あまり語られることのない、「もう一つの難民問題」

クレイグとマークのコラムの紹介です。

https://www.we.org/we-schools/columns/global-voices/rising-tides-worlds-next-refugee-crisis/

夜の暗闇に包まれたニューヨークのブルックリンストリートは、
ハリケーン・サンディの直撃を受け、洪水の被害を受けました。
このような状況の中で、リズべス・ルセロは、自宅のアパートで、
必死に祈りを捧げていた、母親の姿を見ていました。

その後の数週間、リズベルの家庭では電気を使えない状
態が続きました。その期間は、76万件もの世帯が、自宅を
離れた生活を余儀なくされました。

街の教会は、冷え込む夜でも眠れるようにと、毛布を提供
していました。リズベルの家族たちは、屋台トラックから寄
付されたホットドッグや、エルサルバドル料理のププサを食
べ、空腹をしのいでいました。自宅の電気が復旧しない状
態のまま学校が再開されました。担任の先生の計らいで、
学校でシャワーを浴びさせてもらっていました。

リズベルは、助けを必要としている自分の現状に落ち込み、
恥ずかしさを感じていました。

リズベルのような経験をした人たちの話を聞くと、リズベル
のように、一時的に苦難を強いられた人たちはもちろんの
こと、同じような異常気象が原因で国を追われている「気候
変動難民」の人たちに対しても、思いを寄せずにはいられません。

今年のアースデイには、大勢の科学者や環境活動家たち
が、世界600カ所以上の街角を埋め尽くしました。デモ行進
は全大陸(あの南極大陸も含め!) で行われました。テレビ
番組の司会者でもある科学者のビル・ナイは、雨が降るワ
シントンで行われた、デモの参加者たちに対して、「私たち
は、今日、世界中の人々に対して、気候変動解決のため
に科学の果たす役割の重要性を訴えるために、ここに集
っています」と語りかけました。

「地球のために行動を!」というのが、デモのテーマの中核
だった訳ですが、気候変動は、人々の生活にも大きな影響
を与えます。専門家は、気候変動は、人々の安全保障を脅
かす最も重大な脅威で、気候変動によって家を追われると
いう事態は、世界でやがて常態化していくだろうと指摘して
います。

人類によって引き起こされた気候変動で、この惑星は暖ま
り続けています。海面は上昇し、竜巻はより強力になり、洪
水はより強い暴力性を伴うモノとなり、甚大な被害をもたら
します。このように気候が変化していく中で、最も危険な脅
威にさらされているのは、この世界で最も弱い立場にいる
人たちなのです。そのような人たちこそが、地球温暖化の
「人類としての被害者」です。

アースデイには、二酸化炭素削減や、森林伐採禁止や、サ
ンゴ礁の保護などが話題の中心となっていた中、別の側面
から、行動の重要性を指摘する声もありました。ポリネシア
の島国のツバルが、このままだと海中に沈んでしまうという
訴えのほか、河食によって、毎年20万軒の家が失われてい
るというバングラデシュの現状などを踏まえ、行動を起こす
ことの重要性を訴える声が挙がりました。

気候変動の問題は複雑であるが故に、簡単な解決策とい
うのは存在しません。しかし、ほとんどの気候変動の問題
における最善策は、問題を引き起こさないようにするため
に予防策を講じることです。森林再生などを進め、荒れ果
てた土地の再生を進めたり、低地の沿岸地域で淡水化を
進めていけば、変化にも対応できる状況を整えていくこと
ができます。

その他に必要なことは、気候変動が原因で国や土地を追
われた人たちを、法的に保護できるようにするための対策
の整備です。
国連の難民条約は、迫害を受けた人たちにしか適用されま
せん。海面の上昇や、砂漠化によって故郷を奪われた人た
ちは、法的な保護が受けられる対象者にはなっていません。
つまり、気候変動が原因で難民となった人たちを、多くの国が
難民として受け入れておらず、亡命することもできない状態な
のです。専門家の中には、2020年に気候変動難民の数は5千
万人になり、2050年には、1億5千万人になると指摘している人
もいます。

ハリケーン・サンディの後、リズベルは気候変動の分野の
市民運動に関わるようになります。2014年にマンハッタン
で行われ、30万人が参加した気候変動デモ「ピープルズ
・クライメイト・マーチ」への参加を、地元の人たちに呼びか
けました。そして、リズベルは、環境に優しく、災害に強い街
づくりを目指す団体「Red Hook Initiative 」のリーダーとなっ
たのです。
ハリケーン・サンディでの壮絶な経験をバネにして、リズベ
ルは、自らのメキシコ系移民の家庭の中で、初めての高卒
者となりました。

現在、コーネル大学で開発社会学を学ぶリズベルは、「ど
んなに弱い立場にいる人も取り残されることのない世界を
つくりたい」という熱い想いを持って、希望ある未来へと歩
んでいます。

参考リンク

世界各地で行われた、アースデイのデモ

https://www.cnn.co.jp/world/35100195.html

南極のデモの様子(英語)

https://twitter.com/AWI_de/status/855726383158480897/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Fwgntv.com%2F2017%2F04%2F22%2Fthe-march-for-science-spreads-to-antarctica-and-the-arctic-circle%2F

気候変動難民

http://www.nikkei-science.com/page/magazine/1104/201104_090.html

進む地球の温暖化

http://www.bbc.com/japanese/38673337

ツバルの現状

http://www.foejapan.org/climate/justice/voice_tv.html

バングラデシュの現状
http://www.jiid.or.jp/files/04public/02ardec/ardec42/key_note6.htm

難民条約について

難民条約について

2050年には、気候変動難民の数が1億5千万人になると
指摘する専門家(英語)

https://www.theguardian.com/environment/2009/nov/03/global-warming-climate-refugees

気候変動デモ「ピープルズ・クライメイト・マーチ」について

http://www.huffingtonpost.jp/2014/09/21/hundreds-of-thousands-turn-out-for-peoples-climate-march_n_5859202.html

河食によって、毎年20万軒の家が失われてい
るバングラデシュ