「この若者たちを、世の光に!」:イギリスの特別支援学校のストーリー

今回ご紹介するのは、ロンドンにある、特別支援学校の生徒と、

ある難民の女性、そして彼らを取り巻く教師や地域住民の人たち

のストーリーです。どんな境遇を抱えていても、人は人に出会うこ

とで誰かを支えられるということを教えてくれます。(清田)

 

https://www.we.org/stories/special-needs-students-in-uk-thrive-through-creative-learning-and-helping-others/

 

 

The Vale Schoolは、ロンドン北部のハーリンゲイ区にある特別

支援学校です。

 

この学校に取材に行くため、灰色のロンドンの空の下、通りのリ

サイクルショップや、シャッター商店街を通っていく中で、イギリス

で最も貧困が深刻といわれているこの地区の現状を目の当たり

にし、ここが素晴らしいことを成し遂げた生徒たちがいる、The V

ale Schoolのある地区だということに、ある種の驚きを覚えました。

 

社会には、「特別支援学校の生徒たちは、支援を必要としてい

る存在だ」という固定観念がありますが、The Vale Schoolの生

徒たちは、ヴィクトリアという名の女性を支援することを通じて、

それまでの人生の中で得ることがなかった自信と、生きる目的

を獲得していったのです。

 

私は、取材で実際に彼らに会うこととなりました。

 

The Vale Schoolに到着すると、この学校でWEの活動を担当し

ている、教師のリチャード・ソープが私を出迎え、私が取材に来

たことに対して謝意を述べていましたが、その最中に生徒たち

が続々と集まってきました。それは、このような状況でよく想像

されるような、「体育館に集まった全校生徒たちが、整列した静

かなお出迎え」といったようなモノではなく、生徒たちが、それぞ

れ思い思いに自己表現してくれた、大変にぎやかな歓迎でした。

その輪の中に、すぐに生徒の家族や、地域の人たちも加わりまし

た。私が取材に来た日は、音楽やダンスを通じて、学校で生徒た

ちが学んだことの成果を披露し、生徒たちの成長をお祝いする日

だったのです。

 

「いわいる『標準的な学校のカリキュラム』は、この学校では、上

手く機能しないのです。」リチャードは私を案内しながらそう言い

ました。そう、リチャードの言う通り、この学校の生徒たちが、生

き生きとした学校生活を送るためには、少し工夫を凝らす必要

があるのです。だからこそ、リチャードはヴィクトリアを、この学

校に招いたのです。

 

 

ヴィクトリアは、19歳のウガンダ出身の難民です。ヴィクトリア

の父親は、彼女が赤ん坊の時、HIVで亡くなっています。当時

ヴィクトリアの母親はイギリスに居て、ヴィクトリアを含む三人

の子どもたちと一緒に住むため、難民申請をしていましたが、

申請の許可は長い期間下りませんでした。ヴィクトリアは、妹

と共に、9歳年上の兄に育てられました。学校に行き、職を得

て、兄妹で支え合いながら生活し、イギリスへの難民申請が

承認されるのを待ち続けました。

 

家族が離れ離れになり、20年近くが過ぎたころのクリスマスの二

カ月前、家族族はようやく一緒に暮らすことができるようになったのです。

 

リチャードは、WE(フリー・ザ・チルドレン)を通じてヴィクトリアと出

会いました。元々、The Vale Schoolの生徒たちができる課外活

動を探していたリチャードは、WEのプログラムコーディネーター

にも接触していました。リチャードは、プログラムコーディネータ

ーからヴィクトリアを紹介されます。ヴィクトリアはボランティア経

験を通じて、社会で役に立つスキルを得たいという意欲に燃えて

いました。リチャードはヴィクトリアの生い立ちを聞き、ヴィクトリア

であれば、The Vale Schoolの生徒たちと良い関係を築けるのでは

ないかと直感しました。

 

リチャードが受け持つ生徒たちは、様々な学習障害、医療的な

支援が常に必要な健康状態、身体障害などを抱えています。数

か月前までは、人前で何かを発表したり、人に声をかけたり、公

共交通機関の使用などを困難とする生徒たちが数多くいました。

 

