男らしさってなんだろう? 「らしさ」の影にある生きづらさを考える

クレイグとマークのコラムの紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/the-mask-you-live-in_b_6852002.html

ケヴィンのお父さんは、ケヴィンがこの街に引っ越してくる前に亡くなりました。この街に引っ越してから、自分の弱みを誰にも見せたくないと思ったケヴィンは、高校生になるまでお父さんへの思いを語ることなく、今にも溢れ出しそうなその思いを、ずっと胸に秘めてきたのです。

カリフォルニアで高校生活を送るケヴィン(仮名)は、学校のボーイズサポートクラブに入部します。プライバシーが守られた空間の中で、顧問の先生が「男子として無意識的につけている仮面を外して、周りの目を気にせずに自分の思いを語りなさい」と参加者に声をかけます。そんな中で、ケヴィンが自分のありのままの思いをさらけ出した時、これまでのことで胸がいっぱいになったケヴィンを、同席していた他の参加者は暖かな思いで包み込んだのでした。

このケヴィンのミーティングは、一月にサンダンス映画祭でお披露目されたアメリカ人ドキュメンタリー映像作家であるジェニファー・ニューサム監督の最新作「The Mask You Live In」の最も印象深い場面の一つです。サンダンスでこの映画は観客からスタンディングオベーションを受けました。この作品は、私たちの文化の中でどのように「男らしさ」という概念が作られ、それによって男の子が社会で生きづらくなっている現状をタブーなく調査しています。

この作品の構想は、ニューサム監督が前作のプロモーションをしていく中で生まれたモノでした。2011年当時の監督は、女性に対して社会が持っているステレオタイプや、私たちの文化やメディアの中で女性(特に社会で強い影響力を持つ女性)がどのように扱われてきたのかについて調査した作品「Miss Representation」のプロモーションをしていました。その中で、監督は何人もの観客から「男子についてはどうなのか?彼らに対してできることはあるのか?」という質問を受けたのです。

これを受けたニューサム監督は男子に関する調査を始め、若い男性の自殺率や学校中退率が高くなっているという見逃すことのできない統計に出逢います。又、文化によって作り出された「男らしさ」の社会への影響力についても研究進めていきました。そのような作業を進めていく中で、監督は「この問題の本質は自分が前作で明らかにした事と全く同じだ」という結論に至ります。女性が性規範(性別によって決められる社会での役割)に苦しんできたのと同じように、男性もまた性規範に苦しめられていたのです。

私たち兄弟の父親は、当たり前のように家事をやり、私たちに対しても
「自分の思いを正直に話すように」と言ってくれました。「男らしくしっかりしろ!」とか、「男のくせにお前は..」みたいなことを言われたことは一度もありません。そのような父親の下で育つことができた私たちはとても恵まれていたと思います。大人になってから、私たちは、男らしく振る舞うために自分の感情や弱さを表に出さないようにしている男の子たちにたくさん出会いました。映画のためにそのような男の子たちを何人も取材したニューサム監督のように.. 多くの男性や少年が、何かを支配しようとしたり、自分の手で何かをコントロールしようとしたり、場合によっては他人に攻撃的な態度を取ろうとします。なぜなら、彼らはそのような態度を取ることが「男として求められている」と信じているからです。

「男の子たちは、仮面をかぶって生きています。その仮面は、彼らを『自分のありままの姿』から引き離し、『世の中でのあるべき自分の姿』に彼らを変身させる役割を持っているのです。そのような仮面から、健全とはいえない文化が作られていきます。そんなサイクルの中で、私たちはこの世界の男の子、そして私たち自身を『こうあるべきだ』という固定観念に縛りつけいためつけているのです。」 (ニューサム監督)

この「健全とはいえない文化」は、取り返しのつかない事態を生んでいるようです。カナダでは、男性の自殺率が、女性の三倍高くなっています。また、男子学生の学校中退率は、女子学生の三倍~五倍となっています。

この文化が原因となっているかもしれない大きな問題がもう一つあります。男らしさを求めるあまり、男の子の共感力は女の子より弱くなっているのです。スタンフォード大学の最新の研究によると、男性の反貧困団体への寄付行為やボランティア活動への参加率は女性より低く、これには共感力の差が関係しているのでは関係しているのではないかということです。

三月から、ニューサム監督の最新作の上映会を一般の人でも開くことができるようになります。監督は、この映画が「本当の男らしさ」について考える対話や運動を生むきっかけになることを望んでいます。サンダンス映画祭をきっかけに大きな反響が既に寄せられているとのことです。

私たちが女性の権利や暴力の問題について書く度に、「男の子の問題はどうなんだ?」と言われ続けてきました。男女の問題を切り離して考える訳にはいきません。男の子の問題に目をつぶって女の子の問題に取り組むことなんて、できないのですから..

参考リンク
http://www.bcmj.org/articles/silent-epidemic-male-suicide

http://news.stanford.edu/news/2015/february/men-charitable-giving-020915.html

※コラムの中で、自殺率の男女差についての話が出てきますが、日本でも似た傾向となっています。内閣府の最新の調査によれば、平成25年の自殺者の内、七割近くが男性となっているのです。
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2014/html/gaiyou/chapter1_01_06.html

また、コラムで直接取り上げられてはいませんが、同性愛者や異性愛者、自分の性別に違和感を感じていたり、特定の性別に自分を当てはめたくないと思っているなど、社会から
これまで見過ごされてきた多様な性のバックグラウンドを持つ人々(LGBTと呼ばれることもある)の自殺率もとても高くなっているのです。
http://www.tokyo-jinken.or.jp/jyoho/57/jyoho57_tokushu.htm
(日本におけるLGBTの人の実態に関する研究はまだ充分はとても言えないので、この研究が全てを物語っているとはいえませんが..

幸か不幸か、性別に対する考え方はどこの国でも文化と密接に結びついているようです。 その文化そのものに関しては、人によっていろいろな考え方があるでしょうし、国や地域によっても様々だと思います。 女子教育の問題など、明らかに不平等だと思えるような問題もあれば、人によっては意見が対立するかもしれない問題もあるかもしれません。でも、自殺率のことを考えても、世の中の性規範によって生じている生きづらさもあるのではないかなと私自身は思っています。私自身、子どもの頃に、「男のくせに泣くな!」と何度言われたか分かりませんが、我慢できなくなると感情を向き出しにする性格でもあるので(笑) どこの国であろうと、自分らしく生きられる環境があることは大事なのではないかなと思っています。

今回のコラムで取り上げられていた映画の上映に興味のある方は、是非下記のリンクをご覧下さい。上映は日本でも意外と簡単にできるかもしれません(笑)

http://therepresentationproject.org/films/the-mask-you-live-in/see-the-film/host-a-screening/

(翻訳 翻訳チーム 清田健介)