「水」を、「紛争の道具」にさせないために..

クレイグとマークのコラムの紹介です。

http://we.org/we-at-school/we-schools/columns/living-we/water-one-first-casualties-war/

 

 

三月上旬、シリアのアレッポでは、二ヶ月ぶりの水道水を

大勢の人が心待ちにしていました。

 

一月、アレッポ市内全域に水を提供している浄水地が、IS

(いわゆる『イスラム国』と言われているテロ集団)によって占拠

され、市内の水道が完全に遮断されました。その結果、300

万人もの人々が飲み水を飲むことができない状況となって

いました。シリア政府軍は、三月に浄水地をISから奪還しまし

た。

 

暴力化するシリアの紛争は、勃発から六年目を迎えました。

シリアの紛争では、水が「紛争の道具」となっていきました。

政府軍や反体制派、武装組織まで、全ての勢力が、それぞれの

軍事的な目標達成のために、水の在り処を占拠、あるいは

破壊してきたのです。

 

2010年、国連は、「清潔な水を得るということは人権である」

ということを正式に認めました。しかし、それよりもずっと

前から、国際法上においては、「民間人が生きていくために

必要なモノ(水も含む)の入手をできなくすることは戦争犯罪

である」とされてきました。しかし、私たちが話をした専門家

は、「戦火において、『命の源となる水を守ろう』という意識

が、国際的にまだ非常に希薄である」と指摘しています。

 

シリアでの紛争は、世界各地にある「水が戦火で駆け引き

の道具として使われている現場」の一部に過ぎません。

 

ソマリアでは、イスラム系武装組織アルシャバブが、掃討作

戦を展開する政府軍への復讐を目的として、市街への水の供

給を遮断しています。

 

また、ナイジェリア軍は、テロ組織ボコハラムが、「村を占拠

してから撤退するまでの期間に、村内の井戸水を汚染させて

いる」と告発しています。

 

アジアとアフリカの水問題に関わった経験もある、トロント

大学の水文学者のロミラ・ベルナ教授は「アフガニスタンの

水のインフラは、長年の紛争で深刻なダメージを受けている」

と指摘します。ベルナ教授は、現在はアフガニスタンの水洗

設備の復旧に携わっています。アフガニスタンは、様々な紛

争を経している国ですが「敵対するインドとパキスタンが、

お互いを牽制するために争いを繰り広げた地でもある」と

ベルナ教授は語ります。

 

ベルナ教授は、サハラ以南の11カ国に水を供給すること目的

とした、8,000kmに及ぶパイプラインの建設プロジェクトに

も携わりましたが、ナイジェリアやマリで頻発する武装組織

による暴力行為の影響で、パイプラインの建設が危ぶまれた

こともありました。パイプラインが完成した現在は、現地の

人たちによる維持管理が続いています。

 

「人類の歴史は戦争の歴史である」という人がいるように、

紛争や戦争は非常に古い歴史があり、水のように、人にとっ

て不可欠な生命線を狙うという戦術自体も、歴史上ずっと行

われてきたモノです。しかし、現在と昔の異なる点について、

コンコルディア大学で国際法と環境政治学を研究するピータ

ー・ストエット教授によれば、「気候変動により事態が非常に

深刻さを増している」そうです。ベルナ教授もストエット教授

に賛同しています。「清潔な水を確保できる場は世界中で減少

している。そのような状況下で、有害物質が水中に入った場合、

事態はもっと悪化する。」(ロミラ・ベルナ教授)

 

現在と過去のもう一つの大きな違いは、戦術の効果の違いで

す。かつては、敵陣の水源を掌握することが敵軍の降伏につ

ながっていたこともありましたが、ベルナ教授は、「今はむ

しろ敵陣の力を強め、民間人には、より大きな肉体的あるい

は精神的な苦痛しかもたらされていない」と言います。

 

また、ストエット教授は、「紛争地で水の衛生設備の運用が、

紛争が原因で疎かになることで、打撃を受ける罪のない人々が

更に増える」と指摘します。実際、三月には、イスラエル

の環境団体が「ガザ地区の下水施設の機能の弱体化は、コレ

ラや腸チフスなどの感染症の流行を引き起こす可能性があり、

その流行はガザ地区を超えて、イスラエルやエジプトに飛び

火する可能性がある」と懸念を表明しています。

 

紛争地の水源を守るために、今すぐできることはなんでしょ

うか?ベルナと教授とストエット教授は、「この問題に対して、

国を問わず問題意識を多くの人が持つことが第一歩だ」と口を

そろえます。「この問題について誰も話していないのが現状

なのだけれど..」と、ベルナ教授は嘆いていますが..

 

政府による外交努力や、一般の人々が、国際刑事裁判所のよ

うな国際機関に、「戦火の混乱に乗じて、『水を得るという

基本的人権』を、侵害する行為を行っている当事者の取り締

まりをしっかり行うように要望する』こともできるでしょう。

また、各国の政策策定者や軍事関係者は、彼らの立場上

難しい決断を迫られることがあったとしても、せめて

「どのように水源に損害を与えない形で、軍の任務な

どを遂行できるか」と最低限考慮して政策決定を行う

べきです。

 

2005年、国連の全加盟国が「保護する責任」を負うことに同

意しました。これは、「戦火においても、人権を遵守する」と

いうことを宣言したモノです。もし、それを遵守することに同

意したのであれば、世界は、「水を得る権利も人権である」と

いうことを思い起こす必要があるのではないでしょうか?

 

(もちろん、「保護する責任」が果たして戦場で守られるモノ

なのかどうか自体を問う必要があるのは言うまでもありませ

んが..)

 

参考リンク

 

2カ月近く飲み水が飲めなかったアレッポの人たち

 

http://www.unicef.or.jp/news/2016/0063.html

 

紛争の道具となる水
http://jp.icrc.org/2015/09/02/3670/

 

「水を得ることは基本的人権である」と認めた国連
http://democracynow.jp/video/20100729-3

 

ボコハラムにより水源を奪われた人々

 

https://jp.vice.com/news/%E3%83%9C%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%81%8C%E7%94%9F%E3%82%93%E3%81%A0%E9%9B%A3%E6%B0%91%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AE%E7%AA%AE%E7%8A%B6%E3%80%80%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%89%E6%B9%96

 

国連によって採択された「保護する責任」

 

http://www.unic.or.jp/activities/peace_security/r2p/

 

Youtubeで知ろう!今わたしたちにできること :水と衛生

 

https://www.youtube.com/watch?v=MGytIaD3rUA&list=PLCPvwVZQ-4mP-ooVam9-sgAgFZtxEHtED

画像出典:http://d13b0lbl16ld7z.cloudfront.net/wp-content/uploads/2016/04/Gv-April.16-Secondary-.pdf