「水が出た!」ケニアの村に起こった、小さな「奇跡」
フリー・ザ・チルドレン/WEは、世界各地で、清潔な水と衛
生的な環境設備を提供しています。今回は、ケニアの村
に住む女性に、WEの事業が起こした変化をご紹介します。
(清田)
https://www.we.org/stories/human-interest-stories-celebrating-clean-water-on-world-water-day/
キプソンゴルの村に奇跡が起こったとき、マーシー・ロップは娘
を連れてその場所に急いで向かいました。
マーシーはドリルが地面に勢いよく入って行くのが見えるよ
う娘を抱え上げました。ドリルが引き上げた土の層はピンク
、白、黒などの色合いで、彼女たちの靴に付いているケニア
の赤土とは全く違う色をしていました。
エンジニアチームが地中に長いパイプを掘り下げていくにつ
れ、マーシーは近隣の村から作業を見ようと集まったたくさん
の人たちをかきわけて前に進みました。娘のトルフェナにその
瞬間を見てほしかったのです。
マーシーは農業を営み、3人の子どもの母親です。「作
業現場では何が行われていたのか誰も見当がつきま
せんでした。私たちにとって水と言えば川を流れている
水でした。だから、地面の中からどんなものが出てくる
のだろうと興味津々でした。」
これまでマーシーにとって水といえば川から汲んで来るもの
でした。子どものころから水汲みは彼女の仕事でした。水汲
みの際は川の土手を降りていき、ロバの群れや何人もの洗
濯中の女性たちの間を抜けて、家族のために20リットルの燃
料用容器を川の水でいっぱいにしました。1日5往復の水汲み
のうち最初の1回目は夜明けに出発したものでした。
マーシーは10代の頃、教師になるのが夢でした。村の子ど
もたちの教育水準を上げ、親の代では想像もされなかった
ような形で子どもたちの成長に貢献したいと思っていました。
しかし、延々と続けなければならない水汲みのため、勉強に
取り組むのも大変で、学校のある日には教室に着くころには
疲れ果ててしまっていました。
「本を読む時間なんてありませんでした。家族には水が必
要ですし。女の子にとっては、すべてが水汲み中心の生活
でした。」とマーシーは振り返ります。
最終試験に不合格になったとき、マーシーは自分の夢をあ
きらめました。彼女はその後すぐに結婚し、今度は自分の
家庭のために川に水を汲みに毎日通い続けました。汲ん
でくる水は相変わらず濁っており、育ち盛りの子どもたち
は腸チフスや下痢などでたびたび病院に行のかなけれ
ばなりませんでした。彼女は一人娘のトルフェナが水汲
みを任せられる年齢になるまでその仕事をがんばろうと
思っていました。
2015年の夏、マーシーは村の話し合いに参加しました。そ
こで、キプソンゴルの村でWEの支援によるウォータープロジェ
クトが行われることが発表されました。話を聞きに集まった
人たちは歓喜に沸きました。
「奇跡のようでした。家に近いところで清潔な水が手に入る
ことが子どものころからの夢でした。」
井戸掘りの作業が始まった日、マーシーは作業がよく見え
るよう、集まっている人たちをかきわけて前に進みました。
5日間毎日、娘のトルフェナを連れてだんだんと地中深く入
って行くパイプを見守りました。地面から水が勢いよく飛び
出してきたとき、二人は一緒に歓声をあげました。
「きれいな水でした!川の水みたいにしょっぱくなかったんで
す。しょっぱくない水を飲んだのはこれまでの人生で初めてでした。」
娘のトルフェナは外国の機械を見てびっくりしたかもしれま
せんが、マーシーはこのプロジェクトの重要性をひしと感じ
ていました。
「これでやっと私たちは水汲みの仕事から解放されたのです。」
マーシーは、これまでとは違う娘の将来を思い描きながら帰
路につきました。娘に高等教育を受けさせ、良い仕事を見つ
けて、村のために貢献していく―それはマーシー自身が叶え
たかったことです。
その日からマーシーは、これまで考えもしなかった可能性を
見出してきました。彼女の自宅から歩いてすぐの距離にある
清潔な水源のおかげで、時間を取り戻し、より生産性のある
活動に磨きをかけ、家族のためにより多くの収入を得るよう
になりました。彼女の畑は実りもよく、家畜の牛はたくましく
育ち、子どもたちは健康で身だしなみもよく、一番上の息子
は学校に通っています。
人生で初めて、マーシーはこれらすべてをまかなうことがで
きるようになりました。そして、彼女の夢は尽きることはあり
ません。いつか自分で小さなお店を開きたい、そうずっと心
に決めていました。この決心は実現されるその瞬間を静か
に待っています。
(原文記事執筆: Deepa Shankaran 翻訳:翻訳チーム 山本晶子 文責:清田健介)