世界のみんなで考えたい「国家の豊かさ」の新しい測り方

クレイグとマークのコラムの紹介です。

http://www.huffingtonpost.ca/craig-and-marc-kielburger/measure-well-being-nations_b_8190450.html

2010年に発生した「メキシコ湾原油流出事故」。世界史上二番目に最悪な原油流出といわれているこの事故では、11人の命が奪われ、7億5000万リットルもの原油が海上に流出しました。

しかし、この事故はアメリカの経済を底上げさせた事故でもあったのです。

海上に埋もれてしまった原油の回収や、メキシコ湾岸の清掃作業などでは、4000人分の雇用が創出されました。この事故によってもたらされた経済効果は、60億ドル程度の規模であると推定されています。この事故によって創出された雇用のされた人の数は、事故によって生まれた1000人といわれる失業者の数(地元の観光業や漁業で失われた雇用)を上回る者でした。

国内総生産(以下GDP)の観点から見ると、この事故はアメリカに四年分の経済効果をもたらしました。同じようなことは、メキシコ湾原油流失事故以降に、地球上で発生した30もの原油流出事故や、他の自然災害や人災でも起こっています。

しかし、これを聞いて「ああそうなんだ」と素直に納得するのには、私たちにも抵抗があります。このような事故で生まれてしまった悲劇や、失われてしまった綺麗な海、そして失われてしまった命、このような事は「経済の繁栄」には関係がないからと言って、無視してしまっても良いのでしょうか?

今回、記事のタイトルに「国家の豊かさの測り方」というキーワードを盛り込みましたが、「そんな小難しい話は、官僚とか学者に任せておけば良いし、こんなところで書くことじゃないよ」と思う人もいるかもしれません。

しかし、世界の進歩、あるいは現状について、何らかの指標を用いて見ていくということは、世界をより良くしていくためには必要不可欠なことです。最近、経済学者を筆頭に「国家の現状を図るために、従来から使ってきた指標を見直して、新しい方法を採り入れるべきなのではないか」という声を挙げる人が増えているのですが、私たち兄弟も、その考え方に賛同しています。

GDPの理論を1930年代に提唱した経済学者のサイモン・クズネッツ自身は、「GDPは国家の豊かさを図るためには適切なものさしとはいえない」と警鐘を鳴らしていましたが、実際には「適切といえない」と提唱者が言ったか言わなかったかは関係なく、豊かさを図るものさしとして、1940年代から世界中でGDPが使われています。

経済学の大半の理論がそうであるように、GDPの理論も複雑なモノです。そう断った上であえてざっくり言うと、GDPとは、「その国で年間に生産された商品とサービース業によって生み出された価値の総量」です。

つまり、もし原油流出事故が起これば、原油回収作業に当たる人、そしてそれをやるための機材を作る人も必要になるので、結果的に新たな雇用が創出されます。そしてその雇用が反映されてGDPも上昇することになるのです。これと同じことが、戦争にもいえます。銃や爆弾を製造するからです。GDPでは、失業率や個人の生活状況、そして環境への悪影響といったような要素は反映されずに見逃されてしまうのです。

もう少し分かりやすく説明しましょう。例えば、あなたが10万ドル稼いで、あなたのご近所さんが5万ドル稼いだとします。しかし、あなたには莫大な借金があり、それを返済しなければいけません。借金の返済に給料は回され、遊ぶ時間もありません。住宅にもお金を回すことができなかったので、衛生的には充分とはいれない家に住み、下水道も整っていような場所で暮らしています。

一方、5万ドル稼いだあなたのご近所さんは、抱えていた借金は多くありませんでした。そのため、自分のためにお金を使うことができます。自由に使える時間も多く、広くて清潔な家に住んでいます。さて、あなたとご近所さんをGDPの考え方で見てみると、あなたはご近所さんよりも多く稼いでいるので、あなたの方が豊かな生活を送っていることになります。さて、この説明であなたはご近所さんよりも豊かであるという風に思えますか? とても納得はできないのではないかと思います。

このような事情もあり、今世界中で多くの人が、国家の豊かさを図る新しいものさしを作ろうとしているのです。

1990年代初頭、国連が各国の国民の平均所得、平均的な教育レベルや平均寿命等から指数を出した各国の「人間開発指数(以下HDI)」を発表しました。HDIは、開発途上国がどれだけ所得や教育の問題で改善したかを測るために使われていることが多いです。HDIは指標としてGDPよりは改善されているといえますが、それでも人々の生活の中での限られた要素しか測ることができていないので、人々の生活の豊かさ全体を測るにはまだ不充分です。

十年ほど前から出てきた新しい考え方に、「真の進歩指数」(以下GPI)があります。GPIは、その国の所得の持続可能性を、所得格差や環境への悪影響など、GDPには欠けていた視点から、経済状態を見ています。GPIでは、給料が発生しない家事労働やボランティア活動がもたらしている経済的な恩恵も推定します。

アメリカの四つの州(バーモント州、メリーランド州、ワシントン州、ハワイ州)では、GPIを、予算編成を組む際の一つの指標として正式に採用しています。

そして、ブータンで使われているのが、「国民幸福総量」です。

「ただの観光客受けを狙っただけの宣伝文句にしか聞こえない」と思う人もいるかもしれませんが、ブータンは国民の幸福向上に向けて真剣な取り組みを行っています。

2010年、ブータン政府はブータン国民に対し、所得や資産、就労に余暇活動、一日の睡眠時間、地元の自然環境の状態など、多岐にわたる分野の調査を行いました。政府はこの調査結果を元に、各地で必要とされている文化的な事業や社会的な事業を、国中で進めました。

今回紹介した「経済の測り方」にはそれぞれのやり方に、賛同する人もいれば批判的な人もいて、様々な意見があります。このように経済の指標一つ取っても、いろいろな考え方があるのです。しかし、殆どの経済学者や世界のリーダーたちは、未だにGDPを使うことにこだわっています。

「真の進歩指数」であれ、「幸福総量」であれ(またはその両方)、国際社会は少なくとも、「国家の発展はお金だけでなく、もっと広い視点から考える必要がある」ということに気づき、結束していく必要があると思います。

原油流出で経済が発展する世界になんて、私たちは住みたくありませんからね..

参考リンク

メキシコ湾原油流出事故で上昇したアメリカのGDP

http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-72356.html

GDPとは

http://www.weblio.jp/content/GDP

HDIとは

http://www.weblio.jp/content/%E4%BA%BA%E9%96%93%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%8C%87%E6%95%B0

GPIとは(日本の自治体では兵庫県で使用されているようです)

http://ishes.org/keywords/2013/kwd_id000768.html

国民幸福総量とは

http://www.travel-to-bhutan.jp/about_bhutan/%E5%9B%BD%E6%B0%91%E7%B7%8F%E5%B9%B8%E7%A6%8F%E9%87%8F

国民幸福総量を使っているブータンについて

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol79/

(訳者 翻訳チーム 清田健介)