多くの難民の家族に出会いました。多くの家族が、この世界最大の難民キャンプを目指して遠くからやってきていました。この場所に来た難民の殆どは、暴力から逃れようとして難民キャンプへ来たのではありません。変化する天候の被害から逃れるために、難民キャンプを目指してきたのです。

気候変動の進行に伴い、2011年に東アフリカに打撃を与えた干ばつのような現象が、頻繁に見られるようになりました。そして、このような現象によってもたらされる被害は年々深刻さを増しています。世界銀行の最新の報告書は、気候変動によって不安定化する気候が原因で貧困に陥る人が一億人増加する可能性があると指摘しています。

11月30日、パリで第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)が開幕し、カナダ政府は、開発途上国への気候変動支援として、265億ドルを出資することを表明しました。そして、地球温暖化による気温上昇を、1.5度減以内に抑えるという案への支持を表明しました。

カナダでは先日、10年ぶりの政権交代があり、ジャスティン・トルドー新首相は「本来のカナダがついに戻ってきた!」と演説で述べました。今回、カナダ政府が新たに打ち出した気候変動政策は、「『本来のカナダ』の姿が気候変動の分野でも戻ってきた」と評している人もいますが、そのようなこという評論家は、この表明をカナダ国内の政治的な文脈でしか評価することができておらず、このカナダ政府の新たな表明の本当の意義を充分に理解できていないように思います。

このカナダ政府の国際社会への表明の本当の凄さは、従来の環境問題を巡る国際的な政治情勢に、カナダが一石を投じる国の一つになったという点にあります。その一石とは、気候変動に関する枠組みを作る際に、この20年障害となってきた「開発途上国と先進国の対立」という対立の構図を崩そうとするために投げた一石だったのです。

1995年に開かれた第1回気候変動枠組条約締約国会議から、気候変動に関する国際交渉を見てきた、トロント大学政治学部のスティーブン・バーンスタイン教授は「従来の南北問題の考え方に基づく気候変動に関する政治的な対立は、結果として気候変動対策を後退させている」と主張していますが、私たち兄弟もその考え方に強く共感しています。

ダダーブで目の当たりにした気候変動の影響に思いを馳せつつ、今回私たちはバーンスタイン教授に、「開発途上国が直面する気候変動に関する課題」について話を聞きました。

世界で形成されていた気候変動に関するこれまでの合意は、「気候変動による最悪の被害を避けるために、地球の平均気温を産業革命前(だいたい1850年以前)よりも二度以上上昇させてはならない」というモノでした。しかし、南太平洋にある小さな島国のツバルのような国は、二度気温が上昇するだけでも、海水が上昇し島が数十年以内に水没してしまうといわれています。このような国々は気温の上昇を1・5度以内に抑えるようにと要求していました。これをもし実行するとなれば、裕福な工業先進国にはより厳しい温室効果ガスの削減が求められます。だからこそ、カナダのこの案への支持表明にはとても大きな意味があるのです。

もう一つ、開発途上国側が望んでいるのが、気候変動によってもたらされた被害への損害賠償を法的に義務付けることです。気候変動で被害を受ける開発途上国にとって、国際的な気候変動の被害に対する保健のような制度を創設することは悲願なのです。具体的には、開発途上国側は気候変動でダメになってしまった作物や家畜に対する損害賠償を求めており、開発途上国側の生活実態に沿った「地に足のついた賠償」を求めているといえます。この記事の原稿を書いている時点では、カナダは損害賠償に対する態度を明確にはしていませんが、これまでのカナダ政府の言動から、この問題に関しても正しい決断をしてくれるのではないかと、私たちは楽観的に考えています。

しかし、気候変動で受けた損害に対してただお金を出すだけでも不充分です。開発途上国が気候変動に対応できるように、そして持続可能な経済社会をつくりだすことができるように、私たちも支援をしなければならないと思います。

バングラデシュやタンザニアのような国々は、世界全体で見れば地球温暖化の大きな要因になっているとはいえません。しかし、将来的にも温室効果ガス排出国にならないようにするためには、化石燃料に依存した社会から、21世紀にふさわしいクリーンなエネルギー社会に変化していくことが不可欠です。それを実現するためには、裕福な国からの膨大な資金援助が必要となります。今のところ、気候変動対策に世界は一千億ドルほどを出資していますが、それではまだ不充分だとバーンスタイン教授は指摘しています。私たちも同じ考えです。

このように様々な課題はあります。カナダ政府が出資する265億ドルの使い道もまだ決まってはいません。それでも、「カナダ政府がこれからやろうとしている気候変動対策への出資には非常に大きな意味がある」とバーンスタイン教授はいいます。

私たちがこの原稿を書いている段階では、パリでの会議はまだ続いていますが、今のところ、カナダは素晴らしいリーダーシップを見せています。Cop21が終了する頃には、カナダがさらにリーダーシップを発揮し、他国もカナダの例に倣っていることを望みます。自国の経済的な国益はひとまず横に置いて、気候変動の影響で苦しんでいる国に手を差し伸べていることを!

先進国の行動によって、Aliのような家族が、異常気象の竜巻によって畑をダメになって餓死するようなことが将来起きないようになるかどうかが決まるのですから!

参考リンク

気候変動と貧困に関する世界銀行の報告

http://www.huffingtonpost.jp/science-portal/global-warming_b_8529948.html

気温の上昇で危機的な状況にあるツバル

http://www.thinktheearth.net/jp/thinkdaily/news/climate/1015cop18.html

国際社会に訴える太平洋の島国

http://www.christiantoday.co.jp/articles/17340/20151017/pacific-churches-temperature-climate-change.htm

おまけ

Cop21閉幕後にBBCが出した全体の総括(日本語訳)
今回のコラムで言及した問題にも触れられている。

http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35086335

(訳者 翻訳チーム 清田健介)