【報告】子どもの権利条約フォーラム分科会⑨ 子どものメンタルヘルスとウェルビーイング
2024年11月10日に開催された「子どもの権利条約フォーラム2024」にて、分科会⑨を実施し、フリー・ザ・チルドレン・ジャパン(FTCJ)が国立成育医療研究センターとEverybeingの3団体で取り組んだ「ティーンボイスプロジェクト」の活動報告を、プロジェクトに参加した中高生のティーン探究者5人の皆さんと行いましたのでご報告します。
分科会では、Every Child’s Voice(認定NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン、国立成育医療研究センター、一般社団法人Everybeingの3団体からなるコンソーシアム)により開催されたコロナ禍を振り返り自分たちの願いと提言をまとめる「ティーンボイスプロジェクト」に参加した10代の子ども自身から、子どものメンタルヘルスやウェルビーイングに関する願いや提言を、おとなからは国際的な取組みや研究の視点を交差性の観点を交え発表し、参加者の皆さんと子どもの権利としてのメンタルヘルスとウェルビーイングについて考えました。
会場には、高校生を含むおとな30人、オンラインでは子ども1人を含む15人、合計で45人のご参加がありました。
最初に、FTCJの広瀬太智から、この分科会の趣旨説明や、子どもの権利を守って分科会を運営するためのセーフガーディングについての説明を行いました。
続いて、子どもの権利条約の紹介や、子どもの声を聴き、その声を社会に届ける活動を実施するためにコンソーシアムEvery Child’s Voiceを立ち上げたことについてFTCJの中島早苗から報告しました。
次に、Everybeing共同代表で、児童精神科医の小沢いぶきさんから、「子どもの心の健康における国際的な潮流とコロナ禍における様々な環境における子どもたちの声」についてご報告いただきました。
子どものウェルビーイングの大切な要素の一つとして、「主体的に社会に関わっている・働きかけられる感覚」があることが説明されました。また、従来より国際的に子ども・若者のメンタルヘルスの不調は存在していたが、新型コロナウイルス感染症が世界に広がる中、子ども・若者のメンタルヘルスを支える環境の課題が顕在化し、それが契機となって、ユニセフをはじめとし、各国でメンタルヘルスの調査や取り組み、戦略策定がなされている状況についてお話しいただきました。同時に、「世界の青少年はメンタルヘルスをどの ように経験し、どのように認識しているか」についても発表があり、新型コロナウイルス感染拡大により、子どもたちはソーシャルネットワークからも孤立し、そのことが、多くの子ども・若者のウェルビーイングに悪影響を及ぼしていること、子ども・若者たちは、自分の感情や経験を、友人や家族から否定されることを懸念し、メンタルヘルスの不調を感じていても、それを隠すことが多い傾向があることなどが共有されました。これらの子どもや若者のメンタルヘルスの状況を把握し、よりよい状態にするには、当事者である子どもや若者の「声」を聴くことがとても大切ですが、「声」というのは、言葉だけで表現されるものではないことを、認識することも大切であることがお話しされました。
次に、このティーンボイスプロジェクトの実施企画を提案くださった国立成育医療研究センターに所属されている児童精神科医の山口有紗さんから、「コロナ禍における調査から見えた子どものメンタルヘルスの状況」について発表いただきました。
コロナ感染症が2020年から拡大し、生活習慣や学校現場のルールなど様々に変わり、子どものメンタルヘルスに悪影響や不調が報告されたことで、国立成育医療研究センターでは、子どものメンタルヘルスに関する調査や対応に取り組んできたことから見えてきた報告などをお話しいただきました。例えば、実施した調査から、子どもの7割超が何らかのストレス症状を経験しながら生活していることがわかり、小学校高学年の13%及び中学生の16%が、なんらかの方法で自分を傷つけようと思ったことが「ある」と答えたことなどが共有されました。また、うつの症状が重いほど、周りに相談しない、できない傾向にあることの報告がありました。人間は、いろいろな人に声を聴かれたと感じるほど主観的なウェルビーイングスコアが高くなるため、子どもからコロナやその対策についてどう感じたかの声や願いをあげてもらい、それらの子どもの想いを、よりよい社会に向けた提言へとつなげつる活動の意義を、ティーンボイスプロジェクトと重ねながらお話しいただきました。
▼質疑応答:小澤さんと山口さんの発表を受け、会場やオンライン参加者から次のような質疑応答がありました。
- 質問:思春期の子どもたちはネガティブな感情を表現することが多いが、ポジティブな出来事や感情に気が付けていないのか、原因は何だと思いますか。