ヴィクトリアと出会ったことで、生徒たちは大きく変わりました。

様々な苦しみを乗り越えてきた年上の若者に出会い、刺激を

受けた生徒たちは、自分の殻を破り始めたのです。生徒たち

は、ヴィクトリアとブィクトリアの妹にインタビューして、ウガン

ダでの経験や、ロンドンでの難民としての生活などについて

聞き、それを記事として書いて発表して、地域で難民の問題

に関する啓蒙活動を行いました。そのような活動を通じて、

生徒たちはこれまでには考えられないこともないような自信

をつけていったのです。リチャードは、ヴィクトリアの話を通

じて得た新しい知識を、生徒たちが様々な人たちに伝えて

いる様子を目の当たりにしました。ヴィクトリア自身も、The

Vale Schoolの生徒たちと関係を築いていく中で、多くのこと

を学び、成長していきました。

学校でのボランティア活動を通じて、ヴィクトリアは自信を得て、

イギリスでの生活に馴染むことができるようになりました。イギリ

スに渡るために、20年近くの歳月を費やしたヴィクトリアにとって

、ボランティア活動を通じて、イギリスでの居場所といえる場所を

手に入れたことは、イギリス生活の中で大きな転機でした。ヴィク

トリアの母親は、病気のため、働くことができません。そのため、イ

ギリス政府は、イギリスに来てもヴィクトリアが長期間就労するの

は無理だろうと判断していました。その判断が、難民申請がなか

なか承認されなかった理由でもありました。

 

「私のような難民の人たちも、社会の役に立てるんだって証明し

たいんです」そう語るヴィクトリアは、The Vale Schoolでのボラン

ティア活動でそれを有言実行しています。毎週金曜日、生徒たち

に美術を教えています。この活動を通じて、ヴィクトリアは教師に

なりたいという夢を持つようになりました。ヴィクトリアの将来の教

え子たちは、彼女のような素敵な先生に教わることができるなん

て、私はとてもうらやましくて仕方がありません!「私の経験が、

他の人たちを勇気づけることができるのなら、私はとても嬉しい

です!(ヴィクトリア)

 

 

ヴィクトリアが、特に大きなインパクトを与えた生徒を一人紹介し

ます。

 

ダーネルは、問題行動が原因で、以前通っていた学校を退学に

なりましたが、The Vale Schoolでは、名実ともに大活躍していま

す。何を隠そう、彼はこの学校の生徒会長なのですから!ダー

ネルは、人生の大きな転機となったのは、ヴィクトリアとの出会

いだったと語っています。「ヴィクトリアのような経験をした人に

会うことは、めったにないことだと思います。でもヴィクトリアは、

厳しい境遇の中でも、いろんなことを成し遂げてきた。そういう話

を聞くと、自分にもできることはいっぱいあるんじゃないかと思え

てくるんです!」ダーネルは語ります。

 

さて、教室に行くと、絵や手作りの旗、陶器、アクセサリーが飾ら

れています。全ての作品に、ウガンダの色である、黄色と赤と黒

が使われています。

 

ひとつひとつの作品は、The Vale Schoolの生徒たちの、努力の

賜物です。生徒たちは、工作に必要な材料を買うために、自分た

ち自身でお店に行き、必要なものをカゴに入れて、お金を正確に

数えて代金を支払い、お店の人たちとコミュニケーションを取りま

した。The Vale Schoolに通う若者たちにとっては、この買い物の

成功は、非常に大きな意味を持つ成功体験でした。

 

この成功体験も、ヴィクトリアに強い影響を受けて起こったことで

した。芸術を通じて、自分の中にある想像や世界観を表現してい

るヴィクトリアは、授業を通じて、生徒たちに芸術を用いて自分の

世界を表現するよう促しました。

 

私が取材に来た日は、ヴィクトリアが引き出した生徒たちの想像

力や表現を祝福するために、多くの人が集っていたのです。リチ

ャードは私にこう教えてくれました。「’Karibo’は、ウガンダの言葉

で、『贈り物』という意味です。私にこう言ったあと、リチャードは集

っている生徒、生徒の親、地域の人たちに向かってこう言いました。

「この言葉は、ヴィクトリアのセカンドネームでもあります。そして、ヴ

ィクトリアは、私たちにとっても『贈り物(ギフト)』なのです。

 