- 回答:ポジティブな感情を出しにくい背景として、偏見があるのではないか。
- 質問:子ども支援をしている中において、特に思春期の子どもがネガティブな感情をぶつけてくることが多いが、思春期の子どもがその感情に対してどのように思っているのかについてご教示いただきたい。
- 回答:子どもたちは自分と同年代の子どもとやり取りをすることが圧倒的に多く、大人が知らないやり取りも多い。そのため、大人が子どもたちから受け取る感情は、子どもの感情全体の一部であることはご理解いただきたい。
ここからは、改めて、ティーンボイスプロジェクトの取り組みにや、イギリスでも同じ目的で活動に取り組んだ若者のグループとの交流の様子についてFTCJの中島早苗から報告しました。その後、実際に、ティーン探究者として活動に参加した中高生5人(きよくん、あおい、ゆうな、わかな、さき)から、2024年3月~9月の活動を通じてそれぞれが取り組んだ内容や、提言について発表をしてもらいました。
1)発表:きよくん
●コロナで感じた想い、願い:
‐ 小学生のとき、休校になって友達と会えなくて、さびしかった。
‐ 修学旅行や卒業などの学校行事は、やり方や行き先が変わり、規模が縮小され、やれたことは嬉しかったけど、本来やれるはずのものができず、残念だった。
●母校の校長先生にコロナの時の意思決定についてインタビュー:
Q:行事を決定するとき子どもの意見を聞きましたか?
A:コロナの最初の時には子どもの声は聴かなかった。感染拡大防止やこどもの健康のために考えていたから。みんなの意見を聞くより安全を一番に考えた。
●感想と提言:校長先生などおとなは、子どもの健康や安全を第一に考えて、様々な決定をしたことがわかり、そこは嬉しいと感じた。しかし、子どもに関することについて、少しでも子どもの意見を聴いて、学校行事の決定や、運営の仕方を決めて欲しかった。今後は、行事など始める前にアンケートを行って、子どもの声を聞いてほしい。
2)発表:あおい
●コロナで感じた想い・願い:
・こどもの相談場所、心のケアをする場がなかった
・子どもと大人が話し合う場所が欲しかった
●インタビューでわかった自分の周りの同世代や友人の声:
中間層への支援がなかった/先まで考えた、明確なビジョンを示して欲しかった/学習の遅れが心配だった/スマホを持っていない子は友達とも話せず孤立感があった、など
●提言:AIを活用したカウンセリングの仕組みを作る
日本人は自分から相談することが少ない。AIは敷居が低い。AIだったら子どもも大人も相談しやすいのではないか
3)発表:ゆうな
●コロナで感じた想い・願い:コロナウイルスについての誤情報やデマが広がり混乱した人が多くいた。どうしたら抑止できるか?
●周りへのインタビューでわかったこと:
- 小学生はテレビや家族から情報を得ている子が多かった。
- 中高生などはネットニュースなどスマホで得る情報やテレビから得る情報が多かった。
●提言:行政と子どもたちの双方向でやりとりできる仕組みを作れば不安に感じる子が減るのではないか
4)発表:わかな
●コロナで感じた想い・願い:中学校の入学式もなく、一方通行授業だった。コロナに関してや学校に関して、十分に情報を得ることができなかった。⇒このような体験から、不安や孤独を感じた。
●周りの人へのインタビューでわかったこと:友達、家族、学校の先生など周りの人から情報を得ていた人が多かった/多くの子どもは正しい情報への取捨選択、入手方法が分からなかった/多くの子どもがコロナに対して不安を抱えていた/ SNSの情報は慎重に扱うという意識は子どもながらにあった/コロナ初期には感染した人の名前が広がることが多かった。⇒わからないことへの不安、身近な人からの影響が大きくなることがわかった。
●提言:図のような仕組みや連携があると良いのではないか。
5)発表:さき(オンライン参加)
●コロナで感じた想い・課題:
SNSの発達により多数の機関から様々な情報が流れていたため、どの情報を基に行動をすればよいのか混乱することがあった。/おとなから届けられた情報がわかりにくい。/コロナによる偏見、噂話が学校でかなり横行していた⇒コロナ当初から二次被害に対する注意喚起をして欲しかった。
●インタビューから分かったこと:
・テレビやSNS,親から聞いた情報など色々な場面で情報をえることがあったがそれらが自身の行動に影響するということはあまりなかった。 ⇒多数の情報があり混乱した人もいた。
・自分の目でみた情報をもとに行動する人が多かった。
・噂話や偏見は軽い気持ちでしていた。
結論 ⇒学校が子どもに及ぼす影響が何より強いことが分かった。
▼質疑応答:中高生のティーン探究者5人からの発表を受け、下記のような質問や回答がありました。回答(A)はすべて発表者のティーン探究者からのものです。
- Q:イギリスの子どもとの議論を通じて日本の子ども達は相談しずらいため、AIを活用して相談するとよいのでは、という提言があったが、議論の中で相談しにくい原因は何か検討したことはありますか。
- A:原因までは議論していない。イギリスでは広場でリラックスしながら意見交換することがあると伺った。日本にも相談施設はあるが、日本の子ども達は利用していない原因としては、国柄も関わっているのではないか。
- Q:Chat GPTは友達未満という立場で利用しやすいという声を聞いたことがあるが、利用経験はあるか、ある場合はどのように利用していますか。
- A:相談したことがある。くだらないことを聞くことが多い。
- A:友達として話したことが無いが、政策検討で行き詰った時に相談したことがある。
- A:Chat GPTを利用したことは無いが、人間が教えると方言なども使えるようになると伺ったことがあるため、使ってみたい。
- A:Chat GPTを利用したことは無いが、SNSなどでChat GPTを友達のように利用している人を見たことがある。
- Q:オンライン相談や居場所事業は進んでいるが、学校を活用するのは良いと考える。昔は子どもの居場所として児童館などで出会う大人がいたと思うが、いつを契機に子どもの居場所が学校と家だけになったのか、地域とのつながりや地域の大人との関係が希薄になったのはなぜだと思いますか。
- A:小学校までは地域とのつながりはあったが、中学校からはなくなった。地域とのつながりや地域の大人との関係が希薄になった原因として、中学校から部活が始まり、子ども達にとって自由な時間がなくなったからだと考える。
- A:都市部は地域の大人と話す機会が少ない。地方だと地域コミュニティがあると思うが、自分が住んでいる地域は特にコロナもあり、地域の大人と話す機会がない。
- A:地域の人とのつながりが多くなく、学校以外で大人と関わる機会が少ない。受験を経て自分が住む地域外の学校に通学する際は、自分から積極的に地域コミュニティに関与しなければならず、そもそもどのように関与すればよいかわからない。
- A:通っている学校の地域に「ふれあい祭り」があり、そこでは動植物を通じた地域の大人とのつながりがある。河川清掃のボランティアの会があるが、そこでも地域の大人との出会いがある。一方で自分の居住する地域においては、地域の大人との関わりがない。
- A:小学校まではこども会があり、季節に応じた様々なイベントで地域の大人と関わる機会があったが、中学校にあがってからは隣の家の大人に挨拶する程度になった。
- Q:学校以外で大人に相談できる場所があれば相談したいか。地域の大人と関わりたいと思いますか。
- A:地域コミュニティに参加したいが、受験や勉強があるため、自分に余裕がある時に限る。
- A:引っ越しをして、地域に知り合いがいない。お祭りなどがあれば、地元に友達ができると考える。
- A:非常時には地域の人だからこそ理解できることもあると思うので、地域の大人と関わりたいと思う。
- A*お祭りでは様々な人と関わる機会があるが、地域でいうと例えば自分が住んでいるマンションでは挨拶程度で話す機会が少ない。
- 会場の参加者からの情報:コロナ禍において、北欧の国々や、オーストラリア、イギリスの首相が、子ども向けの記者会見を行った。子ども達に対する大人の姿勢を見せる意味でも、首長の理解は必須である。こども家庭庁に対して、そのような仕組みを提言していくのも必要であると考える。
2時間を通じて、会場とオンラインとハイブリッドにて分科会を開催し、ティーンボイスプロジェクトを通じて、子ども自身がコロナを振り返り、良かった点、改善点などを考え、提言を発表することができました。子どもにとって自分の想いや願いが聴かれ、受け止められ、尊重されることが、子どもの安心や自信につながり、ウェルビーイングの実現になること、そしてそれがどれほど大切かということが、大人発表者からも子ども発表者からもなされ、子どもにとって最もよいことを考え、環境や体制づくりをするための重要で不可欠なことであることが共有された、印象的な場面でした。
今後、ティーン探究者の皆さんがコロナを振り返り、周りの同世代の子どもや若者、おとながどういった思いで過ごしたのかについて調査し、その調査内容をもとに考えた提言や意見については、引き続き多くの方々に発信し届けていきたいと考えています。
お忙しい中、分科会にご参加くださった皆さま、今までの活動を総括して発表してくださったティーン探究者のみなさま、ありがとうございました!当日、ボランティアご協力くださった皆さまにも心から感謝申し上げます。
助成協力:CBGMこども財団、デロイト トーマツ ウェルビーイング財団