 

 

ヴィクトリアが、ヒナギクが描かれたドレスを着て教室に現れま

した。そのヴィクトリアの姿に、生徒たちの目はくぎづけになって

いました。

 

「さて、これから歌を唄いますよ!‘Ndi muna Uganda.’というフレ

ーズでコーラスを唄います。これは、『私はウガンダ』という意味

です!」

 

ヴィクトリアが唄いはじめると、頭を保護するヘッドギアを装着し

ている生徒たちや、車いすに乗っている生徒たち、生徒たちそれ

ぞれが、自分の殻を破り、自分の持っているエネルギーを放出さ

せようとするかのように、踊り、手をたたき、即興で演奏を始めます。

 

そのエネルギーは、その場にいる生徒の親たちにも伝染しまし

た。彼らも手拍子をして、共に唄います。私自身も、いつのまに

か手拍子をして唄っていました。

 

踊り続ける生徒たちを見ていると、私のすぐそばに、副校長のト

ニー・ミラードがいるのを発見しました。彼は、生徒たちに対する

誇りをにじませた声でこう語りました。「WEが、子どもたち大きな

刺激を与えてくれました。子どもたちが、社会を支える存在にな

るための道を、WEが開かせてくれたのです。」

 

歌のパフォーマンスが、終わると、生徒たちは自分たちがつく

った美術作品を披露するため、生徒の親や地域の人たちを作

品の前に案内し始めました。

 

「うちの子どもたちは、本当に世界の一員として生きていきたい

と強く願っています。しかし、そのために乗り越えなければいけ

ないハードルが、非常に高いこともまた事実です。」トニーは、

親たちに作品を披露する生徒たちを見つめながら、私にこう語りました。

 

こう語りながら、トニーはこの取材の直前に行われた、WE Day

UK のことを思い返していました。The Vale Schoolの生徒たちは、

他の12,000人の参加者と共に、社会に変革を起こしている若者た

ちを称えるこのイベントに参加していました。「彼らにとっては、WE

Dayに行き、普通級の生徒たちと一緒に、有名人のスピーチを聞く

というのは、夢のような体験だったと思います。」

 

多くの人は、特別支援学校に通っている生徒や、障害のある人

たちに対して大きな期待を寄せることは無いかもしれません。ま

た、難民に対しても、大きな期待を寄せることは無いかもしれま

せん。しかし、リチャードは、教え子とヴィクトリアを一緒にエンパ

ワーメントすることで、『彼らにもアクションを起こし、社会を変える

力がある。居場所や目的を見出し、生き抜いていく力がある』とい

うことを証明しました。多くの人たちが障害のある子どもたちや難

民に対して持っている考えは、完全な間違いであるということを証

明したのです。

 

「このような境遇の子どもたちは、『施しの対象』に見られがちで

すが、彼らは、多くのものを社会にもたらすことができる存在な

のです。」リチャードは言います。「彼らがアクションを起こしてい

る様子を見ていると、どんな境遇であっても、人生というのは素

晴らしいものだなと思いますね。」

 

※12/8@有楽町 障害者週間セミナーのご案内

 

 

互いに知ることから始めたい
ー誰もが参加しやすい社会を目指してー

 

毎年12月3日から9日は内閣府主催の「障害者週間」です。

フリー・ザ・チルドレン・ジャパンでは、12月8日に、誰もが参

加しやすい「共生社会」の実現のため、今私たちに何ができ

るのかを考えるセミナーを行います。 これまで障害者と関

わったことがない、興味はあるけれど何から関わっていいか

分からない、 そのような方でもお気軽にご参加いただける導

入の場です。詳しくは、下記URLをご参照下さい!

12/8@有楽町 障害者週間セミナーのご案内<互いに知ることから始めたい ー誰もが参加しやすい社会を目指してー>

(原文記事執筆: ジェシー・ミンツ )